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衆院選公示(12月4日)後の6日、新聞・通信のマスコミ各社が、それぞれの世論調査をもとに、いっせいに選挙戦序盤の各党獲得議席の予想を報じ、そのいずれもが自民党が単独で過半数を制する勢いであると伝えた。6日朝刊各紙の見出しを列挙すると、朝日:「自民 単独過半数の勢い」、毎日:「自民 単独過半数の勢い」、読売:「自民 過半数越す勢い」、日経:「自民 過半数の勢い」とほぼ同じであり、産経は「自公 政権奪還の公算」としていたが、内容は自民の過半数越えを予想、また共同通信も「自民 単独過半数を確保」と報じた。
このように、マスコミ各社が同じ日に(公示日直後の4,5日に調査したとはいえ)、同じような内容の世論調査結果を発表するとはいささかうさん臭い。これは、公示日直前(11月29日〜12月3日)に各社が発表した「各党の比例選での投票率」や「政党支持率」に、社によってかなりの違いがあった(当「診断録」12月4日号参照)のと著しい対照をなす。上記のような各社類似の調査結果を見せられると、一面では、“各社は同一の情報源からそうした予想を得たのでは”と疑いたくなるが、他面では、たしかに現時点では自民党にそう思わせる勢いがあるようだ(最後まで持続するかどうかはとにかくとして)と認めざるを得ない。
この調査は、どの社もいつものようにRDD方式(無作為抽出の電話番号に電話して行う調査)により、10万人以上に電話して得た回答に、「全国総支局などの取材を加味して」(讀賣ほか各紙)出した予想だとしている。通常の世論調査では多くても数千人を対象に類似の世論調査を行っているマスコミ各社が、わずか2日間で10万人以上(日経は16万人)を対象に電話調査を行ったとは俄には信じがたい。しかし、確認のしようがないから、各社はいつもより多数の数の有権者(サンプル)を対象に調査したと認めておこう。
では、「記者の取材を加味」するとはどういうことなのか?だが、候補者の当落予想はそもそも「取材」で得られるものでは絶対にない。記者が有権者に総当たりで調べたとでもいうのなら「取材により」と言えるが、そんなことはできるわけがない。取材で予想結果を得られるというのなら、その「取材」過程を明らかにすべきだろう。
だが実は、この「取材を加味した」というマスコミの言い分は、まさに“語るに落ちた”と言うべきものだ。すなわち、各地駐在の記者はその地の「誰か」に取材して、つまりその「誰か」に教えてもらって、それにもとづく予想を本社に報告しているのに違いないのだ。そして、それぞれの土地には、そうしたことを得意とする「選挙通」あるいは「政治通」がいるものなのだ。
私も(遙か以前だが)新聞社の地方支局に2年余り勤務した経験があるが、出先の各社記者は独自の取材もするが、政治の予想とか、スポーツの予想(例えば高校野球の県予選の予想)などは、取材によって結論を得られるという性質のものではないので(自らがその道の専門家でない限り)、その道の権威者あるいは専門家と言われる人に意見を聞いて、それを参考に結論をまとめることも多く、しかもそうした権威者にはどの社も聞きに行くものなのだ。
以上は推定だが、しかしそう推定すると、「記者の取材を加味した」報道各社の予想が似たような結果になることも当然だと理解できる。
恐らくマスコミ各社は、地方記者の事情通への“聞き込み調査”(取材)をもとに小選挙区の予想を立て、併せて同様の「取材」からその地方の比例区選挙の予想を集めて、各社独自の世論調査による比例区予想に修正を加えたと推定できる。このように、「取材を加えた」各社の予想には、かなりの程度に“共通予想”の要素が加わっているのだから、各社の最終集計には類似の結果が出るのは当然だ。だが、それは真の「世論調査」の結果とは言えないものである。
それはとにかく、各地のそういう“選挙通”達は、おしなべて今の自民党の勢いは極めて強いと感じとっているのであろう。
ちなみに、6日発表の総選挙結果予想において、各党の獲得議席数を具体的に予想しているものをあげると、朝日は自民272,民主81,維新49、公明31,みんな18、未来14など、毎日は自民293,民主67,維新46,未来15などである。
他方で、「zakzak」(「夕刊フジ」の公式サイト)が4日に報じた政治評論家の小林吉弥氏の予想では、自民208,民主113,維新57,未来39,公明28,みんな18などで、維新、未来という第3極の伸びにより自民が喰われ、過半数には達しないという予想だ。とくにこの予想は未来の議席数を他の予測と違って多めに見ている点に特徴がある。「10年後の原発ゼロ」などの公約がアピールすると見ているからだ。
結局、現時点でほぼ確実に言えそうなことは、自民が大幅に増え(単独過半数に達する可能性も含め)、民主が半減(公示前議席230の)ないしそれ以下に落ち、維新が数十議席を得そうだということであろう。だが、自民がどこまで伸びるのか、民主がいまの劣勢をどこまで挽回できるのかなどはあくまで未知数だというべきだ。とくに6日発表の各社世論調査においても、「小選挙区で3割、比例区で2割が投票する候補者や政党を挙げていない」(讀賣)など不確定要素が大きいので、現時点でのマスコミ各社の獲得議席数予想を鵜呑みにできないのは当然だ。
