さつきのブログ「科学と認識」

テレビで、絶滅危惧種のニホンウナギが「不漁だ」と騒いでいるようなんだけど、気のせいかな

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 放射性セシウムに富む微粒子についての最新の研究論文(Imoto et al., 2017)を紹介したくて、前回まで2回に分けて拙い邦訳を掲載した。ここではその意味などについて、私なりに考えたことをまとめる。

 記載された高放射性 Ce 微粒子(CsMP)の最大の放射能は、長径 17.3 μm の比較的大きな粒子(OTZ3)から得られ、2011年3月12日15:36 JST に補正した値として 780 Bq(134Cs:401 Bq、137Cs:379 Bq)であった。現在値(2017年8月30日時点)は 383 Bq(134Cs:53 Bq、137Cs:330 Bq)となる。この高い Cs 放射能は、STEM による高分解能の画像解析、元素マッピング、SAED 回折X線パターンの解析などから CsMP  中に含まれる Fe ポルックス石(CsFeSi2O6・nH2O)の微細な結晶の集合体に由来することが確認されている。その化学組成は Supriment Data  の Table S1 に示されており、Cs2O を最大 30wt% 程度含んでいる。この他に、Cs2O を7〜10wt% 含むフランクリン石(ZnFe2O4)の結晶も確認されており、これらの結晶粒子は SiO2(〜80wt%)に富むガラス基質中に密に埋め込まれている。CsMP が難容性であるのは、結晶質であることに加え、ガラスによって保護されているからだと考えることができる。珪酸塩鉱物やシリカに富む珪酸塩ガラスは、たとえ微粒子であっても、人のライフサイクルくらいの時間スケールでは生体内や環境中で安定に存在可能である。

 CsMP が U を1wt% 程度含んでいることも重要である。従来 U は不揮発性と考えられていたが、酸化数が上がると 1,900 K で揮発するという。CsMP の生成プロセスについては、γ線分光と SHRIMP を用いた局所同位体分析によって、その概要が明らかにされている。U の同位体比から福一起源であることは明らかである。

 また、Ba と Cs の同位体比から、CsMP に含まれるほとんど全ての Ba は、もともと Cs として取り込まれたものが放射壊変によって Ba に変わったものであり(図1参照)、天然の Ba や炉心に蓄積されていた Ba は、初生的にほとんど含まれていなかったと結論された。このことから、Cs(沸点:944 K) は揮発しても Ba(沸点:1910 K) は揮発しないような温度条件下でのコアーコンクリート反応で形成されたと推定された。また、Ba はイオン半径の大きな二価のアルカリ土類元素で、ポルックス石にもフランクリン石にもそのような陽イオンを配位するサイトがないために CsMP に吸着され難かったと考えられた。U が揮発したのに、Sr(沸点:1655 K)やコンクリートの主成分である Ca(沸点:1757 K)があまり含まれていないのも同じ理由からだと考えられる。このことは逆に、福一から放出された Sr が易溶性のものであることを意味し、それはそれで却って危険である。

イメージ 1


図1.核図表  の Xe-Cs-Ba 付近を拡大した図。矢印は放射壊変を示す。

 ポイントは、この論文の要旨で「CsMP は、放出された放射性核種のうち体内に吸引摂取され得る形態のものを運搬する重要な媒体であった」と指摘されている点であり、また、イントロに書かれている「難容性の CsMP は、東京に最初に降下した Ce の主要なキャリアとして認定された」も重要である。134Cs と137Cs の放射能(Bq)の比が   1:1であるような Cs を 15wt% 含む粒子の比放射能を計算すると、9.03E+11 Bq/g となり、この時の重量濃度は 134Cs が 0.94wt%、137Cs が 14.06wt% となる。この粒子を ここ  で示した図3(比放射能ー存在度図)にプロットすると、天然環境では形成され得ない「ホットパーティクル」の典型例であることが分かる。下の図2にその改訂版を示す。

イメージ 2

図2.比放射能ー存在度図。縦軸はいろいろな物質中の放射性元素の重量濃度(ppm)の常用対数値であり、目盛の6(100%)が上限となる。横軸は比放射能で放射性元素を含む物質の単位質量(1g)あたりの放射能(Bq)の常用対数値となっており、右側ほど半減期が短い。

 ちなみに、最大の放射能(780 Bq)を示した粒子 OTZ3 の形状を、SEM像から、  15 μm × 10 μm × 5 μm の直方体と近似し、密度を 2.5 g/cm3 と仮定すると、その質量は 1.88E-9 g(1.88 ナノグラム)になる。したがって、OTZ3 の初生的比放射能は、780 Bq ÷ 1.88E-9 g = 4.16 E+11 Bq/g(0.416 MBq/μg)となる。
 このサイト(放射線ホライゾン) では、ホットパーティクルの危険性を訴えた別の論文で、1MBq/kg と記載すべきところを、誤って Abstract に 1MBq/μg と記載しているとして、これを良く確認しないままメデイアがセンセーショナルに伝えたことで風評被害が起きていると批判している。0.4 MBq/μg の粒子が見つかった現時点で、この評価はどうなるのだろう。ポルックス石自体の初生的比放射能は1MBq/μg を超えるのだが、実害が生じ得ると警鐘を鳴らす方向に転換するのだろうか。

