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前回のエントリは、そのコメント欄に書いたように、ぷろどおむさんの下記ブログで採り上げられていることを知らずに書いたもので、関連してはいるものの、ややかみ合わない内容となっているかもしれない。
http://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-entry-102.html
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http://preudhomme.blog108.fc2.com/blog-date-20090528.html
人体への影響は、直接的にはシーベルトで議論すべきとの主張はもっともなこと。ただ、私の最初の記事は「劣化ウランと原発用濃縮ウランの放射能は大して違わない」と題しており、そのスタンスは、各種法令に照らして、劣化ウランは厳しく取り締まるべき放射性物質であることに注意を喚起するためのものである。法令の基準値に合わせて、放射能強度(ベクレル)を計算すれば明らかであるが、人体への影響について素人の私は、それ以上議論しようとは思わない。ここでは、ぷろどおむさんの記述でやや正確さを欠くと思われるところなど、コメントを残しておきたい。
1) 放射壊変の基本式など
放射壊変の基本式は
D* = N0×(1−EXP(-λt)) ----- (1)
D*:放射壊変によってできた娘核種の原子数
N0:もとあった親核種の原子数
λ:壊変定数(単位は1/年、または1/秒)
t:時間(壊変定数の時間単位にそろえる)
t = 1(単位時間)で、λが極めて小さい値である時、
(1−EXP(-λt))=λ
と近似できるので、1秒間に起こる崩壊数であるベクレル(Bq)の計算は
Bq = N0 × λ ----- (2)
と近似できる。
この式はλの小さな(半減期の長い)核種には適用できるが、単寿命核種には(1)式を用いなければならない(注1)。専門家は理解しているつもりでも、素人に誤解を与えることになるかもしれないので注意が必要だ。
また、壊変定数は、半減期(T)を基にλ=ln(2)/Tと計算して得られるが、もともと、壊変定数が実測と同位体存在度などの検討から先に与えられていて、半減期の方が、これを基に計算すべき性質の値である。ウランの壊変定数は次の値を用いることがlUGS Subcommlsslonによって勧告されている。
238U:1.55125 E-10 (1/y) (= 4.919 E-18 (1/s))
235U:9.8485 E-10 (1/y) (= 3.123 E-17 (1/s))
234U:2.806 E-6 (1/y) (= 8.898 E-14 (1/s))
2) シーベルトでの比較
劣化ウランと濃縮ウランの実効線量(単位:シーベルト(Sv))の比較であるが、各種法令では、モル数ではなく質量ベースで諸量が定められているので、私のベクレルの比較もモルではなく質量ベースでおこなっている。そこで、ぷろどおむさんの発想に従って、ウラン1g当たりのα線のシーベルトを計算してみよう。
前回のコメント欄に書いたように、この時、234Uを考慮に入れるべきである。「天然比ウラン」では、その同位体比は0.0055%に過ぎないが、その値は放射平衡に達した結果であり、この僅かの量が主成分である238Uと等しいベクレルの放射能を有する。しかし、劣化ウランや濃縮ウランでは、それが精製された後で放射平衡に達したために234Uが含まれることになった訳ではない。その半減期は25万年と長いので、放射平衡に達するには100万年オーダーの期間を要する。これは、もともと天然のウラン中で放射平衡に達していたものが、六フッ化ウランとして「天然比ウラン」を精製した際に混入したものである。
天然比の状態から、ウラン濃縮のプロセスを経た結果の同位体比をどのように見積もったら良いだろう。最初のエントリで引用した下記サイトでは、ウランの濃縮プロセスでは235Uだけを選択的に濃縮する作用が働き、238Uや234Uの存在度は、その結果受動的に決まるものとしている。
http://kyoto.cool.ne.jp/zebedee/contents.html
上記では濃縮率を235Uが3%としているが、最近の原発の主流であるらしい濃縮率6%を採用すると、それぞれのウランの同位体比、および1gあたりのベクレルとシーベルトは以下のように算出される。
劣化ウラン(平均原子量:238.0415)
同位体存在度(%) Bq/g(注2)mSv/g(注3)
238U: 99.69448 12406 70.7
235U: 0.3 237 1.4
234U: 0.005523 12426 84.5
