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国会は29日に参議院で野党7会派提出の「野田首相問責決議案」を7会派のほか自民党が賛成して可決した。この結果をもとに野党は9月8日の今国会会期末まで国会審議に応じない方針であるため、今国会は29日で事実上で終了したことになるそうである。
これは、首相問責決議可決の場合の慣例のようだが(法的根拠は何もない)、実におかしな理屈である。常識で考えれば、首相が問責されたということは、もっともきびしく解釈して、“現首相は首相として不適格だから辞任しなさい”ということを意味するはずである。それなら、野田内閣は総辞職し、国会は次の首相を選べばよいわけである。ところが、政界の常識では、首相問責の後は今国会は休会となり、次の臨時国会(おそらく10月に招集)で首相が衆議院を解散することになるという。つまり、首相は“参議院で問責された(衆院での内閣不信任案はすでに否決されている)ために衆議院を解散する”、というわけだ。
まことに奇妙な論法で、これでは今の日本の国会議員の頭は狂っているのではないかと思えてくる。
そういう“ことの運び”になるのは、実は、8月8日に野田首相、谷垣自民党総裁、山口公明党代表が会談し、「消費税率引き上げ法案を3党合意に基づいて早期成立させ、成立ののち、近いうちに国民の信を問うことで合意」したこと(「診断録」8日号)が根拠になっている。すなわち、この法案は実際に8月10日に参院で可決し成立したが、その後現在に至るまで野田首相は解散を行わずに、赤字国債発行のための法案や一票の格差を是正する選挙制度改正案などの審議を進めているので、これは約束違反だと自民・公明両党はいうのである。
だが首相の方では、「近いうちに国民の信を問う」と約束したが、消費税増税法案の成立後直ちに解散するといったわけではない。解散するためにも、赤字国債発行のための法案や選挙制度改正案を成立させる必要がある、という理屈になる。
そこで自民・公明の両党は、首相に解散を実行させるために参院で首相問責決議を行った上で国会審議をストップし、重要法案の審議・成立を不可能にして首相を立ち往生させるという戦術に出たわけだ。
事実、谷垣自民党総裁は30日の講演の中で、「この事態(国会の審議ストップー引用者の加筆)を乗り越えるために一番簡単な方法は、野田総理大臣が『衆議院を解散する』と言うことだ。そうすれば、解散の前に懸案事項に協力して相談に応じることも出来る」と述べている(NHK NEWSweb、30日)。つまり、首相問責決議は首相に対する“取引条件の突きつけ”だとハッキリ言っているのである。それならそうとはじめからそう言えばいいのに、だ。
むしろ、自公両党は赤字国債発行のための法案、選挙制度改正案の審議でも民主党と協議・協力し、そうした重要法案を成立させた上で堂々と解散を要求すればよかったのだ。
そういう正攻法を取らないために、自公両党とくに自民党はおかしなことをしでかした。すなわち、29日の首相問責決議の提案・採決に際して、自民党が野党7会派提出の決議案に賛成したことだ。
7会派の決議案は、民・自・公3党共同による消費増税法案を推進し成立させた野田首相を問責するという趣旨であったから、3党合意の責任の一端を負う自民党がそれに賛成するということは誰が見ても「自己否定」(毎日、30日)である。だから、常に自民党に寄り添っている公明党もこの問責決議には棄権したのである。そうした行動で谷垣自民党総裁は天下に恥をさらした。
谷垣氏がなぜそれほどまでに解散を急ぐのかといえば、同氏はかねがね今国会中に衆議院を解散させると自民党内で言ってきているので、そのことを実現できなければ、来るべき自民党総裁選挙(そのための自民党大会は9月26日)での自らの再選が困難になるからだ。要するに、究極的には保身のためなのだ。
他方で野田首相も、谷垣総裁のそうした本心が見え見えなのであるから、早急の解散を事実上の条件にして重要法案の審議・成立につき自公両党と妥協・合意する道もあったはずだ。ところが野田首相にも、与党民主党の大勢が早期の解散に反対であるため(同党への支持率が大きく低下しているので)、それを無視しにくいという弱点がある。そして野田氏も9月21日の党大会での代表選挙を控えている。その点では野田氏は谷垣氏と似た立場にあるが、解散を先延ばし(今国会ではなく次の臨時国会に)しても困ることはない(代表としての再選が有力視されている)だけ、野田氏の立場は有利である。
