|
総選挙は正式にはまだ公示されていないので今は選挙戦序盤と言うよりは序曲と言うべきかも知れないが、事実上での序盤なので標記のように記すことにする。
現在、なお新政党が生まれつつあり、またそうした新党などの合従連衡の動きもあり得るが、選挙の大勢としては自民党が第1党、民主党が第2党の形勢が固まりつつあり、だいたい3位につけている日本維新の会がどの程度の議席を獲得するかが最大の不確定要因である。自民党が単独過半数を獲得することは難しいようだ。
解散後のマスコミ各社の世論調査結果がほぼ出そろった。それによる「衆院比例区の投票先」の各党の比率(上位の3ないし4位)は、当「診断録」前号(11月17日号)で既に書いた朝日新聞を含めて、以下の通りである(カッコ内の数字はそれぞれの社による前回調査結果と比較しての増減ポイント)。ただし、日経調査では単に「投票したい政党」の比率、NHK調査では「各党支持率」となっている。
▽朝日:自民23(−3)民主16(+4)維新4(比較無し)▽読売:自民26(−1)民主13(+3)維新8(−4)▽毎日:自民17(比較無し)維新13(同前)民主12(同前)▽日経:自民25(−2)民主16(+5)維新11(比較なし)▽ NHK:自民24.7(−0.3)民主17.4(+4.7)公明4.3(+1.3)維新3.9(+2.3)。
これで見ると、解散前に比べて民主党が支持率を回復していることが目立つ。これは、野田首相による意表に出た解散が支持されたことが大きく影響したものと思われる。実際、この解散についての評価を世論調査で見ると、NHK調査で「評価する」(「大いに評価」と「ある程度評価」の計)が64%、「評価しない」(「まったく評価しない」と「あまり評価しない」の計)が31%で、「評価する」が断然多い。同様の調査を行った讀賣、日経でも類似の結果が出ている。
そのような解散についての評価と関連すると思われるが、「次期首相としてふさわしい人」についての調査では、讀賣では安倍自民党総裁37%(前回比−2)野田首相31%(+6)、日経は安倍37%(−3)野田25%(+7)、毎日は安倍22%(比較なし)野田20%(同前)、朝日は安倍33%(比較なし)野田31%(同前)、NHKは安倍27%(−1)野田20%(+4)であった。要するに、野田首相が評価を回復しているか、あるいは両者の差が少ないという調査結果だ。
安倍総裁の評価が下がり気味なのは、自民党総裁選に当選した直後の“ご祝儀評価”がはげたことと、野田首相との党首討論で、突然の首相の解散宣言に安倍氏がうまく対応できなかったことなどが影響したのであろう。 たとえばWALL STREET JOURNAL日本版(11月15日)は、「野田佳彦首相が今週中の衆院解散を表明した党首討論では、安倍晋三自民党総裁の弁論の弱さが露呈した」として、「自民・安倍総裁は敵に塩を送ったか」と題する論評を掲載した。
その後、東京株式市場では、安倍総裁の「デフレ脱却に政策を総動員」、「強力な金融緩和」、「国土強靱化のための公共投資」、「建設国債の日銀引受け」、「原発再稼働」などの発言を歓迎して株価はそれまでの軟調から一変して上昇へ転じ、安倍氏を大いに喜ばせた。
しかしその後次第に、安倍氏の金融の超緩和政策と日銀への政府介入の主張、財政再建への配慮の無さなどに対し、経済界などから疑念と不安が台頭しつつある。例えばロイター(19日)は、「安倍自民党総裁が主張する財政金融政策について、経済専門家の間では日本経済の再生に逆行するとの見方が広がっている。極端とも言える金融緩和への圧力や巨額のインフラ投資は、財政再建や経済構造転換を遅らせるというものだ」と報じた。
端的に言って、安倍氏には、鳩山由起夫元首相の首相就任時に見られたような、十分な裏付けのない人気とり発言の傾向が見えるのだ。
今後も、野田首相と安倍総裁の一言一句、一挙手一投足が民主・自民両党の支持率に影響するだろうが、その点では野田首相が「TPP」(環太平洋経済連携協定)への参加で過早に民主党の党員を縛ろうとしていることなどは、むしろ民主党の議員(正確には前議員)の離党を促して、民主党への支持率を落とす可能性がある。
今回の総選挙で、最も読みにくいのは日本維新の会への国民の支持の動向だ。今年夏頃までの“維新ブーム”が衰えたことは明らかだが、世論調査での同党への「比例選の投票先」の比率ないし党支持率は、毎日調査の13%というかなり高いものから、日経の11%、讀賣の8%、朝日の4%、NHKの3.9%のまでまちまちである。これは、維新への国民の評価が依然としていちじるしく流動的であることの反映であろう。
毎日と日経は、維新の会とそれと合流した「太陽の党」の支持率を「単純に合計すると」として数字を示し、その場合には維新・太陽は17%となって「自民と並ぶ」(毎日)と言い、あるいは15%で「民主に匹敵する」 (日経)と述べている。しかし、この両党の合流で支持率の加算効果が出るとみるのは単純すぎる。むしろ、両者の政策の違いを無視した合流により、太陽の支持者が同党から離れる傾向もあるのだ。
総選挙後の「望ましい政権」についての世論調査では、毎日調査では「民主、自民以外の政党中心の政権」 が35%、「民主・自民の大連立」が26%、「自民中心の政権」が18%などであり、NHK 調査では「民自連立 」が30%、「民自以外の政党による連立政権」が26%、「自民党中心の政権」が22%であった。これによると、第3極の連合による政権を望む意見がなお国民の間に多いと言えるだろう。しかし、新政党の動向は極めて流動的(太陽の党が出来てすぐ無くなったように)なので、それらの連合を考えることは事実上不可能だ。
加えて、奇妙なことに、日本では連立政府をつくることに各政党もマスコミも積極的ではない(かつての細川政権などは例外的であろう)ので、大連立も第3極連合政府も見込みうすだと思う。
自民党と公明党の大勢は、選挙後は自公連立政府をつくるつもりのようだが、それだけでは新政権の安定を確保することは出来ない。なぜなら、衆参両院の「ねじれ」は解消されないからだ。
その点、次のような石破自民党幹事長の発言は現実を見据えた判断だと言えるだろう。すなわち同幹事長は、自民党が政権を奪還しても自公両党だけでは参議院では過半数に達しないことを踏まえ、「民主党と協力して重要法案の処理などに当たりたい」と述べている(NHKニュース、20日昼)。
以上、選挙序盤の注目点をあげてみた。(終り)
|