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IMFは10月9日に2012〜13年の世界経済見通しの改訂版(前回見通しは今年7月)を公表し、世界全体の実質経済成長率を12年は3.3%とし、前回見通しより0.2パーセント・ポイント引き下げ、13年については3.6%で0.3ポイント引き下げた。過去の実績値は10年は5.1%、11年は3.8%だった(各紙、9日夕刊)。なお、この見通しでは日本は12年が2.2%(0.2ポイント下げ)、13年は1.2%(0.3ポイント下げ)である。
日本のマスコミは、「世界の成長 下方修正」(日経紙1面トップの見出し)という例に見られるように、総じて成長率の大小に関心を集中していたが、本来、景気判断にとって必要なことは、景気が上り坂にあるのか、下り坂に入っているのかということなのだ。たとえマクロの成長率がプラスであっても、消費が減少しているとか、鉱工業生産が低下しているとか、企業収益が減少しているなど、いくつかの重要な経済現象(それらを表す指標)がマイナスを示すようになると、それは実は経済全体も下降過程に入っていることを示すのである。
そのようないわば経済の“方向についての判断”でいえば、世界経済はヨーロッパから始まった景気下降(後退)がすでに中国、ブラジルなどの新興国に及んでいる段階にある、と言えるだろう。
IMFが今回公表した「世界についての見通しと政策」も、そうした景気後退観を滲ませている。その冒頭の部分を紹介しよう。
「世界経済はIMFが2012年7月に前回の見通しを公表して以来いっそう悪化し(deteriorate)、成長見通しは引き下げられた。景気悪化のリスク(downside risks)は、今や2011年9月と12年4月におけるINF予測に比べてより高まっていると判断される。目下の中心問題(key issue)は、世界経済はいま短期の乱気流(bout of turbulence)ーその場合には常に回復はスローでデコボコ(bumpy)となるーに入っているのか、それとも現在の成長減速にはもっと長期化する要因が含まれているのか、という点にある。これについての答は、ヨーロッパと米国の政策当局者が、彼らが直面している主要な当面の経済的チャレンジに積極的に(proactively)取り組むかどうかにかかっている。IMFのこの見通しは、彼らがそれを実行し、それによって世界的な経済活動は2012年中に再加速すると見なしている(assume)。もしそうした政策が実行されなければ、この見通しはまたもや失望をもたらすことになろう」(IMFホーム・ページ)。
つまり、今回のIMFの予測(とくに2013年における成長率の回復)は、米欧による積極政策(成長志向の)がとられるとの前提付きなのだ。
私の結論を言えば、米欧とも年内にそうした政策をとる見通しはない。したがって景気下降は2013年にも進み、この年の成長率についてのIMF予測値は達成されないと予想する。
今回の景気後退をリードしたヨーロッパ、より具体的にはユーロ圏諸国は、これまでの景気刺激策によって累積した財政赤字を減らす緊縮政策を他の国々に先駆けて実行し始めたのであり、その中でとくに財政悪化が著しかったギリシャなどが極めてきびしい財政緊縮を迫られたのである。その意味で、ユーロ圏の危機は基本的には財政悪化がもたらした結果であり、必ずしも“ユーロの危機”を意味しない。すなわち、ユーロ圏諸国は米英日などの域外諸国とは違って、ハッキリと脱ケインズ政策あるいはケインズ主義克服の政策を目指しているのである。これらの国々が、そのような財政健全化政策を安易に断念することはないであろう。それは、政策理念に関わる問題なのだ。
これに対して米国は、いまのオバマ政権に至るまでは、大筋ではケインズ主義的な政策をとってきており、その結果として財政赤字は拡大し、政府債務が累積してきた。しかし、オバマ政権はいまや野党共和党の「小さな政府」志向と財政赤字の積極削減の主張を考慮せざるをえなくなっている。とくに、2010年の中間選挙で共和党が下院で過半数を制して以降、同党の圧力は一層強くなっている。
来る11月の大統領選挙で仮にオバマ大統領が再選されても、同時に行われる上下院選挙の結果によっては、現状のような“ねじれ現象”(上下両院の、あるいは政府と議会の)が続く可能性がある。そのような状況下で、今年中に米国の政策(具体的には財政政策)がより成長指向的になるとは考えにくい。まして、共和党のロムニー候補が大統領に当選した場合には健全財政志向はより明確になるだろう。
もちろん、米共和党の「小さな政府」志向の健全財政主義と、ユーロ圏の「福祉国家」を前提とする健全財政主義とは大きく異なるが、経済成長が減速しても簡単に財政による景気刺激策をとらない点では同じ効果を生む。
したがって、米欧が近く(2012年中にも)成長刺激的な政策をとるとのIMFの前提は極めて根拠が薄いものだ。日本は、財政悪化が進む中でも、2011.3.11の大震災からの復興という大義名分で、結果として景気を下支えしてきた。しかし、自国の財政悪化に加え、財政赤字削減についての最近の世界的な潮流の影響もあって、こんご世界的な景気下降が進む中で、簡単に財政による景気維持・刺激策を追加することは困難であろう。
その結果、米欧日とも、景気刺激策としては一層の金融緩和策に頼らざるをえなくなっている。しかし、金融をいくら緩和しても、それはなかなか実需の増加には結びつかない。加えて、過度の金融緩和はマネー過剰から投機やインフレを助長する。現に、新興諸国は先進諸国による超金融緩和に異議を唱えている。例えば東京でのIMF総会に出席中のブラジルのマンテガ財務相は10日、米国の連邦準備制度理事会が9月に決めた量的金融緩和の第3弾(QE3)について、「米国経済への効果は限られ、むしろ他国に悪影響をもたらす」と批判、「金融緩和に傾斜する日米欧当局をけん制した」(日経、11日)。
