さつきのブログ「科学と認識」

福島第一原発、アンダーコントロールで、わざと昨年の2倍の放射能を放出か

科学と認識

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1)ICRPの勧告は、全体として一つの科学の大系となっている

低線量被曝のリスクに「しきい値」があるかないかは科学的に未解明というのは、その通りである。そこで、低線量被曝によるリスクを心配する予防原則的な観点から「しきい値」はないというモデル(以下LNTモデル)で対処すべきという主張がなされ、一方、「風評被害」の拡大や心的ストレスの方を心配する側からは、「しきい値」があるという研究もあるので不安を煽るようなことは言わない方が良いという主張がなされている。
 
しかし、LNTモデルで対処しなければならない明確な理由がある。現在の政府の執っている防護対策が、LNTモデルを採用したICRPによる種々の勧告に従っている以上、LNTモデルに反した対策では科学的な整合性がとれないからである。
 
単に制度的な整合性を言っているのではない。また、低線量被爆の危険性を無視するなと言いたいのでもない。現に、ICRPの勧告に基づいて政府の執っているいろいろな防護策は、平常時の一般公衆の被曝限度量とされる1 mSv/年をかなり上まわる20 mSv程度の被曝をがまんして下さいとお願いする形となっているが、このことの是非とも無関係である。
 
前回の記事で整理した食品の暫定規制値の根拠として採用されている種々の数値は、LNTモデルの上に構築された一つの科学の体系を形作っている。LNTモデルは、「しきい値モデル」に比べて常に安全側へシフトするとの誤解があるが、必ずしもそうではない。
 

例えば、放射性ヨウ素を摂取するとその大部分が甲状腺に濃縮されるため、ヨウ素群による被曝への介入線量レベルとして、50 mSv/年の甲状腺等価線量が定められているが、組織荷重係数を0.04ICRP2007年勧告値として全身の実効線量に換算すると2 mSv/年に相当するとの説明がある(注1)。正確には「全身の実効線量を見積もるときの寄与は2 mSv/年になる」と言うべきであるが、非常時に年2 mSv程度ならLNTモデルでも許容できる範囲に収まるという訳である。

 
しかし、「しきい値モデル」を支持するなら、ヨウ素の濃縮した甲状腺においての50 mSvという値が甲状腺にとっての「しきい値」を超えるか超えないかが問題となる。「しきい値論」の理論的背景からして当然そう考えるべきである。
 
同様に、「しきい値モデル」を採用すると、今まであまり議論されてこなかったβ線による外部被曝の問題もクローズアップされる。ほとんどの核分裂生成物はβ崩壊するが、これまで外部被曝については、γ線だけの測定から換算される空間線量率を基に、いろいろな防護策が講じられてきた。しかし、汚染された地面などに皮膚が接近すると、当然 β線からの被曝も無視できなくなる。
 
皮膚の組織荷重係数は0.01と小さいので、全身の実効線量への寄与は小さいが、β線はもっぱら皮膚に吸収されるので、皮膚の吸収線量(グレイ:Gy = J/kg)は大変大な値となる。皮膚の遺伝子が集中的に傷つけられるとなると、皮膚にとっての「しきい値」を超えることが心配される。オゾンホールの問題にかかわって、紫外線の量が平常時の2倍にでもなったら皮膚ガンのリスクが大きくなると大騒ぎになることを思い起こすと、こうした発想自体を無視することはできない。
 
しかし、皮膚にとっての「しきい値」など誰にも分かっていないので、「しきい値モデル」の正当性を主張したところで、具体的な介入レベルの設定ができず、対処しようがないのである。
 

ICRPが、全身の実効線量を基礎として、LNTモデルを採用した防護指針をたてているのは、リスク評価がシンプルな確率論に基づいていてわかり易いという理由によるのかもしれない。いずれにしても、ICRPの防護指針が一つの科学の大系になっている以上、都合の良いところではICRPの勧告を持ち出し、都合が悪くなるとICRPの見解を否定するというようなことは、少なくとも防護対策を講ずる側としてはやってはならないことだ。

 
2)自然放射線レベルの「しきい値」なら、ないも同然

低線量被曝についての最も大規模で組織だった研究の成果として、米国科学アカデミーBEIR委員会がとりまとめた報告書2005年発表、2006年出版)と、Cardis,et al. (2005) があるが、いずれもLNTモデルを支持している。

 
前者は、「何故しきい値モデルを否定するのか」について理論と研究成果について詳しく述べ、大人では見えにくくなっている低線量被曝の影響でも、感受性の強い胎児、幼児、子供だと、10-20 mSv程度であっても、発がんのリスクが有意に高くなっていることは明らかと主張し、LNTモデルを強く支持している(注2)。
 
後者は、15カ国、407,391人の原子力産業労働者の疫学調査をひとつにまとめて解析したものである。平均被曝量19.4Sv24,158件の死亡例のうち固形癌死6,519件、白血病死196件で、BEIRが評価したリスクとほぼ等しくなっている。被曝線量の明らかな母集団の数量だけをとれば、これを凌駕する科学的知見は今のところないと言っても良いだろう。
 
また、100 mSv以下なら「安全」と主張して有名になった福島県放射線健康リスク管理アドバイザー山下俊一氏の学会講演「放射線の光と影:世界保健機関の戦略」の内容を論文化したものが下記にリンクしたサイトの2009171469にあるボタンからアクセスできるが、そこでは、10 mSv程度の低線量被爆の危険性、特に、諸外国に比べて高いとされる日本の医療被曝について警鐘が鳴らされている。
 
新たな研究が増えるにつれ、「しきい値」の存在可能なレベルはどんどん下がってきて、今では、あっても自然放射線のレベルと言ってもよい。結局のところ、実質的にはLNTモデルを採用した方が、防護策を講ずる上でも現実的であると言えよう。
 
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注1)例えば、「375回食品安全委員会の「資料1」として公開されている「放射性物質に関する緊急とりまとめ」と題する文書のp22

 

注2)例えば、RESEARCHREVIEWED BY THE COMMITTEE の章の“ Why Has the Committee Not Accepted the View That Low Doses AreSubstantially Less Harmful Than Estimated by the Linear No-Threshold Model?”と題された節において、以下の記述がある。

For example, the Oxford Survey of Childhood Cancer found a “40percent increase in the cancer rate among children up to [age] 15. Thisincrease was detected at radiation doses in the range of 10 to 20 mSv.

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