さつきのブログ「科学と認識」

福島第一原発、アンダーコントロールで、わざと昨年の2倍の放射能を放出か

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 東電原発事故によって放出されたセシウムを高濃度で含む不溶性の球状微粒子についての論文(Adachi K., et al., 2013)が公表されたが、いろいろと重要な意味があると思うので、メモしておきたい。
 
 論文はNatureのオープンアクセス電子ジャーナルである "Scientific Reports"に本年6月12日に投稿され、8月15日受理、8月30日に公開された。タイトルは "Emission of spherical cesium-bearing particles from an early stage of the Fukushima nuclear accident" 。

 著者らは、筑波の気象庁気象研究所において、事故直後から大気中の浮遊塵を捕集し続け、様々な角度から研究を行ってきた。以下に概要をリストし、コメントを付記しておく。

1)放射能プルームは大きく分けて2回、3月14〜15日と3月20〜21日に分かれて襲った。

 コメント:3月20〜21に大量に降下した放射性物質について、当時は、それまでの放出によって上空に漂っていたものが雨に伴って落ちてきたものであり、心配ない、狼狽えるなと公言する「専門家」が多かった。しかし、その後の多面的な研究により、今では、新たなプルームが襲来したものとする考えが定説になっているようだ。このブログにおいてもここここで取り上げた。

2)フィルター上の放射性物質の分布を可視化するimaging plate (IP)を用いた観察によると、1回目のプルームに含まれる放射性物質は大部分粒子状に凝縮した形態のものからなり、2回目のものは分散した様相を呈する。

 コメント:ここでも簡単にふれたが、このたびの原発事故による放射性降下物にこのように凝縮したものが含まれていることは早い段階から知られていたが、1回目のプルームに含まれる放射性物質の大部分が凝縮した形態を示すことと、その実体を明らかにしたのが今回の論文。

3)走査型電子顕微鏡(SEM)を用いた観察によると、1回目のプルームには直径数ミクロン以下の多量の球状粒子が含まれている。2回目のプルームにも粒子が認められるが、大部分はサブミクロンサイズである。

 コメント:外形がきれいな球形であることから、この論文のDiscussionでも述べられている通り、メルトダウン(メルトスルー)によって核分裂生成物と炉材の一部が蒸発・気化し、その後大気中で凝結してできた化合物と考えられる。

4)3月15日の試料には、0.5 um以上の粒子が大気1m^3あたり平均4100万個含まれている。

5)SEMに装着されたエネルギー分散型X線スペクトロメータ(EDS)による分析では、セシウムの明瞭なピークが認められ、鉄や亜鉛も含まれている。

 コメント:EDSによる定性スキャンチャート(Fig. 3とSI 6)には、セシウムの特性X線のうちL-α線とL-β線の明瞭なピークが記録されている。本文中では触れられていないが、Fig. 3には他に鉛、カルシウム、カリウム、シリコン、ナトリウムなどのピークも見える。検出された主成分元素単体で最も高い沸点は鉄の2862 °Cであり、放出時の燃料デブリはこの温度を超えていたものと思われる。しかし、そうだとすると沸点が1382 °Cのストロンチウムが含まれないのは少し不思議である。尤も、SrのK線はFig.3 の右端で感度が悪く、L線はSi-KαとS-Kαの間に埋もれてしまっているので、この手法での検出は難しいと思う。
 いずれにしても、ゲルマニウムカウンターなどによって核種毎の放射線をカウントする以外の手法でセシウムを検出した例はこれまで目にしたことがなかったので、大変な驚きである。ちなみに、Cs-137を1リットルあたり1億ベクレル含む汚染水のCs-137の重量濃度は0.031 ppmで、ICP-MSでやっと検出できる濃度に過ぎない。

6)"Cs Particle 1" と名付けられた直径2.6 umの粒子をゲルマニウムカウンターで計測した結果、1回目の放出があった時点に補正するとCs-137が3.27 Bq、Cs-134が3.31 Bq含まれていた。この結果から、粒子の比重を2.0 g/cm^3と仮定すると、セシウムの重量濃度は5.5 %と算出される。

 コメント:5.5%というセシウム濃度は、SEM-EDSのピーク強度からおおまかに予想される濃度と整合的だが、私の計算では5.9%(5.907%)となった。5.5%は3月時点に遡った値ではなく、ゲルマニウムカウンターによる計測時点での値なのかも知れないが、どなたか追試を望む。また、厳密に言えば核分裂反応によって安定なCs-133なども蓄積されるので、全セシウム量はさらに多いかもしれない。なお、SEM-EDSであっても付属のアプリケーションソフトによっては定量値を出すことも可能で、最近ではピークの重なり補正やマトリクスの吸収・励起補正も巧妙になされ、かなり精確な値を出せるようになっている。LA-ICP-MSや波長分散型のFE-EPMAなどを用いて、もっと多数の粒子の多元素定量分析を実施すべきだと思う。

7)上記の"Cs Particle 1" を水に漬けた後で回収し、その表面形状がどのように変化するかSEMによって観察したが、何らの変化も認められなかったので不溶性(難溶性)のものと判断される。一方、3月20〜21日の試料に含まれるセシウムは、従来から報告されているように硫酸塩を主とした易溶性のものからなる。

 コメント:水に浸した時間については書かれていないが、ミクロンサイズの粒子の表面が全く変化していないことから、水への溶解速度はかなり遅いと判断される。ただし、溶解速度はPH によって大きく変化する筈である。

8)この粒子の健康への影響を粒子サイズと不溶性という観点から評価すべきである。

 コメント:このことはまさに「ホットパーティクル」の概念において放射線リスクを再検討せよとの主張であるように読める。ここに書いたように、γ線とβ線の放射線加重(荷重)係数がともに1であるのは、内部被爆において放射性物質が体内に均質に分布しているとの前提で納得されることである。しかし、不溶性のホットパーティクルが体内の一カ所にとどまっている状況ではβ線の与える被爆影響が高度に局所化されるので、その局所におけるβ線による吸収線量(Gy = J/kg)は極度に高くなり、DNA損傷の密度も極端に高くなるであろう。

 いずれにしてもこの粒子が定義上ホットパーティクルの概念によく当てはまることは確かである。ここでふれたプルトニウムホットパーティクル(粒径1μm、比重10のPuO2粒子)の放射能は 0.074 Bq、こちらでふれたアスベスト禍によって肺胞内に形成されたラジウムホットスポット(アスベスト繊維の周囲に形成されたフェリハイドライト粒子を含む直径10 μm、比重1.5のフェリチン)の放射能は0.000000224Bqであるにすぎない。これらはα核種からなるのでその危険性は侮れないが、この論文で取り上げられた「セシウムホットパーティクル」も、たとえβ核種からなるとしても、その放射能は遙かに高いので、やはり侮れない。

 こちらの記事において「人工核種については、例えば原発のメルトダウン事故によって低沸点の核種が蒸発し、その後凝固することによって、元の使用済み燃料中より高い濃度にまで濃縮された粒子が生成され得る。ホットパーティクルの一部は、このようにして生成されるのであろう」と書いた。この「セシウムホットパーティクル」はまさにその例である。このような粒子がやがて発見されるだろうとは予想していたが、初期プルームに含まれるセシウムの大部分がこのような粒子からなっていたとは驚きである。

 天然においてはこのような粒子は形成され得ないので、自然放射線を引き合いに出してこのたびの原発事故による放射線リスクを語ることは、もうやめた方がよいと思う。

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