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菅直人首相は1月14日に首相就任後2回目の内閣改造を行い、新内閣が発足した。この内閣改造が、参議院で問責決議を受けた仙石由人官房長官と馬淵澄夫国交相、及びかねて野党や一部マスコミから過去の政治経歴(かつて慰安婦問題に関し韓国で日本大使館に対して行われたデモに参加した)を批判されてきた岡崎トミ子少子化相兼国家公安委員長の3閣僚を更迭することを中心としたものであることは明らかだ。菅首相は、その後任として枝野幸男官房長官(前民主党幹事長代理)らを決めるとともに、新任閣僚の一人に「たちあがれ日本」共同代表の与謝野馨氏(14日に「たちあがれ日本」を離党)を経済財政相として入閣させるという意表に出る人選を行った。
与謝野氏の菅内閣への参加については、「民主党内には、従来の言動と整合性がとれるのかとの反発が強い」(讀賣、15日社説)し、自民党も同様いなそれ以上に反発している。産経は「『驚く』より『節操がない』との印象が先に立つ」(15日)と書いた。 だが、端的に言って、これは与謝野氏が民主党寄りに鞍替えしたというよりは、菅民主党が与謝野ラインにすり寄り、かつ与謝野氏の政策構想力に依存することにしたものと見るのが妥当だ。要するに菅内閣は一種の“菅・与謝野連立内閣”に変質したのではないか。 その結果、日本の保守層の菅内閣評価は劇的に変った。そのことを端的に示すのは讀賣の社説(上記)だ。それは次のように言う。
すなわち、今回の内閣改造は2閣僚に対する参院の問責決議に応ずると同時に、「首相が『政治生命』をかけると言明した消費税を含む税制と社会保障制度の一体改革や、環太平洋経済連携協定(TPP)への参加、日米同盟強化に取り組む体制を整えることだ」。与謝野氏の入閣には民主党内に反発が強いが、「首相は与謝野氏の能力と経験を買い、野党とのパイプ役を期待している」 。「与謝野氏には、社会保障問題での与野党協議実現など、具体的な成果を上げてもらいたい」。「前原外相と北沢防衛相を留任させたことは妥当な判断だ」。そして野党に対しては「民主党政権が今直面している課題は、いずれも自公政権から引き継がれてきたものだ。…与党とともに協議のテーブルにつき、難題解決の一翼を担うべきである」と要望している。 これは、菅改造内閣への全面支持の表明と言っても過言ではない。それは、菅政権が“保守化”したことへの支持であるとともに、この政権に政策構想力が欠けていたことへの不安感が、与謝野入閣によって相当に解消されたという安心感の表明であろう。 この政策構想力の欠如という点は、多くの国民が抱いていた不安感でもあるので、その点がカバーされるということで、同政権による「小沢切り」の明確化とともに、ある程度世論の支持を得る理由になるだろう。
現に、内閣改造直後のマスコミ各社の世論調査(いずれも14〜5日に実施、16日紙面)を見ると、讀賣では菅内閣支持率は34%で前回調査(昨年12月3〜5日)の25%から9ポイント上昇、政党支持率も民主党25%(前回調査では23%)、自民党22%(20%)とわずかながら回復した。ただし、与謝野氏の起用については、「評価する」は34%で、「評価しない」49%を下回っている。 毎日の調査では内閣支持率は29%で前回調査(12月)の 24%から5ポイント上昇、政党支持率は民主党20%(前回より1ポイント低下)、自民党21%(3ポイント上昇)と、毎日調査では09年9月の政権交代以後では初めて両党の支持率が逆転した。 日経調査では内閣支持率は31%(前回は26%)で5ポイント上昇、政党支持率は民主25%(4ポイント低下)、自民28%(変わらず)で、毎日同様に初めて民自逆転となった。 結局菅政権は、①小沢切りの徹底、②野党とマスコミに不評だった仙谷氏の更迭、③今月下旬からの通常国会の“正常化”(野党の審議拒否の解消)、④世論調査における支持率の回復など、内閣にとっての当面のマイナス要素を取り除き、最悪の状態からはとりあえず脱出したわけだ。また、讀賣などのマスコミによる菅改造内閣への支援は、往々にしてマスコミの論調が世論調査に影響を与えるものであるだけに、菅政権へは追い風となり得る。
しかし、それらは野党やマスコミによる菅政権への批判に屈することを代償としてあがなわれたもの、言いかえれば民主党らしさの喪失を意味しており、旧来からの民主党支持層の離反を招く原因にもなり得る。そのことは民主党への支持率が讀賣調査以外ではむしろ低下している点に現れていると見ることが出来る。 また、今回の内閣改造に当たっては、「小沢切り」の一環で小沢派からの入閣者は皆無であったために、小沢派の反菅主流派の感情は強まったようだ。 さて、菅内閣改造の後、政治とくに政局(内閣の倒壊や議会解散をもたらすような政界の激変を意味する政界の特殊用語)はどう展開するのだろうか。
