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一年ほど前に、私は自社のWEBサイト立上げの仕事をしていた。
発想型の私にとっては楽しい仕事だったものの、人間の姿でいられたのもアイデア出しの段階位までだった。
実際にモノが出来上がってからは、カットオーバーに向けてのテストなどの作業マシーンと化し、
深夜27時ごろにノーメークで幽鬼のようにオフィスをふらつく日々が続いた。
しかも「ガソリン注入せにゃやってられん」と喚き、
ビールをスタバのカップに入れ替えて呑むという小賢しい術まで繰り出していた。
そのプロジェクトメンバーにはA君という20歳半ばの見目麗しいシステム担当の男子がいた。
ドイツ語を操り写真が趣味という嫌らしい位の好青年っぷりに加え、外見が美しいのだ。
そう、格好いいというより明らかに顔が凡人とは別工場で作られているような整い具合なのだ。
我々凡人が地方都市のさびれた工場にある油の足りないコンベアーで量産される顔だとしたら
彼は中国三千年の歴史を背負う彫刻職人が数ヶ月かけて魂込めて造り上げたような顔なのだ。
例えばとある深夜。
私が同僚の女子(齢34歳)と「熱冷まシート」を油ぎったデコにぺったんこしながら、
休日の冴えないおっさんのような格好で仕事をしている時でも彼だけは違った。
別フロアで働いている彼が私のフロアに入ってくると、まず空気が変わる。
それまでドブ川臭漂っていたフロアに明らかに柑橘系のアロマが注入されるのだ。
そして清涼感漂うボイスで「Mさん、お疲れ様ですっ」と挨拶。(←語尾はもちろんスタッカート)
「ねえねえ、A君はさ、さ。小鼻がテカったり目が血走ったり体から異臭を発したりしないの?ねえねえ」
と合コンでのしつこい男のように私は彼に絡む。
「何いってるんですかっ、Mさん。
僕だってこれでもいつもよりは全然疲れ出てますよっ」(←語尾はさらにスタッカティシモ)
む!
「うちは大手予備校だから、おタクのよーな弱小予備校とは偏差値算定基準が違うんです」って話かい!
こりゃ穏やかじゃない。日本お受験界をも巻き込んだ紛争に発展しかねない。
ま、そんな荒ぶる鼻息はさておき、彼は仕事のセンスもそこそこあり、私が可愛がっている後輩の一人であった。
そんな彼と私の間でとあるページのデザインについて意見が食い違った。
こればかりはセンスの違い、つまりは「好き嫌い」の話なのでお互い主張していても妥協点が見出しにくい。
ということで、我々二人は各々トップにプレゼンをして結論を出してもらうことにした。
「けっ、この青二才めえー」。
と営業経験の長いヤギ・・・ではなく私は半ば彼を見くびり、そして半ば楽しんでその場を迎えた。
プレゼンの結果は予想通り、私の案が通った。
とはいえ、彼の主張も最もな部分があったため彼の推したデザインは別ページで採用することとなった。
つまりお互いそこそこに気持ちのよい結果を迎えることとなったのだ。
が、そのプレゼン前夜、実は私は彼に負かされていたのである。
私は彼に「どや、青年。準備はばっちりか?」と子猫をじゃらすような口調で聞いてみた。
彼はいつものように爽やかな笑顔で
「緊張して全然ダメですよ。でもMさん・・・」と答えて、私に鋭い眼光を向けた。
整った顔だけに凄みが増す。
私は「な、なんや!?文句でも言われるんか」と身構えた。
「でもMさん。明日・・・、僕は男になりますよ!」
ばっきゅーん!!
あ、Mさんが死にました。
どうやら44ラブマグナムに胸を打ちぬかれた挙句、青リンゴBOMを踏んだようです。
白目を剥いてフロアに大の字で倒れています!
即死!秒殺!しかしデスマスクがニヤけててかなりキモい!!
という別の後輩の実況中継が脳にコダマした。
・・・なななななんやねん!その可愛くも小っ恥かしいキラートーク。
よっしゃ、ええで!今すぐ男にしたる。
誰か車回しといて!あ、窓にはスモーク貼っといてや。
年上のS嬢を一発で打ち抜いた名スナイパーのキミ。キミは今すぐホストに転職した方がええ。
いや、ショーミの話。私は彼のその青臭さが少し羨ましくもあった。
私もかつては自分の商談を上司に取られて地下鉄で泣いて訴えかけたこともあった。
ひとつ上の先輩が賞賛を受けるたびに「私だって」とトイレで歯軋りしたこともあった。
もちろん、今更そんな情熱を日常的に持とうとは思わないし、必要とも思わない。
私はそんなガツガツするような年次でも立場でもないからだ。
ただ彼のそんな台詞に胸を打ちぬかれる感性が残っていることに少し私は安堵した。
その日の晩、私はずいぶん久しぶりに自宅でひとりプレゼンテーションのロープレをした。
ちゃんと一人のビジネスマンとして彼と対峙するために。
そしてちゃんと完璧なプレゼンで彼を負かしてやるために。
〜三十路女のハートに一発でパンチ・インした青年の名言〜
「僕は男になりますよ!」(atビールが床にこぼれてアワワなオフィスフロア)
なお、彼はその数ヵ月後に中途入社してきた年上の女性と交際数週間で電撃結婚してしまった。
彼がプロポーズでこのキラートークを使ったかどうか定かではないが、
我々三十路女子同盟の夢と希望をばっきゅーんとブレイクさせてしまったことは事実である。
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