文太郎の日記帳

景気、財政赤字、国際経済、政治・政局、世界情勢、日米関係など現代の諸問題を広い視野で解明します。

エコノミストの時評

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 NY株式市場でダウ平均株価が7月2日まで7日連続して下落、この間の下げ幅が611ポイント、5.9%に達したことに示されるように、このところ米国の景気回復ペースのスローダウンを示す指標が目立ち、そこから米景気は2番底に落ち込むのではないかといった予測も出始めた。
  さらに、こうした米国の回復の弱さは、欧州諸国の財政緊縮への傾斜と相まって、世界景気全体を損なうのではないかとの不安を台頭させている。
 しかし、現在の世界景気の前途を占うには、米欧だけを見ていたのではだめで、中国などアジア諸国や他の新興国の動向を見なければならない。
 
 米国景気の最近の弱さを端的に示すのは、住宅販売の落ち込みと雇用の回復の遅れである。全国不動産業者協会の調査による住宅販売高指数(pending home sales 、 契約済みだが引き渡し前の住宅)は、4月の110.9から5月の77.6へ30%も急減した。これは、政府による新規住宅購入に対する減税措置が4月末で終了したためで、そうした政府による支援策がない場合の住宅需要の弱さを裏打ちした。
 また、住宅需要にも強く影響する雇用の動向を見ると、6月の失業率は9.5%で5月の9.7%よりは低下したが、これは主に失業率の分母となる労働の供給が65万2000人減ったためであり、非農業部門雇用者数は今年初の前月比マイナスとなった。この原因は、国勢調査の終了で(政府による)一時雇用者が22万5000人減少したのに対し、民間部門雇用者の増加が8万3000人に過ぎなかったことにある。
 
 要するに今回の不況後の米国経済は、不況で大きな打撃を受けただけではなく、若々しい活力を欠いた成熟国であるだけに自力で立ち直るエネルギーに乏しい。それだけに政府の景気刺激策への依存が強くならざるを得ない。だが、その資金源となる財政は、これまでの刺激策によって作り出された大きな赤字のために、自由度を失いつつある。つまり、追加的な需要刺激策を実施するのが困難になっている。。 
 日本の場合も類似の状態にあったが、近隣にいまや高度成長期に入った新興国や新工業国がかたまって存在しているために、それら諸国への大幅な輸出増の刺激で、これまでのところ予想外に順調な景気回復過程をたどって来た。 ところが米国の主要輸出先はカナダやメキシコといった北米諸国であって、アジア諸国ではない。
 
 今年4月分についての米国(センサス・ビューロー)の商品貿易統計により、その主要な輸出相手国の順位と輸出シェア(輸出総額に占める%)を見ると、①カナダ(20.3)、②メキシコ(12.9)、③中国(6.4)、④日本(4.4)、⑤英国(3.7)、⑥ドイツ(3.6)、⑦韓国(3.1)、⑧ブラジル(2.7)、⑨オランダ(2.6)、シンガポール(2.3)などである。以上のうち、米州諸国で35.9%を占めるのに対し、アジア諸国は16.2%(日本を除くと11.8%)に過ぎない。
 つまり、米国は高成長を続けるアジア諸国への輸出増の恩恵に極めて不十分にしか浴していないのである。
 対する米国の主要輸入先国は、①中国(17.0)、②カナダ(15.5)、③メキシコ(12.1)、④日本(6.1)、⑤ドイツ(4.4)、⑥韓国(2.5)、⑦英国(2.5)、⑧フランス(2.5)、⑨サウジアラビア(2.0)、⑩台湾(1.8)で、アジア諸国で27.4%(日本を除くと21.3%)を占め、米州の27.6%に拮抗している。
 
  以上のような貿易の傾向であるので、2009年全体について、相手国別の米国の貿易収支の赤字額(単位億ドル)を多い順に見ると、①中国(2268.8)、②メキシコ(477.6)、③日本(446.7)、④ドイツ(281.9)、カナダ(215.9)などであり、対中国の赤字が断トツで、09年の米貿易赤字総額の実に45.1%を占める。
 こうした状況なので、米国が中国に対して人民元の切り上げを強く迫ることはよく理解できる。果たして中国による為替レートの人為的な操作が米中貿易不均衡の主要な原因であるかどうかは不明だが、米国としてあらゆる方策を講じて対中輸出の増加、中国からの輸入の抑制を図ることが、今日の米国景気にとって極めて重要であることは疑い得ない。                                           
 
 ちなみに、日本の09年5月の相手国・地域別の輸出先とそのシェア(輸出総額に占める%)を見ると(財務省貿易統計)、アジア(56.9)、うち中国(19.2)、米国(14.3)、EU(11.6)などで、完全にアジア向け中心の輸出である。
 しかもアジア向けの輸出の増加率(前年同月比、%)は、09年12月以降10年5月までの各月は、31.1 、68.3、55.7、52.8、45.2、34.4 という驚くべき高さである。
 こうした輸出主導での景気回復の結果、日本の10年第1四半期(1〜3月)のGDP成長率(対前期比、年率)は、実質5.0%(名目5.4%)で、米国の同時期の3.0%(名目4.1%)を上回った。
 米欧や国際機関の常識では、日本は先進国の中ではもっとも回復が遅れている国という捉え方だが、実際には日本は、高成長のアジア諸国の圏内に位置しているために、先進国、少なくともG8の諸国の中では最近の成長率が最も高い。 
 
