さつきのブログ「科学と認識」

安倍政権はとっくにスリーアウト・チェンジなのにゴネている

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 これは、ちょちょんまげさんのブログ「東海林さだおがいいなぁ」の「掛け算の順序の話」というエントリのコメント欄で、私ととらこさんとの間で交わされた議論に関わることである。
http://chochonmage.blog21.fc2.com/blog-entry-55.html

 私は、数式の文法は印欧語系のSVO式の語順になっているので、日本人のようなSOV式の語順の言語環境下で育った子供達の一部には、中等教育段階でつまずく者が居るという、20年程前に聞きかじった説を披露した。これを、言語学の専門家であるとらこさんに、そんな説は検討にも値しないと一喝された。とらこさんの主張は理解しつつも、素人としてその核心がどこにあるのか正確に汲み取る自信はないので、上記のコメント欄をお読みいただきたい。

 この議論をいつまでも続けようとは思わないが、その後でちょちょんまげさんのコメント返信で提示されたことに以前から同じ関心をいだいていたので、そちらに絡んでメモを残しておきたい。

>ときに、ご意見を伺いたいのですが、我々が何か「思考」を立てる時には必ず「言語含み」というか「言語そのもの」で組み立てているように思えるのですけど・・(中略)・・ほとんど「思考=言語」ぐらいに思えてしまうのですけどいかがでしょう?

 私もそう思う。それだけでなく、時には考え事をしているときに意識の底で「音声言語」が響いているような気がする。そのことに関係していると思うので、昨年10月に放送されたNHKスペシャル『読字障害〜文字が生んだ病〜』を紹介しておこう。
http://www.nhk.or.jp/special/onair/081012.html

 以下は、その番組の録画を観ながらとったメモを元にしている。なにしろ私はこの方面のド素人である。録画は既に消去され、再確認できない状態にあるので、番組内容に拘わらず間違いがあればどうか指摘していただきたい。

------------(以下、番組の要約)------------
 読字障害(注1)というのは、会話は普通にできるのに、文章を読んだり書いたりするのに大きな困難を伴う障害のこと。これが具体的に脳の働きにかかわって起こる認識障害だとわかったのは、先端的な技術によって脳の活動部位を可視化することが可能になった最近のことである。

 読字障害の人は意外に多く、欧米人で10%、日本人で5%くらい。学習障害の一種として認識され、研究が始まったのであるが、今でも社会的認知度が低いために、しばしば、ただ勉強ができない頭の悪い人とみなされているケースも多い。

 ところが、彼等の中には別の分野で優れた才能を発揮する人が多い。例えば、映画『ジュラシックパーク』の恐竜博士のモデルになったモンタナ州立大学ジャック・ホーナー教授(注2)は、発掘された恐竜の骨片が全身骨格のどの部位であるかを瞬時に判断できる特異な才能の持ち主である。彼は、論文をそのままでは読んだり書いたりすることができないので、コンピューターに文章を読んでもらう事によって意味を理解し、喋った言葉をコンピューターの力を借りて文章化する。

 英国の大学に留学中で、最近ヨーロッパの建築家の卵に与えられる名誉ある賞を受賞した藤堂高直氏は、日本の高校までを「劣等生」として過ごしてきた。しかし、教師の一人が彼の特異な才能を見抜き、このまま日本にいてはダメになるからイギリスの大学の建築学科へ進学しなさいと勧める。その助言通り、彼はその才能を建築家として開花させることになった。

 読字障害の人々の中には、誰もが良く知る著名な芸術家や建築家が多い。

 結論から言うと、この障害は、文字が発明されてわずか5000年の歴史しかないために、人の脳がそれに対応できずに起こっているのである。現生人類が生まれたのは数万年前。脳の構造と一定の機能が付与されたその時点で、文字というものは存在していなかった。

