|
中国の2010年のGDP(国内総生産)は39兆7983億元(速報値)で、前年に対する増加率は実質で(at comparable prices 、同じ価格での意)10.3%だった(中国国家統計局、2011年1月20日発表)。
このGDPのドル換算値は6兆400億ドル(Chinadaily、1月21日)(注)であるのに対し、日本の10年の推定GDP(正式には2月14日に発表予定)は内閣府の試算によると5兆4023億ドル(asahi.com、1月20日)なので、中国の経済規模(GDP)は10年に日本を上回って世界第2位(1位はもちろん米国)となったことは確実だとマスコミで報じられている。 中国のGDPが10年に世界第2位となることは昨年8月には見通されていたことで(当「診断録」10年8月19日号参照)、実際には新しいことではないが、あらためてこの数字について考えると、以下のような重要な疑問が浮かび上がってくる。 (注)このドル換算値は、上記Chinadaily による6兆400億ドルのほか、日経の5兆8895億ドル(大和総研の試算による)、讀賣の5兆4000〜5000億ドル(推定根拠不明)、朝日の5兆4023億ドル(上記)といろいろであり、このこと自体、それぞれの国の通貨表示による金額を統一通貨(この場合はドル)で国際比較することの難しさを示している。
すなわち、中国のGDPが仮に10年に日本のそれを上回ったのだとしても、いまのところはそれは日本とほぼ同じ規模、あるいはほんの少し上回った規模だということになる。それでは、その中国で10年の新車販売台数が1,806万台で、日本の496万台(日経、20日夕刊)の3.64倍にもなり得たのはなぜか? GDPが日中両国でほぼ同じであるので、それを人口(中国が日本のほぼ10倍)で割った1人あたりGDPは、日本の42,431ドルに対し中国は4,412ドルで(日経、同)、中国のそれは日本の約10分の1に過ぎないことになる。それならば、自動車の販売台数も同一人口あたり(例えば1万人あたり)では日本の10分の1、しかし総人口あたりではその10倍、したがって販売総台数では日中双方でほぼ同じ、という計算になるのが普通ではないか。 もっとも、中国はいま自動車の新規普及期にあるのでそれだけ販売台数が多くなるとか、鉄道網の不足で自動車に対する需要が多くなるといった事情は考慮されるべきだが、そうした要因で年間1,800万台という巨大な新車販売台数を説明することはできない。上述のような要因を考慮しても、日本での販売台数のせいぜい2倍、1,000万台あたりが限度という計算になるのではないか。
ちなみに、GDP世界1位の米国(09年は14兆1190億ドルで、10年の中国のGDP の2.3倍以上)での10年の新車販売台数は1、159万台(米調査会社オートデータ調べ)であり、そのピークだった2004,5年でも1,690万台だったのだから、中国の1、800万台がいかに途方もない数字であるかがわかる。 この秘密を解く鍵は、1,800台という販売台数を否定できない(日本の自動車メーカーもその実態を認識している)以上は、中国のGDPが過小評価されている、ということにしか見いだし得ない。 また、09年の中国での1日あたりの原油消費量は891.1万バレルで、同年の日本の439.6万バレルの2.03倍だった(日経、同)。中国でのエネルギー消費効率が悪いとしても、ほぼ同一の規模での経済における原油消費量が日本の2倍ということを理解するのは不可能である。この事実も、実は中国のGDPが過小評価されている、と考える以外に説明できない。
そもそも、最近の世界経済は中国を中心とする新興諸国の高成長によって引っ張られてきたわけであるが、GDP世界第2位の国、それも第1位の国の半分以下の経済規模の国がそれほどの世界経済牽引力を持つということも理解しにくい。日本は1968年に西ドイツ(ドイツ統一前の西半分)を抜いてGDP世界第2位となったのであるが、それ以後も日本が世界の経済成長を引っ張ったと言えるようなことはなかった。 それに対しては、今日では中国のみならずインドその他の新興国が合わさって世界経済に大きな影響力を発揮しているのだ、という反論があり得るだろうが、1970年代、80年代においても、GDP世界2位の日本と3位の西ドイツに対して、米国はしばしば「世界経済の機関車」になってくれと要求したのであるが、政策的な意見の相違も加わってであるが、日独という両経済大国がそうした期待に応え得たことはなかった。
今の中国が世界経済に対して非常に大きな影響力を持っている事実は、中国当局の政策の動きが世界の株式市場や商品市場を大きく動かすという現象においても見ることが出来る。例えば、中国人民銀行(中央銀行)がインフレ抑制のために政策金利を引き上げそうだという予想で、先週の1月20日には世界の株式市場と商品市場で相場の大きな下落が起きた。 要するに、中国経済の規模は、一般に言われているように、2010年に日本を抜いてGDP世界第2位の国になったというよりは、実はずっと大きな規模ではないのか、ということだ。
