文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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 26日の衆議院での「社会保障と税の一体改革」関連法案の採決・可決と、それに際しての民主党内からの造反がビッグ・ニュースとなった後も、この造反派とくにその中核である小沢派の動向が28日にもマスコミ報道の大テーマになっている。28日には小沢氏と輿石民主党幹事長との会談が大きなニュースになった。その前、同日朝のNHK「おはよう日本」は、「…法案に反対した57人すべてが離党すれば少数与党になる(民主党+国民新党がー引用者加筆)ことから、輿石氏は反対した議員を離党に追い込まないためにも…除籍などの厳しい処分を行わない考えを示唆しました」と放送した。また讀賣(28日)は1面トップで「小沢氏ら『会派離脱』提出へ」の大見出しと、「43人明日にも 首相に揺さぶり」の脇見出しで、小沢派の動きを大々的に報じた。
 しかし造反の57人全員が離党する可能性がないことは今は明白で、離党予備軍は讀賣が報ずるように多くて43人である。そして43人の離党では与党を「少数与党」に追い込むことは出来ないから野田首相を「揺さぶる」ことにはならない。その点、NHK、讀賣の報道はピントが外れている。ではいま小沢派の動向が注目される理由があるとすればそれは何か。それは、造反派への民主党の処分の中身、及び予想される小沢新党が来たるべき総選挙でどれだけの議席を獲得し、政界再編成にどの程度の影響力を発揮するかということであろう。

 まず、造反民主党議員の内訳を確認しておこう。消費税引き上げ法案に反対投票をした民主党議員は57人だが、その内訳は小沢派43人、鳩山派7人、その他7人(讀賣、朝日、27日)で、小沢派の6人は欠席あるいは棄権に回った。鳩山派とその他の14人は反対投票しても離党しない考えであるから、離党予備軍は反対投票をした小沢派の43人と見てよい。
 採決が終った後、国会内で開かれた小沢グループの会合に参加したのも衆院議員43人、参院議員14人(読売、朝日、産経、同上)である。この数字の意味は、投票の前に小沢派とともにマスコミが大いに期待?した衆議院で「民主党が少数与党になる54人」には「届かない」(読売、同上)、ということだ。これは小沢氏にとっては誤算だっただろう。

 今回の採決の前後だけではなく、小沢派の数は時の経過とともに減ってきている。小沢グループの最近の結集体といえば、2011年12月に小沢氏支持の議員グループをまとめた「新しい政策研究会」(小沢一郎会長、東祥三事務総長)が結成されたことである。これには106人の衆参両院議員が参加し、そのうち民主党の衆院議員は71人、参院議員は24人だった(民主党以外からも新党きづな、新党大地、減税日本の議員も同会に参加)。こうしたところから、小沢派の議員は大ざっぱに“両院計100人で民主党内最大のグループ”といわれてきた。その頃の小沢派の衆院議員71人と比べた場合、6月26日の衆院本会議で反対投票をした43人はまさに激減と言うべき数字である。
 要するに、小沢氏の求心力が低下してきているのである。これには、裁判では無罪になった(現在控訴されているが)ものの、小沢氏の政治資金のあり方に不透明さを感ずる者が少なくない(当「診断録」12年4月28日号参照)ことに加え、小沢氏の政治行動に疑問を感じさせるものがいくつも出てきているからであろう。

 例えば、昨年6月に野党3党が菅内閣不信任決議案を衆院に提出した際、小沢・鳩山グループはこれに同調する意思を示していたが、採決直前の代議士会で菅首相が辞任の意向を示唆したために、小沢氏は自派議員に自主投票を呼びかけ、自らを含む15議員が欠席あるいは棄権に回った(小沢派の松木謙公、横粂勝仁両議員は賛成投票をして党から除名された)。この方針は小沢氏の腰砕けとしてグループの強硬派議員を失望させた。
 最近では、週刊文春(6月21日号)が「小沢一郎 妻からの『離縁状』」と題して、和子夫人が「小沢は大震災後放射能が怖いと逃げた」と記した支援者宛の手紙を公開した。私も前から“小沢氏が大震災後に自らの選挙区である岩手県沿岸部の被災地を訪問したのはやっと震災から10ヵ月後の今年1月だった”と聞いており、その点を不審に思っていただけに、この文春の暴露には真実味を感じた。おそらく政界の受け止め方も同様なのではないか。

