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2013年の日本経済は株高(年間上昇率は57%)と円安(対ドル26%の下落)のうちに幕を閉じた。日経紙(12月31日)はこれを「歴史的な値動き」と報じ、「大規模な金融緩和などで日本が長引くデフレから脱するとの期待が浮上。内外の投資家が取引を活発に膨らませた」と興奮気味に書いた。30日に東京証券取引所の大納会に現職首相としては初めて顔を出した安倍首相は「来年もアベノミクスは買いだ」と大はしゃぎを見せた(日経、同上)。
だが、実態の日本経済は株価のようには成長していない(後述)。中でも国内需要の中核である民間消費と企業設備投資は依然として低調だ。また外需では、円安になっていても輸出は伸びていない。
これを見れば明らかなように、株価の上昇は経済実態を反映したものとは言えず、金融大緩和(実は放漫金融)に伴う溢れるような投機的マネーが主導しているバブル相場(注)にほかならない。
(注)bubble とは、「空気やその他のガスを囲む薄い液体の球(sphere)」(Oxford dictionary)のことで、シャボン玉(球)(水に溶かした石けんを管で吹いて膨らませた気泡)はその例。転じて、「現実からかけ離れた良好なあるいは幸運な状態で、長続きしそうにないもの」をさす。具体的な用法では、「やがて価格の崩落という結果に終わる、著しい(通常は急速な)資産価格の上昇、典型的には価値の実質的な増加によってではなく、投機や熱狂によってもたらされる資産価格の上昇」(同上)を表す場合に用いられる
現実の日本経済は、GDP(国内総生産)の実質成長率(各4半期の対前期比成長率、その季節変動調整値の年率換算値)で見ると、2013年の第1四半期(1〜3月)の4.5%から第2四半期の3.6%、第3四半期の1.1%へとスロ−ダウンしている。
総生産の成長を支える需要の主要項目の対前期増加率(年率換算前の四半期増加率)を見ると、民間消費支出は2013年の各4半期に1.0%、0.7%、0.2%と鈍化、民間企業設備投資は−1.0%、0.9%、0.0%と停滞している。
これに対して伸びている需要は、民間住宅建設の2.2%、0.3%、2.6%と、公的固定資本形成(政府の固定資本投資)の1.1%、6.3%、6.5%である。政府固定投資の大幅な増加は、政府による公共事業予算の大幅増加によるものであり、民間住宅建設の増加はこうした公共事業増加による不動産景気の上向き、異常金融緩和の影響、及び消費税の引き上げを見込んだ住宅の先行的取得によるものである。この民間住宅建築と公共投資の増加は、政府予算と金融大緩和によって拍車をかけられているものの、かなり実需を反映したものと言えるだろう。しかし、そうした建設ブームも民間消費と企業設備投資という成長の二つの主柱を大きく動かすには至っていない。
他方、外需である「財貨・サービスの輸出」の2013年各4半期の増加率は、円安にもかかわらず、3.9%、2.9%、−0.6%と低下している。これは、企業の在外生産比率の上昇により、円安が輸出増に結びつきにくくなっているためと、中国やブラジルなどの新興国の成長が鈍化したことの影響によるもののようだ。それにもかかわらず、円安が進むと輸出企業の株価が上昇する場合が多かった。これは、主として輸出額(ドルなどの外貨建て)の円換算値が増加する「資産効果」を見込んだものであり、輸出競争力強化の結果としての輸出増によるものとは言いにくい。
対して、円安は輸入価格の顕著な上昇をもたらし、その結果、13年各四半期の「財貨・サービスの輸入」は1.0%、1.7%、2.2%と伸び率を高めた。こうした輸入物価の上昇が消費者の支出を抑制し、輸入原・燃料に大きく依存する企業の経営を圧迫していることは言うまでもない。
それにもかかわらず、円安と言えば「日本経済にプラス」と条件反射する株式市場やマスコミは“狂っている”と言っても過言ではない。
以上は2013年における日本の経済実態の推移を四半期別にGDP及びその構成項目についてみたものだが、次にGDPの各年(年間)の成長率の推移を見ることで13年の特徴を見よう。
実質GDPの対前年成長率は、2010年から4.7%、−0.5%、1.4%で(以上は実績)、13年は推定で2%台であり、13年の成長率がとくに高くなるわけではない。名目成長率は実績では10年から2.4%、−2.3%、0.5%だったが、13年は円安による輸入物価の上昇などの影響で物価が上昇するので、3%程度に高まる見通しである。これは、放漫金融がもたらすインフレ効果であり、経済の実質成長率の上昇とは異なる。
ここで、念のため、黒田日銀が目指す「2%のインフレ目標」についてコメントしておこう。黒田総裁などは、2%の物価上昇率が実現すれば、それが「デフレ克服」だと主張しているが、それはデフレの根本を忘れた(むしろ知らない)議論である。
