文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

現代短評

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 日本政府が尖閣列島を国有化したことに抗議して中国国内で反日デモが激化し、15日には北京をはじめ50都市以上で8万人以上がデモに参加、「1972年の日中国交正常化以来最大級の規模」に達した(日経その他、16日)。デモ隊の一部は暴徒化し、日系企業のパナソニックの工場やトヨタの販売店が放火され、ジャスコ黄島店や平和堂などが破壊され、あるいは略奪された。
 また、日中関係のイベントが相次いで中止されている。例えば名古屋市で18日に開く予定だった中国政府代表団約70人との交流会が中止、新潟県柏崎市で29,30日に開催予定だった水球の試合が中止、歌手の谷村新司さんが25日に北京の国家大劇院で開く予定だった日中国交正常化40周年記念コンサートが延期、9月末に予定されていた中国の人気歌手孫楠さんのコンサートも中止された。いずれも中国政府がこれら中国人の渡航許可(日本への)を取り消すか、中国側が自国側主催のイベントを中止ないし延期したためである(産経、15日)。

 反日デモは中国政府の黙認の下で激化しており、また各種の日中交流イベントの中止は明らかに中国政府の指示あるいは示唆にもとづくものである。そうした動きに、尖閣問題を巡る中国政府の強い反発が表れていると考えられる。
 中国側はデモやイベント中止だけではなく、14日には中国の海洋監視船6隻が尖閣諸島周辺の日本領海内に侵入し、これに警告を発した海上保安庁の巡視船に逆に退去を求めるなどの一種の実力行動を行った(中国の海洋監視船は最終的には退去したが)。
 さらに重大なのは、中国軍の高級将校らが、尖閣諸島奪還のための「軍事衝突も発生し得る」と主張していることだ (産経、同上)。

 すなわち、13日付の中国の國際情報誌「環球時報」(人民日報社発行、週3回刊のタブロイド型大衆紙)に、中国人民解放軍の現役少将を含む将校10人が意見表明を行い、尖閣諸島周辺海域への海洋監視船派遣を、日本政府による国有化に対する対抗措置の「第2段階」と位置づけ、武力行使を意味する「第3段階」も辞さない姿勢を示したのである(同上)。
 例えば、「尖閣諸島の軍事演習区化を提案するなどタカ派で知られる羅援少将」は、「武力解決の機は熟していない」としつつも、「戦略的力量が十分に積み重ねられるのを待ち、最終的に島を奪う」と述べた。また、元南海艦隊政治委員の趙英富中将は「われわれは暴発を恐れない。国家を強大にし、頑強な国防を後ろ盾にすることが釣魚島問題の最終的解決の基礎となる」と主張した(同上)。
 これら将校の発言は中国政府当局者のものではないが、当局公認、少なくとも黙認のものであることは明らかだ。
 
 以上のような尖閣問題に対する中国側の日本への対抗姿勢を見ると、今の日中関係は、かつての東西冷戦と似た一種の「冷たい戦争」(熱い戦争の危機を孕むが、辛うじて熱戦には至っていない)の時期に入ったと認識すべきだと私は考える。少なくとも、短期に簡単に解決(少なくとも沈静化)出来るものではないと覚悟すべきだ。
 ところが日本では、目下自民党総裁選に立候補中の石原伸晃自民党幹事長は11日夜のテレビ朝日の番組内で、中国側は尖閣諸島へは「攻めてこない。誰も住んでいないんだから」と発言、「領土問題についての認識の甘さを露呈」した(産経、12日)。

 こうした事態展開から顧みると、6月に丹羽宇一郎前中国駐在大使が英紙「Financial Times」(6月6日号)のインタビューで語った言葉、「東京都による尖閣諸島購入計画は両国間の関係に極めて深刻な悪影響を与えるであろう」との警告は当たっていたといわなければならない。周知のように、丹羽大使はこの発言を野党やマスコミから猛批判され、更迭された。
 石原自民党幹事長は9月14日に行われた自民党総裁選立候補者の共同記者会見で、尖閣諸島の国有化について、「国有化するなら中国ともっと事前に打ち合わせるべきだった」(しんぶん赤旗、15日)、その点で政府は「虎の尾を踏んだ」(毎日、16日)と述べ、東京都による尖閣購入なら中国を刺激しなかった、国有化が中国を刺激したと東京都の行動を正当化した。 だが、石原慎太郎都知事が尖閣購入計画発表した(4月16日、ワシントンで)すぐ後の5月3日には、中国の次期最高指導者に内定している習近平国家副主席が「相手にとって核心的利益、重大な関心を持つ問題については慎重な態度を取るべきだ」と述べ、「都による尖閣諸島購入方針への牽制」を行っている(ms産経ニュース、5月4日)。また中国外務省の劉為民報道官は5月31日の記者会見で、都による尖閣購入計画が寄付金を集めて進んでいることについて、「こうした小細工をしても島が中国に属するという事実を変えることはできない」と反発している(同上、5月31日)。