こうして、今国会中における解散の見送りと、秋の臨時国会における解散の実行というシナリオが出来上がるわけだ。野田首相としても、臨時国会を召集しても法案の審議が進まなければそれこそ立ち往生するし、またその頃に解散を実行しなければ、「近いうちに民意を問う」という約束(それは自公両党首に対するとともに国民に対する約束でもある)に反することになる。
こうしたことの結果、解散後の来たるべき総選挙には、民主・自由両党とも(それに公明党も)、それぞれの党首選挙を経た後の態勢で臨むことになる。他方で次の総選挙には、民主党から分かれた「国民の生活が第一」及び「新党きづな」、そして政党化して国政に進出しようとしている「大阪維新の会」などの新規参入があるので、選挙が熱戦・大混戦になることは間違いない。
その結果をどう予想するか。おそらく「自民党が比較第1党になる可能性が高いが、公明党と組んでも過半数を獲得できる確証はない」(毎日、同上)。また、今のところ人気が高い「大阪維新」も、今なお党代表も決まらない状況だし、国政で何をしようとするかも明確になっていないから、選挙で大成果を上げるとは考えにくい。むしろ「維新」の政界変化へのインパクトは、同派が民主、自民、「国民生活」、「みんなの党」などから議員を誘い込むことによる、既存政党の分解化へのそれであろう。
したがって、次の総選挙の結果として政治が安定化することは難しい。仮に自公両党に、例えば「たちあがれ日本」などの保守派少数党を加えて衆院で過半数の勢力を形成しても、参院との「ねじれ」を解消することはできないだろう。
そこで、政治を安定させ、なんであれ日本の政治が前へ進むようにするためには、衆参両院での過半数形成が可能になるような連立政権を形成する以外にはないであろう。そうした場合にすぐ出てくるのは、衆院の第1党と第2党とによる大連立論だが、それに限らず、いろいろな連立を目指す模索が行われるべきだと思う。ちなみに、私は当「診断録」で日本における連立政権の必要性、重要性を繰り返し主張してきた(例えば 2010年9月11日号「政権短命化の原因」)
いずれにせよ今の日本では、かつてのような自民党一党による長期政権などはもはや実現しないし、二大政党による政権交代といった米国型政治も望むべくもない(その米国でも今は上下両院のねじれで政治は立ち往生の状況に近くなっている)。むしろどの政党も、政権とは連立によって初めて成立するものだというように頭を切り換えるべきなのだ。そして総選挙の後の特別国会で首班が選出されたら、その新首班は各党と連立交渉を行った上で初めて新内閣を発足させるべきなのだ。
だが日本の政党は、どの党も(公明党や国民新党は例外)暗黙のうちに自ら単独政権をつくろうという願望のもとで動いているように見受けられる。今の自民党などはその最たるものだ。
連立政権に参加するということは、各党にとって常に妥協を求められるものだ。その場合には、自党の主張のある部分(たとえ重要なものであっても)の実現は断念しても、他の部分が実現できればよしとする精神が必要なのだ。そういう点では、共産党は最も頑な(かたくな)な単独政権主義にとらわれているのではないか。社民党は前身の社会党時代を含めて連立の経験はあるが、概して連立への参加を狙う精神が不足しているようだ。そういう意味では、社共両党は未だに議会制民主主義における漸進的改革を目指す党になっていないと思う。
そういった各党のあり方を含めて、日本ではまだ議会制民主主義が定着していない、あるいはそれに習熟していないと思う。そのため、衆参両院のねじれが問題になると、いきなり参議院廃止論が出て来るし、短命の首相が続くと、一足飛びに大統領制や首相公選制が提起される。
そうした問題も、憲法改正などの大改革を行わないで、現行制度のもとにおける連立政権形成の工夫と努力でかなりの程度に解決できるはずだ。その意味で、次の総選挙によって政治は不安定化する可能性があるが、むしろ各政党が連立政権による政治の安定化を真剣に模索する機会とすべきだと思う。(終り)
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