文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

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 前回の当「診断録」:「欧州財政危機は新段階へ」(12月5日号)は、私が読者から個別に直接聞いた意見ではかなり難解だったようであり、とくに危機に陥ったユーロ圏の国(今回はアイルランド)への援助資金の内容(援助の主体と資金の構成)がわかりにくかったようである。そこで今回は、前回の「診断録」のいわば続編あるいは補遺として、標記の点を中心に解説を行うこととした。
 この問題を理解する鍵はEU(欧州連合、構成国は27)とユーロ圏(EU構成国のうちの16ヵ国)の関係、あるいはEUとユーロ(共通通貨)の関係を頭に入れることである。
 
 まず認識すべきことは、ユーロとは「EUの通貨」である、ということだ。すなわち、本来は(あるいは終局的には)EUの全加盟国が自国の通貨としてユーロを導入(それまでの自国の独自通貨を廃止して)すべきものだが、すべての国が一斉にそれを導入する条件を整えてはいないので、条件が整った国から順次導入することにしているのであり、その結果、現時点ではEU加盟国のうちの16ヵ国がユーロ導入の国になっているのである(これに加え2011年年初にはエストニアがユーロを導入することが決まっている)。
 この点は、「欧州連合条約」(EU条約)が「連合はユーロを通貨とする経済・通貨同盟を設立する」(第3条の四)と明記している点を見れば明瞭となろう。
 そしてユーロに関する具体的なことは、「欧州連合の運営方法に関する条約」(略称:EU運営条約)の第Ⅷ編「経済・通貨政策」の中に規定されている。ちなみに、このEU条約とEU運営条約は合わせて通称リスボン条約(2007年12月調印)、両条約はその「二条約」(公式名称)とよばれる(注)。
 
 (注)リスボン条約の二条約は、欧州石炭鉄鋼共同体(ECSC、1952年発足)、欧州経済共同体(EEC、58年発足)に始まる欧州統合の各段階の諸条約の改訂版である。簡単化すると、欧州統合は ECSC→EEC→EC(欧州共同体)→EUと発展してきた。
 ECSC、EECの原加盟国は仏独伊とベネルックス3国(BENELUX、ベルギー、オランダ、ルクセンブルグ)の6ヵ国で、それがいまはEU27ヵ国に拡大・発展したわけだ。
 
 EU加盟国でユーロを未導入の国は、EU運営条約上ではユーロ採用の必要要件を満たしていない「例外規則適用加盟国」(第139条)(小林勝訳 『リスボン条約』、お茶の水書房、2009年)と呼ばれる。
  これらの国がユーロを導入していないのは、①物価上昇率の引き下げや財政内容の改善などEU運営条約に定めるユーロ導入の前提条件が充たされていないか、②デンマーク(200年)とスウェーデン(03年)のように国民投票でユーロ導入を否決されたか、③英国のようにいったん実施を決めた国民投票(06年。このときはEU憲法条約ーこれは結局流産ーの賛否についてが中心問題だったが)を見送ったまま、といった事情による。
 こうしてユーロ未導入のEU加盟国があるので、EU加盟国とユーロ導入国に違いが生じているのである。
 
  その結果、ユーロに関する問題の最終的な決定権はEUにあるが、ユーロ圏の問題はまずユーロ導入国だけで方針を決めることになっている。
 すなわち、ユーロ圏の問題は、まず「ユーロ圏諸国の財務相会合」で方針を決め、「EUの経済・財政理事会(EU財務相会議)」(これは、ユーロ圏の問題を扱う場合は形式のみ)を経て、「欧州理事会(EU首脳会議)」で最終承認を得ることになる。
 こうしたユーロ圏とEUの違いは、ユーロ導入国のソブリン危機(国債返済についての不安の発生)に対してのEUとユーロ圏諸国の援助の仕方にも相違をもたらしている。
 この点を、EUとIMF(国際通貨基金)が、10年春のギリシャのソブリン危機に対する資金援助を決めた後の5月に、その後にも起こり得るユーロ導入国の類似の危機に備えるために創設した総額7500億ユーロの「救済資金」(有効期限は2013年6月末)について見てみよう。
 