合 計:100 25070 156.7
濃縮ウラン(平均原子量:237.8702)
同位体存在度(%) Bq/g mSv/g
238U: 93.99479 11706 66.7
235U: 6.0 4744 28.9
234U: 0.005207 11724 79.7
合計:100 28173 175.4
劣化ウランとの比 112% 112%
上記の計算は、モルベースではなく質量(1g)ベースである点、および234U を考慮に入れている点を除けば、基本的にはぷろどおむさんによる計算法と同じである。結果として、ベクレルでもシーベルトでも濃縮ウランは劣化ウランよりたかだか12 %高い値を示すにすぎず、「大して違わない」ことに変わりはない。このことは、238U系列に234Uが伴われる一方、235Uには短期間で放射平衡に達する系列核種にα線を放射するものがないこと、および、α線のエネルギーがほぼ同レベルで238U, 235U, 234Uの順に大きくなっていること、また、235Uが0.3%でも6%でも主成分は238Uであるに変わりないことなどを理解していれば、計算せずとも最初から明らかである。劣化ウランの156.7 mSv/gがどれくらい危険であるかは各自で考えれば良い。
3)核分裂など
ところで、「さざ波通信」に登場した大歩危氏のように、238Uの放射能を無視するような言説はウェブ上でありふれているのだが、そうした発想はどこから生じたのだろうか。ひとつには、放射平衡の概念が理解されていないこともあるのだろう。また、235Uは誘起核分裂を起こして原発や原爆のエネルギー原となるのに、238Uは誘起核分裂を起こさないことが狭義の放射壊変と混同適用され、238U は安全な物質との観念が生まれたのかもしれない。
実際は、自然の状態では235Uは一定質量以上集合しないかぎり核分裂を(ほとんど)起こさないのに、238U の方は、自然の状態で8.0E+15年の半減期で自発核分裂を起こす。238Uの自発核分裂による高速中性子が減速されて235Uに捕獲され、それが引き金となって誘起核分裂が起こる。また、238Uの自発核分裂を利用した年代測定法としてフィッショントラック法がある。α線によって鉱物の結晶構造に傷がつくことは(ほとんど)ないが(注4)、高エネルギー核分裂片の飛翔は、ウランを含む鉱物結晶に光学顕微鏡で観察可能なサイズの傷(フィッショントラック)をつけるので、ウランの濃度と傷の密度との関係から、その鉱物が結晶化した年代を知ることができる(注5)。このように、核分裂という点においても238U は無視できない。
核分裂片やウランが中性子を捕獲してできる核種は、そのほとんどが短寿命で、強い放射能を有しているため死の灰と呼ばれる。原発の使用済み核燃料に含まれる多量の死の灰は、再処理工程で取り除かれ、高レベル核廃棄物を生むが、その工程でも劣化ウランが生じる。この種の劣化ウランは、天然のウラン鉱石から最初に濃縮ウランを得る過程で排出される劣化ウランと異なり、僅かではあるが死の灰が混入している。実際、コソボで使用された劣化ウラン弾から天然には存在しないウラン236とプルトニウム239が検出されているという。
http://home.hiroshima-u.ac.jp/heiwa/Pub/29.html
この場合、単寿命の核分裂片をも含んでいる可能性があり、たとえ僅かでも危険性が高まる。
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注1:実際、半減期が25万年の234Uのベクレルは、近似式である(2)式で計算すると、本来の(1)式で計算した値より若干大きくなる。ExcelではEXP( )関数の引数が1E-16未満で値が1と返されるので、235Uや238Uの計算に(1)式を用いることができない。
注2:この値は、質量を平均原子量で除した後、核種毎の存在度、アボガドロ数、および壊変定数を乗して得られる。ただし、234Uについては(1)式を用いた。
注3:計算に用いた実効線量係数は、下記の「別表第1」により234Uについて6.8E-3、235Uについて6.1E-3、238Uについて5.7E-3の値を用いた(単位はmSv/Bq)。
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k20001023001/k20001023001.html
注4:厳密に言うと、多量のα放射により結晶構造が壊れ、メタミクト化(非晶質化)がおこることがある。
注5:厳密に言うと、高温の状態ではその「傷」は自然に修復される(焼き鈍される)ので、結晶化した後、焼き鈍しが起きない程度まで冷却された時点から時を刻むことになる。
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