 フロリダ州立大学のディーン・フォーク教授は、類人猿の頭蓋骨の化石から脳の形状を復元し、言語野の一つであるブローカー野が人類の先祖にいつの時点でそなわったのかを調べた。その結果、おそらく190万年前、遅くとも160万年前のホモエレクトスでは、既にこの言語野が発達していたと結論した。しかしこれは、もっぱら音声言語の認識を司る部位である。もともと、人類が生まれた時に文字は存在していなかったのだから、文字を言葉として理解するための専門の部位は脳の中には存在していなかった。文字が生まれてたかだか5000年では、人類の脳が文字に対応するために生物学的な進化を遂げることは不可能だったのである。

 では、我々はどのようにして文字列を読んでその意味を理解することができるのだろうか。その事は、人が文字を読む時に脳のどの部位が活性化しているのかをfMRIなどを用いて可視化しながら探るということをくり返すことによって、次第に明らかになってきた。

 理科学研究所脳科学総合研究センターの入来篤史博士によると、人が文字を読む際には、左脳の頭頂葉下部にある第39野と第40野が活性化するらしい。この第39野・40野は、250万年前のアウストラロピテクス・ガルヒに至って発達し、石器の作製と使用という複雑な動作を可能ならしめた部位と考えられている。両野は、視覚情報、聴覚情報、体勢感覚情報を総合して、複雑な運動を正確にこなすための、いわば総合情報処理センターとしての役割を果たしている。

 元々、人類にとって、言葉は音声に託されて発達してきたので、文字を音声に変換できれば、その意味を理解することは可能になる。そこで、文字が生まれた時、視覚情報を音声の情報に関連づける必要が生じて、視覚情報と音声情報を統合する第39野・40野の機能がこの作業を代行することになったのである。

 一方、ジョージタウン大学学習研究センターのゲイネヴィア・イーデン教授によると、読字障害の人は、文字列を見ても第39野・40野が活性化しない。そのため、視覚情報を音声の情報に「翻訳」することができず、その意味を汲み取ることができない。代わりに、右脳が広範囲に活性化する。彼等は文字を絵画と同じように認識してしまうのだ。

 読字障害の人は、普通の人より図形の認識能力に優れている。例えば、エッシャーの「だまし絵」のような、自然な空間にはあり得ない図形がある。多数の被検者に同じ絵を見せて、それが三次元の図形として矛盾がないかどうかを瞬時に判断させる早さ比べを行った結果、読字障害の人が平均1.7秒、そうでない人が平均2.9秒と明らかな差がついた。また、正答率でも差がでた。

 大阪医科大学LD(学習障害)センターの若宮英司顧問、京都大学高次脳機能総合研究センター福山秀直教授らによるfMRIを用いた研究などを総合すると、脳の言語認識プロセスは、音声と文字のそれぞれにおいて次のようにまとめられる。

音声 → 耳 → 聴覚野 → 言語野(ウェルニッケ野 → ブローカー野) → 前頭前野

文字 → 目 → 視覚野(読字障害の人ではこの後図形と判断されて右脳へ送られる)→ 第39野・40野(音の情報へ変換) → 言語野(ウェルニッケ野 → ブローカー野) → 前頭前野
---------------(要約、ここまで)----------------

 以上が、この番組で主張されたことの概要である。重要な点は、文字で書かれたものは、一旦音声に変換されて初めて意味のある言語として認識されるということ。ちなみに、上記の言語認識に関係する前頭前野以外の部位の多くは左脳において優位であることが知られている。

 いろいろと調べてみると、表意文字より表音文字に対する読字障害が強く表れるとの報告もある。とらこさんの7/22のコメントにあるように、数式の場合は一般の文章を読むのとは異なった認識プロセスがあるのかもしれない。しかし、表意文字にもその「音=読み」が必ずあるのは、その文字の意味を教え伝えるのに言葉が必要だからだ。数式に現れる記号も含めて、表意文字の意味を最初に理解するプロセスと、理解し訓練した後の認識プロセスとは区別して考える必要があるだろう。

