山椒魚の洞窟から

今さらながら。トッキュー。はじめました。

おしらせ

明日のCOMIC CITY 112、

インテ6号舘Aメ43bにて、

無配お願いしてます。

良かったらもらってください。

サナシマです。

山椒魚

この記事に

開く コメント(0)

TQ 128

倉庫の入り口から風に乗り上司の煙草の匂いが届いて、武山は慌ててデスクに向かった。案の定、上司である真田の姿はそこになく、デスク上の定位置に煙草も見当たらないから、武山は自分の煙草を掴んで喫煙所に向かう。昼休憩には少々早いが、上司が一服しているついでに吸ってしまおう。こんな時、上司が喫煙者であることは、昨今の厳しい環境で肩身が狭いばかりの喫煙者にはありがたい。そういえばライターのガスが心もとなかったな、と思いだしつつ、軒先の灰皿の向こうの先客に声をかけた。

「おつかれさまーす」
「お疲れ様です」

返ってきた声の位置の低さに、あれっと下を向けば、中学生のような幼顔で堂々と他人の煙草を吹かす嶋本隊長がこちらを見上げていた。

「アレは基地長室」
「あ……そうスか」

思わず手のひらに煙草を隠した武山に、嶋本は「なんや、吸えや。吸いにきたんやろ」と真田の愛用のジッポを差し出した。断るのも恐ろしくて素直を煙草を口にくわえると、手慣れた様子で火をつけてくる。
年季物で角の丸くなった真田のジッポは、日々丁寧に手入れがされているものの癖があり点火しずらい。たまに借りた部下が苦戦するのを真田は「こいつは人を選ぶからな」なんて嬉しそうにからかうのだが、そこは流石は長い付き合い、嶋本隊長は難なく扱えるんですね、なんて煙を吐きつつ話題にすれば、嶋本の顔は
なんとも嫌そうに歪み、そうして、「別にアレにやったつもりないんやけど」と吐き捨てた。

それから数日間、100円ライターで過ごす真田のことは気が付かない振りをした。


タバコはレンタル料

この記事に

開く コメント(0)

TQ小話127

 
残酷な青空
 
薄いピンクと白のレースがふんだんに使用された上質のベッドシーツに嶋本はごろりと横になる。新婚夫婦向けに設えられた淡く甘い装飾の部屋が直前にキャンセルされた事情など知る由もないが、おかげで嶋本は格安で広いダブルベッドを独り占めできている。
怒涛の年末年始の当直勤務を終えた部下を労って帰宅した官舎で、汚れた着替えを洗濯機にかけている間に、帰省前のメールをチェックしようと起動した画面に浮かび上がった「今からでも間に合う海外旅行」という広告記事とインドネシアの六文字を視認した数分後、嶋本はパスポートを手に先ほど離れたばかりの羽田へと向かっていた。そうして、洗濯機の中の洗濯物を干し忘れたことと、入ったばかりのボーナスがこの二泊三日で消えるという事実にようやく気が付いたときにはもう、飛行機の小さな窓から青い海を下に眺めること以外に嶋本にできることはなかった。
 
着いた当日は長旅の疲れを理由にした。
けれども完全フリーな二日目も昼食を食べた嶋本はまだベッドの上で動けずにいた。
後は、床に脱ぎ捨てた靴を履き、エレベーターで下に降りてフロントで頼んだ車で海へ向かうだけだ。6000キロの距離は勢いで飛び越えることができたというのに、残りの数キロがなぜだかとてつもなく遠い。
 
真田の居住地の住所は知らされていない。抑々、嶋本が渡尼することなど想定されていなかった。
 
派遣前は互いに忙しく二人きりになる機会はなかった。物陰に隠れて掠めるようにキスはしたけれどもそれ以上のことはできなかった。
それは、真田にとっては偶然ではなく必然だったのかもしれない。
基地に届いたメールに、もしかしたら自宅に嶋本個人宛の私信があるかと期待したばかりに落胆することを何度繰り返したことだろう。初めから派遣中に連絡を取り合う約束なんてしていなかったのだと思い出して独りで笑ったのはつい最近のことだ。
 
世界一汚いと評されるあの黒い海で、現地の人と見違える焦げた肌で髭をたたえ、今日も真田は新しい仲間と夢中に訓練をしているのだろう。
そこに笑って現れたらいい。
日本で一緒にレスキューをしている同僚が休暇のついでに寄ってみただけだと、せっかくだからインドネシアの基地を案内してほしいと言うだけでよい。
建物の隅で隠れてキスを貰うことなど望まなければ何も恐れるものはないのだ。
 
それでも嶋本の背中は純白のシーツからなかなか剥がれることはせず、そのうちに外は雨季特有のスコールが降り出して、プールサイドの水着の親子も土産を吟味する観光客もホテルの前で車を磨く運転手も皆一斉に軒下に避難して雨を避けはじめた。こんな土砂降りの中をあえて外出させるのは運転手にも気の毒だ。そう独りごちて嶋本は静かに目をつぶった。
 
