文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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EU合意をめぐる誤解

 6月28,29日に(実際には30日早朝まで)開催されたEU(欧州連合、加盟27ヵ国)の首脳会議は、平行して29日に開かれたユーロ圏(EU加盟国のうち17ヵ国が参加)の首脳会議での合意を踏まえて、スペインの銀行に対するユーロ圏救援基金からの直接の資金注入など、新たな信用危機対策を決定した。この報を歓迎して、29日(金)に世界各地の株式市場で株価が急騰、ユーロの為替相場は反騰した。
 しかし、こうした市場の反応は単純過ぎる。そこには今回の合意についてのいくつかの誤解、例えばスペイン向けの救済資金が無条件ですぐにでも投入されるかのような誤解が見られるからだ。われわれに必要なことは、今回の合意についてのファン・ロンパイEU大統領(欧州理事会議長)の新聞発表(Remarks、EUのホームページによる)にもとづき、この合意の内容を正確に読み取ることである。

 まず、銀行(直接にはスペインの銀行が念頭にある)に対する資金投入については、この大統領発表は次のように述べている。「われわれはESM(European Stability Mechanism、この7月にスタートするユーロ圏の金融支援の基金)が、一定の(certain)環境及び条件の下で、銀行(banks)に対して直接に資本増強(recapitalise)を行い得ることに合意した。その最大かつ最も重要な条件は、銀行に対する単一の監督機構(single supervisory mechanism)を設立(setting up)することである。ユーロ圏の首脳は欧州理事会(EUの執行機関)に対し、今年末までにこの機構についての結論を得るようにスピーディに作業を行うことを要請した」。
 この合意は、EU規模での単一の銀行監督機構が設立されるまでは(早くとも今年末までは)、銀行(当面はスペインの銀行)に対する資本注入は行われないことを意味する(これはドイツの要求に基づく)。これに対し、当初ユーロ圏財務相会議が構想したスペイン政府を介しての同国銀行に対する最大1000億ユーロの資金注入案は、即座の資金供与を念頭に置いていたのであるから、国際的な監督機構の審査を経なければならない点と融資実行の時期が遅くなる点で、むしろ条件が厳しくなったと言える。

 次に、EFSF(European Financial Stability Mechanism、上記ESMの前身)あるいはESM(7月にEFSFを引き継ぐ)の資金を市場安定化のために使用する(市場で高利回りのユーロ圏の国債を買い上げるー引用者加筆)措置についての大統領の発表は次の通り。「われわれは、EUの共通ルール(財政赤字の限度についてのー引用者加筆)と勧告及びその日程表を遵守する国々に関して、現行のEFSFないしESMの資金(instruments)を市場安定化のために利用することを可能性にすることで合意した」。
 これは、当面具体的にはスペインとイタリアの国債の高利回りを引き下げるために、ユーロ圏の救援資金を使って市場からこれらの国債を買い上げる可能性を認めたものだが、そのためには当のスペイン、イタリアは財政赤字削減のEUルールを守らなければならないことを意味する。すなわちそうした条件が満たされるまでは、ESMが7月に業務を開始しても自動的に市場でこれらの国債の買い上げを開始するわけではないということだ。したがって、こうした市場操作が7月早々にも開始されると市場が期待しているとすると、そうした期待が裏切られる公算が大きいだろう。

 今回のEU首脳会議の合意については、さらに次の諸点にも留意する必要がある。
 この合意によりスペイン政府は、自らがEFSFあるいはESMから資金供与を受けることによって政府債務が増加することは回避できるが、スペイン国債の利回り高騰の原因になっている同国財政と経済の悪化を食い止める新たな具体策を示したわけではない。したがって、こんごもスペイン経済と財政に関する好ましくないニュースが出てくる可能性はそのまま残されているのである。 
 また、銀行に対する共同監督機構の設立は「この監督機構に個別の国の銀行に対し“手を突っ込む権限=断固たる処置を執る権限”(Durchgriffsrechte)を与える」(FAZ=フランクフルター・アルゲマイネ・ツァイトゥングWeb版、29日)ものであるから、銀行はおそらく従来よりはきびしい公的監視のもとにおかれることになるだろうし、国によってはその点についての反発が出て来る可能性もある。 

 ロイター(29日)は、この統一的な監督が「欧州中央銀行(ECB)の関与の下」で行われると報じ、また日経(30日)は「銀行監督を欧州中央銀行に一元化する」と書いたが、上記のファン・ロンパイ大統領の発表にあるように、この監督機構は今年末までに新に設置されるものであり、ECBがその業務を(また、直ちに)担うのではない。
  以上のように、今回のEUサミットの合意内容については、マスコミと市場による誤解が数々あるから、その誤解が判明した時のあり得る反動を考慮に入れておく必要があるだろう。(終り) 


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