まず議会解散の可能性だが、自民党をはじめとする野党はこれを熱望しているが、その見込みはないと思う。今あるいは近い時点で解散・総選挙を行えば民主党が大敗を喫することは必定で、そのような“自殺行為”を民主党(主流派、反主流派を問わず)が選ぶわけがない。また、民主党が衆議院で悠々と過半数を制している現状で、野党が政府を議会解散に追い込む(それは通常は衆院で内閣不信任案を可決することにより実現する)ことは、民主党内の反乱がない限り、不可能だ。 したがって当面の政局の焦点は、民主党内での“菅首相降ろし ”が表面化するかどうかにかかっている。その点、さし当たっての時期(およそ今年上期)については私は否定的だ。 上述したように、小沢派の不満、菅主流派への反発は強い。この点は今回の内閣改造直前の12日に行われた民主党の両院議員総会、13日の党大会での反小沢派議員たちあるいは地方代表の発言を見ても明らかだし、そうした傾向は内閣改造を経て強まっている可能性が大きい。
しかし、肝腎の小沢氏のこのところの発言(とくに政倫審への出席の可否をめぐる)が明確さ、精彩を欠いており、そうしたことの結果として同氏の小沢派内での求心力が弱まっているように見える。また検察審査会による小沢氏の起訴決定とこんごにおける実際の起訴(1月中と予想されている)についても、すでに検察庁が小沢氏を不起訴とした後のことだけに、こんごの裁判では無罪となる可能性が大きいと予想されるから、「単なる起訴を理由に、離党まして議員辞職をする必要・根拠はない」と主張できるはずである。それにもかかわらず、そうした点での小沢氏の主張は甚だ弱い。 要するに、“小沢軍団”の戦闘力は明らかに衰えていると思われる。そのような力では派をあげての分党などはできるものではないだろう。 そうなると、菅降ろしの残る可能性は、従来の主流派内からのものだ。それは、端的に言えば前原誠司外相による政権奪取の動きである。
前原外相自身は、自らのそうした野心を隠そうとしていない。例えば同外相は1月早々に訪米、クリントン米国務長官と会談したが、「米政府筋も『前原氏が就任4ヵ月で4回も(クリントン長官と−引用者加筆)会談したのは、両氏に信頼関係があるからだ』と評価」しているという(讀賣、8日)。また産経(9日)によると、前原外相はこの訪米中に、ほかにドニロン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)、スタインバーク国務副長官、グレグソン国防次官補、バイデン副大統領、アーミテージ氏(ブッシュ政権での国務副長官)らと会談、「米側も、訪米した日本の閣僚への対応としては近来にない厚遇ぶり」だった。 これは「米側が前原氏を将来の首相候補の一人とみて日米関係の進展に期待している(日米関係筋)との見方もある」からだと産経(上記)は伝え、また読売(上記)も「前原氏は『日米関係立て直しのキーマン(米国務省筋)』とすら米側に映っている」と報じている。 前原外相の言動に関してもう一つ注目すべきは、北朝鮮と中国が最近の前原発言を歓迎したことだ。
まず、「朝鮮中央通信社は1月8日付の論評で、2008年8月から中断している日朝交渉に意欲を示した前原誠司外相の4日の発言について『時代の流れと国家間の関係発展に合致する肯定的な動き』と評価、さらに『日本当局が関係改善に大きな一歩を踏み出すなら、朝鮮半島と東アジアの平和の発展に寄与する』と指摘した」(朝日、11日)。 また、「中国の武大偉朝鮮半島問題特別代表は12日、北京市内で自民党の加藤紘一元幹事長らと会談し、日朝対話に意欲を示した前原誠司外相の発言を『非常に注目し歓迎している』と評価した(産経、13日)。 最近の国内政治面では、問責決議を受けても辞任を拒否していた仙谷官房長官(当時)について、仙谷氏も属するグループ「凌雲会」のリーダーである前原氏は11日に首相官邸で菅首相と会った際、「仙谷長官で突っ込めば国会は混乱する。結局は仙谷さんの首を差し出すことになり、さらに傷つく」と訴え、「同席していた仙谷氏は黙って聞いていた」と伝えられる(讀賣、15日)。また、前原氏の側近も仙谷氏に、「これ以上、菅さんの泥をかぶって悪者になる必要はない。あなたは将来の『前原首相』を支える重要な役割がある」と進言した(同上)。これで仙谷氏の腹が決まったとされる。
つまり、前原グループはハッキリと来たるべき“前原政権”を見据えて行動しており、菅首相と“心中”するつもりはないということである。ちなみに、日経の上記世論調査によると、「こんご日本の政治に影響力を発揮してほしい政治家」のトップは前原氏(15%)で、舛添要一氏(12%)、岡田克也氏(9%)、石原伸晃、石破茂、渡辺喜美各氏(いずれも8%)、菅直人氏(6%)を抑えている。 問題は前原グループがいつ動くかである。とにかく“前原政権”は民主党が衆院で多数を制している間に実現しなければならない。そして自らの政権で内閣支持率を引き上げ、来るべき総選挙(通常選挙、2013年8月)に勝たなければならないわけで、あまりゆっくりとはしていられないはずだ。
そうすると、問題は菅内閣が今後どの程度に実績をあげるか、それにより支持率をどれだけ回復するかにかかってくる。菅内閣支持率があまり上がらず、また4月の地方選挙で民主党が敗北するようだと、その時には前原グループは党と政府の“トップ交代”を目指して決起せざるを得ないと思われる。(この項 終り) |
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2011年01月16日
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