さつきのブログ「科学と認識」

福島第一原発、アンダーコントロールで、わざと昨年の2倍の放射能を放出か

科学と認識

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 ブログを放置しすぎるとぺんぺん草が生えたりするそうなので、映画を観て思ったことなど書いてみる。

 映画『劔岳 点の記』は、日本屈指の山岳地帯である立山連峰の中でもその険しさから人跡未踏とされていた剱岳(つるぎだけ)山頂(注1)、明治40年(1907年)、日本の地形測量最後の空白地点であったそこに三等三角点を設置するために挑んだ測量隊の物語。原作は新田次郎の同名小説で、実話に基づいている。「点の記(てんのき)」とは基準点の選定・設置・測量の一連の作業記録のことで、三等以上の基準点について作成・保存される(注2)。

 監督の木村大作氏は長年「黒沢組」でカメラマンを務め、『八甲田山』、『駅 STATION』、『火宅の人』、『鉄道員(ぽっぽや)』などの撮影にも参加、50本目にして初監督作品という。
 出演は、浅野忠信、香川照之、宮崎あおい、中村トオル、役所広司ほか。映画の公式サイトは下記。
http://www.tsurugidake.jp/

 6月20日封切だったが、予想外に好評とのことで、まだ上映中の所も多い。
http://theaters.toei.co.jp/TheaterList/?PROCID=02203

 この映画のキャッチコピーは「決して名誉のためでもなく、利のためでもない。仕事に誇りをもって挑む男たち。いま、わたしたちが失くしつつある、日本人の心の物語」とある。新田次郎の作品は読んだ事がないが、私の友人には熱心な読者も多い。彼らの話を聞く限りでは、新田の一貫したモチーフとして、一般にもそのように理解されているようだ。この「点の記」をタイトルに付した作品で新田が書きたかったことは、はたしてそうしたことなのだろうか。

 私がこの映画を観たいと思ったのは、富山市南部の山間部にある「大山歴史民俗資料館」で、この映画のメイキング映像に接したからである。山岳ガイドとして測量隊を案内し、「剱岳初登頂」を果たした宇治長次郎が旧大山村出身ということもあるが、富山県をあげてこの映画の宣伝に力を入れている。

 で、この資料館の展示に掲げられたキャッチコピーはちょっとニュアンスが違っていた。正確な文言は忘れたが、私が汲み取った意味をかなり端折って書くと、「そこに「空白」がある。それを埋めようとする情熱は尊いものである」というようなこと。こちらは、原作の意を汲んだものかも知れないが、映画の公式HPにあるキャッチコピーとは、その意味が、微妙に、もしかしたら本質的に異なっていると思った。これが妙に気に入ってしまったのだ。

 どちらのキャッチコピーがより的確であるかは主観によるだろう。だから、後者を由とするのも、私の思い入れが郷土資料館のスタッフならではの視点と波長があったということに過ぎない。ただし、このストーリーそのものはまぎれもない史実であり、そこに客観的な歴史的意味を付与することは可能である。

 データの空白と言えば、日本の地質図が思い浮かぶ。日本の地質図作成の任にあたる産業技術総合研究所地質調査総合センター(旧工業技術院地質調査所:以下GSJ)では最近になって全国の20万分の1地質図幅が完備したばかりで、これをもとに凡例を統一した全国のシームレス地質図がウェブ上で閲覧できるようになった。
http://riodb02.ibase.aist.go.jp/db084/index.html

 個々の20万分の1地質図幅は、基本的には国土地理院発行の20万分の1地勢図と同じ範囲が一つの図葉として編集・発行されてきた。その基となるデータはGSJ発行の5万分の1地質図幅(注3)で、これが全国をカバーしていない、というより「空白」だらけなのである。
http://www.gsj.jp/Map/JP/5man.htm

 5万分の1地質図幅が空白となっているエリアについては、以下のデータが利用された。すなわち、国土交通省が刊行している「5万分の1表層地質図」(非売品)、各都道府県が発行している10万〜20万分の1地質図、学術論文として学会誌などに掲載されている地質図、GSJに蓄積されている独自のデータ等々である。それでも5万分の1の精度での空白域は無視できないほど広い。

 地質に関係した科学研究だけでなく、防災工事や道路建設など具体的に地質図を利用しようとする際には、20万分の1の精度では役に立たないことが多い。5万分の1の精度はそのための最低ラインと考えてよいが、それが完備していないのは自称先進国として恥ずべき事である。例えばお隣の韓国では既に1987年に全国の5万分の1地質図幅が完備されている。

