文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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バラバラなG7

 G7(先進7ヵ国=米加英独仏伊日)の財務相・中央銀行総裁は6月5日に電話会談を行い、「世界経済と金融市場の動向及びそれに対する政策対応についての検討」(議長国米国の財務省の説明)を行ったが、公式声明は出されなかった(Financial Times Web版、5日)。この電話会談は非ユーロ圏の財務相の「ユーロ圏で起きている事態を知りたいとの希望」にもとづき開催されたもので、主要な関心はスペインの銀行バンキアの破綻とそれに関連する問題についてだった。しかしギリシャがユーロ圏から離脱する可能性の問題については議論されなかった(FT同上)。ほかでは、日本の安住財務相が円高問題について日本の立場(苦境)を訴えたことが目立ったようだ(NYTimes及びル・モンド各電子版、5日)。

 日本のマスコミは「G7,市場混乱回避へ結束」(讀賣6日朝刊、1面トップ4段の大見出し)、「欧州危機、連携を確認」(日経同、1面3段見出し)と持ち上げていたが、G7はユーロ問題ではいまやバラバラで「結束」どころではない。
 カナダのハーパー首相は5日、(G7とは別に行われた)FT紙とのインタビューで、「ユーロ圏は自らが単一経済ブロックであるとの事実を真剣に考えれば、その財政・金融の安定化のために必要なあらゆる措置を用意すべきだ」と、ユーロ圏諸国に“自助努力”を求めた。カナダは米国とともに、今年4月にワシントンで開かれたG20(新興国を含む主要20ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議が合意したIMFの「危機対応資金」4300億ドルへの出資を拒否している(日本は600億ドルの出資で一国としては最大の拠出。ユーロ圏は全体で2000億ドル)(当「診断録」4月24日号)。

 この4月のG20でカナダのフラーティ財務相は、「IMFはヨーロッパの緊急事態に対処する十分な資金をもっている」と述べた上で、「ヨーロッパの状態は極めて危険なので、IMFの資金をそこに向けるのは危険である」との極論まで主張した(「診断録」同上)。  米国も、カナダほど極端ではないが、G20でカナダに似た立場を表明、「ヨーロッパの問題はヨーロッパ自身が解決すべきものであるし、それにIMFは現在でも十分な余裕資金をもっている」としてIMFへの資金拠出を拒否したのである(同上)。
 米国、カナダのような主張にもとづけば、グローバルな役割を持つIMFは不要だということになるか、あるいはユーロ圏はIMFから脱退して独自の基金だけでやっていくべきだということになるだろう。

 だから今回のG7財務相・中央銀行総裁電話会議でも、参加国が「結束」を示すはずはなかった。米加以外のG7構成国のうち、英国はEU加盟国だが非ユーロ圏であるし、EU加盟国に財政規律を義務づける新条約にも署名していない(非署名国は英国とチェコの2ヵ国)。それに、もともと同国は伝統的にヨーロッパ大陸諸国とは一線を画する立場をとってきているだけに、いまのユーロ圏の問題についても米国寄りの立場と見ることが出来る。
 したがって、G7はいまや、すくなくともユーロ問題をめぐっては、当のユーロ圏3国(独仏伊)、アングロサクソン系3国(米英加)それに日本と3分されている。しかも独仏伊も、財政緊縮推進派のドイツと経済成長をもっと重視すべきだとするオランド政権下のフランス、財政的に苦しいイタリアで立場が異なっている。だから、いまやG7の“結束”などはフィクションに過ぎない。。

 結局、ユーロ圏諸国は否応なしに自力と、非アングロサクソン系の域外諸国(日本、中国など)の助力、それとIMFなどの国際機関の協力で問題を解決する以外にはない状態にある。 
 もっとも、米国は財政緊縮重視のドイツに反対(「診断録」5月22日号)ではあるが、好んでユーロ圏あるいはヨーロッパに対して距離を置いているとは言えないだろう。むしろ、ユーロの問題には資金も出し(IMFなどに協力して)、関与もする意欲はあるのだが、自国の財政難に加え、議会上下両院の“ねじれ”の下での共和党の反対で、オバマ政権として対内外政策決定の自由を失って身動きできないのだろう(日本の政治と酷似)。
 振り返ると、2009年3月(リーマンショックの翌年)のG20財務相・中央銀行総裁会議(ロンドン)では、ガイトナー米財務長官が各国に対して「GDPの2%以上の追加的財政出動」を強く要請(「診断録」09年3月15日)、世界経済のリーダーぶりを発揮したものだが(ただしこの時もユーロ圏はそうした要請に反対)、今日ではガイトナー長官の声を聞くこともないくらいだ。 

