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クリティック課題

後継者として

2006年11月、渋谷シアターコクーンでは清水邦夫・作、蜷川幸雄・演出で『タンゴ・冬の終わりに』が上演された。この作品の初演は1984年に渋谷西武劇場(現PARCO劇場)である。その後1986年に再演され、1991年にはイギリスにおいてイギリス人俳優によって英語上演された。この作品は劇作家清水邦夫と演出家蜷川幸雄との結びつきの上によってのみ上演される作品であるという意味合いが強い。二人の関係を遡ると60年代後半から70年代前半にかけて、その時代の旗手であった。しかし袂を分かち、その後約10年の後再び組んだときに生まれたのが『タンゴ・冬の終わりに』である。それはかつての時代−若者たちはデモに参加し、新宿が熱気に包まれていた時代−の後の、歳をとってしまった元若者が主人公である。それは清水・蜷川や同時代に生きてきた者たちの姿のようでもあった。この作品の初演では、まだかつての時代を振り返るには多くの提示をしなくてもわかることの出来る観客が多かったこと、そして新宿ではなく渋谷で上演されたことは若者文化の中心地が移ってしまったことを意味すること、また主演俳優はかつての時代には新宿で活動していないのだが演劇人としての生き方を持っていたこと、などが評判を呼んだのではないかと推測するのだが、初演から22年も経った現代においては、この作品が再演されたことによる衝撃はあまりにも少なかったように思えた。それは過去の歴史にこだわることを放棄したため、作品の中の歴史も薄っぺらいものに見えてしまった。

同時期に三軒茶屋シアタートラムにおいて『鵺/NUE』が上演された。『現代能楽集』と名を打ってシリーズ化されたものであり、謡曲『鵺』を基にしている。このシリーズは単に能の現代化をすることではないが、この『鵺/NUE』にあたっては現代に置き換えてというよりも、『鵺』という形をとりモチーフとして使われていた。
ヨーロッパのとある空港。トランジットルームでの待機を余儀なくされた日本人の団体。彼らはヨーロッパでの公演を終え日本への帰国の途中であった。このトランジットルームというどこの国にも属していないという空間を、どこでもないがどこでもあるという能舞台空間と同一化しようと意図しているのが十分にわかるが、それはあまりにもイージーな発想としか思えない。作品の中でもトランジットルームを舞台にした映画があったことを語らせている。このように観客が容易に理解するであろうことをわざわざ弁解するかのようなことがある。登場人物の演出家は、長く活動を続け今では海外でも公演を行う人物である。それは現代の演劇界においては蜷川幸雄以外にいないと観客は容易に考えつく。多分間違いないというか、蜷川を意識しての人物形成を考えてはいるだろうが、演出家がトランジットルームで取り出す台本は、和綴じがされているものである。和綴じの台本を使う演出家は唐十郎である。よってここに登場する演出家は蜷川幸雄でもあり、唐十郎でもある。ということは、より一層登場人物の演出家が活躍していた「シンジュク」と語られる場所は、『タンゴ・冬の終わりに』でも語られていたかつての時代−1960年代後半から70年代前半に掛けての学生運動であり、アングラ演劇の行われていた時期の新宿であることを意味している。しかし「シンジュク」という言葉を出すことによって、この『鵺/NUE』はかつての時代を語っているということを弁明してはいるが、『タンゴ・冬の終わりに』のように、上演される場所(この場合においては三軒茶屋)への考えがないところが残念である。
それは宮沢章夫という人物のフィルターを通ったかつての時代の演劇の歴史だからではないのか。実際にその土地での活動をしていないため愛着のようなものがないからではないだろうか。しかしかつての時代や人物を取り上げているのは、この『鵺/NUE』において、宮沢章夫はかつての時代および演劇界の先人たちに敬意を払いながら、願わくばその後継者として認めて欲しいという欲望があるのではないか。『鵺/NUE』において黒ずくめの男はかつての時代またその時代を生きた先人たちであることを読み取るのは容易なことである。演劇的バックボーンの薄い宮沢にとって演劇界の本流の中にいることを、世代として次の世代のものであることを示したいという思いもあったのではないだろうか。したがって終幕男を背負う演出家は、先人たちを引き継ごうという意思を示した宮沢本人ではないのか。


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