 私が、初等・中等教育における教育効果の面から問題を語っているのは、その事を意識してのものである。少なくとも初等・中等教育段階においては、数式を認識する上で、それをどう読むかは基本的に重要なことではないかと、今でも考えている。以上のことが、私が数式の読みの文法に拘った理由である。

 なお、黙読と音読の違いについての研究の歴史は長いが、最近は、音読の重要性が見直されてきているらしい。女子短大の生活学科の学生28名を被検者に、デカルトの「方法序説」の音読を30回まで繰り返えさせ、理解度がどのように深まっていくかを検証した研究があって、大変興味深い。
「「読書百遍義自ら見る」は正しいか」
http://ci.nii.ac.jp/naid/110006408205/

------------------
注1:やや公式的な報告書として「読み書きのみの学習困難(ディスレキシア)への対応策」石井 加世子(文部科学省科学技術政策研究所科学技術動向研究センター科学技術動向月報2004年12月号)がある。定義や研究の現状(やや古いか?)などの他、支援方法についても詳しいので、ぜひお読みいただきたい。
http://www.nistep.go.jp/achiev/ftx/jpn/stfc/stt045j/0412_03_feature_articles/200412_fa01/200412_fa01.html

注2:冒頭に貼ったNHKのウェブサイトでは、ホーナー教授を「考古学者」と紹介しているが、彼は古生物学者であり、恐竜と鳥類の近縁性を最初に指摘した学者として有名。

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さつきさん、おじゃまします。
面白いですねぇ。
5,000年前に現れた「字」というのは「古代エジプト」あたりだったのでしょうか。
我々の脳は読むといったん音声に直しているのですね。
そう言われれば「STOP」という道路標識を見て頭のなかで確かに「ストップ」と言っているような気がします。
また、これは最近気がついたのですがTVゲームを息子と一緒にやっていて私と息子では「英文」を読むスピードが全然違う。
もちろん息子の方が圧倒的に早いのですけど、私はゲームの登場人物の会話や、宝がどこにあるのか等のヒントを英文で読むのに、じっくりと音読しないとアタマがわかってくれない。
これは「音声への変換」のスピードが私と息子でかなり違うということなのかも知れませんね。(わからない単語がどうのこうのという話ではないですし) 削除

2009/7/27(月) 午後 2:34 [ ちょちょんまげ ] 返信する

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どうもです。「音声への変換」スピードは、多分、そうなのでしょうね。
元の議論に関して言えば、私としましては、代表的な表意文字であるアラビア数字(算用数字)にも、言語や場面による違いはあっても、必ずその「読み」があるという点で、絵文字とは異なっている、ということを重視したい訳です。「生成文法」の理論がユニバーサルな文法を生得的だと仮定するのは理解できますし、膠着言語である日本語が語順にルーズなのも理解できます。しかし、「倒置法」という概念理解を有効と認めるなら、日本語と英語では通常会話での語順は明らかに違っていることを認めることになる。さらに、数式の読みは、「通常日本語」の語順とは明らかに違っているし、「通常英語」の語順そのままになっていることも認められるだろうと思います。まあ、未科学ですが、素人がこれ以上どうこうできる訳がありません。
次は、「現象論」と未科学の関係について、書いてみます。 削除

2009/7/28(火) 午前 0:41 [ さつき ] 返信する

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はじめまして。
我が子と同じように思っている、現在中2の娘の同級生の男の子が
読字障害の疑いがあると先生に言われ、現在検査中です。
心配で、調べていたらこちらに着きました。
読字障害で私が知っていたのは、トム・クルーズくらいだったのですが
すばらしい方がたくさんいらっしゃるようですね。
心強く思いました。
ありがとうございました。 削除

2012/2/8(水) 午前 9:20 [ N ] 返信する

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Nさん,そのお子さんも何かの素晴らしい才能があると思います.
周囲の理解が得られるよう,あせらずに支えてあげることが大切な気がします. 削除

2012/2/8(水) 午後 9:18 [ さつき ] 返信する

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