 この7500億ユーロの資金は次の三つの部分から成り立っている。①ユーロ圏各国による二国間(各援助国と被援助国)の相互援助を組織する「欧州金融安定ファシリティ」(European financial stability facility、EFSF)による4400億ユーロ、②EUが調達した資金を被援助国に供給する「欧州金融安定メカニズム」(Europian financial stability mechanism、EFSM)による600億ユーロ、③IMFの信用供与の2500億ユーロ、以上である。
 すなわち、EUの内部から4400億ユーロ(EFSF)及び600億ユーロ(EFSM)の計5000億ユーロが用意されるわけだが、前者はユーロ圏内部の相互援助による資金、後者はEUの機関としての援助資金という違いがある。 具体的には、①の「安定ファシリティ」の場合は、EFSFがユーロ各国の資本市場で、各国の分担比率(欧州中央銀行への出資の比率による)に応じた額の資金を債券(資本市場所在国の政府保証で)のかたちで調達し、それを被援助国に貸し付ける。つまりユーロ圏各国からユーロ圏被援助国への二国間援助である。
 これに対し、②の「安定メカニズム」の場合には、EU委員会(EUの執行機関。政府に当たる)がEU域内の資本市場で債券を発行して資金を調達し、それを被援助国に貸し付けるのである。
 
 去る11月末にEUが決定したアイルランドに対する850億ユーロの資金供与は、上記の総額7500億ユーロの「救済資金」からの初めての資金供与であるが、それは次のような部分から構成される。 
 ①4400億ユーロの相互援助枠の「安定ファシリティ」(EFSF)から177億ユーロ、②600億ユーロのEUの「安定メカニズム」(EFSM)から225億ユーロ、③英国(38億)、スウェーデン(6億)、デンマーク(4億)から計48億ユーロ 、④IMFから225億ユーロ、⑤アイルランド自身の政府年金基金などの活用で175億ユーロである(日経、12月7日夕刊)。
 つまり、EU加盟国から上記の①、②、③の合計で450億ユーロが調達されるわけだ。なお、③の48億ユーロの部分は、今回の特別措置のもよう。
 
 この7500億ユーロの救済資金について、ユーロ圏内部には、こんごユーロ圏のより大きな国(ポルトガルやスペインなど)に起こり得る危機に備え、さらに増額すべきだとの意見が出ていたが、12月6日のユーロ圏財務相会合ではそうした増額は不要との意見で一致した(日経、同上)。
 この点は、前回の「診断録」で述べたように、今回のアイルランド援助では、総資金枠7500億ユーロ(2013年6月末まで有効)のうち目下のところ850億ユーロ(11.3%)を使っただけであるし、まだ現実には起きていない(深刻化していない)問題に対して、すでに用意した備えでは不十分だなどと簡単に言えるものではない。
 
 そもそも、これも前回述べたことだが、一国が他の国の財政危機に対して資金援助によって救済するようなことはできるものではない。そんなことをしたら、両方の国が共倒れになる恐れがある。この点は、共通通貨ユーロを生み出したEUの場合にしても同様だ。だからこそ、EUは危機を未然に防ぐために、財政についての節度の遵守(財政赤字をGDPの3%以下に抑える)などのルールをユーロ導入国に課しているのだ。
 念のために引用しておくと、EU運営条約第125条は次のように定めている。「加盟国は、他の加盟国の中央政府、地方もしくは地域の領域団体または公法上の団体、その他の公法上の組織または公的企業の債務を保証せず、かつまたその種の債務を引き受けない。ただしこれは、特定の企画の共同実施のための相互の金融的保証を妨げない」と(小林勝、同上)。
 
 つまり、「特定の企画の共同実施のための相互の金融的保証」以外には、EU加盟国は他の加盟国の債務を引き受けたり、債務保証をすることはできないのだ。EUとIMFによる7500億円の救済資金のうちのユーロ圏諸国による分担分である「欧州金融安定ファシリティ」(EFSF、4400億円)はまさに上記のような要件を満たしたものだ。
 ギリシャ危機に際して、当初ドイツがギリシャへの援助供与に慎重だったのは、こうしたEUの条約上の制約を重視したからだった。すなわち、1988年にドイツ政府がユーロの導入を決めた際、ドイツ憲法裁判所は、①ユーロ導入国が財政赤字と政府負債額についてのユーロ圏のルールと②加盟国間の資金援助を禁じた上述のEUの条約を厳格に遵守することを条件としてそれ(ユーロ導入)を認めたのである(当「診断録」10年3月22日号参照)。
 だからドイツは、当初はギリシャ危機に対しては国際機関であるIMFによる援助を利用すべきだと主張(フランスははじめそれに反対)したのだった。
 
 なお、11月末のEU首脳会議は、アイルランドへの援助決定とともに、現行の7500億ユーロの救済資金の期限が切れる2013年7月以降における新たな危機対策として、いわゆる欧州版IMF(欧州安定メカニズム、ESM)の設立で合意したが、これはIMFになぞらえられるように国際機関による援助であるから、現行のEUによる援助体制である「欧州金融安定メカニズム」(EFSM)の後継機関だと言える。それは、現行のユーロ圏各国による二国間相互援助の体制である「欧州金融安定ファシリティ」(EFSF)とは性格を異にしている点を理解しておく必要があろう。 (この項 終り)

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