永遠に止まなければいい
そうすればこの部屋を出なくて済む
 
けれども嶋本の願いもむなしく、厚いスモッグをスコールで洗い流したジャカルタの空は近年稀に見ないほど青く澄んでいた。

この記事に

開く コメント(1)

開く トラックバック(0)

TQ 小話126

序章
(役所真田×農家嶋本)



オレンジ色に染まる棚田の間の細い坂道を真田は古い公用バイクでガタガタと音を立てて登っていた。
県庁所在地から単線で約1時間の位置にある、平成の大合併で市になんとかくっついた旧村の村役場からさらに1日数本のバスの終点にある小さな出張所が地方公務員である真田の現在の職場である。
一応は出張所の二番手、技術屋のトップの地位にはあるけれども職員数4人の上に所長と自分以外は公用車を運転してはいけない臨時職員であるからして、必然的に外回りは真田の仕事だった。

「ハの番の進一郎さんとこに昨日から電気が着いとるんじゃが。法事もないのに」

散歩がてら出張所に寄った住人が茶を飲みながら所長に話したのは夕方4時前のことだ。昨今、田舎の空き家屋に他所からの不審者が住み着くという物騒な例も無くもなく、すぐさま所長は真田に様子を見てくるように指示を出した。
この地域は、出張所やJA支所があった中心地から近い集落ごとにイロハの符号かふられており、ハの番とは一番山深い所にある十軒ほどの家々を指す。進一郎という名前に真田は心当りはない。住人の説明によれば、嶋本進一郎という男性が亡くなったのは真田が赴任する前のことだ。半年前に3回忌の法事を終えてからは親族の出入りもないはずの家に昨晩、灯りがついていたという。
登りきれるところまで登ると真田はバイクを道の脇に寄せ、徒歩で目的地に向かう。姓は嶋本だが家老筋の佐藤家の姫君を嫁にもらったとかで、「佐藤」と呼ばれる家の石垣に蛇のように巻きついた細い坂道の上に建つ故嶋本進一郎氏の家の庭に見えた人影に真田は声をかけた。

「すいません、役場の者ですが」
「はい?」

石垣の上から20代前半の癖毛の若者がひょっこりと顔を出した。特長あるつり上がった眉をしている。

「出張所の真田といいます。進一郎さんの親族の方ですか?」
「あ、孫です」
「家の様子を見られに来られたのですか?」
「いえ、ここに住もうかと思って」
「君が?一人で?」
「そうですけど何か」

ムッとしたように眉をしかめた相手に慌てて真田は謝罪する。

「すみません。こんな田舎に若い方が来られるのは珍しいので、つい失礼なことを。転入届けはお済みですか」
「明日、するつもりです」

未だ硬い口調の相手に真田は己の失態を悔やむ。いつだって役人らしく当たり障りのない対応を心掛けていたというのに、思わず素で驚いてしまった。久しぶりに対峙する同年代の人物に少なからず興奮しているのかも知れない。

「受付は5時までです。お待ちしております」
「は……」

返事は途中で途切れた。彼の視線の正面の山際で、いまにも消えようとしていた太陽が一際大きく膨らんで、あたり1面をオレンジ色に染める。息をのみ、言葉をなくして見いる横顔に真田は声をかけ損ね、そっとその場を離れ坂道を下る。

「逃げたんです」

「え、」

振り返れば、彼はまだオレンジの光に囚われたまま瞬きもせず、

「全部捨てて逃げてきたんです」

真田の背後に寂しく微笑みながら告げると、彼は吸い込まれるように石垣の向こうに消えた。
建て付けの悪い引き戸が派手に軋む音に我に返った真田は早足で坂を下り、バイクに飛び乗った。
もう夜はすぐ其処まで来ている。
先程まで親しげに真田を見守っていた山の木々たちは、オレンジの空が黒い幕に覆われた途端に態度を変えザワザワと善からぬことを喚き散らす。
市の助成金で建てられたLED街灯がまばらに照らす中をガタガタと小石を跳ねながら出張所にたどり着けば、まだ誰か残っているのだろう窓越しに聞こえる人の声に真田は少しほっとして、バイクを建物の隅の駐輪場に納める。
ヘルメットを脱いで見上げれば、黒い空と暗い山の狭間でいくつかの光が揺れていた。
山肌の一番小さな頼りない灯りが空からの風に吹き消されそうになる度に、その下で何かから逃げてきた彼が棄ててきたものを思って泣いているような気がして、しばらくの間真田はずっと彼の灯りを見守っていた。

この記事に

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

TQ小話

一枚の紙(サナダシマモト)

無言で一枚の紙を見つめる男たちに店員は持ってきたコーヒーをテーブルの端に置くと早々に立ち去った。昼のピークを過ぎて人の少ないファミレスの一角を陣取った四人の男たちは運ばれて来たコーヒーに手をつけようともしない。
小柄な男性のうち若い方は困惑気味に紙から同席者、また紙というように視線を動かし、その彼の兄のようにそっくりな男は大変恐縮したように俯いている。もう二人は陰陽対称的な雰囲気を持つ男前で、短髪の生真面目そうな方がむっつり不機嫌そうなのに対して長髪の軟派そうな方は大変機嫌がよさそうだった。