 問題はそのようなアジア諸国、さらには似たように好調に回復を遂げてきたその他地域(ラテン・アメリカなど)の今後の経済成長の成り行きである。 最も注目されるべき中国については、最近景気スローダウンの観測が頻り(しきり)である。率直に言って、私は中国経済の内情の詳細を把握していないが、その実質GDP成長率(対前年同期比)は10年第1四半期(1〜3月)に11.9%でピークを打ち、第2四半期には10〜11%に“鈍化”したとされる(Chainadaily、7月3日)。また国家発展改革審議会・マクロ経済研究所のChen Dongai 副所長は、10年第2〜第4四半期の成長率は約10%になると言明している(同上、5月17日)。
 中国の輸出については、その最大の輸出先地域であるEUに対するそれは、ユーロ圏危機が伝えられているにもかかわらず、5月には前年同月を49%も上回っている(NYTimes 電子版、6月29日)。
 要するに、これまでのところでは、中国における「成長のスローダウン」とは、成長率の小幅な低下を意味するようである。 
 
 東南アジア諸国も概して好調で、10年第1四半期の実質成長率(前年同期比)はシンガポール15.5%、マレーシア10.1%、フィリッピン7.3%、タイ12%などであった。
 アジア開発銀行の上席エコノミストLei Lei Song 氏の見通しによると、東南アジア諸国は財政にも余裕があるので、欧州のソブリン債務危機など世界経済に新しい不確実性が出現しているが、そうした下降傾向を乗り切り(weather the global downturn)、10年の成長率は5.1%に達するという(NYTimes 同上)。 
 
 ラテン・アメリカでは、ブラジルの10年第1四半期の実質成長率(前年同期比)は9%で、ブラジル中央銀行の予測では10年通年の成長率は7.3%となる見通しである。メキシコの第1四半期の成長率は4.3%で、政府見通しでは年間の成長率は5%。
 世界銀行は、ラテン・アメリカ全体の10年の成長率を4.5%と予測している。こうした好調な成長は、中国をはじめとするアジア諸国からの鉄鉱石、錫、金などの商品への強い需要と、国際収支赤字のコントロール、インフレの抑制に努めている政策とにより、投資が促進されているためである(NYTimes電子版、6月30日)。
 実際、中国の影響はこの地域でも大きく、ブラジルの最大の貿易相手国は、09年に米国を抜いて中国となったほどである。 
 
 結局、21世紀10年代の世界景気は、中国を中心とするアジア諸国やラテン・アメリカ諸国などの新興国・新工業国がリード(先導)し、そのプラスの影響が日本などの先進工業国(欧州ではドイツ)に及ぶ、というプロセスを経ていると理解される。
 米国や多くの欧州諸国は不況に対する需要補給の政策で一応は後退を克服したものの、不況の後遺症のために先へ進みにくく、回復の前途に黄信号がともっている、という状況であろう。
 今後の問題は、以上のようなアジア発の成長の波が米欧諸国へ及んで行くかどうか(息切れしないかどうか)、そうした波及を妨げている障害(人民元の低位釘付けはその一例)が除去されるかどうか、に大きくかかっているように思う。  (この項 終り)
 6月26〜27日にカナダ・トロントで開かれたG20(先進&新興20ヵ国)首脳会議が終った翌々日(29日)に、世界の株式市場で株価が急落した。 この日の株安は東京で日経平均が1.3%下落したのを皮切りに、時間を追って「伝染」(NYTimes電子版、29日)、上海総合指数が4.3%、ロンドンFTSE100が2.2%、フランクフルトDAXが3.3%、NYダウが2.7それぞれ下落した。株価の下落は30日の東京市場にも引き継がれた。
 この一連の世界株安の直接の“犯人”はコンファランス・ボード(CB、米国の民間調査グループ)だった。まずCBは自らが2週間前に発表した中国の2010年4月の先行経済指数:1.7%のプラスを、計算間違いがあったとの理由で、0.3%のプラスに引き下げ、次いで、CB調査の6月の米消費者信頼感指数が52.9と、5月の62.7(下方修正)から10ポイント近く低下した(4ヵ月ぶりの低下)と発表した(NYTimes 、同上)。
 
 このような株安は、①このところ米国で景気回復の足踏み状態を思わせる景気指標が続いていただけに、そうした米国景気指標の弱さにもとづく弱気観が加速されたものと言えるし、また②CBによる中国についての景気指標下方修正の影響は、中国の今日の世界経済における大きな比重を改めて強く印象づけることになったと言える。
 米国の景気回復力の弱さは、簡単化して言えば、中国を中心とするアジア主導の現在の世界景気回復の恩恵を受ける度合いが日本などより少ないことが大きく影響している、と私は見ている。それだけに、人民元切り上げについての米国の要求が強いわけだ。この点については日を改めて論じたい。
 その中国の景気上昇が腰折れにならないか、という点は極めて大きな問題だ。現在、中国は主として資産バブル抑えこみのための金融引き締めを行っているが、そうした引き締めが景気全体をスローダウンさせるかどうかについては、なお他の指標の動向を観察してみる必要があり、現時点では速断は出来ない。 
 
 最近の株安は、リスク資産への投資の回避ということから、「安全資産」への投資を促進しており、その中でも米国債と日本国債への需要を高めて、それらの利回り低下をもたらしている。
 すなわち、米国の10年国債利回りは29日に2.97%と09年4月以来の3%割れとなり、10年もの日本国債利回りは30日には1.08%に低下している。 また、為替相場もそれに対応して、ドルはユーロなど欧州通貨に対してドル高、そのドルは円に対してはドル安となり、世界の中で円は独歩高となっている。つまり、現在は市場では円あるいは日本国債は世界一の安全資産と見なされているのである。 
 
