福島原発の状況は展開が速く、雑事に忙殺されていると情報の整理が追いつかない。
27日午前、福島第一原発2号機のタービン建屋地下のたまり水から1ccあたり29億ベクレルのヨウ素134が検出されたとの東電の発表には、ひっくり返った。放射性物質の濃度は通常の原子炉の水の約1000万倍という。ところが、これに対して国の原子力安全委員会から「疑義がある」として再評価を求められ、東電はその日の夜になって「別の放射性物質と間違えていた可能性がある」ということで、分析をやり直すと発表した。同時に発表された水たまりの表面で毎時1000ミリシーベルト以上という空間線量率は訂正されず、線量計が振り切れたので正確な値がわからないというのは事実らしい。
原子力安全委員会が「疑義がある」としたのは、半減期が52.5分と短いヨウ素134が高濃度で検出されたとすると原子炉内で再臨界に達しているということだが、制御棒が挿入されている状況であり、中性子線も検出されていないので再臨界の兆候はないと判断されたためであろう。なお、水がなければ臨界に達することはないので「空焚き」の心配はないとの説がある。これは、ウラン235が中性子を吸収して誘起核分裂を起こすためには中性子の速度を減速する必要があり、そのために水が必要ということを指している。しかし、アフリカのガボン共和国のおよそ20億年前の地層から発見された天然原子炉では、地下の普通の堆積岩中で臨界に達しており、少なくともジャブジャブの水は必要ないことがわかる。おそらく、東電としては、再臨界の有無を評価する目的もあってヨウ素134の検出を試みたのではないかと思う。
かつて、このブログで、「劣化ウランと原発用濃縮ウランの放射能は大して違わない」(2009/5/26)と題した記事
および、その後の補足1、補足2で述べたように、シーベルトは、被曝量を表す単位として用いられるが、空間の属性であって、サーベイメータなどで測定された位置(空間)と人がどのように交わるかで、その危険性は大きく変わってくる。また、シーベルトという単位で測定される放射線の量は、それだけでは実体が不明で、そこで何が起こっているのかを知ることはできない。シーベルトからベクレルへ逆算することはできないが、特定の核種のベクレルがわかれば、その核種のシーベルトへの寄与を計算することはできる。
刻々と変わる事故現場の、特に原子炉内とその周辺で何が起こっているのかを理解するためには、物質の属性であるベクレルという単位で、核種毎の放射能値をγ線スペクトロメーターなどで測定し解析しなければならない。そこで出てきたのが「1ccあたり29億ベクレルのヨウ素134」という発表であるが、28日未明になって、ヨウ素134ではなく、正しくはセシウム134で、全体の放射性物質の濃度も1000万倍ではなく10万倍であると訂正された。訂正の理由は、ヨウ素134であれば半減期が52.5分と短いので、再測定時には濃度が低下している筈であるが、同じ試料で濃度低下はなかった、というもの。この説明だと、1ccあたり29億ベクレルという放射能値そのものには変化がなかったと理解されるが、1000万倍が10万倍に訂正された理由については、聞き逃したのか、よくわからなかった。
これが事実であったとすると、その水に含まれるセシウム134の重量濃度や発熱量が計算できる。計算の結果、セシウム134の濃度は60.5 ppmと結構高濃度である。セシウム134の放射壊変は分岐が複雑であるが、壊変エネルギーはおおよそ2 MeVと近似できるので、この水1リットルの1秒あたりの発熱量は、
2.9E+9(1/s・cc) ×1000 (cc) × 2.0E+6(eV) ×1.602E-19(J/eV) = 0.93 (J/s)
となる。およそ1ワットである。
そのほかの主要な成分であるヨウ素131やセシウム137などの壊変エネルギーもMeVの単位なので、オーダーとしてはたいして変わらない。これら全ての核種の壊変熱を合わせると、放熱が悪くてもそれほどには自然に暖まることはないと思われる。
28日夜には、外部に委託した分析からごく微量のプルトニウムが検出されたとの発表もあった。燃料棒の成分である膨大な量の核分裂生成物が検出されているのだから、プルトニウムが検出されるのは当然のことである。主要な核種のプルトニウム239は半減期が2万年以上、崩壊後のウラン235の半減期は7億年以上と共に長く、α線だけを出すので、その放射線量は、ここまでの事態になると他の短寿命の核分裂生成物に比べれば相対的には全く問題にならない程度である。プルトニウムは放射能よりもその化学毒性の方が強いとされているが、現状ではその心配もないと思われる。ただし、セシウム134を60.5 ppm含む多量の水が原子炉の外へ漏れだしていることを考えると楽観はできない。放射性元素はそれぞれに水への溶解度や融点・沸点などの物理・化学的性質が異なるので、多様な試料についての多数の測定が望まれる。
この数日間の間におこったスッタモンダの出来事から、東電とその協力会社には、ゲルマニウム検出器などのγ線スペクトロメーターを使った放射性核種の定量測定の能力が皆無であることが露呈した。RIセンターを持つ全国の大学には放射線取り扱いの国家資格を持つ研究者が大勢いて、また、天然の放射性核種をトレーサーとして環境変動の研究をおこなっている研究者なども結構たくさん居て、事故現場周辺の試料についての測定も始まっているようである。多数の試料についての正確で詳細な分析と迅速な公開が必要とされている。