デフレと言われる日本の長期にわたる消費者物価の下落は、実態経済における長期的な需給ギャップ(需要不足)の結果である。だから、短期的な景気上昇局面で物価が上昇したり、放漫金融のようなインフレ的政策で物価が上昇しても、根底にある長期的な需給ギャップが解消されなければ、デフレが克服されたことにはならないのだ。
現実に日本で進行し始めている消費者物価の上昇は、放漫金融下における円安、それによる輸入物価の上昇を主因とするものであり、短期的視点で見ても、需給逼迫による物価上昇ではないのだ。
このように、2013年における株高に象徴される日本の景気好転現象は、財政による公共投資増加の効果を除くと、放漫金融によるマネー過剰がもたらした、経済実態を遙かに上回るバブル的なものであり、その先におけるバブルの崩壊を内包したものである。
では、この金融バブルは何時、あるいはどのような条件の下で崩壊するだろうか。その条件は二つあると私は予想する。その一つは、現在のようなバブル景気の下、2014年以降に政府がさらに財政面から景気刺激策を続けることの影響で、実態経済の成長が加速された時である。その時には、現状では銀行、保険、証券など主として金融組織内を回流している過剰マネーが実態経済に流れ込み、それが需給関係の逼迫と物価上昇の加速をもたらす場合である。この場合には政府・日銀は否応なしに金融政策の転換、すなわち放漫金融の中止、金融引き締め政策の導入に着手せざるを得なくなるだろう。その時には、バブルの崩壊、すなわち株価の暴落など景気の崩落が表面化せざるを得ないであろう。
日本の金融バブルを崩壊させるもう一つの条件は、米国の金融政策の転換、すなわちこれまでの量的金融政策(その第3弾であるQE3)の縮小であろう。
米国の中央銀行すなわち連邦準備制度(Federal Reserve System、略称Fed)は、そのQE3を2014年1月から縮小することを12月18日の連邦公開市場委員会(FOMC)で決定した。すなわちFedが市場から購入する国債などの証券購入額をこれまでの月850億ドルから100億ドル減額するという。FOMCの声明によると、これは景気回復に伴って雇用状勢が改善したためである。今回このQE3の縮小が公表された時には、米国の株式市場では、その背景となった米国景気の好転を好感して、また今回の決定が金融引き締めを意味しないというので株価は上昇した。しかしこれまでは、株式市場はQE3の段階的縮小をマネー過剰状態の終焉(その始まり)としてネガティブに受け取っていた。
Fedがこのようにこれまでの巨大な金融緩和策の縮小を考慮するのは、米国景気の回復・上昇が本格的な軌道に乗った時には、過剰マネーが実態経済に流れ込んでインフレを招く恐れがあるためだ。
米国景気が本当にしっかりした回復・上昇の軌道に乗ったのであれば、こんごFedの量的金融緩和策が縮小されることは必至である。
その時には、世界的な過剰マネー縮小のインパクト(米国の金融政策とその下でのマネー供給の影響は依然としてグローバルである)が、日本のバブル崩壊の引き金となる可能性がある。
黒田日銀総裁がどれだけ力んでも、日本の金融政策や金融情勢は米国の影響を強く受けざるを得ない。黒田日銀のいわゆる異次元金融政策も、しょせんは米国の、すなわちFedの後追いをしただけのことであった。だから、2013年の4月から5月にかけては、“日銀もFedなみのことをやる”という市場の捉え方と期待から、急激な円安と株高が進んだのだった。だが、そうした円安・株高が一段落した5月下旬以後は、円相場も株価も米国の経済情勢、とりわけFedの政策(及びその先行き見通し)によって左右されてきたと言っても過言ではない。
結局、過剰マネーの下での米国及び日本のバブル景気、その象徴である株高は、実態経済の一層の好転と結びついた場合に、本当のインフレに転化する危険、その結果としてのインフレ抑制策の導入とバブルの崩壊をもたらす可能性を孕んで(はらんで)いるのだ。
黒田日銀の浅薄さは、デフレを克服するには物価を上げさえすればいいと単純に考え、デフレをもたらした日本経済の長期の問題を見ず、またやみくもな物価引き上げ政策がもたらすインフレーションの危険を見ない点にある。その点、Fedは大金融緩和政策をとりながら、過剰マネーがもたらすインフレの危険を考慮に入れており、そこにわずかに中央銀行らしさが残っていると言える。
繰り返すが、安倍政権とマスコミが浮かれる2013年末の日本経済の“好調さ”が実際にはバブル景気であることを忘れてはならない、ということである。(終り)
(お断り)当「診断録」9月30日号でお断りしたように、現在、「診断録」の発表は不定期に行うことにしている。今後「診断録」を執筆・公表した時には、もう一つの私のブログ「文太郎の日記帳」(blogs.yahoo.co.jp/to1952dai/)やツイッター(BUNTARO TOMIZUKA@BTTOKYO)でその旨をお知らせしたい。
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