 ところで、今回のG7で主な話題になったスペインの銀行危機の現状だが、モントロ同国予算相(budget minister)は5日、「スペイン国債について(市場でー引用者加筆)考えられているリスク(利回りの6%以上への上昇ー同)を考慮すると、スペインは市場に対してドアを開ける余裕はないと言明して金融市場を不安に陥れた」。ラホイ同国首相もモントロ予算相の発言を支持し、「スペインは極端に困難な状態にあるので、ヨーロッパは銀行同盟とユーロ・ボンド(ユーロ圏共同債)を受け入れることにより、ユーロは後戻りしないことを証明する緊急の必要がある」と述べた(FT紙Web版、5日)。
 他方でドイツ政府当局者は4日、「ユーロ圏の銀行の安全を保証するすべての手段は利用可能である」し、「ヨーロッパ金融安定ファシリティ(EFSF、4400億ユーロのユーロ圏救済基金)による援助を受けるかどうかはスペインの要請次第だ」が、「マドリッドはこれまでのところそのサポートは必要ではないと主張してきた」と語っている(同)。

 では、結局スペインは何を求めているのか。スペイン当局は同国銀行への「限定的な救済資金の供与を要請することについては、IMF及びヨーロッパの関連機関から課せられるであろう条件を恐れて、それを嫌がって」おり、モントロ予算相は「スペインの銀行の資本増強には400億ユーロを必要とするが、ヨーロッパの機関はこうした銀行の資本増強のために速やかに動くべきだ」と主張した(同)。
 要するに、スペイン政府はEFSFなどユーロ圏の支援機関から同国政府への融資を介してではなく、そこから直接に問題銀行への資金供与をすべきだと主張しているようだ。それがスペインが主張する「銀行同盟(banking union)」である(同)。

 他方で、ファン・ロンパイEU大統領は、来たるべき「EUサミットに提案するユーロ圏統合の“マスタープラン”を作成する作業の指揮をとっている。このプランにはヨーロッパ共同預金保証機構や全ユーロ圏資本増強基金創設などの銀行同盟の要素が含まれる見通しである」。(注)
 しかしファン・ロンパイ氏及び欧州委員会幹部は、「これらのプランは長期的な金融統合案の一部であって、スペインの危機に向けたものではない」と説明している。だが、同委員会幹部の一部は「マドリッドを援助する即座のプランを作成するようEU各国首脳に働きかけて来た」。そうしたプランのうち、ブリュッセル(EU本部)とパリで支持されている案は「スペインの銀行へのユーロ圏救済資金の直接注入である」。
 ただし、「ドイツの与党指導部は5日、こうした救済資金をスペインの銀行へ直接注入することにきっぱりと反対した」(同)。
 
 (注)「診断録」前号(6月3日号)最後の部分で言及したドラギECB(欧州中央銀行)総裁の5月31日の発言(そしてNYTimesがその意味を取り違えたもの)、すなわち「銀行経営監視機構の国境を越えた集中化の必要」は、こうした「銀行同盟」構想に沿ったものと考えられる。

 以上のようなスペインの銀行に対する資金の直接注入の可否の問題はとにかくとして、7日(木)にはスペイン政府は国債入札を予定している。その結果は、「これまでポルトガル、ギリシャ、アイルランドが行ったように、スペインもまたEU、IMF、ECBからの援助資金を求めなければならなくなるかどうかを決めることとなるだろう」(NYTimes、同上)。この入札結果と、それに対するスペイン自身とユーロ圏首脳の対応を注目しよう。
 なお、円高問題については、本稿始めに書いたように、今回のG7で安住財務相はよく日本の苦境について訴えたようだし、他の参加国から特別の発言がなかったようだから、わが国としては必要と思ったらどんどん市場介入すればよい。ただし、ユーロは1ユーロ=99円台にまで戻しているようだから、しばらくは状況を静観してもいいだろう。(終り) 

 (追記)前回の「診断録」へのコメントで、「大好調」さんは「円高阻止の一番よい方法は消費増税を延期することであると思います」と書いています。しかし、消費税増税は社会保障のあり方の改革と財政赤字対策とを「目的」とした「手段」ですから、この手段が目的に適合していないという理由で消費増税に反対する論法はあり得ますが、違う目的(円高阻止)を理由としてこの手段(消費増税)の実施延期を主張することは筋違いでしょう。ただし、消費増税延期が、(それが可能になったと仮定して)副次効果として円高阻止の効果をもつこともないとは言えませんが、そのような不確かな(結果も時期も)やり方で緊急の円高に対処することはできないと思います。
 なお、「大好調」さんは格付け会社による日本国債の格下げに期待していますが、格付け会社はすでにそのいい加減さで世間と市場の信用を失っていると思いますので、その発言はあまり影響力をもたないと思います。(以上)


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