 さて、次に今回のカナダでのG20の結果だが、その「宣言」は、「われわれは回復を持続し、雇用を創造し、より強力で一層持続可能なまたよりバランスのとれた成長を達成するために、協調して行動をとる約束をした」として、4項目の合意事項を明記した。
 その第1項目で、宣言は、「先進諸国はその財政赤字を2013年までに最小限で半減させ、その政府債務の対GDP比率を2016年までに頭打ちとするか、低下させることを約束」した。しかし日本については、その「事情(circumstances)を認めて、日本政府が最近公表した成長戦略と財政再建計画を歓迎する」と付け加えた(G20 Information Center、ホームページ)。
 これにより、日本は「財政赤字を2013年までに半減させる」との国際合意に拘束されないことになったわけだが、日本になぜこのような“例外”が認められたことについて、日本のマスコミは様々に解説したが、その多くはまたまた見当外れだった。
 
 例外扱いの理由についての正解は、今回のG8およびG20のホスト国カナダのハーパー首相が明らかにしているが、それは日本の「借金の引き受け手を重視。国債の国内の買い手が5割弱の米独、3割のギリシャに比べ、日本は95%を国内で調達し、投げ売りによって金利が跳ね上がるリスクが少ない」ということにあった(asahi.com. 6月28日)。またNYTimes も、「G20の宣言は、国内からの借入に大きく依存している日本は、(この財政赤字半減の)目標を達成しなくてよいと明白に述べた」と報じた(同紙電子版、27日)。
 付け加えると、当「診断録」6月22日号で書いたように、今回の「赤字半減の目標」は、ハーパー加首相がG20に先だって参加国首脳に送った書簡に中で示した目標数値の通りなのである。
 
  この例外扱いの理由についての解説で噴飯ものは、日経の「日本、欧米から置き去り」との第1面4段見出しの記事(28日夕刊)だった。すなわち、「菅直人首相の説明が好意的に受け入れられたとはいえ、国際的に見て財政悪化の度合いが際立ち、健全化を急ぐ欧米から置き去りにされた恰好になった」と解説した。つまり、日本が国際的な“悪い子”扱いされなかったのは不面目だった、と言っているのだ。もし、日本の状態が悪すぎるぐらいなら、ギリシャのように、赤字削減該当国の筆頭にあげられるのが当然であろう。
 毎日は、「日本を例外扱いしたのも協調の体裁をとりつくろうためだ」(同紙、29日)と、「宣言」と各国財政の突っ込んだ解明を避けた無意味な説明をしただけだ。
 産経は、「宣言」は「各国の状況で財政健全化計画は異なるとして、先進国で最悪の財政状態にある日本に一定の配慮を示した」と、“お情け”論で解説した(同紙、29日)。こうした産経の解説に対しては、日経紙について述べた上述のような批判がそのまま当てはまる。
 
 読売の場合は少しましで、次のように書いた。「菅首相がサミットで、基礎的財政収支の赤字を15年度までに対GDPで半減させることを盛り込んだ財政運営戦略を説明したことに加え、日本にさらなる財政再建を求めれば、景気を冷え込ませる懸念が強まり、世界経済にとってもマイナスとの判断があった」と(同紙、28日夕刊)。これは、日本国債の国内での消化比率の高さという本当の理由を見逃してはいるが、「日本例外扱い」についての経済的説明になっている。
 その上で同紙は、菅首相は財政再建に加えて、「世界経済の先導役という、新たな課題を背負わされることになり、一段と難しい立場に立たされたと言える」と書いた。「先導役」というのは現時点では日本の過大評価だが、菅首相が負っている課題をキチッと指摘している点は評価できる。
 
 なお、G20そのことについてではないが、日本の政府債務について、Financial Times 電子版が6月28日に「日本の年金基金トップ (政府)債務に楽観的」と題する興味ある記事を掲載していた。
 すなわち、同紙は日本のGPIF(Government Pension Investment Fund 、年金積立金管理運用独立行政法人)(注)の三谷隆博理事長(元日銀理事)とのインタビューを掲載しており、その中で三谷理事長は、「法人と家計両部門の貯蓄水準が高い上、デフレ的な環境も影響して、日本の国債への需要が強いので、この2〜3年のうちに日本の債務危機が起こることは不可能だ」と述べている。
 
 (注)1961年に「年金福祉事業団」として出発、86年から年金資金運用事業を開始、2006年に「年金積立金管理運用独立行政法人」に改組、厚生労働大臣から寄託されて年金積立金の管理・運用に当たっている。
 上記FT紙は、このファンドは120兆円の資産を持つ世界最大の年金ファンドの一つだと紹介している。
 
