さすらい物書き裏ブログ 旅と魔法と殺人鬼

いくつもの“道”が交わる、移ろいの交差点へようこそ。

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ジャンル論や定義論なんて、語っている当人だけ盛り上がって熱くなって、聞かされる方としてはどうでもいい話、なんてことはよくあることです。

実際、ジャンルなんてあってないようなもので、観る人にとって受け取り方も違うし、ジャンルの定義もけっこうあいまいで、人によって云うことが全然違ったりする。

ある意味無駄な論議なのかもしれませんが……

それでもどうしても一度述べておきたかったテーマなので、
是非ともお付き合いいただきたいと思います。

前置きはこのくらいで。


それではさっそく参りましょう。


【さすらい物書きのジャンル論 ホラー、ミステリー、スリラー、サスペンス編】


まず最初に、「ホラー」と「ミステリー」の定義と比較から。


ホラーとは、「“恐怖”を主題とするもの」である。

ミステリーとは、「“謎”を主題とするもの」である。


定義は、これだけである。複雑な条件付けはいらない。

殺人事件がでてこなくても、犯人が冒頭で判明していても、そうでなくても、謎が主題なら「ミステリー」だ。

僕が好きな推理小説に、米澤穂信の
『春期限定いちごタルト事件』
『夏期限定トロピカルパフェ事件』
『秋期限定栗きんとん事件』
という青春ミステリーがあるが、これらには殺人事件はでてこない。日常の謎を扱った作品だ。

例をあげればそれこそ枚挙にいとまがないだろうからやめておくが、ほのぼのタッチのミステリーなんてたくさんあるし、名探偵が出てくるミステリーの方が数は少なかろう。


ミステリーは、例えるなら
「作者と読者のゲーム」だ。

ゲームであるから当然ルールがあり、勝敗がある。

一般的なゲームと違うところは、読者は「負けることを望んでいる」という点だ。

作者が張り巡らせた伏線やトリック、フェイク、ミスリードにより、読者は「騙されたぁ!」と、気持ちよくノックアウトされることを望んでいる。

そのさい、ルールを無視した無粋な勝負や武器などを用いた反則技で負かされたいのではない。
ヒントもなく、論理に破たんのあるトリックで騙されても、面白くも何ともない。

作者はルールを守り、真相にたどり着くに十分なヒントを読者に提示した上で、読者をだますという勝負を挑まねばならない。

そういうゲームだ。


一方、ホラーはゲームではない。

ホラーはもてなしだ。

ホラーの作り手と鑑賞者の関係は、料理人とそれを味わう者の関係であり、ホストとお客様の関係だ。


作り手は、より良い材料を揃え、腕によりをかけて、“恐怖”という名の御馳走を観る者に提供する。

僕たち観る側は、ただそのご馳走を味わえばよい。

勝負は挑まなくてもいいし受けて立たなくてもいい。ただもてなされればよいのだ。

作品に向かう姿勢は、ミステリーとホラーではこんなに違うのだ。


さて、それではいよいよ、
「スリラー」と「サスペンス」の違いという難物に挑戦しよう。

まずは、辞書をひいてみる。

【スリラー】
映画、小説などで観客や読者にスリルを感じさせることを狙った作品。

とある。

【スリル】
それ自体不快ではなく、むしろ楽しみの対象となるような恐怖や不安感。「スリルとサスペンス」「スリル満点」

スリルをひくと、こう書いてある。
では、サスペンスはどうか。

【サスペンス】
物語の展開が、観客や読者に与える不安と緊張感。「スリルとサスペンス」

とある。


では、僕が考える、スリラーとサスペンスの定義を述べよう。

さきほどのホラーやミステリーのように、「○○を主題としたもの」という表現をするなら、

「スリラーとは緊張感を主題としたものである」
となる。

そして
「サスペンスとは緊張感を主題としたものである」
となる。

……どっちも一緒じゃないか! と突っ込まれる前に続きを述べよう。

スリラーもサスペンスも、メインになるのは緊張感や緊迫感、不安感ということになってしまう。

その上で、
「恐怖に重きを置くもの」をスリラーと呼び、
「謎に重きを置くもの」をサスペンスと呼ぶ。

これが僕の現時点での結論だ。


“サスペンスの神様”と呼ばれるアルフレッド・ヒッチコックの作品はまさに純然たる上質のサスペンスが立ち並ぶ。

『バルカン超特急』
『レベッカ』
『ロープ』
『裏窓』
『北北西に進路を取れ』
etc.

