|
NY株式ダウ平均は3月 5日に前日比125.95ポイント高(0.9%高)の14、253.77に上昇、リーマン・ショック以前の2007年10月9日につけた過去最高値14、164.53を約5年5ヵ月ぶりに上回った(各紙、3月6日夕刊)。ダウ平均は6日にも42.47ポイント続伸して14,253.77と高値を更新した(ロイター、7日)(注)。
他方で、米国の失業率は2009年10月の10.1%をピークに少しずつ低下してきているとはいえ、2012年12月が7.8%、13年1月が7.9%と依然8%近い水準に高止まりしている。
いったい、米国の景気は株高が示すように顕著に回復しているのか、あるいは雇用統計が示すように停滞気味なのか?
(注)以前にも当「診断録」で指摘したが、ダウ工業株30種平均はダウ・ジョーンズ社が1896年に開発した株価の「指数」であって、あらゆる指数(基準点の値を100とした比較で表すもの)と同様に単位を持たない。したがって、「ダウ平均株価が例えば14,253.77ドルをつけた」と“ドル単位付け”で言うのは不適切な表現で、こういう表示をしているのは、私が知る限り、世界中で日本だけである。
株高と雇用の低迷というこの矛盾あるいは謎について、NYTimes(電子版、3月3日)が有益な指摘を行っている。すなわち、「生産性の上昇の結果、企業は製品の販売が増えても、雇用を増やしたり賃金を上げたりする必要にほとんど迫られないので、未だに何百万という労働者が失業を余儀なくされている。大企業は雇用を増やす場合にはそれを海外で行っている」のだと以下のように述べている。
「『今回の景気回復の過程で、これまでに企業は(国民)所得の増加の異常に高い割合を手中にした。米国の企業部門は経済全体の中ではとくに良好な状態にある」。
すなわち、「国民所得の中に占める比率では、企業利益は2012年第3四半期に14.2%であったが、これは1950年以降では最大の割合である。これに対して、被雇用者の所得の比率は61.7%で、1966年以降での最低に近いレベルであった。『近年では、金融危機に続く2008,9年の景気後退以後の緩慢な景気回復により、このような所得のシフトは加速された』とバークレイの米国部門代表Dean Makiは述べている」。
「Makiはまた、『企業利益は2008年末以降、年率20.1%で増加したのに対し、可処分の個人所得は実質で年率1.4%の増加にとどまった。過去50年の歴史の中では、こうした傾向がこれほどに目立った時期はなかった』と指摘している」。こうした企業利益の増加が株高の主因であることはいうまでもない。
「ユナイテッド・テクノロジー社(ハートフォードに本社がある製造業の巨大企業でダウ平均株価を構成する30社のうちの1社)が歩んだ跡は、不透明な経済と労働市場の停滞が続く中で、なぜ企業利益が増え、株価が上昇し続けたかを明らかにしてくれる」。
「会計部門の巨大企業プライスウォーターハウス・クーパーズのRobert E. Moritzによると、ユナイテッド・テクノロジー社CEO・Louis R. Chenevert は『過去数年間の生産性上昇の結果、われわれには雇用を増やす必要がまったくない』と述べている」。
「現在の同社の雇用者は218,300人であるが、この数は7年前とまったく変わっていない。にもかかわらず、同社の年間利益は2005年の427億ドルから2012年の577億ドルへ増加した。Chenevert氏は『われわれがこんごも年々生産性を引き上げるべく努力することには疑問の余地がない。われわれは最終的には世界の場で競争しているのだ』と語っている」。
「ユナイテッド・テクノロジー社とは別のもう1社として「3M」社(ミネソタに本拠を置く、やはりダウ30社のうちの1社)の場合を見ると、同社の雇用者は2007年の76,239人から2012年には87,677人へ増加している。しかし、この間の増加数11,438人のうちわずか608人が米国内で増加したに過ぎない」。
「たとえオバマ大統領と議会がこのところ予算について衝突し、米国経済の成長が鈍化しているとは言え、海外経済の状態は明るさを増している。アジアでは成長が盛り返しており、ヨーロッパは安定してきている。『これらの要因がダウ平均株価を構成する大企業の好業績に貢献している。したがって、人々(株へ投資しているー引用者の加筆)は実際上で世界経済へ投資しているのであり、海外の成長力ある経済へ関与しているのだ』とBNP・パリバの北米主席エコノミスト、Julia Coronadoは述べている」。こうして、「いまや企業利益の黄金時代が到来しているのであり、中でも多国籍型巨大企業(multinational giants)は中国やインドなどの新興国経済の高成長の恩恵をこうむっている」。
「連邦準備(Federal Reserve、略称Fed。米国の中央銀行)も株式市場での株価上昇に重要な役割を果たしてきた(Fedがそのことを意図したわけではないにせよ)と、エコノミストやストラテジストは指摘している。すなわち、Fedは失業を減らすことを最優先の目的としてきたが、経済を刺激するための安全資産の買い上げによる低金利の追求は、よりよいリターンを求めての投資家のリスク資産への投資を促したのであり、したがって、ワシントン(政府と議会)での緊縮と、地域での企業・商店や一般市民(Main Street。Wall Streetと対比させているー加筆)の不元気さと対照的なウォール街の好調さを促進したのである」。
「『2012年におけるより広い市場範囲での株価(S&P500種平均株価を指すと思われるー加筆)の上昇率13%のうち、そのおよそ半分はFedの行動の結果である』と、バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチのHarris氏は推定している」。
米国経済と米国株価についての以上のようなNYTimesのリポートは、Fedと同様な無制限金融緩和を実行しようとしている(実際は安倍政権によって実行を命じられている)日本銀行の政策が、円安と株高(それによる企業収益の増加)に貢献しても、そして輸入物価の上昇や資産バブルで促進される物価の上昇をもたらしても、(拡張的財政の刺激効果を別とすれば)日本経済の成長の加速、それによるデフレの解消にはほとんど役立たないことを示唆していると言えるだろう。(終り)
|