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2月6日にトヨタ自動車が発表したところによると、同社の2009年3月期の業績見通しは、営業赤字が4500億円、純損益が3500億円の赤字となる見通しである。これは今期についての3度目の業績見通しの下方修正で、野村證券によると「4500億円の営業赤字は、調査が可能な1968年度の決算以降、金融機関を含めて国内最大」であり、純損失はトヨタとしては50年3月期以来のことである(朝日新聞、2月7日)。
このような自動車不況はまさに世に「100年に1度の危機」といわれる現在の大不況を象徴している。
アメリカでも、アメリカ産業の代表的存在であるGMなどの自動車メーカーが08年に倒産の危機に陥ったことは今次不況の象徴的事件である。09年に入ってもアメリカ国内での自動車販売台数の落ち込みは大きく、1月の販売台数の減少率は全体で40%近くであり、個別企業ではクライスラー55%、GM49%、フォード40%、トヨタ32%などであった。
その結果、1月のアメリカでの自動車販売台数は年率換算で26年ぶりに1000万台を割り込んだ。ちなみに、この販売台数は過去10年近くにわたって年約1700万台だったのである。これについてクライスラーのプレス副会長は、「このような販売台数はおそらく近い将来においては常態となろう」述べている(NYタイムズ、2月4日)。
この点で興味深いのは、日本の自動車産業研究の専門家である下川浩一も、「1700万台まで増えた北米の新車販売は、今年は1000万台以下に減るだろうし、将来も1300万台まで戻れば御の字」と語っていることだ(雑誌「選択」、09年2月号)。
アメリカの自動車産業が陥った不況がきわめてきびしいことについて、下川は「自動車は住宅と同じくローンで売る製品であり、いったん信用収縮が起きると個別のメーカーでは対応できなくなる」と述べているほか、アメリカの消費者が車に必要な資源やエネルギーなどの「費用を負担して、維持するだけの価値がないと思い始めた」という根本問題の存在を指摘している。事実とすればこのことはアメリカにとっての文明史的転換を意味する。
ところで、私たちがさらに考える必要があるのは、そのような大転換が起きる直接のきっかけとなった事実についてである。それは2004年から08年にかけての石油価格の急騰だ。NYでの原油(WTI)の先物相場は、04年には1バレル30ドル前後であったのが急ピッチで上昇を続け、08年には100ドルを突破、同年7月には147ドルの史上最高値を付けた。
これはまさに第3次石油危機であり、それは第1次石油危機(1973年〜)、第2次石油危機(1979年〜)を上まわる石油価格高騰であり、経済に対して大きな石油ショックを与えるはずのものであった。
ところが、どういうわけか、ジャーナリズムを含めて人びとの多くは当時これを第3次石油危機と呼ぶことを躊躇し、そのためか、そのような石油価格の暴騰が景気に与えるであろう悪い影響をほとんど無視した。昨年来のアメリカや日本の自動車メーカーの自動車販売についての見通しの誤りはここに発していると私は思う。
なぜ当時、人びとは石油価格高騰の衝撃を無視ないし軽視したのだろうか。私には不可解だが、おそらくそれは景気に対する過度の楽観論、あるいは景気後退を信じたくない心理にもとづいていたと思われる。
私は当時、第1次、第2次の石油危機の経験からも、第3次石油危機が世界的な景気後退をもたらすのは不可避だと考えていたのだが、そしてそれは常識的な判断であったが、日本の多くのエコノミストとマスコミは、むしろ景気上昇期間が新記録を作ること、いわゆる「いざなぎ越え」をすることへの期待をはやし立てていた。
今回の世界不況の厳しさの一つの大きな原因は、簡単化していうと、過剰流動性(カネ余り)にもとづいていた世界的な信用バブルが崩壊したことと、石油ショックの合成にあると私は思う。
すなわち、経済の全運動のいわば土台に位置する石油や原料の価格の異常な上昇(それ自体が信用バブルによって拍車をかけられていた)が、景気上昇の土台を掘り崩し、その結果として始まった景気下降が、経済の運動のいわば上部構造である信用(金融)の破綻によって拍車をかけられたのである。
そして、加速された景気下降がこんどは石油や原料の価格の急落を招き、不況を深刻化しているわけだ。昨2月6日のNY市場での原油価格(WTI先物3月物)は1バレル40ドルそこそこになった。まさに逆石油ショックである。昨年上期までは空前の繁栄を謳歌していた産油国や資源産出国がいまは厳しい不況に陥っているのもそのためである。
単純化していうと、石油価格の暴騰→石油ショック→景気後退→逆石油ショックという過程は、発端が与えられるとおのずから進行する経済のいわば自律的運動である。そして景気変動にこのような要因が加わったのは、まさに20世紀後半の第1次石油危機以来のことである。
ところが現在でも、世界不況のこのような構造・条件が必ずしも世間では認識されていない。私は2月4日に「2009年 日本経済の展望と課題」と題する著名エコノミストの講演を聴いたが、彼の基本認識は、簡単化すると、クレジットバブルとその崩壊があり、その影響で実体経済が不況に陥った、という図式になる。
つまり、実体経済(非金融部門)は主として金融危機の影響で不況に陥ったという理解であり、石油ショックのことは視野に入っていない。だから、クレジットバブルの過程と現状についての考察は詳細であるが、経済・景気の全運動のメカニズムは明らかにされ得ない。
これと似たようなことは、大規模な景気対策の必要性を力説している人びとの多くにも見られる。すなわち、そうした人たちの主張は、簡単にいえば、大不況だから大規模な景気対策が必要だ、というものだ。そこには現在の不況の特徴についての考察が欠けているものが多い。
それに比べると、全貌は未知数だが、オバマ米大統領が打ち出した景気対策における「グリーン・ニューディール」という主張には現代的な響きがある。
以上、要するに、現在自動車産業が陥っている世界的な大不況は、今回の世界不況の(すくなくとも産業、消費面での)象徴であり、そこには石油危機の繰り返しの発生とその激化に示されるような、20世紀後半以来の世界政治・経済・環境の構造変化が色濃く投影している、ということである。
もちろん、いまの世界大不況を特徴付けるものは以上でつきるものではないが、それらの点の考察は次回以降に回したい。 (この項、終り)
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