 要するに、われわれ日本国民としては、日本の財政赤字の実態(まさしく極めて大きい年々の赤字と債務残高)を正確に認識するとともに、現在その点に関してわが国にギリシャ並みの危機が到来しているわけではないことを冷静に理解する必要がある。その点で、経済界やマスコミ、さらには最近の菅首相が陥っているいわば財政赤字ヒステリーに惑わされないようにしたい。        (この項 終り)
 参院選挙が6月24日に公示され、選挙戦が始まった(7月11日投票)。こんどの参院選の焦点は、6月8日に成立したばかりの菅直人内閣の信任を問うことである。具体的には、民主党がこの選挙で60議席を得れば参院でも単独過半数(122)を得ることになるし、56議席獲得なら連立与党の国民新党の既存の(非改選の)議席3と与党系無所属議員の1議席を合わせ与党計で過半数を得ることになり、菅内閣は事実上信認されたことになる。
 逆に民主党の獲得議席が56より少なければ与党は参院で過半数割れになり、衆参両院での「ねじれ現象」が起きる。自民党はこの与党過半数割れを目標としており、谷垣禎一同党総裁はこの目標が達成されなければ責任をとって辞任すると公約している。
 実際に選挙戦がスタートしてもっとも目立つ現象は、菅首相が敢えて消費税増税の可否を選挙の主要な争点としたことであり、これに対しては民主党内部だけではなく、民主党支持層間でも戸惑いが生じている。端的に言って、菅首相のこうした財政再建重視の姿勢は保守層の対民主党警戒心を解こうとするものと理解される。だが、この戦略が民主党に吉と出るかどうかは疑わしい。
 
 菅首相は6月4日に民主党代表に選出されたときの挨拶では、「最大の課題の一つは、日本経済の再生と成長だ。総合的な政策実施でデフレ脱却」に取り組み、「強い経済を実現する」ことで「強い社会保障」を可能にするとともに、それを支える「持続可能な強い財政」の再建が課題だとした。そして、そうした財政の実現のためには、「歳出改革を進めるとともに、抜本的な税制改革を含めた歳入改革を真剣に検討し、国民に正直に提起する」と述べた(読売、4日夕刊)。
 また11日の国会での所信表明演説でも、菅首相は「新内閣は強い経済、強い財政、強い社会保障の一体的実現を、政治の強いリーダーシップで実現していく決意です」と述べた。つまり、財政再建はいわば総合的な経済・社会戦略の中で実現していく、という位置づけだった。
 
 ところが、16日に明らかになった民主党の「参院選マニフェスト」(公約)では、「財政健全化の必要を前面に打ち出し」、「消費税を含む税制の抜本改革に関する協議を超党派で開始」するとした(読売、17日)。これは、マニフェストの「検討段階で『衆院選後』としていた消費税上げの実施時期を改め、超党派で合意すれば、早期に税制改革に踏み切れる公約とした」ことを意味する(日経、17日)。
 さらに菅首相は17日に、このマニフェスト発表に際しての記者会見で、「2010年度内にあるべき税率や改革案のとりまとめを目指したい。当面の税率は、自民党が提案している10%を一つの参考にしたい」と述べ(読売、18日)、ここに俄(にわか)に「消費税の10%への引き上げ」が事実上で民主党の参院選公約に躍り出る結果となった。
 
 その後菅首相は、21日の記者会見で、自ら消費税率の10%への引き上げに言及したことについて、「参院選が終った段階から超党派で本格的な議論を始めたい。そのこと自体は公約と受けとめてもらって結構だ」としながら、消費税率の引き上げ時期は2,3年後になるとの見通しを示し、「大きな税制改正をやる時には、まとまった段階で国民に判断する機会を持ってもらう」と述べた(読売、22日)。これは、具体的な消費税引き上げで民意を問うのは衆院選後だとし、それが今回の参院選の争点ではないと断ったものだが、すでに自民党をはじめとする野党は消費税引き上げが参院選の最大の争点だと受け取り、それに対するキャンペーンを強めている。  
 また菅首相も、参院選公示日における街頭演説第1声(大阪での)で、財政の危機的状況を説きつつ、消費税引き上げの必要性を訴えていた。実際にはマニフェストの全体に触れながらの言及であったようだが、当日正午と午後7時のNHK・TVのニュースでは、同首相の消費税の必要に関する“絶叫”(というべき調子での演説)がクローズアップされ、聞く者はまさに今回の参院選が消費税可否をめぐる選挙であるとの印象を与えられた。
 
 菅首相は鳩山内閣の副総理兼国家戦略担当相であった昨年末までは、日本経済のデフレ傾向に強い危機感を持ち、その克服の必要を強調していた。ところが、今年1月に藤井財務相の辞任を受けて財務相に横滑りした頃から、次第に財政危機の問題に関心を強めていったと記憶する。
 とくに、今年2月5〜6日にカナダで開かれたG7(先進7ヵ国)の財務相・中央銀行総裁会議に初めて出席した際、会議での話題としてギリシャのソブリン危機(国家債務支払の困難化)が大きな比重を占めたことから強い衝撃を受けたと伝えられた(菅財務相はその時までギリシャ問題についての知識はほとんど持ち合わせていなかったらしい)。
 そのあとあたりから、菅氏から消費税検討の必要についての発言が出始めた。鳩山内閣の方針としては、次の総選挙までは消費税引き上げはしないと公約していたにもかかわらず、である。おそらく、菅氏は財務省の官僚に洗脳され、かつ、ギリシャ危機からの衝撃により、徐々に財政再建優先論に傾いていったのではないかと私は推察する。
 
 さらに、菅氏が首相に選出された6月4日頃には、ハンガリー(EU加盟国だがユーロ圏には未加入)の財政危機が表面化した。そのことが、ギリシャ、スペインなどでクローズアップされた一連のユーロ圏危機と相まって(市場の一部ではハンガリーをユーロ圏の国と誤解した面もあったが)、世界的に株式市場に新たな衝撃を与え、NY市場の株価は6月4日(現地時間)には323.31ポイント、3.15%の急落を記録、週明け7日の東京市場でも日経平均が380.39円、3.8%の急落(09年3月30日以来の大きな下落率)を演じた。
 こうした欧州のソブリン危機は、日本の財政についての国内での危機感(経済界やマスコミの)を一段と強める結果をもたらした。
 
