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 以前、東電原発事故によって放出されたセシウム(Cs)に富む微粒子(セシウムボール)についての論文(Adachi et al., 2013)を紹介 したが、別の研究グループによるさらに驚くべき内容の論文(Imoto et al., 2017)(PDF 5.5 MB)が公開された。その内容は、放射性セシウムの環境中での挙動や健康影響などの評価、およびメルトダウン中の原子炉で何が起こったのかを理解するために極めて重要なので、少し詳しく紹介したい。

 タイトルは  "Isotopic signature and nano-texture of cesium-rich micro-particles: Release of uranium and fission products from the Fukushima Daiichi Nuclear Power Plant" 「セシウムに富む微粒子の同位体的サインとナノスケール組織:福島第一原子力発電所からのウランと核分裂生成物の放出」

 タイトルにある “signature” は、何かのしるしや指紋のような意味で用いられている。この研究は、福島第一原子力発電所のメルトダウン事故によって放出された放射性セシウムに富む微粒子について、今日の技術レベルで考え得るあらゆる先端的な分析を駆使したもので、特に、STEM 分析と SHRIMP による局所同位体分析が実施された意味は大きい。福島の放射能汚染がもたらす様々な影響や今後の対策について何事かを主張しようとする際にはこの論文の内容を理解することは必須である。

 本稿においては、この論文で何が明らかにされたのかを理解していただくことを旨とし、勝手ながら二回に分けて主要部分の邦訳を示す。個人的な感想と意味づけについては別途投稿する。図表のキャプションについては、Google 翻訳でもほぼ誤解の生じない訳出がなされるので省略した。茶色の文字は訳者による注記である。間違いや不正確なところがあればコメント欄にてお願いしたい。

要旨
 福島第一原子力発電所(以下、「福一」と略記する)から放出された放射性セシウムに富む微粒子(CsMP)は、2011年におこった惨事についてのナノスケールの化学的「指紋」を提供する。 原発から10 km 以内で収集された3個の CsMP(3.79〜780 Bq)は、それらの起源と形成メカニズムを明らかにするため、U、Cs、Ba、Rb、K、および Ca の同位体比が測定された。CsMPs は、Fe-ポルックス石結晶(CsFeSi2O6・nH2O)(最大 30wt% の Csを含む)の他に、主にSiO2ガラス基質中の Zn-Fe 酸化物のナノ粒子(1wt% の U を含む)からなる。 二つの CsMP の 235U/238U 比 0.030( ± 0.005)および 0.029( ± 0.003)は、濃縮された核燃料の値と一致する。この値は ORIGEN コードで推定される平均燃焼度のものより高く、未使用の燃料より低いため、様々な燃焼レベルの溶融燃料からの U の不均一な揮発と、引き続く Zn-Fe 酸化物への吸着を示唆する。ナノスケールの組織と同位体比は、メルトダウン中に燃料中で起こった化学反応の部分的な記録を提供する。また、CsMP は、放出された放射性核種のうち体内に吸引摂取され得る形態のものを運搬する重要な媒体であった。

イントロ(改行は訳者による)
 2011年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震の影響により、福一から、520 PBq の初期放射能を有する放射性核種が放出された。希ガス(Xe、Kr )と揮発性核分裂生成物(I、Cs、Te、Sb、Ag)を含む放射性核種は、福一を囲む14,000 km2 以上の地表を汚染し、約 10 万人の住民が避難を余儀なくされた。 放射性の Cs である 134Cs および 137Cs は、比較的半減期が短い(それぞれ 2.06 年および 30.07 年)ために、福一周辺の環境における現在の高い放射線の原因となる主要な放射性核種である。
 三つの炉心に存在していた Cs の約1〜7%が放出された。 福島周辺の地表環境における放射性 Cs の分布と移動については、これまでは、まず可溶性の放射性 Cs が放出され、福島県およびその周辺に広がって乾燥した地表や湿った環境に堆積し、続いて、バーミキュライトのような粘土鉱物の層間に固く結合して、土壌の 5 cm までの表層に残ったと考えられてきた。 しかし、汚染された土壌の Cs 濃度は不均質で、オートラジオグラフィーによって明らかにされているように、ミクロンサイズのホットスポットとして局所化されているが、この不均質性の実体は完全には明らかにされていなかった。
 この不均質性の原因について考えられるのは、福一から一定の距離範囲で見出される高い Cs 比放射能を持つ  CsMP の形成である。 これは、環境中での Cs 移行の重要な別ルートの1つである。CsMP は、易溶性 Cs とは異なって水に難溶性である。 134Cs/137Cs の放射能比が1くらいであるのは、それらが福一に由来することを意味する。 CsMP は当初、原子炉由来の様々な元素を溶かしこんだ非晶質ガラス粒子と考えられていた。 しかしながら最近の研究は、Cs の濃集物が、純粋な SiO2 ガラス基質中に離散した Zn-Fe 酸化物ナノ粒子が埋め込まれたものや、様々な核分裂生成物を伴う多数のナノスケールの包有物を伴う物質であることを示している。
 CsMP 内のナノスケールの組織は、原子炉内においてメルトダウン中に起こった化学反応を記録している。 難容性の CsMP は、東京に最初に降下した Cs の主要なキャリアとして認定されたもので、環境中での移動および健康影響に関して易溶性 Cs とは異なると予想される。 原子炉内部の CsMP 形成の反応経路に加えて、微量の U が CsMP 中に存在する。 原子炉内の遮蔽材には少量の天然 U も含まれているため、U および他の核種の起源は不明のままである。原子炉由来の U の産状は、メルトダウン時に核燃料が経験した反応や損傷した原子炉内で溶融した核燃料の状態を理解するのに役立つ。このことは適切な廃炉戦略を策定する上で重要である。 
 この研究では、原子スケールの解像度での分析と組み合わせた同位体分析により、U の起源と福一からの CsMP を伴う放出プロセスを明らかにしたという仮説を提出した。 CsMP は、CsI や CsOH のような易溶性 Cs の放出といった一般的概念とは異なり、福一炉心のメルトダウンの最中に生成された凝縮物の全く独特の形態である。 この論文では、個々の CsMP の同位体比を初めて報告した。 その他の安定同位体や放射性同位体の分析によってもまた、それらが天然起源であるか核分裂起源であるかがわかる。

