文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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 G20(先進国・新興国の主要20ヵ国)の首脳会議(サミット)が6月18日〜19日にメキシコのロス・カボスで開かれ、「G20指導者の宣言」を発表した(以下、宣言はG20 Newsroomによる)。この宣言(項目1から85まで)は、まず「われわれは成長と雇用を促進する点で一致している」と確認し、その背景について冒頭で次のように述べている。「前回のG20(2011年11月、フランスのカンヌにおいてー引用者の加筆)以後、世界経済の回復は数々の挑戦に直面し続けた。金融市場の緊張は高く、国際収支・財政・金融の不均衡はなお広く見られ、それらが成長と雇用の展望及び信頼に大きな打撃を与えている。明らかに世界経済は傷つきやすい状態のままであり、そのことが全世界の人々の日常生活に打撃を与え、仕事、取引、開発そして環境に悪影響を及ぼしている」。その上で「われわれは回復を強め、金融市場の緊張と取り組むために共同して行動する」と宣言した。
 これを見れば、G20の首脳が世界経済の主要問題が金融市場の緊張と国際収支・財政・金融の不均衡などにあり、それらが多面的に成長と雇用増を妨げてると見ていることは明らかだ。 

 ところが日本のマスコミの報道では、このG20は「ユーロ圏があらゆる政策措置をとる」との首脳宣言を採択したのだが、そうした政策措置は「具体性を欠き、信用不安の払拭には力不足だ」(日経、20日)とか、G20首脳は「ユーロ諸国に抜本的解決迫る」(フジサンケイ ビジネスアイ、21日)とか、はたまたG20は「行き過ぎた緊縮財政を改め、経済成長をうながす姿勢を鮮明にした」(讀賣、20日)といった調子で、あたかもメキシコG20が欧州の信用危機を主要テーマとして開かれたような、そして、そのことと関連して主要国が“緊縮政策から成長重視に舵を切った”かのような報道をした。
 だが、上述の「宣言」冒頭の指摘に見るように、G20は現在の世界経済の重要問題を幅広く取り上げて、そうした諸問題が成長と雇用改善を妨げていると捉えているのであり、なにもユーロ圏の信用不安が唯一最大の問題と見ているわけではない。その点は、現実において、いま米国が回復の遅れで世界経済にマイナスの影響を与えていることを見ても明らかであろう。
 また、G20の財政緊縮から成長への政策の転換説(読売)については、米国やフランスのオランド政権の主張を考慮に入れてか、ロス・カボス宣言ではたしかに成長と雇用について数多く言及されているが、前回のカンヌ・サミットでも「成長と雇用のためのカンヌ・アクションプラン」が宣言されていたことを想起する必要がある。

 そもそも、ユーロ圏諸国(仏独伊の3ヵ国)がG20のような広い場でその重要な政策を決定するわけがない。ユーロ圏の政策は圏内17ヵ国の協議で、また広くはEU(欧州連合。ユーロ圏参加の17ヵ国を含む27ヵ国。なおユーロは本来はEUの共通通貨)の会合で論議・決定されるものだ。その点は、米州(G20には米国、カナダ、メキシコ、ブラジル、アルゼンチンが参加)の共通問題がG20で論議・決定されないことと同じである。
 もちろん、最近の世界経済でユーロ圏の問題、とくにギリシャやスペインの問題が大きなトピックとなっていることは明らかで、そのことがG20の場で話題の大きな部分を占めることは自然の成り行きだろう。その点で、非ユーロ圏の国々がユーロ圏諸国から情報を聞き、またそれにアドバイスを与えることも当然だ。
 だからといって、G20の首脳がユーロ圏の政策方針を決めるとか、あるいは政策を勧告するようなことはあり得ない。したがって、メキシコ・サミットでユーロ圏の政策が打ち出されたが「力不足だ」との日経のコメントはまったくの見当外れなのである。