 菅首相は、当「診断録」でも前に(10年6月5日号)触れたが、もともと明確な理論の持主ではないから、財務相から首相への歩みの中でのこうした経験に強く影響されて、消費税の早期具体化への信念を固めていったのであろう。
 また、選挙戦術として、消費税の10%引き上げを打ち出すことによって、消費税引き上げで財政健全化路線をアピールしている自民党のお株を奪い、その影を薄くしようと考えた可能性が大きい。 
 さらに、これまで民主党の政策を「バラマキ財政」として批判してきた経済界やマスコミの反民主党の立場を緩和したいとの思惑も働いたと私は推定する。
 
 これは、要するに菅民主党の“ウイングを右に広げる”(端的に言えば、右の勢力を抱き込む)戦略である。だが、それは自らの“右翼化”、保守化につながる。
 たしかに、菅民主党に対しては、鳩山・小沢時代の民主党には極めて批判的(時には敵対的)だったマスコミ(とくに産経、読売、日経)のスタンスも少なくとも中立的なものに変わってきたように思える。 
  他方、自民党はすぐさま菅首相の消費税10%案を谷垣総裁が「自民党の丸写し」と真っ向から批判 (読売、21日)、むしろ民主党への反撃の元気を取り戻した感がある。その点では、菅首相の戦術は逆効果だった。
 
 しかし最も重要な点は、消費税の引き上げを選挙の争点にした菅首相の作戦は、結果として民主党の“民主党らしさ”を薄めてしまったことにある。 実際、普天間問題では大筋で旧来の自民党政府が敷いた路線を踏襲し、消費税問題では現に自民党が売り物にしているプランに同調するというのでは、民主党と自民党のどこが違うのかわからなくなる。
 これに比べ、鳩山・小沢主導の民主党の政策には理念先行・具体策欠落という欠点があったものの、例えば昨年の総選挙のスローガンには「国民生活が第一」という単純明快なものを掲げるなど、なにか国民の心に訴えるものがあった。
 だから、今のままの菅民主党の戦略では、なによりもこれまでの民主党支持層のかなりの部分が同党から離れることになるので、民主党はこんどの参院選挙では勝てない(連立与党でも過半数をとれない)と思う。
 
 現に参院選告示後の日経の世論調査(日経、26日)では、菅内閣の支持率は50%で前回の6月8〜9日調査の68%から18ポイントも低下、民主党支持率も前回の47%から42%へ低下している。対する自民党の支持率は20%から23%へ上昇している。このことは、「消費税10%、自民党案を一つの参考に」という菅首相の作戦が、完全に裏目に出ていることを示している。
 とくに、「内閣支持率を年代別にみるとすべての層で支持が不支持を上回っているものの、20歳代と70歳以上では支持率が50%を割った」こと、不支持率が「20歳代では40%に達した」(不支持率は全年齢層では33%)ことが注目される(日経、同上)。
 
 もっとも、機を見るに敏な(オポチュニスト的)菅首相のことだから、こうした世論の動向を見て、いまの路線の軌道修正を試みる可能性はある。
 また、財政重視優先のようないまの菅首相の政策指向では、今回のG20(主要20ヵ国)サミット参加国首脳に景気支持策の必要性を事前に書簡で訴えたオバマ米大統領の立場(当「診断録」6月22日号参照)と食い違う。したがって、菅首相が今回のG8とG20でオバマ大統領から個人的にも景気支持策の必要性を説かれたら、たちまち今の政策スタンスを変える可能性もあると思う。
 
 しかし現時点では、世論調査の結果が示すように、菅民主党の“保守化”志向は民主党にマイナスに作用していることは明らかだろう。     (この項 終り)
 6月25〜26日にカナダのムスコカ(Muskoka 、オンタリオ州)でG8(Group of 8、先進8ヵ国)の首脳会議(Summit Meeting)が、続けて26〜27日に同じくカナダのトロントでG20(Group of 20、主要20ヵ国)(注)の首脳会議が開かれる。
 この二つの首脳会議では、財政赤字の削減に政策の重点を移したEU(欧州連合)諸国(とくにドイツ)と、なお景気刺激策の継続を求める米国との主張が対立すると予想され、2009年4月のロンドン・サミット以来景気刺激策の実施で足並みを揃えてきたG8及びG20は大きな転機を迎えることになりそうである。
 
 (注)あらためてG20の構成国・地域を以下に記しておく。
(北米)米国、カナダ(中南米)メキシコ、アルゼンチン、ブラジル(欧州)英国、ドイツ、フランス、イタリー、EU、ロシア(アフリカ)南アフリカ(中近東)トルコ、サウジアラビア(アジア)インド、中国、韓国、日本、インドネシア(大洋州)オーストラリア。 
 なお、G8の構成国と地域は上記のうち、米国、カナダ、英国、ドイツ、フランス、イタリー、ロシア、日本 の8ヵ国とEU  。G7はG8からロシアを除いた諸国。
 