 小沢氏の消費税引き上げ反対の方針にも釈然としないものがある。同氏の消費税引き上げ反対の最大の理由は、この引き上げが民主党のマニフェストに反するという点にある。それはその通りであるが、ドイツでも2005年9月の総選挙でキリスト教民主・社会同盟が付加価値税(日本の消費税に相当)の引き上げを、社会民主党が所得税率最高限の引き上げを主張して戦ったものの、選挙後の両党の大連立政権(メルケル首相)は2007年から付加価値税率、所得税率の最高限のいずれをも引き上げることにした例もある。状況によっては公約になかったことでも実施することはあり得る。問題はあくまで実施するその政策の妥当性いかんであろう。
 マニフェスト違反というのであれば、普天間基地の国外への移転(最低でも県外への移転)を主張してきた鳩山・小沢主導の民主党の事実上の公約(マニフェストには書かれていなかったが)の放棄を小沢氏はどう考えるのか、という大きな疑問がある。2010年5月に鳩山内閣が普天間基地の辺野古沖への移設を閣議決定した際、小沢民主党幹事長はこれに反対していない。

 このような経過を見ると、小沢氏の消費税引き上げ反対の真の理由は、同氏が言う「国民生活が第一」よりも、“(野田内閣の)倒閣が第一”という政略にあったように思える。実際、小沢氏は「首相を採決先延ばしや断念に追い込む展開を理想」 としており、その上で消費税法案への反対者が「9月の代表選に向けて『野田降ろし』による倒閣の中核勢力となるシナリオ」(日経、23日)を描いてきたとされる。そして、「消費税法案に反対する元代表は、首相は法案採決までは漕ぎつけられないと読んでいたと思われる」(毎日、23日)。つまり、小沢氏はここに至る政局展開を読み違えたようなのだ(「診断録」6月24日号)。
 その点では、「ねじれ国会」の下では主要野党の協力なしには政治は進められないと覚悟を決め、またそれが現在の条件下では可能であると確信してきた野田首相の方の読み勝ちである。

 民主党は現在、「一体改革法案」採決についての造反者の処分方針につき揺れている。しかし、それがどのように決まるとしても、小沢派とすれば、ここまで来れば遅かれ早かれ離党せざるを得ないであろう。むしろ、一体改革関連法案の採決の前にはこの法案に反対して離党すると匂わしていたのに、法案採決後もずるずると決断を先送りしている感じだ。 
 それでは、結成されると予想される小沢新党はどの程度に国民の支持を得、また政界再編成においてどのような役割を演ずるのだろうか。だが、最近の世論調査が示すところによると、小沢新党の前途はまことに暗いようだ。
 朝日新聞社が26,27日に実施した全国緊急世論調査(電話)によると、小沢氏らが検討している新党について「期待する」は15%、対する「期待しない」が78%だった(朝日デジタル、27日)。また、共同通信社が同じ日に行った全国電話世論調査では、小沢新党に「期待する」は15.9%、「期待しない」は79.6%だった(msn産経ニュース、27日)。両調査がほとんど同じ結果になっていることは興味深い。ちなみに、共同通信の調査では、橋下大阪市長率いる大阪維新の会の国政進出に「期待する」が54.5%、「期待しない」が37.9%だった。

 以上のように、小沢氏の政界での影響力は顕著に落ちてきており、国民の間での人気の低下は、同氏の政治資金の不透明さの問題があるだけに、さらに著しいようだ。そのように見ると、小沢派の動静には、讀賣が報じたように、「小沢氏ら『会派離脱』提出へ」と新聞の1面トップで扱うような重みはなくなっている。
 なお、ここでいう会派離脱とは、民主党に所属したままで、現在の「民主党・無所属クラブ」とは別の「会派」を結成しようというもので、いわば“党中党”を作る試みである。しかし、こうした会派の結成は、既存の会派(民主党・無所属クラブ)の代表者(現在は樽床民主党幹事長代行)が衆院議長にその届けを提出する必要があるので、実際上は不可能であろう。そのような別会派結成の動きが小沢派内にあるとすれば、それは党内会派の結成で新党結成に代えようとする弱気の表れとしか思われない。それは、むしろ「会派離脱を認められない場合でも、新党結成を求める若手議員を納得させ、グループの結束を保つ」(讀賣、同上)一手段に過ぎないのではないか。

 先ほど(28日夜7時台)聞いたNHKニュースによると、小沢氏は同日輿石幹事長と2回にわたって会談した後、記者団に対し、「消費税率引き上げ法案をこのまま参議院でも採決するという方針を変えないのであれば、離党せざるを得ない」という考えを伝えたことを明らかにした。野田首相が今さら参議院の審議で既定の方針を変えるなどということは誰も信じていないから、小沢氏のこのような態度は単なる不決断の表れ以外の何ものでもないように思える。いったい、小沢氏は本当は何を待っているのだろうか。まさか、民主党が小沢氏を処分しないという裁断を下すのを期待しているのではないだろうが……。(終り) 


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