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その1 の続き。

議 論
 CsMP 上の10回のスキャンで得られた U 同位体比は、CsMP 中の U 濃度が低い(ppm レベル)ため、OTZ3 では約 0.0050、KOI2 では約 0.0030 と大きな差を示した。 加えて、この分析は、CsMP 集合体の凹凸のある表面を研磨せずに行なったため、 U 濃度の高い標準試料 SRM610 の分析ほどには正確ではない。 同位体分別の効果は、(質量数の大きな重元素であるため)これらの CsMP の形成時において無視できるほど小さいはずである。 同位体比の大きな偏差があっても、OTZ3 および KOI2 の 235U/238U 比は、天然 U の同位体比が 0.00729 であるのに対し、0.029584 および0.029341 とかなり高い。 予想通り、この同位体比は 235U に濃縮された典型的な核燃料のそれに近い。

 138Ba は核分裂起源か天然起源かのどちらかである。天然の136Ba/138Ba 比 0.1095 は、ORIGENコードを用いて一号機、ニ号機、三号機について推定された核分裂起源の 136Ba/138Ba 比である約 0.0126 より大きい。核分裂起源のこの値は燃焼度によって大きく異なり、10 MWd/kgU で 0.004、 20MWd/kgU で 0.011、30MWd/kgU で 0.014 である。 試料 OTZ3、KOI2、および OMR1 の 136Ba/138Ba 比は、それぞれ 0.1523、0.1638、および 0.4293 であった。これらの値は、核分裂起源 Ba のものよりはるかに高い。 この136Ba/138Ba 比は、低収量の核分裂生成物の寄与を示しているのだろう。揮発した Ba の量によっては (相対的に)136Cs(半減期 13.16 日)がかなりの量になり得るからだ。核分裂起源の Ba は Cs より多いが、Cs はメルトダウン中に Ba よりも揮発し易く、CsMP は Ba に比べて Cs を選択的に取り込むことができる。 136Ba は 136Cs(半減期〜13 日)の崩壊生成物であるため、136Ba は Cs 種の形態で取り込まれた可能性が高く、(それが壊変して)136Ba/138Ba 比が高くなった。一方、SIMS によって決定された 134(Cs + Ba)/138Ba は、天然の 134Ba/138Ba 比である 0.03371 および核分裂起源 Ba の比である 0.0373〜0.0566 よりはるかに高い 35〜138 となっている。
 この部分は重要で、これらの粒子がメルトダウンの最中かその直後に形成されたことの決定的証拠である。これは、安定同位体の同位体比異常から初期太陽系星雲中での微惑星形成期における消滅核種の研究などにおいて馴染みの議論に似ている。

 ORIGEN コードを用いた計算から、核分裂起源 134Cs の初期量は 134Ba とほぼ同じでなければならない。 従って、高い134(Cs + Ba)/138Ba 比は、おそらく Cs の揮発性が高いことに加えて、Ba と比較して CsMP に取り込まれる Cs の量が多いためであろう。 したがって、CsMP に最初に取り込まれた天然および核分裂起源の Ba 同位体は無視できるほど小さかったと考えられる。 むしろ、134Ba および 137Ba は Cs 同位体由来の放射起源のものである。 2011年3月12日15時36分の 134Cs/137Cs(γ)同位体比は約 0.073 であり、CsMP 中の 134Ba および 137Ba に対応する 134Cs および 137Cs の(放射壊変に伴う)減衰の計算に基づいて、2つの同位体比、134Cs/放射性134Ba (γ)と137Cs/放射性137Ba(γ)は、SIMS 分析の時点でそれぞれ〜0.19と〜7.47であった(表2)。

