文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

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 ドル/円相場(東京市場、終値)が5月9日に100.54円と100円を超え、10日には101.58円(4年7ヵ月ぶりの水準)にまでドル高・円安が進んだことを受けて、10日の日経平均株価は416.06ポイント上昇して14,607.54と約5年4ヵ月ぶりの高値を付けた。ゴールデン・ウイーク明けの7日からの4日間だけで株価は913.5ポイント、つまり1000ポイント近くも上げたわけである。
 これは、円安が輸出企業にドル高・円安による増益(円安差益)をもたらすからである。5月10日までに、3月期決算の企業の「社数で6割、時価総額ベースで8割強となる930社が決算を発表した」が、これらの決算発表済み企業の「経常利益は前期に比べ24%増える見通し」であり、「その利益額は金融危機前だった08年3月期の87%の水準に回復する」ことになる(日経、11日)。

 こうした企業の増益とそれを反映した株高で、早くも日本経済の長年のデフレも克服されはじめたとの見方さえ広まっているようだ。だがそれは早計だ。なぜなら、企業が増えた利益を投資や雇用増に振り向け、その結果として民間需要が増えるのなら、それは需給ギャップ(需要不足)の縮小をもたらしてデフレの克服につながるが、大部分の企業はそうした拡張政策に踏み切ることには極めて慎重である。
 なぜなら、いまの増益の主因は、為替相場の急速な変化という外的な条件による一時的なもので、自社の売り上げの増加という正道によってもたらされたものではないからだ。これに対して、投資や雇用増は現実における販売の増加及びその持続性への信頼を前提に実行されるものである。そうした販売増やその持続見通しがまだ立たない以上、いくら安倍首相が企業に投資、雇用の増加や賃上げを要請しても、企業がそれに応ずるわけがない。

 ただし、企業がドル高・円安を利用して積極的に輸出先市場での販売価格を下げ、その競争効果で輸出売り上げを増やし得れば、まさに販売増が実現されるだろう。しかし、「最近のデータが示すところによれば、日本の輸出業者はその輸出価格を下げて輸出量を増やすことはしないで、単に利益を増やす道を選んでいる」(NYtimes 電子版、10日)。
 日本の企業が輸出価格の積極的な引き下げを控えている(引き下げている例も見られるが)のは、ひとつには、それを露骨に実行すれば、それこそ、“日本は政府・日銀の主導で為替ダンピングをしている”との国際的非難を招きかねないからだと思われる。それに加えて、「5月に入り、主要中央銀行による利下げや自国通貨売り介入が続いており」(注)、国際的な「通貨安競争の様相が強まっている」(ロイター、9日)ので、日本が輸出価格引き下げを先導すれば、国際的な“価格戦争”(ダンピング競争)を誘発する可能性があるからだろう。

 (注)「欧州中央銀行(ECB)の利下げは市場予想通りだったが、ドラギ総裁は間髪を入れず追加緩和の可能性を示唆。オーストラリア準備銀行(RBA、中央銀行)と韓国中央銀行は予想外の利下げを実施した。RBAは声明文で自国通貨が歴史的高水準にあると指摘、緩和策が通貨高を念頭に置いていることを明言している。さらに、ニュージーランド準備銀行(中央銀行)のウィーラー総裁は8日、ニュージーランド(NZ)ドル売り介入を実施したと言明。中銀が介入を確認したのは1985年の変動相場制移行後で2度目であり、異例の事態を受けてNZドルは急落した」(ロイター、同上)

 5月10,11日にロンドン郊外で開かれたG7(先進7ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議でも、「参加諸国の財務相たちは、円相場の低下をもたらしている日本の政策に関する表だった亀裂(public rift)を示すことは避けた」(NYTimes電子版、11日)が、「米国、カナダ、ドイツの財務相は、円の状況を注意深く監視すること、そして為替相場の過度の急変を避けることについてのG7の合意が存在すること」に言及した(Financial Times電子版、11日)。
 今後は、円安への誘導、その下での輸出価格引き下げに対する国際的な監視と風当たりはいっそう強まるであろう。

 ドル高・円安の進行の影響について見逃されている、ないしは過小評価されている問題がある。それは円安が日本国内での輸入品価格(円表示の)の上昇をもたらすことの一つの面についてだ。いちじるしい円安が日本が輸入する原材料、エネルギー、食料などの目立った価格上昇をもたらし、それが企業のコストと国民の生活費に大きな負担をもたらすことについてはすでに広く指摘され、論じられている。しかし、輸入品には工業製品があること、円安はそうした輸入工業製品の価格上昇をもたらし、それらの輸入を抑制する効果を持つことが過小評価されている。
 実際、それらの製品を日本へ輸出する外国にとっては、円安はそれらの輸出品に対する日本の新たな障壁として作用する。 現に、米国自動車政策評議会(American Automotive Policy Council)は「通貨における重大な事態(currency milestone)に強く反応し、Matt Blunt 会長は「日本の通貨操作により円は新安値に達しており、それにより米国の輸出と雇用は大きな代価を払わされるだろう」と言明した(NYTimes電子版、10日)。

 日本ではドル・円相場が100円を突破したことを歓迎する傾向が強く(とくに安倍政権当事者や証券業者及び株式保有者)、マスコミでも「中期的な円安の流れがある」として、「円安基調 続く公算」(日経、11日1面見出し)と展望している。
 しかし、私も強調している(例えば当「診断録」4月27日号)ように、限度を超えた円安はトータルでは国民経済の利益にはならない。それに、日本の財政赤字をまかなう国債発行額はさらに増え(2013年度中に30兆円以上増加)、政府の債務残高は13年度末には1000兆円台を超える公算が大きい(財務省10日の発表)。こうした状態を放置し(安倍政権はこれまでのところは放置している)、かつ黒田日銀流の放漫金融を続けていると、国の内外で“円からの逃避”、そのことを意味する“悪い円安”と、その影響による金利上昇が起きる恐れがある。
 したがって、さらなる円安促進論ないしその歓迎論は国益を害するものである。

 だが現実には、ドル・円相場の100円超えを歓迎して株式相場は上げ、株取引は活況を呈している。円安で為替差益を得ている輸出企業も、その増えた利益を設備投資や雇用増に振り向ける代わりに、自らも株式投資などに向け、株価の上昇を促進している。これは、“円安→輸出企業における円安差益発生→そのことを背景とする株高→輸出企業による円安利益の株式投資への振り向け→それによるいっそうの株高”といった一種の自己運動をさえ生み出している。そうした株式ブームには外国のファンドも大きな役割を演じており、また今やそうした株高に一般投資家も参加して利益の分け前に与ろう(あずかろう)としている。
 他方で、円安差益は設備投資や雇用増など実態経済の成長にはあまり結びついていない。これこそバブル(あぶく、気泡。転じて「実体、安定性、堅固さを欠いたもの」《Collins English Dictionary》)であり、やがて破裂する(the bubble bursts)であろう。

 そうしたバブル破裂の当面の契機となるのは、過度の円安への国際的な反撃あるいは“円からの逃避”の進行ではないか。(終り)

 

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