 EU諸国は、ギリシャ危機が表面化して以後、当のギリシャはいうまでもなく、スペイン、ポルトガルなどいわゆるソブリン危機(国家債務の支払危機)を警戒されている南欧諸国が相次いで財政赤字削減策の実行に追い込まれたが、最近では財政赤字(その対DDP比率)が欧州で最も小さいドイツ(09年が3.1%)も戦後最大といわれるほどの規模の赤字削減策を決定、フランスもこれに続くなど、ほぼ一斉にいわゆる出口戦略(景気刺激のためにとった財政支出拡大策などの終結と巻き戻し)をとり始めた。
 こうした動きに対して、景気回復が始まっているにもかかわらず、なお高い失業率(2010年5月は9.7%)に悩む米国のオバマ大統領は、トロントでのG20・サミットを前に、これに参加する各国首脳に対して6月18日に書簡を送り、「トロントでのわれわれの優先課題は(景気の)回復を確かなものにし、強めることに置くべきだ」と書き、具体的には国際収支の黒字国に内需の振興策の実施(とくに暗にドイツや中国に対して。中国については人民元の為替弾力化を通じての)を求めた(NY Times 電子版、6月18日)。
 
 ドイツ政府の財政赤字削減策は6月7日にメルケル首相から発表されたもので、2014年までに約800億ユーロ(約8兆7000億円相当)の財政赤字を削減し、赤字の対GDP比率をドイツの修正憲法で定めた0.35%(2016年以降)に近づけようとするもの。
 この赤字削減策は、連邦軍の職業軍人を現在の19万人から4万人削減する、公務員のクリスマスボーナスを2011年には凍結する、45万人の一般公務員定員を1万人削減するなど、主として支出のカットでまかなおうとする点に特徴がある (Financial Times 電子版、6月6日)。
 また、実施のタイミングとしては、輸出依存のドイツ経済が世界市場の回復から好影響を受けている時期に、また他の諸国(ギリシャ、スペイン、ポルトガル)のように支払危機によって強制されるのではなく、先手を打つかたちで早期に踏み切った(ツァイト、Zeit電子版、6月18日)。
 
 米国からすると、ドイツのような財政のいわば優等生が早々に出口戦略を開始するのは、新興国主導で回復する世界経済に“ただ乗り”しよとするものにほかならない。
 だが当のドイツは、最近もフランスの財務相に、「ドイツは輸出優先の経済を内需重視に切り替えるべきだ」と批判された際、「そういう批判は、バイエルン・ミュンヘン(ドイツ・サッカーリーグの強豪チーム)に下手なサッカーをしろと要求するようなものだ」と一蹴したような“確信犯”だ。既定の赤字削減計画を変えることなどは考えられない(国内からの反応に対しては別として)。 
 ところで、こんどのムスコカ・G8サミットの議長国で、トロント・G20サミットの共同議長国(韓国と)となるカナダのハーパー(Harper)首相は、やはり参加国首脳に書簡を送り、「われわれの第一の目的は経済成長と雇用の創出を促進することにあるべきだ」と述べるとともに、「先進諸国はそれぞれの景気刺激計画が終り次第、財政状態を正常化することに政策の焦点を当てる、との明確なメッセージを発すべきだ」 と付け加えた。
 具体的には同首相は、G20各国は2013年までに財政赤字を半減させ、2016年までに政府債務の対GDP比率を減少過程に入らせることで合意するよう要請した(FT紙電子版、6月19日)。
 ちなみに、カナダ自身(今年度の財政赤字の対GDP比率は3%強でドイツ並み)は現在の2年計画の刺激政策を、その終了予定の2011年3月より先へは延長しないと約束しており、2015年までに財政赤字を解消することを目標としている(FT紙、同上)。
 
 以上から総合的に判断すると、カナダ・サミットのハーバー議長のメッセージの意味は、各国の景気刺激策は2010年(あるいは同財政年度)で終結させ(逆に、その間は続けてよい)、11年からは出口戦略を開始すべきだ、ということのようである。おそらく、実際のサミットでの合意点も、このハーバー・メッセージにそったもの、あるいはそのモディフィケーションに落ち着くのではないだろうか。  
 だが、ドイツなどの出口戦略は、ギリシャ、スペインなどすでにソブリン危機に直面しているユーロ圏諸国と同様に、10年中から開始されるのである。つまり多数のユーロ圏諸国およびユーロ未採用のEU加盟国(英国やハンガリーなど)は、ユーロ危機にせき立てられるかたちで、昨年あたりの予想より早期に、また世界景気の回復段階から見ても早期に、景気抑制的な政策を導入しつつあるわけだ。
 
 欧州諸国のこうした早期の出口戦略への移行とその影響による景気抑制作用は、アジア諸国を主力とする新興国(中国、インド、ブラジルなど)及び新工業国(韓国など)の現在の景気上昇力の強さ、日本、米国という世界経済ビッグ2の景気回復軌道への定着傾向を考慮すると、当面、世界景気を挫折させる公算は小さいと思う。
 しかしながら、より長期的な観点から見ると、欧州諸国を先頭に先進国(もちろん日本を含む)が景気対策の結果としての財政悪化の限界(国ごとにその程度の判断はまちまちだが)に直面し、今後そうした状態を続けられなくなったことの意味は重大である。その意味するところは、端的に言えば、世界経済が次の景気後退に入ったとき(10年代には遅かれ早かれあると考えるべきだ)には、各国は従来型の(ケインズ的な)有効需要政策(財政赤字をもってする)をとることが困難になるだろう、ということだ。
 
 先の話になるが、そうした場合にどうするか、あるいはどうなるか。世界はなお新興国などの成長力に期待するか(できるか)、停滞におちいるか、まったく新しい技術革新の時代を迎えるか、政策革新を模索するか、であろう。 
 ここで参考までに、政策革新についての私の持論を付け加えておくと、本稿では詳論の余裕はないが、これまでも随時述べてきたように(例えば当「診断録」2009年3月5日号)、①実質的には国家紙幣である中央銀行券(日本では日銀券)を、②これまでのように中央銀行を通ずる金融の手段(マネー過剰と過剰投機の原因ともなる)としてではなく、③政府支出として(つまり政府による需要の創造のかたちで)直接に民間に供給するように、④通貨供給方式を革新すべきだ、という点にある。
 