 揮発した Ba の量はごくわずかで CsMPs の Ba は大部分が放射起源であり、また、133Cs は安定同位体であり、135Cs は 230 万年という長い半減期を有するので、SIMS 測定による 135Cs/133Cs 比は初期同位体比を表す。以前の ORIGEN 計算では、一号機、二号機、三号機でそれぞれ 0.388、0.344、0.353 と報告されており、この値は今回の SIMS による分析結果(OTZ3、KOI2、OMR1 についてそれぞれ 0.39、0.33、0.38)に近い。SIMS による測定値から計算された同位体比 135Cs/137(Cs + 放射起源 Ba)および 137(Cs + 放射起源 Ba)/133Cs 比はそれぞれ 0.39〜0.40 および 0.92〜0.99 であり、この値は 135Cs/137Cs 比および 137Cs/133Cs 比の ORIGEN 計算による初生的な値(一号機、二号機、三号機についてそれぞれ、0.40 と 0.98、0.34 と 1.01、0.35 と 1.01)とほぼ同じである。さらに、135Cs/137(Cs + 放射起源 Ba)は、TIMS を用いて以前に分析したバルク土壌サンプルの 135Cs/137Cs 比に匹敵する 0.36〜0.38 である。 137Cs/放射起源137Ba 比が高いため、質量数137の核種の大部分は 137Cs に由来し、137Ba の二次イオン化効率は最小限に抑えられているに違いない。

 質量分析計での測定においては元素毎のイオン化効率の違いが常に問題になるが、補正係数の算出については技術的なことなので省略する。

 (SIMSによる)Rb 同位体比 87Rb/85Rb は 2.2〜2.4 であり、天然の 87Rb/85Rb 比(0.3856)よりも明らかに高く、Rb 同位体が核分裂起源であることを示している。 ORIGEN によって計算された 87Rb/85Rb 比(〜1.7)と比較しても、SIMS による 87Rb/85Rb 比は高い。それにもかかわらず、我々の OrigenArp の計算では、SIMS による 87Rb/85Rb 比に近い 2.5と2.7 の間の値が得られた。 この違いは、天然同位体との混合は 87Rb/85Rb 比を低下させるので、むしろ Rb の局所的な揮発によるものと考えた方が良い。

 OTZ10 と OTZ3-1 の低 Cs 領域のナノスケールの組織観察から、フランクリン石ナノ粒子が SiO2 ガラス基質中に含まれていることがわかった。これらの組織とフランクリン石に Cs が含まれていることは、以前の研究でも報告されており、多段階の形成プロセスを示唆する:すなわち、メルトダウン中に放射性 Cs が放出されてナノ粒子が形成され、ミスト中に液滴として存在していた。引き続き、圧力容器の破損で形成された無数のZn-Fe酸化物(フランクリン石)のナノ粒子に含水 Cs が吸着された。続いて、溶融燃料は圧力容器を突き破り、コンクリートの台座に達して 2000 K を超える SiO ガスを発生さた。このプロセスはコア ー コンクリート反応(MCCI)として知られており、直後に SiO2 はZn-Fe酸化物ナノ粒子を覆って凝縮し、 また核分裂起源核種のナノ粒子を取り込んだ。先行研究で示されていたように、CsMP 形成前に生成したフランクリン石ナノ粒子に低濃度の U(約1wt%)が認められる。また、フランクリン石ナノ粒子への U の吸着は、おそらく酸化物 UO2 燃料の揮発によって起こる。実際、UO2ペレットは、H2O:H2比によっては酸化され得る。

 UO2のウランの価数は四価であるが、より酸化的な環境では六価のUO3になり、天然ではその1:2の混合物であるU3O8の形態のものが多い。

 一般に U は不揮発性元素とみなされている。しかしながら、部分的に酸化された形態の UO2+X は〜30 K/分の昇温率で 1,900 K になると約10%まで揮発し、一方で、酸化されていない形態の UO2 は 2,700 K でも揮発しない。苛酷事故時のミクロンスケールエアロゾルへの U の含有は、いくつかの実験的研究においても認識されていた。 CsMP 内の U の化学形態は、OTZ10 およびこれと同じ土壌サンプルから分離された他の CsMP も同様に同定されている。同じ土壌試料中に見出された別の CsMP である OTZ3 の U 同位体比が決定された。 二つの CsMP から得られた 235U/238U 比は〜0.030 であり、当初は原子炉圧力容器を囲む断熱材に微量の(天然の同位体比を持つ)U が含まれていることから天然由来と考えられていたが、この考えは正しくないことを示している。むしろ、CsMPs 中の U は核燃料起源と考えたが良い。