その新興諸国(中国、ブラジル、インドなど)や新工業国(韓国など)で景気悪化が進んでいる。今回のIMF見通しでも、12年と13年の実質経済成長率は、それぞれ、中国は7.8%(前回見通しより0.2ポイント引き下げ。以下同様)と8.2%(−0.2)、インドは4.9%(−1.3)と6.0%(−0.6)、ブラジルは1.5%(−1.0)と4.0%(−0.7)、ロシアは3.7%(−0.3)と3.8%(−0.1)となっている。
これら新興国はヨーロッパの景気後退の影響を直接あるいは間接に(例えば対欧輸出が減少した中国へのブラジルの資源輸出が減少するなど)受けており、上述のようにヨーロッパの景気回復がIMFの見込みのように進まないとすれば、13年の成長率もこのIMF見通しを下回ることになるだろう。
新興国や新工業国の最近の動向では、例えば中国の9月の新車販売台数(中国国内生産分、工場出荷ベース、商用車と輸出を含む)は前年同月比で1.8%減少した。販売減の原因について、中国汽車工業協会幹部は「景気減速で購入を控える動きが広がっている上、日本車の販売が急減したため」と指摘している(日経、11日)。ただし、「日本車の購入を検討していた顧客の約半分は購入を延期しており、他社に流れていない」と言われており、その意味で「日本製品の不買運動が景気に影を落としている(反日不買が景気の悪化に拍車をかけているー引用者の加筆)ー」(日経、同上)。
韓国では、成長の「けん引役だった輸出が減少基調に転じ、企業は設備投資を抑制し始めた。不動産価格の下落などを背景に消費など内需も不振で成長率見通しの下方修正が相次ぐ」(日経、12日)。韓国銀行(中央銀行)は11日に12年の実質成長率見通しを0.6ポイント引き下げて2.4%とし、政策金利を3ヵ月ぶりに0.25%引き下げた(同上)。
ブラジル中央銀行も10日に政策金利を0.25%引き下げて7.25%としたが、これは11年8月以降では10回目の引き下げで合計の引き下げ幅は5.25%に達する(日経、11日夕刊)。
これらはまさに景気下降を示す動き以外の何ものでもない。
以上のように、ヨーロッパを始点とするいわば財政緊縮不況は、すでに新興諸国や新工業国の多くに波及し、そのことが直接・間接に日本経済に影響を与えつつある。中国での反日不買運動などがそれに拍車をかけている(それは上述のように中国の景気にもはね返っている)。
ただし、米国経済は回復力が弱いながらも、失業率が9月に7.8%と8%を割って2009年1月以来の低水準となり、また同月の自動車販売高が119万台と前年同月を13%上回って過去4年での最高を記録するなど、まだ景気下降に入ったとは言えない状況である。また日本も、上述したように復興需要がけん引して、これまでのところでは景気下降を免れている。その意味で、景気下降はまだ全世界に及んだとは言えない。しかし、日米がどこまでそれを食い止め得るか、不透明である。
現に日本では、12日に前原経済財政相が関係閣僚会議で行った10月の月例経済報告で、景気の基調判断を「世界景気の減速等を背景として、このところ弱めの動きとなっている」とし、政府の景気判断から半年ぶりに「回復」の表現を外した(讀賣ほか、12日夕刊)。そして同大臣は記者会見で、「景気動向には極めて危機感を持っている」と強調している(日経、同)。
このように見ると、世界経済の「現在の成長減速にはもっと長期化する要因が含まれている」(上述したIMFの危惧)ことは明らかだ。それは、景気悪化に対して財政政策による需要拡大策を取れない(すくなくとも極めて取りにくい)という制約だ。これは第2次大戦後における資本主義諸国の経済政策の根本的な転換を意味する。ここから、景気政策として金融政策に一層頼ろうとする傾向が生まれている。しかし、そういう政策は効果が薄く、逆に弊害が多い。
では、従来の政策に代わり得るものはないのか。それはあると私は考える。それは、私がかねがね主張してきたように(当「診断録」2009年2月28日号、同3月2日号ほか)、新たに発行する紙幣(現在は日本銀行券の名称で発行されているが、実質は政府紙幣)を日銀の対市中金融機関の融資手段とするのではなく、政府の資金として直接に政府に引き渡し、政府支出に充てるという方法だ。これは、経済成長に伴って増やすべき貨幣量を政府が直接調達して支出するという考え方だ。もちろん、こうした貨幣量の増加は厳重に管理される必要があるが、その点は現在のマネーサプライが日銀の政策委員会によって管理されているのと同様に行えばよいのだ。
このような通貨発行方法の根本的な改革は、大きな法改正を必要とし、容易なことでは実現しないだろう。ただし、それに接近する便法(財政法第5条の特例を活用して現行法の枠内で行い得る)として、国債の日銀引受けがある。これは、日銀が現に行っている既発行の国債(民間金融機関が保有する)の買い上げを、民間の金融機関を経由せずに、直接に政府から行うこととして理解すればよい。この方法は、その都度国会の議決を必要とするから、その乱用を防ぐことは可能だ。
もっとも、このような便法でさえ容易には採用されないだろう。それが採用されるまでは、先進諸国はすべてを市場の調節に委ねるか、あるいは財政均衡化政策と景気(経済成長)政策の矛盾に苦しむしかないだろう。(終り)
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日銀の国債の買い上げについてですが,、政府から直接買い上げることと、民間金融機関が保有している国債を買い上げることにの効果の違いについて、いまひとつ理解できない部分があるので、いつか解説いただければと思います。よろしくお願いします。
2012/10/16(火) 午前 8:03 [ ねずみ ]