学問の部屋

体系的に学問する こころから学問する

全体表示

[ リスト ]

Comment 3(おれは海辺のカフカと重ねて)

 
 
 
●ドストエフスキー「賭博者」新潮文庫  4/1  読書61
 
●ドストエフスキー「賭博者」新潮文庫(要約) 4/2 読書62
 
●ドストエフスキー「賭博者」新潮文庫(要約&コメント) 4/3 読書63
 
●ドストエフスキー「賭博者」新潮文庫(海辺のカフカと重ねたコメント) 4/4 読書64
 
 
 
 
 
 
 
 本日はノーベル文学賞(2012年10月11日)の発表であるのだから有力候補として名前の挙がっている村上春樹「海辺のカフカ」をせっかくだから、いやいやそんな言い方はよそう。Bibleとノルウェイの森を据え置いている私は、村上春樹を・・・今回のこの小説に書かれている「アレクセイ」とはずいぶん異なる、愛を中心に据えた「復活の道程」を彼の「海辺のカフカ」からひきたいとおもったのだ。
 田村カフカは15歳の誕生日。父親のお金をくすねて一人旅にでた。あてもなく行き着いたところは四国のとある図書館だ。そこでは同性愛者の従業員に図書館に住んでもよいと許可をもらって、然したびたび幽霊なんか出てくるこの図書館の1室で生活を送ることとなる。なんとその図書館というと長が幼い田村カフカ君を捨てて個人的事情に拠り出て行ってしまった記憶の彼方にたたずむあの母親(佐伯さん)だったのだ。彼女は毎日二階の自室で何やら執筆に励むルーティーンを送る。(平行してタナカさんという知恵おくれの老人が佐伯さん方角へ向かうラインも章ごとに交互にだけど描かれている)。母親は正体をめいかくに明かさずそれとなくたびたびカフカ君と館内で対話するがこのカフカ君の足場を求めての自分探しの物語は彼が死を象徴する森で葛藤におちいるところで物語はピークに達する。
(逃亡先としてもう1つの居場所である)森の小屋で田村カフカは幻影らしき少女の人物と対話をする。この箇所をね、どうしても読者諸君に読んでほしかった。
 
 
幽霊:「まずなによりも大事なこと」
「遅くならないうちにここを出なさい。森を抜けて、ここから出ていって、もとの生活に戻るのよ。入口はそのうちにまた閉じてしまうから。そうするって約束して」
 
田村カフカ:「ねえ佐伯さん、あなたにはよくわかってないんだ。僕が戻る世界なんてどこにもないんです。僕は生まれてこのかた、誰かにほんとうに愛されたり求められたりした覚えがありません。自分自身のほかに誰に頼ればいいのかもわかりません。あなたの言う『もとの生活』なんて、僕にとってなんお意味もないんです」(下466)
(*メモ:森の小屋で佐伯さん似の少女との会話。佐伯さんは幼い田村カフカを捨てて姉を連れてでていった。特別な事情があった)
 
 
「あなたは私のことを覚えていてほしいの。あなたさえ私のことを覚えていてくれれば、ほかのすべての人に忘れられたってかまわない」(下466)
(*森のなかで佐伯さんに似た少女と小屋の中で)
 
 
 
「あなたは僕のお母さんなんですか?」
 
「その答えはあなたにはもうわかっているはずよ」
 
 
 
「私は遠い昔、捨ててはならないものを捨てたの」
 
「私がなによりも愛していたものを。私はそれがいつかうしなわれてしまうことを恐れたの。だから自分の手でそれを捨てないわけにはいかなかった。奪いとられたり、なにかの拍子に消えてしまったりするくらいなら、捨ててしまったほうがいいと思った。そこには薄れることのない怒りの感情もあった。でもそれはまちがったことだった。それは決して捨てられてはならないものだった」
 
僕は黙っている。
 
「そしてあなたは捨てられてはならないものに捨てられた」
 
 
 
 
「ねえ、田村くん、あなたは私のことをゆるしてくれる?」
 
 
 
 
「僕にあなたをゆるす資格があるんですか?」
 
彼女は僕の肩に向かって何度かうなずく。
「もし怒りや恐怖があなたをさまたげないのなら」
 
 
 
 
 
「佐伯さん、もし僕にそうする資格があるなら、僕はあなたをゆるします」
と僕は言う。
 
 
 
 
お母さん、と君は言う、僕はあなたをゆるします。そして君の心の中で、凍っていたなにかが音をたてる。
 
(下471)
 
 
 
 
 田村カフカ君が森から生還した後。大島さんは佐伯さんが死んだことを伝えた。そして。
 
「僕らはみんな、いろんな大事なものをうしないつづける」
 
「大事な機会や可能性や、取りかえしのつかない感情。それが生きることのひとつの意味だ。でも僕らの頭の中には、たぶん頭の中だと思うんだけど、そういうものを記憶としてとどめておくための小さな部屋がある。きっとこの図書館の書架みたいな部屋だろう。そして僕らは自分の心の正確なありかを知るために、その部屋のための検索カードをつくりつづけなくてはならない。掃除をしたり、空気を入れ換えたり、花の水をかえたりすることも必要だ。言い換えるなら、君は永遠に君自身の図書館の中で生きていくことになる(下520)
 
 
「彼女がここでなにを書いていたのか、僕は知らない」
 
「ひとつだけ言えるのは、彼女はいろんな秘密を呑みこんだまま、この世界からいなくなってしまったということだ
(下522)
 
 
*( )は新潮文庫「海辺のカフカ下巻」より
 
 
 
 
 
 
 
 
●おわりに
 
わたしはこの部分を再読し、懐かしく、おもわずね涙ぐんでしまった。
―――ドストの「救済の道程」が他者を神に奉りつつも首元にがぶりとかみついてみせ、互いに攻守をせわしくかえるようで、ある種友好的な闘争とみるならば、、、春樹の「救済への道程」はなんとおだやかな、、かつ内面にひっそりたたずむ『個室』にて、おこなわれる葛藤、そして平安といわれるものへのキヅキ・・といえようか。
 
体力のないわたしはとりあえずここで筆を置くとする。

.
sat**ukurod*wi*
sat**ukurod*wi*
男性 / AB型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2
3 4 5 6 7 8 9
10 11 12 13 14 15 16
17 18 19 20 21 22 23
24 25 26 27 28 29 30

過去の記事一覧

検索 検索

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事