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柳生家応接室。
「君は、どうして東城のことが好きなんだい?」
九兵衛の素朴な質問。
「ちょっと、長くなるのだけれど…」
「構わない」
「では…」
一姫は、こほんと一つ咳払いをした。
『回想シーン』
私が子供の頃。と、言っても数年前のこと…。
私が、この柳生の家に泊まりに来たとき、私は庭で蝶々を追いかけていたとき…
『べち』
「痛っ」
着物の裾を踏んでしまって、転んでしまったの。そのとき…
「大丈夫かい?」
王子様のように現れて、私を助けてくれたのが、東城さまだったの。そのときの声が、綺麗で優しくて…
『回想シーン終了』
「それ以来、東城さまの声が好きで好きで」
一姫は、またうっとりした表情になった。
「確かに割合最近、君が泊まりに来たときはあったが…そのときだったのか」
「うん!」
満面の笑みのを浮かべる友人を見た九兵衛の心にとある想いが生まれた。
「一姫…」
翌日。
「若…今、なんと…?」
「一姫と2人で出かけて来てくれと言ったんだ」
「急に、何故そのようなことを?」
平静を装ってはいるが、東城の声はかなり震えている。
「昨日、一姫と出かける約束をしたのだけれど、はずせない急用が出来てしまったんだ。だから、お前に代わりに行って貰おうと思ってな」
そう九兵衛が言い終わると、
「九兵衛くん?」
部屋に一姫がやって来た。
「一姫。済まないけど、今日は東城と言ってくれ」
「どうして?」
硬直して、何か呟いている東城の横をすり抜けて九兵衛は、一姫のところに行く。
「どうしてもはずせない用事か出来てしまったんだ」
「そうなの…」
少し残念そうに、少し嬉しそうに一姫は応えた。
「済まない」
「いいの。用事があるのなら仕方ないもの」
にっこり笑った一姫を見た九兵衛は、笑顔を崩し、きりりとした表情で振り返った。
「分かったな。東城」
若が言ってもなにも言わない東城。一姫と2人で出かけるのが怖いのだ。
「東城?」
九兵衛は、そんなこと知ったこっちゃないので、眉をひそめて東城をみる。
「…」
「???」
首を傾げる九兵衛は知らない。 一姫がどれほどまでに、東城の声を愛し、それを聞く為にどんなことをしているのかを…。
「東城さま…」
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