 それはとにかく、当面の問題に戻ると、オバマ米大統領によるブレーキにもかかわらず、先進諸国が急速に出口戦略へ向って傾斜しつつあることは確かである。        (この項 終り)

ユーロと為替安定

 本稿を「ユーロと為替安定」と題したのは、欧州諸国の共通通貨であるユーロは、いうまでもなく欧州諸国による経済的・政治的統合への努力の産物であるが、他の面から見れば、それはこれら諸国の為替安定への努力の結実を意味する、ということを説明したいからである。
 その際、「ユーロ圏諸国は通貨は共通でも財政が各国独自のまま(ばらばら)であることが構造的な弱点だ」という批判がユーロ圏外諸国で(とくに日本で)盛んに行われているが、そうした批判は、一面では自明のこと(ユーロ圏加盟国自身が承知していること)を遅れ馳せに言っているだけであるし、他面では為替安定をめぐる世界の歴史とその教訓についての認識不足を表している、ということを特に明らかにしたい。
 
 まず、近代資本主義の歴史において、為替制度は1970年代までは基本的には固定相場制(厳密にはごくわずかの幅でのみ変動する)であった。
 すなわち、欧米における資本主義発達期の19世紀から20世紀の30年代までの国際通貨体制は基本的には(国によって多少の違いはあったが)、よく知られているように、金本位制であって、その下での為替相場は安定的であった。そのメカニズムの要点をごく簡単に説明すると次のようであった。
 
 ①国際間(各国間)の決済、例えばフランスとイギリスとの取引きの決済は、ふつうは現在と同じように外国為替によって行われる。すなわち、ポンド為替(ポンド表示の為替)かフラン為替(フラン表示の為替)によって。
 しかし、仮にある時期のフランスの対英輸出額(例えば100万ポンド)が、イギリスからの輸入額(95万ポンド)を上回ったとすると、これはフランスの受取超過(5万ポンド)であり、そのためにポンドの外国為替相場(フランス・フランで買う相場)は下がる(ポンド安)。逆に言うと、イギリスの輸出業者が買うフランの外国為替の相場は上がる(フラン高)。
 
 ②しかし、ポンド安=フラン高があるところまで進むと、イギリスの輸入業者はイギリスで高いフラン為替を買ってフランスに送るよりも、まずポンドをイングランド銀行で金に替えて、これをフランスに送り(輸送費と保険料費がかかるが)、その金をフランス銀行でフランに替えて支払った方がコストがすくなくてすむようになる。すなわち2国間の支払差額がある程度大きくなり、為替相場の変動幅が大きくなると、為替が使われずに、金の国際間輸送(金の現送という)が行われる。そのために、フラン為替の需要は減り、それ以上のフラン高は起きないことになる。
 
 ③逆の場合は、すなわちイギリスが輸出超過になった場合には、ポンド高・フラン安が進むが、ポンド高があるところまで進むと、フランスの輸入業者は、フラン→金(フランス銀行で)→イギリスへ現送→金(イングランド銀行で)→ポンドの方法により、すなわち金の現送で支払をする方がコスト安になる。その結果、ポンド高もそれ以上には進まなくなる。
 このポンド→金、金→フランの交換、その逆のフラン→金、金→ポンドの交換は、その際に一定の手数料はかかるが、その比率は各中央銀行により固定されていた。それが各通貨の金兌換(だかん)制である。
 
 要するに、金本位制下の為替相場は、金兌換制を基礎とする金現送のメカニズムにより、その変動幅は自ずと限界づけられていた。その場合の基準となる相場は、それぞれの国での法定の兌換比率(それぞれの国の通貨と金との)をもとに計算される比率(為替平価)であり、為替相場の変動幅は為替平価のほぼ1%以内におさまっていた。
  つまり、金本位制下の為替相場は、通貨の兌換比率と金現送によって、その変動幅が自ずと狭い範囲内におさまるシステムだった。
 
 ここで銘記しておくべきは、こうした為替の安定が各国家の独立の下で(すなわち各国独自の財政の下で)実現していた、ということである。
 それを可能にしたのは国際間の金現送(金による国際収支差額の決済)だった。しかし、各国手持ちの金(金準備)には限度があるから、そうした金現送を無限に続けることは出来ない。その場合にはどうするか?
 そのような場合には、各国通貨(主として銀行券)は金を裏付けとして発行されていたから、国際収支が支払超過(赤字)で金が流出すると、通貨発行の準備が減るので、発行通貨量を減らさざるを得なくなる。つまり、金融収縮(デフレ的政策)が行われることになり、その影響で国内景気が抑えられ、輸入が減り、輸出が増えて国際収支が改善されて金流出が止まり、さらには流入に転ずる。
 要するに、各国は国際収支の赤字とそれによる金流出に対しては、国内を不況にしても収支の改善を図ることによって、為替相場の安定を実現したのである。このメカニズムは金本位制の「自動調節作用」と呼ばれた。
 