これらの作品の雰囲気を思い起こしてほしい。“恐怖”を感じるシーンはそう多くないはずだ。一方、謎めいた展開、明かされる秘密、真相。そういった要素は多々ある。

テレビドラマの「火曜サスペンス劇場」なんかは、僕に云わせれば社会派ミステリーの部類にジャンル分けしたいが、その長い歴史に敬意を表して、サスペンスに分類することとしよう。
ある種の緊張感の中で、謎に重きを置いた作品、と見ることもできるからだ。

一世を風靡した“ソリッドシチュエーションスリラー”の『SAW』シリーズ。
これらにはどんでん返しや観る者を騙す“謎”は満載だが、それでも、基調となる空気は“恐怖”が支配的だ。
重心は、謎よりもどちらかと云えば恐怖にあると感じる。
だから「スリラー」なのだ。

僕が一番好きなスリラー映画はカミーラ・ベル主演の『ストレンジャー・コール』なのだが、
この作品に登場する侵入者、犯人については、謎だらけで、動機も正体もわからない。
そして、その謎は解けず、わからないまま終わる。
スリラーは、それでいいのだ。観に迫る緊張感が味わえて、そのハラハラドキドキは、恐怖をもたらす。

ときにスリラー作品はホラー映画と混同されることがあるが、どちらも“恐怖”に親愛性が高いからなのだ。仕方のないことなのだ。

『CUBE』も謎は解けない。謎の解明より、その状況に置かれてしまった混乱、絶望感、死の緊張感、恐怖、そういったものを味わう映画だ。
だから、スリラーに分類される。

『暗闇にベルが鳴る』も、ストレンジャーコール同様、犯人の正体も真相も判明しない。本作は「恐怖映画」と呼ばれることもある。
この作品も、スリラーなのだ。


キリがないのでこのくらいにしよう。

最後におさらいでもう一度、定義について繰り返す。

僕が考える、
ホラー
ミステリー
スリラー
サスペンスの定義は、

「恐怖を主題としたもの」→「ホラー」
「謎を主題としたもの」→「ミステリー」
「緊張感を主題とし、恐怖に重きを置いたもの」→「スリラー」
「緊張感を主題とし、謎に重きを置いたもの」→「サスペンス」

である。

以上、
さすらい物書きのジャンル論、ホラー、ミステリー、スリラー、サスペンス編でした。

ご静聴、ありがとうございました。

この記事に

閉じる コメント(9)

物凄く”腹入り”の良い説明誠に有難う御座いました。
長年喉に閊えた魚の骨がスコン!と落ちたような心持に御座います。
自分もスリラーとサスペンスの明確な違いを自分の中で自問自答しておりましたがなかなか答が出ませんでした。なるほど言われて見れば尤も
流石中島梓(栗本薫)氏の最後の弟子だけの事は有りますね<(_ _)>

2010/1/16(土) 午前 0:35 C-KOA 返信する

はじめまして。訪問履歴からお邪魔いたしました。
なかなか興味深い検証ですね。あんまよく考えずに適当に使ってましたが・・・なるほど、今後の参考にさせていただきます。

2010/1/16(土) 午後 5:14 HERO-K 返信する

いつも素朴に疑問を持っていました。
ツタヤ(またもや、ですが・・・)でジャンル別に探すと、どうしてこれがホラー?とか、何だかごちゃごちゃでより分からなくなっていました。
すごく興味深いです。なるほどなぁ。
長年の謎が解けたといった感じです。

2010/1/17(日) 午後 7:52 みくる 返信する

>C−KOAさん

中島梓には僕が一万人かかっても足元にも及びませんが(汗)、それでも最高の褒め言葉をいただき素直に嬉しいです(照)。

書いてる本人も、自身の感じている印象を100%文字で表現できているとは思っていませんが、90%くらいは表現できたかなと。
これからも考察を続けます!

2010/1/23(土) 午前 9:33 [ さすらい物書き ] 返信する

>HERO-Kさん

ようこそお越しくださいました!
タイミング悪く体調崩してて、お返事が遅くなってしまったことをお許しください。

「サスペンス」と「スリラー」を明確に分けて使っているところは非常に少なく、レンタル屋やレビュー系のブログなどでも「サスペンス・スリラー」って、ひとまとめにしてあることが多いですもんね。

ただ、「人それぞれ」って言葉で片付けるのが嫌いな性分なので(笑)いろいろ語ってみました。

今後とも、お気軽にお立ち寄りいただけると嬉しいです。
なにとぞよろしくお願いいたします!

2010/1/23(土) 午前 9:41 [ さすらい物書き ] 返信する

>みくるさん

「なんでこれがサスペンス? ホラーじゃん!」
「なんでこれがSF? ファンタジーじゃん!」
なんてことをTSUTAYAでなんど呟いたことか(笑)。

ジャンルわけには正解はないけど、あまりにも適当な置き方をされると探せないから困るんですもんね。

参考になったとしたら光栄です♪

2010/1/23(土) 午前 9:46 [ さすらい物書き ] 返信する

>さすらいさん
・・・90%。やっぱ凄いッスは^^;

2010/1/23(土) 午前 9:47 C-KOA 返信する

>C−KOAさん

あ、じゃあ……80%で(笑)。
僕、すっごい自分に対する採点が甘いんですよね(笑)。

2010/1/23(土) 午前 9:58 [ さすらい物書き ] 返信する

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こんな文章がセンター試験や二次試験の現代文論説文に出たら楽しくとけるのになぁーーー!!!(迫真)
実際論説を解くときのモチベーションとか楽しさって「そうそう!確かにそうだわ!」って筆者と共感するときに発生すると思います。そしたらその後の問題も正解出来ますし
スリラーホラー談義と関係ない話をしてしまい申し訳ないです
それくらい分かりやすく"もてなされ"ました! 削除

2018/2/17(土) 午前 2:21 [ 地理97点 ] 返信する

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