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菅直人首相、岡田克也幹事長ら民主党執行部は、小沢一郎元代表から「衆院政治倫理審査会への出席」の回答を引き出した(12月28日)ことで、「政治とカネ」の問題について小沢氏の国会での説明を求める世論に多少とも応える姿勢を示し得たし、また“対小沢のたたかい”において優位に立ったようだ。
ただし、野党は小沢氏の政倫審出席ではなく証人喚問を要求し、併せて仙石由人官房長官と馬淵澄夫国交相(いずれも11月下旬に参院で問責決議を受けている)の辞任を要求、それらを新年の通常国会審議の条件としているので、小沢氏の政倫審出席で菅政権に通常国会乗りきりの目算が立ったとはまだ言えない。 しかし、菅首相は次に内閣改造を行う中で“仙谷外し”を実現し、さらに小沢氏を離党に追い込むことで「小沢喚問」への野党の要求を切り抜けようとしているようだ。要するに、菅首相は野党の要求に次々と応ずることで「ねじれ国会」下の政治状況を乗り切り、政権維持を図ろうとしているわけだ。菅首相にとっては、もはや民主党(連立)内閣としての特徴を維持・発揮することは大切ではなくなってきている。 それにしても、検察審査会が小沢氏について「起訴相当」の結論を下して(10月14日)以来、政倫審への出席を拒否し続けてきた小沢氏が、ここへ来て突然にそれに応ずる考え(出席にあたっての条件をつけているが)を表明したことは驚きである。そのことは、民主党役員会(12月27日)が小沢氏の政倫審への出席を同審査会で議決する方針を決定し、さらに、小沢氏がこの党決定に従わない場合には同氏への離党勧告も辞さないと菅首相が強硬姿勢を示したことへの小沢氏の屈服と見えるからだ。
これまでは、菅政権による“小沢追い落とし”や“小沢切り”への小沢氏の対抗カードは、小沢派議員多数を引き連れての離党、それによる民主党の分裂と政界再編成という脅しであった。ところが、今や小沢氏はこの切り札を無くしてしまったようだ。それは、小沢氏自身が起訴される立場に立ったことと、皮肉にも菅政権と民主党への世論の支持率が激落しているからだ。 実際、尖閣諸島沖事件(9月)の後あたりから各種世論調査における内閣支持率が急速に低下し、政党支持率でも民主党が自民党に逆転される(11月)ようになった。そうした傾向を裏付けるように、7月の参院選で民主党が敗北したあとも、衆院北海道5区補選(10月)、福岡市長選(11月)、茨城県議選(12月)、西東京市議選(同)などで、民主党はほぼ連戦連敗している。
このように民主党全体が不人気の状況下では、もし小沢派が民主党を割って出た場合には同派議員の次期選挙での当選は極めて困難だと考えざるを得ない。その上、民主党を割ってつくる新党の党首として、間もなく起訴される小沢氏を担ぐわけにはいくまい。かといって小沢氏に代わって新党の“顔”となり得るようなリーダーは小沢派内に見当たらないのである。 そういう状況だから、小沢派としてはいま前途に成算を持って離党することはできないのだ。 つまり、菅内閣と民主党が不人気で世論の支持率を低下させているために、菅首相は自らに対する強力な党内反対派に対して優位に立ったというわけだ。それは、菅首相と小沢氏そして民主党がいわば“揃って堕ちて行っている”構図である。
だから、最近の小沢氏は、菅首相に対する批判を強めているけれども、その際、いつも「党の一致協力」の必要を唱えているのである。そのことは、自ら党を割る意思を持たないということの表明であるとともに、小沢氏を追い出そうとしている菅首相派(民主党主流派)に対する牽制であろう。 もっとも、民主党が不人気となった責任をすべて小沢氏の資金問題のせいにする主流派の幹部もいる。例えば、西東京市議選で民主党が惨敗(7人が立候補して、現有の議席の5を下回る3議席を得たのみ)した翌28日、選挙指揮の責任者である渡辺周民主党選挙対策委員長は党の役員会で、敗因について「政治とカネの問題が原因だ」と指摘している(日経、28日)。これなど、小沢切りで菅内閣と民主党への支持率が回復するという全くの幻想にもとづくものだ。 しかし、とにかく菅首相は最大の政敵である小沢氏に対して優位に立ち、また、警戒していた当面の民主党分裂の危機は遠ざかった。その意味で、菅首相は“ひと山”を越えたと言えるだろう。さらに、こんご小沢氏が起訴された時点で同氏に離党勧告をし、他方では近く行う内閣改造で仙谷外しをして、通常国会で野党を審議に引き入れる条件を整えようとしている。
仙谷外しについては、仙谷氏が菅内閣の要だっただけに、菅首相もそれには踏み切れないのではないかとの観測もあるが、菅氏は政権維持のためには何でもするだろうし、また「通常国会までに強力な体制を作りたい」(讀賣、29日)と言明していることもその決意を宣明したに等しい。なぜなら、野党に問責された官房長官を抱えていかなければならないような内閣は「強力な体制」とは言えないからだ。 こうして菅首相は、ねじれ国会の条件下で、野党の要求を最大限に聞き入れることで政権を維持しようとしているのである。野党が要求している解散・総選挙のようなリスクは絶対に避けようとするだろう。
そこで、通常国会での最大の審議事項である2011年度予算案についても、野党おそらくは主として自民党の要求を相当程度に受け入れるだろう。それによって、予算とその執行に必要な予算関連法案を成立させようとするわけだ。だが、その結果、政治状況は事実上で民主・自民の大連立に近くなり、菅内閣の民主党政権としての特徴(独自性)はますます薄れていかざるを得ないだろう。 菅首相としては、小沢切りと仙谷外し、それと11年度予算の成立などによって、4月の統一選挙での劣勢(現時点での予想)を挽回し、さらには内閣支持率の向上を図るという目算だと思われる。しかし、肝心要(かんじんかなめ)なのは菅首相自身の政策構想力と指導力の無さである。そうした点で、菅氏が“変身”でもしない限り国民の支持を回復することは困難だ。 では菅内閣は、世論調査での内閣支持率と民主党への支持率の低迷に耐えながら、2013年の総選挙まで存続するのだろうか。それは不可能だろう。なぜなら、次の総選挙が次第に近づいてくるにつれて、内閣支持率と党支持率の低迷している状況は民主党議員にとって耐え難いものになってくるはずだからだ。そうなると、民主党内の新しい反対派(現小沢派を含むかも知れない)が“菅降ろし”に動くことは必至だといってよい。
それよりは小さい可能性としてだが、現小沢派(及び鳩山派の一部?)の議員たちが、比較的近い時期に他党の有力議員(将来の首相候補の一人にあげられているような)と組んで新党を結成し、それを契機に政界再編成が進むこともありえるだろう。 いずれにせよ、ひと山を越えたとはいえ、菅首相にはこんごもいくつもの難題が待ち受けている。 (この項 終り) |
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2010年12月31日
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