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昨年末のことだが、「msn産経ニュース」(12月31日)に、「自民が安保改訂を検討 双務的な日米同盟へ 在日米軍基地の提供義務は削除の方向」という衝撃的な見出しの記事が掲載された。自民党の「政権復帰後に安保条約改定を米国に提起する方針を固めた」と「複数の党関係者が30日までに明らかにした」という。
この見出しで注意を引いたのは、いうまでもなく「在日米軍基地の提供義務は削除」という点である。“遂に自民党も米軍基地の解消に乗り出す決意を固めたのか”と思ったのは一瞬のこと、本文を読むと、米軍基地については「別途定める駐留協定に根拠を求める」ということなのだ。つまり、米軍基地提供の条項を条約本文から外すが、別途の協定でそれを定めるということなのである。要するに、これは安保条約上からの“米軍基地提供義務隠し”らしい。さらに驚いたのは、この安保改訂により、日本を太平洋を舞台とする本当の軍事同盟に引き入れようとしていることである。 この安保改定案では、日本の集団的自衛権の行使を前提に、「日米双方が太平洋地域で共同防衛義務を負う」ということになる。すなわち、現行条約では、日米両国は「日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め……共通の危険に対処するように行動することを宣言する」(第5条)と定め、日米両国の共同行動を「日本国の施政権下の領域」での武力攻撃への対処に限定しているのに対し、改定案では、その範囲を太平洋地域の「日米双方の領土に加え、『管轄下にある諸島』や域内の部隊、艦船、航空機に対する攻撃 も 共同防衛の対象とした」(上記産経ニュース)とのことだ。
もしそうなると、太平洋のハワイ、ミッドウエー、グアムなどの米国領のほか、米国保護領である北マリアナ諸島(サイパン島が中心)や、かたちは独立国だが安全保障上の権限は米国が保持しているミクロネシア連邦(カロリン諸島)やパラオなどの諸島で起きた米国への武力攻撃、あるいは太平洋で行動中の米国の空母や潜水艦への攻撃に対しても、日本の自衛隊は米軍と共同で出動することになるわけだ。 この新しい軍事義務は、いうまでもなく日本国防衛の行動、すなわち本来の自衛ではなく、米国領及びその「管轄下の諸島」を防衛する行動(米国と共同の)である。
自民党がなぜこのように日米の共同軍事行動の範囲を拡大しようとしているのかというと、それは「相互防衛義務を負わない代償に基地提供義務を負う現行の日米安全保障条約の片務性を解消するため」(同上)だという。ここで、このような現行条約における日米両国の“ギブ・アンド・テイク”の関係を図式化すると、「日本による基地の提供=日本のギブ=米国のテイク」と「米国による日本防衛の義務=米国のギブ=日本のテイク」とが釣り合うかたちになっている。すなわち、これは本来の「同盟」ではなく、「日米両国による日本国共同防衛の条約」である。 しかし、近年、日米両国政府はこのような安保条約をなし崩しに「日米同盟」であると称する(詐称)ようになっている(当「診断録」12月13日号参照)。これは、現行安保条約がすでに対等の二国間の軍事同盟であるかのように日本国民に思いこませながら、日本の軍事行動の範囲を日本防衛という限定されたものから、日本国外の広い範囲に拡大させようとする(自衛隊はすでにイラクへも派遣された)日米両国政府(日本の菅直人民主党政権を含む)の意図に発するものにほかならない。 伝えられる自民党の今回の安保条約改定案は、条約の改定無しに現に進行しているこのような事態(それは現行安保条約の違反である)を、条約改定によって合法化しようとするものである。
自民党はこうした自衛隊の国外行動を合法化するために、「個別自衛権」(自国を防衛する権利)だけではなく、「集団自衛権」(特別な関係にある他国への攻撃に対しても武力行使で対処する権利)も日本国憲法に抵触しないという解釈を明確化し(日本政府は従来はこれを違憲であるとしてきた)、そのことを法制化しようと企図している。 そのことに向け、すでに自民党は昨年の参院選に際してのマニフェストで、「集団的自衛権行使を可能とし、安保条約の実効性を強化するために『安全保障基本法の制定』を明記」した。また石破茂自民党政調会長は、平成18年12月に「党国防部会防衛政策検討小委員会委員長として基本法の私案を策定。この中で集団的自衛権行使の条件を『わが国と密接な関係にある他国に対する急迫不正の武力攻撃が発生した場合』と規定」している(同上)。 このように、もし次の総選挙で自民党政権(連立政権を含む)ができた場合には、日本は正真正銘の「日米軍事同盟」に引きずり込まれ、いったんことが起きた場合には、太平洋という広い範囲内で(中国の近海で行動している米国艦船への攻撃が発生した場合にも)、米軍に協力して軍事行動をできるようになる(また行う義務を負う)のだ。
