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前回の記事の冒頭に追記したように、コンプトン散乱について補足しておく。
コンプトン散乱とは、γ線・X線などの高エネルギーの電磁波が原子の軌道電子に衝突して、電子をはじき飛ばすと同時にその向きを変えて散乱される現象のことで、このとき、電磁波のエネルギーは減衰するが、消滅することはない。
コンプトン散乱は電磁波と電子の衝突現象なので、これが起こる確率は、軌道電子数の多い、すなわち原子番号の大きな原子ほど高く、軽元素では無視できると考えていたが、軽元素では光電効果が起こる確率の方もさらに低く、結果的にコンプトン散乱の方が主役を演ずるようである(たとえばこちら)(注1)。
137Csからの0.662 MeVのγ線の物質による吸収は、吸収体が鉛の場合は光電効果とコンプトン散乱がほぼ同じ割合、アルミニウムの場合はほとんどがコンプトン散乱のみによってまかなわれる。骨の主成分であるCaや血液に比較的多く含まれるFe(鉄)については光電効果も無視できないが、その他の有機質や水分による吸収は、ほぼコンプトン散乱のみが問題となる。
0.662 MeVのγ線のコンプトン散乱によって弾き出された電子のエネルギーは、散乱される角度によって異なり、散乱角90°の場合の、0.662 - [0.51/(1 + 0.51/0.662) ] = 0.374 MeVを最大値とし、それ以下のいろいろな値を取る。式中の0.51 MeVは、電子の静止質量をエネルギーに換算した値である。また、厳密にはイオン化エネルギーを差し引くべきであるが、ほとんど無視して良い。
ここで弾き出された電子もまた、その近傍の他の原子をイオン化する能力があるが、光電効果によって放出された光電子がγ線のエネルギーの大部分を受け継いでいるのに比べれば、そのエネルギーはかなり低い。人体に進入した一つのγ線光子は、コンプトン散乱を繰り返しながらそのエネルギーを次第に減じ、やがて人体に吸収されてしまう。
この間のイオン対の形成は、γ線の通過経路の途上の何カ所にも別れて起こり、「その1」で述べた光電効果によるものよりもさらに拡散的で、β線によるイオン化とはかなり様相を異にする。したがって、結論は変わらないが、矢ヶ崎氏が力説する被曝の局所化という点で、γ線によるものとβ線によるものの差異も、より明瞭なものとなる。
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注1)この図の説明は、ATOMICAのこちらのページ。
この図のタイトルは「図3 γ線のコンプトン効果」となっているが、本文を読めばわかるように、正しくは「図3 鉛とアルミニウムに対するγ線の線減衰係数」とすべきで、図4のタイトルと入れ替わっている。ATOMICAには、このような間違いや誤植が非常に多い。
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科学と認識
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γ線とβ線の放射線荷重係数が科学的にいって正しいのか調べていて、このブログを見つけました。とても参考になりましたし、納得できました。やはりコンプトン効果の方が大きいんですね。
2013/8/28(水) 午後 4:16 [ グレイスアンドラブ ]