 その金本位制と、その下での為替安定は1929年からの大恐慌により崩壊した。すなわち不況の緩和のために各国内で通貨の金兌換が停止された結果(管理通貨制への移行)、金現送による為替安定のメカニズムが働かないようになった。むしろ多くの国は、意図的に為替相場を切り下げて輸出を促進しようとさえした(為替切り下げ競争)。こうして、1930年代は為替不安定の時代となった。
 そのような為替不安定の中で、限られた範囲ででも為替安定を実現したい場合には、いくつかの国がまとまって通貨グループを作った。ポンド・ブロック、円・ブロック、さらには金ブロックなどが形成された。そうした通貨ブロック化が、資源や勢力圏の囲い込みと相まってブロック間対立を激化し、それが戦争をもたらす一因(あくまで一因だが)となった。
 
 そうした30年代の為替不安定を克服しようとして、第2次大戦後には米国の主導で新しい固定為替相場制が再建された。それがいわゆるブレトン・ウッズ体制(IMF体制)の下での金・ドル体制である。
 このシステムの要点は次の通りであった。すなわち、①米国は外国の通貨当局に対しては一定比率(金1オンス=35㌦)でドルを金に交換した(ドルの金平価での交換)。そして、②米国以外の国は、自国の通貨の基準価値(平価)をドルで表示し 、結果としてそれを間接的に金の一定量と結びつけた。例えば日本は1㌦=360円が円平価で、したがって理論的には1円=1/360㌦=金1/35オンス÷360であった。これが金ドル体制と呼ばれたもので、ドルが基軸通貨と言われた所以(ゆえん)である。
 
 ③だが、この金ドル体制の下では、各国内での金兌換と国際間の金現送は行われない。そこで、もし為替相場が一定限度(IMF協定によって平価の上下各1%以内と決められた)を越えて上がる、あるいは下がる場合には、各国の通貨当局(政府と中央銀行)は為替市場でドル買い、あるいはドル売りの操作(為替市場への介入)を行って、為替相場の変動を1%以内に抑えた。
 これがブレトン・ウッズ体制下での為替安定メカニズム、そして固定為替相場制であった。
 
 しかし、④国際収支の赤字国は、自国通貨の為替相場の下落を防ぐために外貨準備(主にドル)を使って市場に介入する結果、ドル準備が減り、対外赤字を続けられなくなる。その場合には、赤字国は引き締め政策を行って、輸入を減らし輸出を促進して、赤字の解消に努めることが必要となる。
  その点は、金本位制下での金準備の減少とそれによる通貨量減少のメカニズムに似ているが、現代の各国の通貨制度は管理通貨制だから、引き締めの仕方は当局の裁量によって(つまり自動的にではなく)決められたし、またそうした引き締めの厳しさを緩和するために、IMFは要請により赤字国に外貨資金を融資した。
 こうして、国際収支の不均衡はそれを否応なしに調節することで、このシステムにおける為替の安定が実現されたのである。
 
 ところで、⑤ある国の国際収支の黒字が続くと、当局による為替市場でのドル買いが続いて、ドル保有が増えることになる。そうなった場合には、黒字国は保有ドルの下落のリスク(為替リスク)を避けるため、しばしば余剰のドルを米国の財務省で金に交換した。
 その金交換が、⑥米国からの過度の金流出(それをもたらす米国の国際収支の赤字)を抑える役割を果たした。つまり、そうした場合には基軸通貨国である米国も国際収支改善に努めざるを得ないことになっていたのである。
 
 しかし、そのようなIMF体制下の固定為替相場制は、米国が慢性的に国際収支赤字を続け、米国からの金流失が長期間続いたため、1971年に米国が外国に対する金交換を停止したため崩壊してしまった。要するに、為替安定を保証する国際収支節度を、制度の基軸であった米国が放棄したのである。
 その結果、曲折を経て、世界の為替相場は1970年代に変動相場制に移行した。そうした変動相場制の下で、黒字国例えば日本は、傾向的に円高(円に対するドル安)となり、またしばしば過度の円高に見舞われるようになった。 こうして、世界は再び(1930年代以来の)為替不安定時代を迎えることになった。
 
 この為替不安定化に対して、欧州諸国は自衛策として早くから連携して相互の間の為替相場安定化を図ろうとした。その努力が、詳細説明は省略するが、これら諸国間(域内)における為替相場変動幅の縮小を経て、各国通貨の独自性を維持したままでの欧州通貨制度(EMS)と欧州通貨単位(ECU)の創設(1979年)となり、曲折はあったが、やがて共通通貨ユーロの創設(1999年)とユーロ現金の流通開始(2002年)に至ったわけだ。 
 その結果、現在ユーロを採用しているEU(欧州連合、加盟27ヵ国)の中の16ヵ国(ユーロ圏諸国)の領域(人口計3億2500万人の広域経済圏)の中では、為替変動なるもの(というより外国為替そのもの)は無くなったわけだ。これは域内諸国には大きな魅力で、したがって外部からユーロ圏に入ろうとする国が続いているのである(独自通貨を維持しようとする英国などを除いて)。
 
 統合が進んだとはいえ、依然として独立国で構成するユーロ圏内で、この制度を維持する保証が財政規律(財政赤字をGDPの3%以内に抑えるなど)の維持である。それは、金本位制や金ドル体制の下での国際収支節度に対応するものである。
 その財政規律が、大きな不況の影響でいくつかの国で守られなかったために、今回のユーロ危機が発生した。しかし、欧州諸国の為替安定への執念と、欧州統合へ向おうとする長年の努力を考えると、このユーロ制度が簡単に「崩壊する」ことはないであろう。
 日本も、いつも為替相場の大きな変動(特に円高)に悩まされているのだから、米国流の反固定相場論に立ってユーロ制度を冷ややかに見るのではなく、為替安定化への欧州諸国の努力から多くを学ぶべきである。   (この項 終り)

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