文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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領土紛争は戦争への芽

 竹島をめぐる日韓そして尖閣諸島をめぐる日中の最近の紛争は、24日の日本の衆議院における対韓・対中への抗議決議(李明博韓国大統領の竹島上陸と天皇への謝罪要求発言、及び香港の民間活動家らによる尖閣諸島への不法上陸に対する抗議)の採択と、野田首相による記者会見での言明(竹島の韓国による不法占拠を非難した上で、日本の領土・領海を不退転の覚悟で保全するとの決意を表明)を頂点として、その後は沈静化の傾向が見られる。
 関係三国のマスコミにおける相手国批判や中国での反日デモはまだ盛んだが、少なくとも政府レベルにおける非難の応酬合戦はトーン・ダウンしている。野田首相が李明博韓国大統領に送った親書(竹島問題の国際司法裁判所への共同提訴についての)が非礼にも返送されたことについても、日本は「日本外交の品位を保つ」(玄葉外相)ためにこれを24日に受け取るという冷静な対処をした。
 事態の成り行きは予断を許さないが、現時点では紛争状況がエスカレートしていないことを歓迎したい。

 ここで強調しておきたいのは、領土紛争における無分別な強硬論は容易に戦争へ発展するということだ。
 例えば、韓国は1952年1月、日本の連合国との講和条約(サンフランシスコ条約。調印は51年9月、発効は52年4月28日)(注)の発効直前の時期(日本の独立回復直前の時期)を狙って竹島を不法な「李承晩ライン」(海洋主権宣言)で囲い込み、54年6月からは沿岸警備隊を同島に常駐させている(同島を実効支配している)が、韓国によるこの不法占拠を否応なしに止めさせるためには、日本が韓国警備隊を排除しなければならない。だが、そうすれば、韓国はこれに実力で応戦するだろうから、紛争はたちまち日韓の全面的な軍事衝突、すなわち戦争に発展するだろう。

 (注)サンフランシスコ条約では、日本は「朝鮮の独立を承認して、済州島、巨文島及び鬱陵島を含む朝鮮に対するすべての権利、権原及び請求権を放棄」したが、竹島は放棄していない(当「診断録」8月21日号参照)。
 実は韓国はサ条約の米英両国による草案に“日本による竹島の放棄”が盛り込まれていないことを知り、51年7月(サ条約調印の2ヵ月前)に梁駐米韓国大使がアチソン米国務長官宛の書簡を提出し、この講和条約に日本による竹島の放棄を明記してほしいと要望した。すなわち、上記のような条約草案の条項を、「(日本国が)朝鮮並びに済州島、巨文島、鬱陵島、独島及びパラン島を含む日本による朝鮮の併合前に朝鮮の一部であった島々に対するすべての権利、権限及び請求権を1945年8月9日に放棄したことを確認する」と置き換えてほしいと求めたのである。
 これに対して米国はラスク国務次官補からの書簡で、「ドク島、または竹島ないしリアンクール岩として知られる島に関しては、…我々の情報によれば朝鮮の一部として取り扱われたことが決してなく、1905年頃から日本の島根県隠岐島支庁の管轄下にある。この島は、かつて朝鮮によって領有権の主張がなされたとはみられない」と回答、韓国の主張を退けたのである(外務省ホームページ)。

 他方、尖閣諸島は古くから、そして現在も日本が実効支配している(例えば今年8月15日に同島に不法上陸した香港の民間活動家5人を沖縄県警察が逮捕している)が、もし中国が同島への日本の実効支配を有無を言わさず覆そうとするなら、同島を実力で(軍事力で)占領する以外にはない。 そうした中国の行動は、もしも実行されるならば、日本による自衛権の発動により日中両国の軍事衝突に発展するし、さらには米軍の介入をも招く可能性がある(注)。
 遠い将来はとにかく、おそらく中国は今そこまでの軍事行動(対外侵略)をとる意思はないであろう。それに、中国問題に詳しいジャーナリスト富坂聡氏によると、尖閣上陸の香港の活動家たちは「反日の一方で反中国共産党の活動をしているグループで、彼らの意思は決して中国の意思ではない」。「このことは、後にリーダーの一人が五星紅旗を焼いている映像が紹介されたことで明らか」だという(「NEWSポストセブン」8月24日号。なお「NEWSポストセブン」は小学館が発行する「週刊ポスト」「女性セブン」「SAPIO」「マネー ポスト」4誌を統合したニュースサイト)。

 (注)外務省の杉山晋輔アジア大洋州局長は、8月22日に米国でホワイトハウス国家安全保障会議のラッセル・アジア上級部長、国務省のキャンベル次官補と相次いで会談した。その際米国側は「尖閣諸島には日米安全保障条約が適用されるとの立場を示した」。
 「日米安保条約5条は日本の施政権下にある領域において、米国が日本を防衛する義務を定めた内容。米政府はこれまでも、尖閣諸島は日本の施政下にあり、同5条が適用される、との立場を取ってきた。ただ、領有権については中立の立場だ」(朝日新聞デジタル、23日)。

 だから、係争中の領土(日本は尖閣諸島には領土問題は存在しないとの立場だが、現に中国はその争いを起こしてきた)に関しては、基本的には現状を凍結した上で、外交による解決を図るほかはない。この問題についてむやみに強硬論を唱えるものは、客観的には戦争を挑発していることになる。
 しかも、厄介なことには、領土問題についての強硬論は大衆に受けられやすい。そもそも領土問題は、その表面だけみれば、極めてわかりやすいし、ナショナリズムに訴えやすいものである。したがって、予備知識なしに誰でも理解し、それについての意見(多くは強硬論)を表明できる。
 その結果、簡単に強硬論が“世論”になりやすいのだ。その逆にこの問題で慎重論あるいは穏健路線を唱えると、すぐに“弱腰”と非難される。むしろ、合理的な慎重論を唱える方が勇気がいるのだ。

 日本が1930年代に対中国戦争へ突入し、それが40年代の太平洋戦争へ発展していった経過を振り返ってみても、この戦争は指導者層の暴走だけによって起こされ、拡大したものではなく、戦争による日本の軍事占領地域(=支配地域)の拡大に熱狂し、それを煽った大衆の愚かさ(若い私もその一員であった)が底部で支えたことも否定できない。
 今日、一部の非理性的なナショナリストを除き、日本国民の多数が尖閣諸島や竹島の問題で比較的冷静な態度を取っていることは、たいへん歓迎すべきことである。(終り)

 
 


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