文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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 6月7日に行われた注目のスペイン国債の入札の結果は、需要が予想より強く、同国政府は目標の20億ユーロを上回る20.7億ユーロの国債(うち10年債は6.11億ユーロ)を売り切った。10年債の発行利回りは6.04%で、前回の入札(4月)における5.74%を上回ったが、10年債の流通利回りは5.97%と5月25日以降ではじめて6%を下回った(Financial Times Web版、7日、Mallet記者ほか)。
 こうした予想外に堅調な需要と流通市場での利回りの低下から見て、今回のスペイン国債入札は成功したと言える。

 ところが、(いつものようにというべきか)その直後に、格付け会社(今回はフィッチ)がスペイン国債の格付けを「A」から「BBB」へ3段階引き下げ、疑心暗鬼だった市場の不安を煽った。その影響で、一時140ポイントも上げていた7日(現地時間)のNY市場のダウ平均株価は、一層の金融緩和方針を示さなかったバーナンキ米FRB議長発言への失望と相まって、終値は46ポイント高に縮小、その流れは8日の東京はじめ多くのアジア市場での株価下落へ連動したのである。
 こうした事態の展開を受け、スペインのラホイ首相は急遽7日遅くにEU(欧州連合)首脳らと対応策を協議した。それにもとづいてであろう、ユーロ圏の財務相らは9日に電話協議を開き、スペインから出される可能性が強まった同国からの支援要請につき協議することになった(Bloomberg、8日)。
 
 では、7日の入札でスペイン国債を買ったのは誰かというと、主として同国の銀行だった(NYTines Web版、7日)。スペインの銀行は、5月下旬に国有化された4位の大銀行バンキアに限らず、その多くが住宅バブルの崩壊で不良債権を抱えてバランスシートが悪化しているはずなのに、そして政府に資金援助を求めているのに、どうしてなお国債を買う余裕があるのか?そういうやり方は、「政府による銀行への援助」→「銀行による国債の購入」→「そうして調達した政府資金による銀行への援助と財政の悪化」、という悪循環にほかならないではないか(NYTimes、同上)。
 実際には、スペインの銀行はECB(欧州中央銀行)から低利(1%)の資金の融資を受け(スペインとイタリアの銀行がECBからの最大の借り手)、それで6%の利回りのスペイン国債を買うのだから、国債購入のインセンティブは十分にあるのだという。しかもスペイン経済はきびしい不況下にあり、銀行には優良な対民間貸付先が不足している。6%の利回りは外国資本にとっても良い投資で、事実今回の入札には数ヶ月ぶりでかなりの数のロンドンのヘッジ・ファンドも応募した(同上)。

 こうした投資家にとっての最大のリスクは、いうまでもなくスペインがデフォルト(債務支払いを停止)に追い込まれた場合である。したがって、スペイン国債の保有者は(イタリア国債を保有するイタリアの銀行、英国国債を保有する英国の銀行などなど他の国々の場合も多かれ少なかれ同様だが)同国の財政のこんごについて神経をとがらせており、またユーロ圏による同国への救済融資に期待しているわけだ。
 その意味で、スペイン財政のこんごとユーロ圏各国とくにドイツなど圏内の主要貸し手国の判断が重要になる。 

 近年のスペインの財政赤字(そのGDPに対する比率)は、2009年の11.2%をピークに、10年9.34%、11年8.46%と低下してきており、12年は6.02%の見込みである(IMF;World Economic Outlook Database 、2012年4月版)。
 この11年の実績を国際比較すると、スペインの財政赤字比率はドイツ(1.05%)、イタリア(3.95%)よりはずっと悪いが、日本(10.07%)、米国(9.56%)、ギリシャ(9.18%)、英国(8.66%)よりは良い。
 ただし、スペインは12年の赤字比率をユーロ圏の基準である3%に抑える目標を立てているが、同国の不況のきびしさから見て、その達成は不可能だろうし、IMFによる見通しの範囲に抑えられるかどうかも不明なのが実状だ。したがって、スペイン政府が国債利回り一層の上昇の可能性に対して今後どのように財政の建て直しを進めるかが極めて重要となる。   

 伝えられるスペインのEUなどへの資金援助要請(上述のように9日のユーロ圏財務相会議に向けて具体的要請が出される見込み)がどのような内容かはまだ不明だが、同国首脳はこれまでは「ユーロ圏の支援機構からスペイン政府への融資を介してではなく、そこから直接に問題銀行への資金供与をすべきだ」と主張してきている(「診断録」6月6日号)。政府への援助の場合に援助者側から付けられる可能性がある厳しい条件を嫌っているからだとみられている(同上)。
 ドイツなどの“タカ派”は、救済基金であるEFSF(欧州金融安定メカニズム)やESM(欧州安定メカニズム)などの設置趣旨(加盟国政府への資金援助が目的)を理由に、問題銀行へのそのような直接的な資金注入には反対している(政府への資金援助には反対ではない)。それに対し、英国(ユーロを採用してはいないがEUのメンバー国)のオズボーン蔵相は、「スペインの銀行にはユーロ圏の救済基金への早急なアクセスが認められるべきだ」と主張している(Financial Times Web版、7日、Wiesmann記者)。
 英国は、米国と同様に、市場を沈静化するためには、ユーロ圏の国々の信用危機に対してはなによりも即効性ある資金投入を優先して実施すべきだと主張して、財政再建の推進を重視するドイツなどと対立しているわけである。ただ、スペインの場合には財政の改善が進んできているだけにドイツなどの軟化もないとは言えない。

 いずれにせよ、最も重要なことはスペイン政府がどのような判断を下し、どのような対処策(国際援助の要請を含め)を立てるかである。したがって、われわれはユーロ圏側の対応を含め、9日以降の展開を注視する必要があり、その前にあまり根拠のない予断を持つことは避けるべきだ。(終り)  


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