 福一の稼働前の未使用燃料の初生的な U 同位体比は 0.038919(3.9%濃縮)であった。 ORIGENコードを用いた計算によると、一、二、三号機における中性子照射を受けた燃料の U の同位体比は、それぞれ 0.0172、0.0193 および 0.019219 であった。従って、U 同位体比は、使用済み燃料についての計算値と未使用燃料における値の間になる。 ORIGENコードで計算された同位体比は、全燃料集合体の平均燃焼度に基づいている。 235U/238U 比の実測値が未使用燃料と使用済み燃料の中間の値を示すのは、原子炉内で燃焼度と温度が均質でないからである。燃料集合体は、炉心内の装荷位置によって異なる温度を経験する。 一つのペレット内であっても、温度勾配がある。ペレットの中心は約 1,973 K まで加熱され得るが、周辺部の温度は約 673 K に過ぎない。さらに、一つのペレット内の燃焼度は一様ではなく、中心部で低く、縁で高い。燃料集合体の燃焼度は、訳あって異なる燃焼度の燃料棒から組み立てられるので、均一ではない。従って、比較的低い燃焼度を有する燃料棒は、少量の U が揮発するような温度であった可能性があり、結果的に、両方の CsMP とも高い 235U/238U 比を持つことになった。揮発した U は、OTZ10 CsMP 中の U によって例証されるように、おそらく Zn-Fe酸化物への単純な吸着によって含まれた。

 福一から放出された U の拡散については先行研究において、原発から 30 km ほど離れた水田の水と海水中で約 10^-9 の 236U/238U 比を持つと報告されている。また、約 30 km の距離で採取された黒色の粉塵サンプルでは、〜 10^-7 の 236U/238U 値が報告された。これは、原子炉内の燃料から約 150 g の少量の U が放出されたという証拠である。しかしながら、235U/238U 比を測定した別の研究では、天然の U 同位体によって希釈されていたために、それが福一起源であるかどうかの判定には至らなかった。これらの分析はすべてバルク土壌サンプルを用いて行われ、単一の CsMP からのデータは含まれなかったので、U の素性は決定されなかった。本研究では、Zn-Fe酸化物ナノ粒子が 1wt% 程度の U を含んでいるので U の素性を確実に同定し、同位体分析によって CsMP 中の U が核燃料由来であることを確認した。しかし、環境中にばらまかれた全 U の内、どれくらいが CsMP の形態であるのかについての定量的な分析はまだなされていない。

 放射性 Cs の二つの異なる産状が確認された。Fe-ポルックス石(の主成分として含まれる Cs)と、ガラス質 SiO2 マトリックス中に埋め込まれたフランクリン石ナノ粒子に含まれる Cs である。後者については既に述べており、先行研究でも説明されているので、ここではふれない。一方、 この研究では Fe-ポルックス石、CsFeSi2O6・nH2O が CsMP 中に初めて同定された。メルトダウン中にポルックス石が形成されることを報告した先行研究はない。しかし最近の実験的研究では、5%の Si を含むステンレス鋼への CsOH の化学吸着でポルックス石と CsFeSiO4 が形成されることが報告されている。両方の材料は、ゲルと Cs のような適当な元素の混合物を焼き鈍しすることによって合成することができ、沸石構造を有する。化学吸着によるそれらの形成は、CsMP の形成中に高 Cs 領域で起こりそうである。しかしながら、CsMPs 形成に必要な反応は、〜1,273 K での CsOH とステンレス鋼との単純な相互作用とは明らかに異なる。実際、ステンレス鋼との反応から生じる Cs-Cr 相は CsMPs には存在しない。むしろ、CsOH  が  2000 K 以上の高温下における コア ー コンクリート反応 で Si および Fe 酸化物との化学反応に巻き込まれた可能性が高い。高 Cs 領域と低 Cs 領域の境目のクリアな境界(図 3b)は、Zn-Fe 酸化物ナノ粒子は、コア ー コンクリート反応 の時点で形成された Fe-ポルックス石を形成する前に凝集体を形成していたことを示す。

 要約すると、本研究は、CsMP 中の U、Cs、Ba、Rb、K、および Ca の起源、ならびにその同位体比とナノスケール構造に基づくそれらの化学形態を首尾よく決定した。 特に、得られたデータは、CsMP 形成中に原子炉内で生じた核燃料を含む反応の輪郭を把握するために決定的に重要である。 化学状態および起源に関する詳細な情報は、メルトダウン中の福一における生成期の理解を提供する。 これは、Zn-Fe酸化物やポルックス石などの CsMP で特定された相のいくつかは MELCOR や MAAP などの苛酷事故解析コードで考慮されていないので、これらの解析コード(の改良)にとって重要な情報である。