結果
CsMP の形状、組成、放射能
 三箇所において OTZ3、OTZ10、KOI2、および OMR1 と名付けられた 4個の CsMP が見つかった(図 1)。試料採取の詳細は「手法」のところに記載した。図 2  は、CsMPs の主要元素の SEM 像および EDX による元素マップを示す。これまでの研究では、CsMP の形状は球形であると記載されてきたが、これらの粒子はむしろ不規則な形状の集合体に見える。さらに、ここで扱った CsMP の放射能は 3.79〜780 Bq の範囲である(表 1)。これらの値は球状の CsMP の約 33 倍高い。 SIMS 分析に使用されたOTZ3、KOI2、および OMR1 の 134Cs/137Cs 放射能比は1.06-1.08(平均1.07)であり、この値は、OrigenArp 計算によれば 26GWd/tU(の燃焼度)にほぼ相当する。 134Cs/137Cs 同位体比は福一の二号機および三号機の値に近いが、各原子炉内の燃料の燃焼度は燃料集合体の位置に依存して不均質であるために、同位体比のみから供給源の原子炉を特定することはできない。

SIMS 測定およびγ線分光法に基づく同位体比
 OTZ3、KOI2、および OMR1 の三つの CsMP の同位体分析の結果を 表 2 にまとめた。天然 U の 235U/238U 比が 0.00729 であるのに対し、未使用核燃料の値は典型的には 235U の濃縮で 0.03より大きくなる。 表 2に示すように、U 同位体比は OTZ3 と KOI2 でそれぞれ 0.029584 と 0.029341 であったが、OMR1 では U は検出されなかった。 標準試料 NIST SRM610 の U 同位体比は、標準値と調和的で、3 ポイントの分析の差異と標準偏差は約 0.00002 ± 0.000001(1σ)であり、SIMS(SHRIMP) 分析の精度は高い。

 Cs の安定な同位体は133Cs 一つだけ(天然で100%)であるが、134Cs、135Cs および 137Cs を含む様々な放射性同位体が原子炉内で生成され、その同位体比は燃焼度に依存する。Baの天然の安定同位体組成は原子比で、130Ba (0.1058%), 132Ba (0.1012%), 134Ba(2.417%)、135Ba(6.592%)、136Ba(7.853%)、137Ba(11.232%)、138Ba(0.1058%)、132Ba (71.699%)である。Ba のほとんどの放射性同位体(> 122Ba)は、典型的には、β-、β+、および電子捕獲などの様々なモードで崩壊し、同重体を経由して安定同位体へ壊変する。ここで用いた SIMS 分析ではセシウムと Ba の同重体を区別することは困難である。しかし、γ線分光に基づいて、SIMS 分析時点へ補正した134Cs/137Cs(γ)比は、OTZ3、KOI2、および OMR1 のそれぞれについて、0.0131、0.0135 および 0.0132 と算出された。 2011年3月12日15:36 時点へ補正した 134Cs/137Cs(γ)比は約 0.073 であった。 136Ba/138Ba 同位体比は、OTZ3、KOI2、およびOMR1 のそれぞれについて 0.1523、0.1638、および 0.4293 と決定された。 SIMS によって決定された134(Cs + 放射起源 Ba)/138Ba の同位体比は 35〜138 である。135Cs/137(Cs + 放射起源 Ba)および137(Cs + 放射起源 Ba)/133Cs は 0.39〜0.40 および 0.92〜0.99 であった。 Rb の同位体比 87Rb/85Rb は、2.2〜2.4 の範囲である。90Sr は CsMP 中に検出されず、Ca と K の同位体比はこれらの元素が天然由来であることを示している。