紙には5LDKの間取り図が記載されていた。消費税が上がる前の駆け込み需要を見込んで県庁前に建てられたツインマンションと呼ばれる田舎に不釣り合いな高層マンションは、県庁に出勤するにはバイパスを横切らなくてはならない上に、近くにスーパーもないことから完売とならず、特に広い間取りは大幅に値を下げており、それをリフォームして事務所兼自宅にするというサナダの説明を、そう言えばアスベストが検出された博物館の再建築計画のメンバーにサナダの名前があったなとシマモトはぼんやりと聞いていた。

「この二つあるsimamoto's roomとは何ですか」

真田が間取り図を指差して尋ねた。爪で机を叩くカツンカツンという音がその苛立ちを伝えている。

間取り図では、玄関を入ってすぐの二部屋を繋げて事務所にした空間の横に小さな三畳ほどの小部屋と、サナダの部屋であろう広めの寝室の隣の五畳ほどの個室に「simamoto 's room」と記載されていた。

「こちらは勿論嶋本の部屋だ。前からよく泊まることはあったからな」
「仕事で徹夜の時とかです!」

嶋本が慌ててサナダの言葉を打ち消した。

「夜中にあんな山道を帰るのは危険だからな。部屋があれば嶋本も気兼ねがないだろう」
「つまりは部下に超過勤務させる気満々だと」

締切のある仕事をサナダと共同で行っている嶋本が、その佳境にサナダの部屋に何泊も缶詰になるのは、勿論嶋本の現在の恋人である真田も理解はしているが、それと個人部屋を設けるとは話が違うと言いたげにサナダの方を睨み付けた。

「確かあのマンションは下層階が賃貸だったな。そこを俺が借りよう。嶋本はそこから仕事場に通えばいい」
「でも、家が……畑も……」
「休みの度に帰ればいい」

サナダの本拠地移動に先だって、嶋本は数年前の豪雨で被害を受けた祖父の家で唯一残った納屋に水回りを増築しており、庭先の畑に先月末、真田と二人で大根の種を蒔いたばかりだった。真田は春に市役所支所から本庁舎に異動した後も支所側のアパートに住んでいたから、この際二人で市内に移り住み、休みは山で凄そうなんてプロポーズ紛いの言葉を真田が嶋本に訴える横で、シマモトは隣に座るサナダの袖を引っ張って「なあ、」と声をかけた。

「このもう1つのsimamoto's roomは?」
「もちろんシマモトの部屋だ。いつまでも島にはいないだろう?うちからなら県庁に歩いていける」

ああ、やっぱり、予想はしていた台詞を子供のように嬉しそうに言われて少々拒絶するのを躊躇ったシマモトの代わりに真田が冷たく事実を伝えた。

「シマモトは土木の技術屋ですが。利益供与で捕まります」
「恋人と同棲して悪いのか」
「問題になります」

サナダと真田のやり取りに嶋本が不安そうにシマモトに尋ねてきた。

「俺と住むのも問題になるん?」
「真田さんは農林系だから大丈夫やと思いますよ」

シマモトの返事に嶋本は安堵した様子を見せる。もしもの時、真田は間違いなく仕事ではなく嶋本を選ぶであろうけれども、だからこそ嶋本は真田の負い目になるまいと意識して振る舞っている節があり、その様子が真田を不安に陥れるのか、真田は嶋本を囲いこみ独り占めしようとする傾向があった。
対称的にサナダの方は自由極まりなくオープンにシマモトへの愛情を表現する傾向があった。シマモトのようなヒラ公務員が知り得る情報はたかが知れているが、それでも同じ業界の行政と業者が個人的に親しすぎるのはやはり問題視される危険性がある。だから事務所の看板がかかったサナダの部屋に大っぴらに出入りはできないし、況してや一緒に住むなんてあり得ない。

「では事務所の入り口とは別に玄関を作ろうか。それならば外からは俺の部屋に来ているとは分からない」
「それならまあ……でも同居は無理やで」
「奥の勝手口を弄れますかね」
「嶋本の部屋は撤去してください」

各々好きなことを言い合って、ようやく男たちはコーヒーの存在を思い出し、冷めきった液体を飲みだした。

「シマモトの部屋の壁紙はどうしようか?」

まるで妻にマイホームの壁紙を尋ねる夫のように優しくサナダが聞いてくるから、何故だか無性に恥ずかしくなって「サナダさんに任せます」なんて初な新妻の真似みたいな返事をするんじゃなかったと、シマモトは自分の為に用意された部屋に案内された瞬間に心底後悔した。


世の中にはオオサンショウウオ柄の壁紙なんてものもあるんやな……

この記事に

開く コメント(0)

開く トラックバック(0)

[ すべて表示 ]


.


みんなの更新記事