手 法
試料採取
 試料は 3 地点で採取した(図1)。 標本のラベルは大文字が地域を表し、後の数字は九州大学の CsMP データベースの番号を示している。 
 OTZ3 と OTZ10 は、2012年3月16日に福島県二葉郡大隈町の福一から約 4 km 西に位置するオットザワの水田の上部〜1cm から採取された土壌から分離された。この土壌は主として粘土鉱物、石英、および長石からなる。 高線量のためにこのエリアへの立ち入りが禁止されているので、手付かずになっていて、除染や修復工事による擾乱はなかったと考えられる。 地上 1 m 高の放射線量は 84μSv/h であった。
 二番目のサンプル(KOI2)は、同じ日の試料採取中に福一から南西に 2.9 km 離れた小入野の集合住宅の排水管の下に集められた砂利で構成されていた。 排水管の下の線量は周囲に比べて極端に高く、試料採取ポイントでの線量は 630 μSv/h であった。 砂利サンプルを地面からスコップを用いて慎重に収集し、プラスチックバッグに入れた。 土壌は主に粘土鉱物、石英、長石で構成されていた。 
 第三のサンプル(OMR1)は、2012年12月20日のサンプリング事業中に、福一から北西方向に約 10.5 キロメートル離れた福島県双葉郡浪江町小丸(おまる)の倉庫の排水管の下で採取された。 地表 1m 高の放射線量は 30 μSv/h を超えていた。

CsMPの分離
 作業の前に、両方のサンプルを 114μm のメッシュで篩い分けた。粉末サンプルをグリッドペーパー上に分散させ、次いでプラスチックシートで覆った。次に、イメージングプレート(IP、Fuji film、BAS-SR 2025)を試料上に 5〜15 分間置いた。さらに、IP リーダーを用いて、100μm のピクセルサイズを有するオートラジオグラフ画像を取得した。強烈な放射能スポットの位置を特定した後、純水の液滴をこれらの位置に加え、次いでピペットを用いて吸引して、純水で希釈することによって少量の土粒子を含む懸濁液を生成する。懸濁液が有意な量の土壌粒子を含有しなくなるまで、この手順を繰り返した。続いて、ホットスポットを含む位置を、ブレードでできるだけ小さく切断したカーボン両面テープを用いて選別した。SEM 観察を使用して最大効率で CsMP を得るために、これらの断片をオートラジオグラフイメージングによって検査した。 SEM 分析の前に、試料片をアルミニウム板上に置き、カーボンコーター(SANYU SC-701C)を用いて炭素蒸着した。EDX、EDAX Genesis を備えた15-25 kV の加速電圧を用いて 2 つの SEM(Shimadzu、SS550 および Hitachi、SU6600)を用いて CsMP を見出し、観察した。

TEM試料の調製(省略)

TEM分析(省略)

ガンマ分光測定(省略)

二次イオン質量分析法
 同位体比分析は、国立極地研究所の二次イオン質量分析計 SHRIMP-II を用いて行った。 試料を Al 板または Cu グリッド上に置き、1インチスライドガラス上に Cu テープで固定した。 分析に先立ち、13.5 nm の厚さで Au をコーティングした。 0.2〜0.4 nA の O2 - 一次イオンビームを使用して、ビーム径 5.0〜7.0 μm の試料表面をスパッタリングした。 典型的な質量分解能は約 4,500(ピーク高の1%での M /ΔM)である。 NIST の SRM610(461.5 mg/kg の劣化ウランが珪酸塩ガラスマトリックス中に添加されたている)が標準試料として用いられた。SIMS を用いた定量分析では、目標鉱物の化学組成と類似の化学組成を有する適切な標準試料が必要であり、(本研究ではこれがないために)絶対濃度は得られず、同位体比のみが決定された。 CsMP 上の各分析スポットについて 10 回のスキャンを行なった。これは、10 回の分析の同位体比の変動が深度プロファイルを表すことを意味する。 したがって、SIMS 分析は、CsMP 内の同位体的指紋を提供する。 平均値を表 2 に示し、10 回の分析について標準偏差を計算した。

 以下、引用文献等省略

 次回、この論文の意味などについて、コメントを投稿予定。

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