 なぜだろうか。データの「空白」には、放置して良いものと是が非でも埋めなければならないものがある。例えば、科学研究のテーマを選定するに際して「誰も手をつけていないから」という理由は正当ではないというのが学界一般の風潮としてある。しかし、地質は地形とともに国土の最も基本的な自然的構成要素であり、そのデータに空白があってはならないと考える。その点、学界の理解も十分ではなく、そのことが国の施策にも反映された結果なのだろう。

 地質の空白域は、その学術的な意味が国内的な問題に過ぎないために長年放置されてきたという事情もあり、その地質図を完成させただけでは国際誌の論文にはならず、国内誌に掲載されれば良い方だ。そうした場合、国内の考古学論文同様、日本語で書くことに意味があるが、それでは自然科学研究者としての業績としてカウントされない。

 そのように、学術的な業績としては無視されながらも営々と続けられた膨大な調査・研究をとおして地質図は完成され、公表されている。ところが、研究のための地質図利用に際してそのことに敬意を表するどころか、まるで一般人が地形図を利用する時のように、図幅報告書や地質図を掲載した原著論文の引用さへ疎かにする者が後を絶たないのである。こうしたことは、特に学会発表の場で、最近の目立った傾向となっている。

 もし精度の良い地図がなかったらなし得ない研究が多いのと同様に、精度の良い地質図がなかったならなし得ない研究もある。そこが地質の空白域だからと、業績とは認められないのに労苦だけは多い地質図作成から着手する研究者は、このご時世、奇特と言わねばなるまい。特に、研究の入り口に立ったばかりの若い研究者にそれを求めるのは酷だとされ、結果、地質調査の技術も失われて行く。この例に限らず、科学研究においてはテーマを自由に選び得ているというのは幻想なのである。

 さて、このようにして、具体的な科学研究の営みは、殊にそのテーマ選定の段階において社会の価値観といったことにいろいろな制約を受けて展開される。「科学」について論ずる場合、理念としての科学と、実社会の中で具体的に生かされている科学の営みを存在論的に考察する場合とで、ひとまずは明確に分けて論じなければならない理由である。両者を混同した議論も散見されるので、この問題についてはまた槁を改めて書きたい。

最後に映画の感想を少し、
 やはり観て良かった。映像そのもので勝負しようとしており、当然だが、大スクリーンで観るべき。配役にも文句はない。欲を言えば、映画音楽が出しゃばりすぎるのは好みではない。風の音だけで通してほしかった場面も。まだ公開中なのでこれ以上は書くまい。
 山の測量にまつわる映画といえば、ヒュー・グラント主演の『ウエールズの山』が思い出される。この映画との接点は何もないが、なぜか鮮明な記憶が・・・

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注1)剱岳は標高 2999 mで、日本百名山の一つ。山体は花コウ岩とハンレイ岩からなり、急峻でガレ場も多く、山頂へたどり着くのに日本国内で最も困難な山とされている。毎年遭難事故が絶えず、最近9月20日にも59歳の女性が通称「蟹の横ばい」と呼ばれる難所で滑落し、死亡したばかり。この夏は映画の影響で登山者が急増しており、中にはハイキング気分で訪れる人も多く、富山県警は注意を呼びかけている。

注2)「点の記」は全国数万の三等以上の基準点の全てについて国土地理院に保管されており、まとめのページ1枚分がJpeg形式のファイルとしてウェブ上で公開されている。剱岳三等三角点の「点の記」を国土地理院のウェブサイトでみると、周辺地形図、基準点周囲のスケッチなどとともに、「選点、明治40年7月13日、選点者、柴崎芳太郎」の記述がある。設置が平成16年8月24日となっているのはなぜか。映画を観たらわかる。
http://www.gsi.go.jp/WNEW/PRESS-RELEASE/2004/1028-2-4.jpg

注3)GSJ発行の「5万分の1地質図幅」も基本的には国土地理院発行の5万分の1地形図と同じ範囲となっている。これには、そこに産する個々の岩層の詳細と地質構造発達史を論じた報告書が添付されていて、一つの学術論文と見なされている。日本において、1970年代後半から始まる「コノドント革命」とプレートテクトニクスの受容、80年代前半の「放散虫革命」を経て地質の解釈が大きく変容してきたが、一旦地質図幅が発行されたエリアは原則として改訂されないことになっているらしい。この点は、日々改訂が続けられている国土地理院の地形図とは扱いが異なる。

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