こうした軍事行動は、憲法第9条を持ち出すまでもなく、敗戦後の日本再建に際しての立国の基本精神に反するものだ。それだけではない。自民党案によるこうした安保改正では、現行条約における“ギブ・アンド・テイク”の関係にも大きな変化がもたらされる。なぜなら、日米は太平洋地域の「日米双方の領土に加え、『管轄下にある諸島』や域内の部隊、艦船、航空機に対する攻撃 も 共同防衛の対象」(上述)とすることにより、相互に“ギブ・アンド・テイク”の関係に立つことになるわけだが、その上に、従来からの「米軍基地提供の義務」という日本の“ギブ”がそのまま残るので、これが完全な不平等条約になるからだ。 念のために付け加えるが、私は現行安保条約における日米関係、すなわち「日本による基地の提供=日本のギブ=米国のテイク」と「米国による日本防衛の義務=米国のギブ=日本のテイク」とが釣り合っている関係をそのまま良しとするものではない。上記の「診断録」(12月13日号)でも述べたが、私は日本は自力で自国を防衛すべきだと考えている。それは独立国として当然に担うべき権利であり、また義務である。それに対し、現在のように、自国防衛の重要な部分を外国の軍事力に依存し、自国内に外国軍の駐留を認めている状態は、真の独立国家の姿ではない。 もちろん、いますぐ米国による軍事支援をなくせるとは私は思わないが、その方向を政府も国民もしっかりと持って日米関係(のみならず対外関係全体)を再構築していくべきなのである。 本当に日本自身が自衛(文字通り)する覚悟で進むとすれば、現在はまだ自国を守りきれない国でありながら、日本の領域外の太平洋地域において(他国との同盟の下で)軍事行動を起こすなどといった無謀・無理を考えることはできないはずだ。
そうした冒険主義的な軍事行動を(自民党が立案しようとしているように)軽々に容認するつもりになるのは、実は、自衛隊を米軍の指揮下で(傘の下で)行動する軍隊、すなわち米軍の従属軍と見なしている証拠である。 ここに、まさに自民党の体質と本音が現れている。要するに自民党は、米国に従って日本の国際関係を律していこうとする“従米主義”の保守政党なのだ。だから、私は大部分の自民党の政治家たちが言う“愛国”とは偽物だと思っている。 こうした点で、保守的な、あるいは右派的な論客の場合も自民党の政治家たちと大差はない。1月3日付の産経新聞は第3,4面全部(広告を除く)を使い、「目覚めよ日本 中禍を見抜け」(中禍とは中国がもたらす禍という意味で使われている−引用者注)との大見出しで、櫻井よしこ(評論家)、渡辺利夫(拓殖大学学長)両氏の対談を掲載していたが、そこでの発言に上記のような主張の特徴が端的に表れている。
桜井氏は対談の冒頭で、日本の「何が根本的問題でしょうか」という司会者の質問に対して、「普通の国家が備えている要件、外交力と軍事力を、戦後の日本が失ってしまったことに尽きる」と答えている(この点に関しては私に異存はない)。ところが、そうした自前の外交力・軍事力をどう回復するのかについてはなにごとも具体的なことを語らずに、「端的に言えば憲法9条では国を守ることはできない」として、憲法批判に熱を上げている。そして、結局は渡辺氏が言う「日米同盟がしっかりすることによって初めて日本がアジアに向けて凜たる国家であるということができる」という言葉に同調しているのだ。要するに、この両氏は従米・疑似国家主義とでも言うべき奇妙な立場(戦前の右派の論客にはあり得なかった)なのである。 それはとにかくとして、伝えられるような安保条約改定案を自民党が提起することは、同党の正体と日米安保体制の問題点を明らかにすることに役立つので、その意味ではむしろ歓迎すべき動きかも知れない。 (この項 終り)
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