 もちろんメキシコG20の宣言はユーロ圏の問題に言及している。まず「宣言」の総論部分(項目の1から9)では次のように述べている。「G20のユーロ圏メンバーはユーロ圏の統合と安定を守り、金融市場の機能を改善し、ソブリン(国家債務)と銀行の間の相互反応の輪(feedback loop)を断ち切るのに必要なすべての政策措置をとる決意である。われわれはギリシャがユーロ圏の中で改革と存続の軌道にとどまることを確実にするよう、ユーロ圏がギリシャの新政府と協力することを期待している」。
 また「経済安定と世界の回復の支援」と題した次のいわば各論部分(項目の10から19)の中では次のように言及している。「われわれは銀行システムの資本を増強するスペインのプランと、スペインの金融再構築機関を支援するとのユーロ圏グループの声明を歓迎する。フィスカル・コンパクト(注)の採用とその実行過程の進行は、成長強化の政策、構造改革、金融安定化措置とともに、持続可能な借り入れコストを可能にするより大きな財政及び経済の統合への重要なステップである」。

 (注)EU加盟国(上述のようにユーロ圏参加国を含む27ヵ国で構成)の財政赤字をGDPの3%未満に抑え、政府債務残高をGDPの60%以下に低下させることを各国の憲法あるいはそれに準ずる法律で定め、赤字と債務残高がこの範囲を超えた場合にはそれを自動的に是正するメカニズムを導入する義務を負う条約(2011年12月に締結。当「診断録」11年12月10日号及び同11日号参照)。英国とチェコを除くEU25ヵ国が署名している。

 「経済安定と世界の回復の支援」と題した「宣言」の上記の部分の中で(そのうち項目の12から19)、G20の全メンバーに関しては次のように述べている。
 「G20のすべてのメンバーは、世界の成長を強化し、信頼を再確立するために必要な行動をとるであろう。先進諸国は、国ごとの特別な環境を考慮し、また中期的な財政の維持可能性を考慮しつつ、トロント・サミット(2010年6月)(注)での約束に沿い、財政再建のペースは回復を支援するのに適合したペースで進めることを保証する」。
 「先進国及び新興国のうち財政に余地がある国々は、その国の環境と現在の需要の条件考慮しつつ、財政による自動的な景気安定化措置(automatic fiscal stabilizers)を始動させるであろう。もし、経済条件の悪化がさらに著しくなる場合には、財政に余地がある国々は、国内需要を支援するために、それに見合った裁量的な財政出動を協調して実行する準備をする。…米国は、需要と回復を支援する成長指向的な政策を追求する必要を認識し、また、その財政を長期的に維持可能なものとすることを保証しつつ、2013年に急激に財政を収縮することを避けられるように、財政再建のペースを設定する」。

 (注)カナダのトロントで開かれたG20首脳会議では、「先進諸国はその財政赤字を2013年までに最小限で半減させ、その政府債務の対GDP比率を2016年までに頭打ちとするか、低下させることを約束した」。ただし日本は、国債の大部分が国内で消化されている事情が考慮されて、この約束の例外とされた(「診断録」、2010年6月30日号)。

 ロス・カボス・サミットの宣言は、このほかIMFの資金増強を歓迎し(項目の32)、また2010年に決定されたIMFのクオータ(各国への割当額=出資額)とガバナンスの改革(新興国の比重をそのGDPの増大に対応して高めること)の約束を再確認し、それを約束通り2012年中に実現することで合意した(項目の33)。
 IMFの資金増強に関しては、すでに今年4月に各国が計4300億ドルを拠出(1国では日本の拠出額が最大で600億ドル)ことで合意しているが、今回は中国が430億ドル、ブラジル、ロシア、インド、メキシコが各100億ドル、南アフリカが20億ドル拠出する意向を表明した(ロイター、6月19日)。主要国の中では、米国とカナダが拠出要請に応じていない。
 また、格付け会社に関して、「格付けを機械的に信頼することを終わらせ、また格付け機関の透明性と競争を強めることを促進する」と述べている(項目の43)ことは興味深い(以下は省略)。 

 以上、要するにメキシコのロス・カボスでのG20サミットでは、経済成長を促進しつつ財政・国際収支・金融などの不均衡の是正を図ることを申し合わせたわけで、それをどのように具体化し実行するかは、当然のことながら、基本的にはそれぞれの地域(ユーロ圏など)、国に委ねられているわけである。繰り返すが、このサミットにおいてユーロ圏の信用不安が主題となったわけではないし(重視されたが)、まして“ユーロ圏内の危機への対策が申し合わされたものの、それは具体性に欠けるものだった”、などというものではない。
 なお、G20の構成国の現状を見渡した場合、米国こそが成長のための政策も、財政赤字と国際収支赤字の削減のための有効な政策も実行できていないこと、その意味で今回のサミット宣言の申し合わせから最も遠い国になっていることに気づくのである。(終り)  


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