安倍自民党総裁も6日の大阪での街頭演説で、「自民、公明の両党で大きな議席を取るような報道がされているが、これは違う。過半数にいくかどうかだ」と自陣営を引き締めている(msa産経ニュース、7日)。
それにしても、自民党が断然優勢で民主が大劣勢であるのはなぜか。大前提としては、民主党が過去3年余の政権担当時におけるマニフェスト違反や党分裂の失態を問われているのに対し、自民党にはそれへの最大の批判党としての有利さがあることは明らかだ。
しかし、有権者は単に過去の政党の実績を見て評価するだけではなく、それ以上に、次の選挙の結果によって何がどれだけ変わるのか、よくなるのか、を注目しているはずだ。
その点で、自民党は安倍総裁が「デフレからの脱却」を真っ向から叫んでいることが有権者にアピールしていると思われる。多くの国民が長引くデフレにウンザリしているだけに、安倍政策の結果が本当にどうなるかは措いても、とにかくその政策に期待を繋ぐのは当然と言える。それに、自民党総裁に選出後の、とくに解散後の安倍氏の発言を受けて、円高是正が進み、株価が上げに転じたことは、今後の動向はとにかくとして、たしかに自民党にとっては強い追い風になっていると思われる。
これに対して、野田首相・民主党代表の中心的なスローガンである「改革を前に進めるのか後戻りさせるのか、が問われている」は、ほとんどアピールする力を持っていない。野田氏とすれば、「社会保障と税の一体改革」の法案を成立させたことを実績として訴え、その継続を主張しているのだろうが、それはすでに「過去の実績」であり、未来に向けたアピールにはならない。またかなりの数の国民は、この一体改革法を端的に消費税増税法と受け取っており、それを受け入れるにしても、やむを得ないものと消極的に受けとめる人も多いのだ。それに、この法案は自民、公明両党との合意にもとづき3党共同で成立させたものであるので、政府与党がそれを実績として強調するのなら、その実績は自公両党のものでもあるわけで、なにも民主党だけのメリットにはならないのだ。
野田氏はまた、「30年代に原発ゼロ」達成と、再生エネルギーの開発を軸にした経済発展を強調しているが、どうもそれが民主党の本来的な、また本音での主張とは受け取りにくく、なんとなく付け焼き刃的な感じを与える。民主党が伝えられる劣勢を本気で建て直そうというのなら、デフレ対策を含め、もっと将来プランを具体的に作り上げて訴えるべきなのだ。
ところで、安倍自民党総裁は金融一辺倒のデフレ対策に加え、この頃は災害対策を含めた公共工事の大規模実行を強調しているが、いったいその財源をどうするのかといった、今日では基本的かつ難解な問題点に触れないのは驚きである。また、山口公明党代表までも「防災・減災対策のための公共工事はバラマキではない」と安倍自民党に悪のりする主張を絶叫している(NHKニュース、8日)。
この調子では、来たるべき“安倍自公連立政権”(それが実現すれば)は、金融の無制限緩和と膨張財政により、デフレ脱却の域を超えて、日本経済を本格的なインフレと「悪い円安」へ転落させることになりかねない。野田民主党は、こうした安倍自民党の“暴走政策”にも批判を集中すべきなのだ。
いま自民党に勢いをつけさせているもう一つの要素は、第3極とくに「維新の会」の失速である。維新失速の主因は、石原代表・橋下代表代行という二頭体制がもたらしている政策の混乱と、石原代表の「核武装も日本の選択肢だ」 とする超タカ派的な主張(「診断録」11月29日号参照)であろう。
尖閣問題を契機とする中国の反日攻勢(尖閣諸島への軍事的行動の可能性も含む)を目の当たりにして、日本国民の間には、問題の平和的解決を求める声と共に“強い日本”を求める意見も強まっており(そのことはある程度まで当然だと思うが)、維新はそういう意見に強く応える政治勢力として期待されてきたと言えるものの、さすがに石原核武装論はそうした多くの維新支持者を逃がしたようだ。
第3極といわれるもう一つの党「日本未来の党」は、マスコミの世論調査では支持率が低い。これは、同党が事実上は小沢一郎氏が率いる「国民の生活が第一」の衣替えに過ぎないと見られているからのようだ。
しかし、嘉田代表の下で脱原発(未来の党では卒原発と言っている)を真正面から打ち出している点(小沢「国民の生活」は反消費増税が眼目だった)、人口減対策を唱えている唯一の党である点で清新さがあり、批判政党に過ぎないとはいえ、そういう同党が有権者の反原発意識をどの程度に吸収するか、一つの注目点である。
いずれにせよ、自公政権の、しかも失敗を経験済みの安倍政権の復活が高い確率で予想されるだけに、こんどの選挙には白けた気分が伴うが、投票日までほかの各党にせいぜい勉強し、努力してもらいたいと思う。(終り)
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