そこで想起されるのが、世界銀行が作成している、各国の物価を基に推定した各国通貨の為替相場(購買力平価、PPP=purchasing power parity)により、それぞれの国のGDPのドルでの換算額を算出、比較した表、すなわち「PPPにもとづく各国GDPの一覧表」である。その2009年についての結果(10年12月15日公表)は次の通り(単位は100万ドル。はじめのコンマが兆の単位)。大きい順に1位から15位までを示す。 ①米国14,119,000②中国9,091,142③日本4,139,682④インド3,778,159⑤ドイツ2,969,575⑥ロシア2,689,846⑦英国2,256,830⑧フランス2,172,097⑨ブラジル2,017,180⑩イタリー1,921,576⑪メキシコ1,540,042⑫スペイン1,495,683⑬韓国1,324,383⑭カナダ1,280,280⑮トルコ1,038,815、以上である。
これによると、中国のGDPは09年に米国の64.4%、日本の2.2倍に達している。これに対し、日本は米国の29.3%にとどまる。つまり、中国はとっくにGDPで日本を上回り、その規模は日本の2倍以上になっている、ということになる。 この「PPPにもとづく各国GDP比較」を用いると、現実の為替相場を用いてのドル換算によるGDP比較の矛盾のかなりの点が解消される。 私は従来は、この世界銀行作成のGDP比較を、“為替相場算出における一つの試算の適用結果”としてしか見てこなかったが、現実の各国の世界経済におけるウエイトと影響力を検討した結果、逆にこの「PPPにもとづく各国GDPの推定」の意義を再評価する気持ちになった。今は、すくなくとも、現実の為替相場にもとづく各国GDPの比較に対する有力な対案としてそれを考慮すべきものと考える。
ちなみに米国のCIA(中央情報局)も、各国のGDP比較について、この「PPP方式」を採用している(the World Factbook における各国比較)。これにはすでに10年についての推定結果が示されている(CIAのホームページ)ので、1位から6位までを次に示しておく(この比較表では1位にEUが置かれているので、2位以下が世銀調査の1位以下に相当する。単位は10億ドル。コンマが兆の単位)。 ①EU14,890②米国14,720③中国9,854④日本4,338⑤インド4,046⑥ドイツ2,951。この10年についての比較では、中国のGDPは米国の66.9%(3分の2)、日本の2.7倍である。 ここで重視すべきは、CIA調査は現実の米政府の政策決定の基本資料になっているということである。そう考えると、米国が考える米中関係における中国の重みは、日本で考えるそれより格段に重いと言うべきであろう。それは、経済関係だけではなく軍事面での対抗関係を含むことはいうまでもない。
では、中国はなぜこうした評価にもとづいて自国の経済力を誇示することをしないのか。実はここには、もう一つの重大な国際問題が伏在する。それは人民元の為替相場の問題である。 いま、09年の中国のGDPを取り上げ、そのドル表示額として世銀PPP方式による9兆0911億ドルを置き、他方に人民元による表示額である34兆0507億元(中国統計年鑑)を等置すると、90911億ドル=340507億元から、1ドル=3.745元という計算結果が出る。これは1月20日に人民銀行から公表された人民元の基準値、1ドル=6.5883元(05年7月の元切り上げ以後の元の最高相場)に比べると、ものすごい人民元高の水準であり、それは実に75.7%の元切り上げ(ドルにとっては43.1%の対元切り下げ)を意味する(注)。 (注)元の上昇率は、1元=1/6.5883ドル(分数)から1元=1/3.745ドルへの上昇として計算される。
中国としてはこのような人民元高を誘発するようなGDP評価を避けようとするのだろうし、米国としてはこういう人民元相場の“理論値”を胸にしまって中国に対し元切り上げを迫っていると考えられる。その点を考えると、GDPをどう評価するかという問題は、直接に国際交渉の中身に直結していることがわかる。
ちなみに、世銀PPP方式による日本の09年のGDP 4兆1397億ドルと日本政府推計の470兆9368億円とからPPPによる09年平均の為替相場を逆算すると、1ドル=113.761円となる(現実の銀行間平均相場は93.5円だった。東洋経済新報による)。 もちろん世銀採用のPPPによるドル換算がそのまま正しいということにはならないが、GDPなどのドル換算による国際比較に当たっては、すくなくとも、現実の為替相場とPPPによる理論的相場の間のどこかに適正値があると考える必要がある。
それにしても、中国の真の経済規模が日本の2倍であるという評価には、かなり説得力があるのではないか。 (この項 終り) |
過去の投稿日別表示
[ リスト | 詳細 ]
2011年01月23日
全1ページ
[1]
全1ページ
[1]




