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それは、偶然だった。
いや、もしかしたら狙われていたのかもしれないが、多分ただの偶然だったんだろう。
僕は街角で偶然声をかけられたんだ。
町の中心部から少し外れた場所に住む、人気者の紳士に。
「あなたは、スクランブルエッグが作れますか?」
僕は、この町に出稼ぎに来ていた。ロンドン(あの町)ほどじゃあないけれど、この町もそこそこ大きい町だし、汽車の駅だってある。稼ぎどころとしてはまぁまぁの町なんだ。
それにしても、出稼ぎというのは色々と大変なことばかりで、今日も旦那様にパシられて花を一輪買いに来た所だった。
ちょうどその時その花屋の前で、僕はその紳士に声をかけられたんだ。
「ス、スクランブルエッグ・・・ですか?」
「そうなんですよ。私、どうもあれだけは作れなくて・・・」
この人の名前は、確かジャンフォードさん。
この町では、とても有名な紳士だ。
女性に優しくて、面白くて、スマートで頭もいい。少し軽い感じの人だが、町でよく評判になる。町外れに住んでいて、普段何をしてるのか気になるがとにかく人気があった。
「っと、申し遅れました。私の名前はジャン。ジャンフォード・ラルミティオスです。あなたは確かチャールズの所の使用人さんですよね。なんて名前だったかな・・・」
あなたの名前は、この町にいる人なら誰でも知っていますよ・・・。
と言いたくなるが、それよりも僕のことを知っていてくれたことにびっくりだ。
「マッカートニーです。トニーって呼んでください」
「そうだそうだ、マッカートニー君だったね。ど忘れしちゃった」
噂では、フォードソンさんは町人全ての名前を覚えているらしい。とても真似できることじゃないよ。
「で、話を戻しますが、スクランブルエッグは作れますか?」
「ま、まぁ・・・人並みには」
フォードソンさんの顔が一気に明るくなる。
「そうですか!じゃあ、今すぐ私の家に来てください!」
「えぇ!?」
「で、でも僕、旦那様から花を買ってくるように言われてて・・・」
「大丈夫です大丈夫です。チャールズですよね?私から言っておきますから」
旦那様のチャールズ・ミラードは、この町で二、三番ぐらいの金持ちだ。爵位は持っていないらしいが、近々息子の一人が子爵の娘と結婚するので、念願の爵位が手に入るのだと言う。
爵位持ちというのは、簡単に言えば貴族のことだ。産業革命後は次第に力をなくしているが、まだまだ市民の及ぶ所ではない。爵位と言うぐらいだから、もちろん貴族の中でも身分が違う。下からいうと、男爵、子爵、伯爵、侯爵、公爵となる。
前述したとおり、ミラード家は子爵の娘を娶ることになっている。貴族に仲間入りして、なおかつ下から二番目の地位に入れるわけだ。
もちろん、子爵の娘を娶るぐらいだと、それ相応の資産家でなければならない。
私が何に驚いているか、お分かりだろうか。僕は、そのミラード家当主の旦那様に対して、名もないようなフォードソンさんが対等に話せることに驚いてるんだ。
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