 このような経過の上で、政府による国有化が行われたわけで、これが中国に対して追加的な刺激となったことも事実であろう。
 政府内には、中国の反応について、「東京都が購入して中国に強硬な石原慎太郎知事がいろいろと仕掛けてくることを最も警戒しており、日本政府が買えば、多少の反発はあっても沈静化する」という「読み違えがあった」(讀賣、16日)。
 中国は企業を含めて国有部門が重要な位置を占める国家だけに、「国有化」ということをとくに重視するのであろう。実際には、高原明生東大教授も指摘するように、尖閣諸島を「これまでも私人が平穏かつ安定的に所有し固定資産税を払っていた。立派な実効支配ではないか。国際法上、国有化によって実効支配が強まることはないだろう」(日経電子版、16日)ということが真実なのに、である。実際、16日昼のNHKニュースを見ていたら、北京でデモ行進する中国人は「島を返せ」と書いたプラカードを掲げていた。つまり、中国人の多くにとっては、日本による国有化によって“島は取られた”という認識なのであろう。

 中国においては、歴史的、国際法的な根拠には関わりなく、「釣魚島は中国領土だ」との教育と宣伝により、国内政治上で尖閣諸島を自国領にしてしまっているのであり、この前提から出発して、中国の官民はいま対日強硬姿勢をエスカレートしているわけである。もし、中国政府がこの点で妥協的な態度を示せば政府の国内政治上の安定が揺らぐであろう。したがって、中国政府が簡単に日本への態度を軟化するとの期待を持つべきではない。なにせ、個人の発言のかたちをとっているものの、中国軍部は尖閣諸島の軍事占領をさえ視野に入れているのである。
 中国のこのような硬直的な態度は、1958年5月に起きた「長崎国旗事件」を思い出させる。この時、長崎市の浜屋デパートで日中友好協会主催の「中国切手・切り紙展覧会」が開かれており、会場入口付近の天井から「五星紅旗」(中国国旗)が吊されていた。この国旗を、右翼団体に所属する日本の青年が引きずり下ろして毀損したのである。これに対して中国は対日貿易を停止し、既契約の日本の対中輸出も破棄した。こうした貿易停止の状態は1960年12月まで続いたのである。

 この例に見られるように、中国は国の主権や名誉に関わると見なした問題について、簡単に経済的な交流をも停止するというまったく無茶な報復行動に出る傾向がある。
 今回の尖閣国有化問題に関しても、こんご中国は、軍事行動よりも先に経済面での報復行動に出て来る可能性が大きい。日本の対中輸出は全輸出の約20%を占めるほどになってきているだけに、そうした報復行為による日本経済への打撃は大きいが(中国側も日本からの資本財の輸入途絶などで打撃を受けるが)、これには耐える覚悟が必要であろう。要するに、尖閣問題を契機とする日中関係の悪化で日本経済の先行きも悪化する可能性が出てきたのだ。

 では、中国軍による尖閣諸島の奇襲・占領の可能性にはどう対処すべきか。これに対して自衛隊が出動すれば日中戦争になる。
 日本国内には、尖閣諸島には日米安保条約が適用されるので、その際には米軍が共同防衛に当たるはずだし、またそのことが中国に対する抑止力になるとの期待がある。ところが、中国軍縮協会理事の徐光祐少将は、「日本は軍事衝突が起これば米国が助けてくれると思っているが、それは願いに過ぎない」、「米国の日本を守る意欲は低い。米国も中国と正面からぶつかる危険は冒せない」と発言しており(上記の「環球時報」において)、中国は日米安保が抑止力になるとは見ていない可能性がある。
 だから、日本としてはやはり中国の軍事行動の可能性を認識する必要がある。それに備えて海上保安庁の巡視船などによる警備態勢を質量両面で強化すべきだが、もし中国の軍事侵攻が現実化した場合の対応策については、ここでは言明を控えたい(私は政府の方針は知らないが、いずれにせよ、これは最高の国家機密に属する問題だ)。

 とにかく、日本としては中国政府に事態の沈静化を要求しつつ、併せて中国国内における暴力的デモの不法性を含め、尖閣問題における日本の立場と主張を強力に国際世論に訴える努力を強める必要がある。いずれにせよ、我々は尖閣問題を巡る日中の冷戦は長期化すると見ておくべきだろう。(終り)

(追記 18日&20日) 本稿の補足編を「文太郎の日記帳」(9月18日号&20日号)(blogs.yahoo.co.jp/to1952dai/)に投稿しましたので、それもご参照下さい。


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