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(わかり易くするため、後半の文章を若干変更しました:4/30 8:30)
原田正純さんは水俣病にかかわって「環境汚染」という視点の重要性を説いた。「環境汚染」がおこれば、その環境に棲む全ての生命が複合的な影響を受け、一つの生態系が丸ごと破壊されるということの意味を問うたのである。現在の福島原発事故にかかわってのいろいろな議論には、この視点が欠如している。
一例を挙げれば、事故で放出された放射能の危険性について、空間線量率を元に「年間の被曝線量は20 mSv以下である」などと説明されるが、こうした評価には内部被曝線量は含まれていない。それは、例えば、食品衛生法に基づく葉物野菜の放射性ヨウ素の暫定基準値は2000 Bq/kgで、この1 kgを毎日食べ続けたとしても1年間で0.044ミリシーベルトの被曝にとどまるといった説明が行き渡っていて、基準値を超える食品の流通を阻止すれば、内部被曝はほとんど問題にならないという観念が広まったからだと思われる。 私は直感的に、この説明に疑問を抱いたので、内部被曝線量の計算を行った。 「平成十二年科学技術庁告示第五号(放射線を放出する同位元素の数量等」 の「別表第1」に定められたヨウ素131の実効線量係数は2.2E-05 mSv/Bqとなっている。
そこで、2000 Bq/kgの食品1kgを摂取したら。 2000 Bq × 2.2E-05 mSv/Bq = 0.044 mSv となる。 つまり、毎日1 kgを食べ続けるのではなく、1kgを1回摂取しただけで0.044 mSvに達する。一年間毎日食べ続けたら365倍の16.06 mSvになるのだ(ただし、後で述べるように、甲状腺等価線量換算係数を用いると、この値も過小の見積もりとなる)。先に掲げた法令の第十九条、二十条には計算法についての記述があるが、摂取量については、その摂取期間についての定めがない。つまり、1日の被曝量は1日の摂取量で、年間の被曝量は年間の摂取量で計算しなければならない。 ではなぜ、暫定基準値が2000 Bq/kgとなったのか。その真相がやっと分かり、こんなことがまかり通っているのかと、正直言って大変驚いた。 いろいろ調べる内に、劣化ウランについての私の記事に専門的な立場から有用な突っ込みを入れて下さった「ぷろどおむ えあらいん」さんのブログで、たろうさんという方が私と同じ疑問からいろいろとコメントされていることを知った。たろうさんは、主に飲料水の暫定基準値を問題にされていたのだが、ぷろどおむさんは、自らの誤解に気づき、「穴があったら入りたい」と書かれているので、専門家としても納得されたのだと思う。 そのぷろどおむさんが、誤解を正すのに分かり易い解説として、産総研の「安全科学研究部門」のグループ長岸本充生さんの「基準値の根拠を追う:放射性ヨウ素の暫定規制値のケース」と題したコラムを紹介して下さっている。この岸本さんの指摘は大変重要であり、広く周知されるべきと思う。 こうして初めて、内閣府の「食品安全委員会」によって本年3月にまとめられた「放射性物質に関する緊急とりまとめ」という資料や、原子力安全委員会・原子力発電所等周辺防災対策専門部会・環境ワーキンググループによる「飲食物摂取制限に関する指標について」と題する基準値設定の根拠と導出方法が書かれた資料の存在を知ることになった。また、分かり易い解説として、東大病院のteam nakagawaによる「「暫定規制値」とは」と題するページも紹介されている。 岸本さんもその導出方法を知って「非常に驚いた」と書かれているし、たろうさんが疑問に感じられたり、ぷろどおむさんががたろうさんの疑問に同意されたりしているので、素人の私が驚いたり呆れかえったりしたのも、おそらくそれほど特異な感覚ではないと思う。 その導出方法は大変複雑で、岸本さんの解説コラムでさえ計算が微妙に合わないと書かれているのだが、その末尾に、正確な計算法についてフォローされた福井県立大学経済学部教授の岡敏弘さんのウェブページが紹介されている。 詳細は上記にリンクしたサイトや資料に目を通していただくとして、その要点だけを紹介しておきたい。 まず、押さえておかなければならないことは、ほうれん草を一日1kg、しかも毎日食べる人など居るわけがないと思われるかも知れないが、こうした汚染事故では、全ての食品が同程度に汚染されていると考えられるので、ほうれん草に代わる物を食べても同じことになるという前提がある。暫定基準値の算定に際しても、この前提が守られている。 問題なのは一点、 暫定基準値の導出で、放射線強度が個々の放射性元素の半減期に応じて次第に減衰するという前提のもと年間の被曝線量を計算しつつ、その基準値(限度量)については初期値の放射能強度(Bq/kg)について表示するという、その発想法にある。 放射性ヨウ素の特定の核種だけについての計算式は下記のようになる。 甲状腺等価線量=(甲状腺等価線量換算係数mSv/Bq)×(食品の放射線量Bq/kg)×(1日あたり摂取量)×[1-exp{−(物理的崩壊定数)×(摂取期間)}]/(物理的崩壊定数) 右辺の後半は、放射能の時間変化の式を、放射能の初期値に対する減衰項として変形し、積分したものである。正確には、岡敏弘さんの解説にあるように、初期にしか存在しない極短寿命核種などの全ての系列核種の放射能を合わせて計算するために、これより数%程度大きな値となる。このような発想が何故問題かというと、岸本さんや、ぷろどおむさんのところでたろうさんが指摘されているように、継続的に放射能の放出が続くような事故の場合には、その実態を全く反映しない結果になるからである。 少なくとも、「2000 Bq/kgの食品1 kgを毎日食べたとしても1年間で0.044ミリシーベルトの被曝にとどまる」という表現は二重・三重の誤りを含んでいる。 1)この表現では、2000 Bq/kgという放射能強度は年間を通して変化しないことを前提としつつ、1回1 kgの摂取による被曝線量を計算している。
2)冒頭部分で示したように、正しくは年間16.06 mSvの被曝量となるが、半減期に従う減衰を仮定すると単体で0.509mSvとなる。
3)ヨウ素については特別に甲状腺等価線量換算係数を用いるべきで、乳児についての0.0037 mSv/Bqを用いると、継続的な放出があって放射能強度が減衰しない前提では、
2000 Bq/kg × 365 kg × 0.0037 mSv/Bq = 2701 mSv が、正しい被曝線量となる。
岸本さんが「専門家の説明のほとんどが間違っていることも分かった」と書かれているのは、「ある放射性物質の濃度の食品を毎日食べたとしても・・・云々」という言い方は放射能強度が減衰しないことを前提とした表現であるのに、半減期にしたがって減衰することを前提に導出された年間被曝量の見積もりを提示していることにある。このような説明は国民を欺くことになる。 実際、マスコミを通じて、「1年間食べ続けても全く問題がない量である」との専門家による説明が繰り返し流され、それを真に受け、インターネットを通じて拡大再生産されたという現実がある。「興味ある情報」に接した時に、自ら検証せずに吹聴する言い訳として、専門家が言うことだからというのがあるが、少し立ち止まって、広く情報収集するという慎重さが必要だと思う。
一定の前提条件のもとになされる科学の規定は、それ自身正しくとも、その前提条件が実態を反映して役立つ規定であるかどうかは別問題である。さらに言えば、誰にとって役立つ内容を持つのかといったことも別問題である。そこにまた、科学の持つ党派性が顕れる。 |
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