CsMP のナノスケール構造と組成
 先に SIMS によって分析された OTZ3-CsMP から OTZ3-1、OTZ3-2 と命名された二つの FIB 切片の切り出しに成功した。同じ土壌サンプル中に見出された OTZ10 CsMP からも別の FIB 切片が作製された。OTZ3-1 CsMP の高角度環状暗視野透過型電子顕微鏡(HAADF-STEM)画像を 図 3a に示す。白い矢印は粒子の位置を示す。コントラストの異なる2つの領域が識別できる(図 3b)。 2つの領域の境界付近の元素マップは、明領域で Cs 濃度がかなり高いが、他の元素は均一に分布している(図 3c、表 S1)。暗領域(edx1)は明領域(edx2)に比べて Cs 含有量が低い(図 3d)。低 Cs 領域(暗領域)の拡大された HAADF-STEM 画像は、元素マップ(図 3e)によって明らかにされるように、Zn と Fe を主成分とするナノ粒子からなる。これらのナノ粒子には Cs が含まれる。Si の分布は、試料の厚さのために解像できなかった(図 3e)。ナノ粒子は、HRTEM 画像によって他の CsMP においても同定されているフランクリン石構造(ZnFe2O4、Fd3m、Z = 8)として最もよく同定される(図 3f)。

 高 Cs 領域(図3b の edx2)は、低 Cs 領域に見られるフランクリン石ナノ粒子と比較して、Cs 含有量の高い比較的大きなナノ粒子(〜50nm)を含むように見える(図S1a)。Csに富む大きな粒子は、その後 SAED パターンに基づいて Fe に富むポルックス石構造(CsFeSi2O6・nH2O、Ia3d, Z = 16)と同定された(図 S1b)。ポルックス石は、理想式 (Cs, Na)(Al, Si)3O6・nH2O の沸石である。 Fe-ポルックス石は電子線照射下で不安定であり、おそらく水が失われて非晶質になる(図 S1c)。さらに、高 Cs 領域と低 Cs 領域の境界の HAADF-STEM 画像は、電子線照射後にコントラストが変化した(図 1d)。すなわち、Fe-ポルックス石の構造的劣化を示すように明るいコントラストが消えて、SAED パターンにおけるピークの低下と整合的である。高 Cs 領域の電子エネルギー損失分光法(EELS)によると、Cs は、その M 吸収端に示されるように一価であることを示している(図 S1e)。Ba は、Ba に富む固有相を形成するのではなく、Cs 含有相に密接に伴われ て存在する。これは、CsMP 中のほぼすべての Ba 同位体が放射性 Cs 起源だからである。Fe の L 吸収端(の吸収率曲線の形状)から、Fe が酸化物になっていることが確認された。

 同じ主要元素である Si、Fe、Zn、および Cs は、同じ集合体 OTZ3-2 から切り出された別の FIB 試料中にも存在する(図 4a。 HAADF 画像のコントラスト(図 4b)に示されるように、白い矢印で示される領域を拡大すると組織が均質であることがわかる。これは、 OTZ3-1 の高 Cs 領域(図 3b の edx2)に観察された球状組織とは異なっている。 しかし、Cs 含有量は OTZ3-1 における高 Cs 領域と類似している(図 4c)。 また、〜0.5 μm の大きさの単結晶が観察され、これは HRTEM 画像中の連続的な格子縞で明らかである(図 4d)。 2つの異なる主軸から得られた回折パターンに基づくと、この大きな Cs 相は 一つの Fe-ポルックス石である(図 4e)。

 U を検出するために、OTZ10 CsMP の FIB 切片を TEM によりさらに調べた(図 5a)。SAED は、典型的には非晶質領域からの拡散散乱に対応する広い回折極大を示す(図 5a の挿図)。切片全体の元素マップは、バルクスケールでの主成分元素の均質な分布を示す(図 5b)。 Cs 濃度は 7〜10wt%である(図 5c、表 S1 )。明らかに均質な分布および SAED における拡散散乱ハローにもかかわらず、拡大された HAADF-STEM 画像はコントラストの違いで分かるように相が分かれていることを示す(図 S2a )。元素マップと EDX 分析は、明るい相が Fe、Zn、Cs および Sn を含み、暗い領域は SiO2-領域に対応することを示す(図 S2b および c )。 HRTEM 画像はまた、多数のナノ結晶の存在を示す(図 5d )。 格子間隔と FFT 画像に基づくと、これらのナノ結晶はフランクリン石である。元素マップを用いた別の拡大された HAADF-STEM 画像は、U の分布が Zn-Fe酸化物ナノ粒子と密接に関連していることを示している(図 5e )。 U の濃度は、EDX 定量分析( edx2、図 5f )においてウランを U3O8 と仮定すると、0.8wt%( Si を含む)または1.1wt%( Si を除く)である。

(その2へ続く)


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