 この「比放射能ー存在度図」を作成した5年前には、その内「ホットパーティクル」が見つかるだろうと考えていたが、ここまで Cs を濃縮する粒子が生成され得ること、そしてそれが、放出された放射能の主要部分を構成していたことは予想外であった。それは、広島、長崎やチェルノブイリにかかわる研究で、このような粒子について記載した論文を目にしたことがなかったからである。

 核兵器の爆発の場合は、その破壊力に比べて実際の核分裂生成物の量は原発よりはるかに少ないし、メルトダウンに引き続く、コアーコンクリート反応のような、比較的ゆっくりとした反応が進行する時間的余裕もない。実際、大気圏内核実験によるグローバルフォールアウトの人工核種をトレーサーとした海洋の三次元的海水循環の研究(例えば、Eigle et al., 2017 )を参照すると、採水測定によって得られた鉛直方向の拡散速度は、粒子として沈降した成分の存在を否定しており、大部分が海水に溶けていると模擬することでうまく説明できるという。

 チェルノブイリはどうか。これは黒鉛炉であり、メルトダウン時に還元的な雰囲気になった筈で、この点で軽水炉である福一とは反応環境が大きく異なっていたであろう。チェルノブイリ周辺でこのような放射性微粒子を探す努力がどの程度なされたか知らないが、ATOMICA に記載されているチェルノブイリで見つかった粒子  は、本来のホットパーティクルの概念とは異なる性質のものである。もしかしたら、福一から放出された放射性物質の主成分が CsMP であったことは、地球上に本格的な多細胞生物が出現したおよそ6億年前以降、生命が初めて直面する種類の脅威であるのかもしれない。

この機会に指摘しておきたいことがある。
 まず、2012 年6月14日公開の togetter 「珍説出現、「セシウムホットパーティクル説」って?」 について。発端は、林 衛 @SciCom_hayashi さんが 2012 年6月12 日の tweet で「塊を形成する放射性セシウム」に言及したことにある。福一から放出された放射性物質が塊をなしていることは早い段階から知られていた。例えば美澄博雅さんの「放射能のページ」 には「フィルムを使ったオートラジオグラフィー」による多数の画像が公開されている。その実体が難容性の「セシウムを主成分として含む微粒子」であると分かったのもかなり早い段階であった。そのことは、かつて紹介した最初の論文の投稿が 2013 年6月であったことからも分かるだろう。この間、多数の研究者が同時平行的にセシウムの「塊」の実体解明に努めてきたことも、今回紹介した論文の文献リストで分かる。

 彼らがこの研究に着手したのは、イメージングプレートによる画像を見たことがきっかけになっている。この間の放射能の問題を気に病んできた者なら誰でも一度は目にしたことがある筈だ。これを見たら、どうして塊になっているのか、また、一つの塊でどれくらいの放射能があるのか、その実体を知りたいと思うのは当然であろう。セシウムは地球表層環境中では単体(金属セシウム)として存在できないし、その塩化物は易溶性であるといった高校レベルの知識で止まっているとしたらなおさら、いつまでも塊になっていることを不思議に思う筈だ。ところが、この togetter の人達は、どうやら不思議に思うところがなかったらしい。セシウムのホットパーティクルなんてあり得ないと断じているのである。(8/30、下線部を追記した)

 彼・彼女らも、高レベル放射性廃棄物が長期にわたる安定化のためにガラス固化体として処分されようとしていることくらいは知っている筈だ。NUMO は、ガラスが環境中で長期に安定であることをアピールするために、「発掘された古代エジプト時代のガラス工芸品」の写真をパンフレットに載せている。また、塩化物だけがセシウムの化合物でないことも当然知っている筈だ。なのに、この場ではすっかり忘れているふうであるのは何故だろうか。よく分からないが、可能性として考えられるところは二つある。一つは、目的が、ただひたすら林さんを批判することにあったということ。もう一つは、不思議に思うところがないのは何故か、「セシウムホットパーティクル説」を簡単にバカにできるのは何故かを考えると、何でも分かっていると自負しているからに違いない。もしかしたら、「物理帝国主義者」の残党なのか?

 どれほど物理学や化学に精通していても、物質科学的な思考回路が遮断されていれば、天然の放射能と人工の放射能は物質科学的に違うと言っても、その意味は理解されないだろう。オートラジオグラフィーによって、現に今も、東電原発事故によって汚染された土壌の放射性物質は、その多くが塊をなしたままであることが分かっている。
 この togetter は興味深いので、どうか削除しないでほしい。

 もともと「ホットパーティクル」という概念は、かなり古くからあるが、Tamplin and Cochran(1974)が、難容性の プルトニウム 粒子の吸引による高度に局所化された内部被曝によって、従来考えられていたより10万倍以上も危険度が上昇すると指摘したことで注目された。こちらの togetter  によると、コロラドさんは「ホットパーティクル説」を完全に否定しておいでの様子であるが、私の理解では、否定されたのは 「10 万倍以上」の部分である。しかしそれが、 1,000 倍か、100 倍か、あるいは 10 倍かの危険度の上昇は十分にあり得るとの演繹的推定から、その後も多数の研究が継続して行われ、ICRP 勧告にも不十分ながら反映されてきた、というのが実情のようである。
 10 年前と少し古いが、 ”Hot particle dosimetry and radiobiology--past and present“ と題する論文 (Charles and Harrison, 2007) があり、セシウムホットパーティクルなどが、皮膚、目、外耳に付着した場合や、その摂取被曝、吸入被曝の場合それぞれについて先行研究がレビューされている。径 300μm や 3 mm といったかなり大き過ぎる粒子について検討されるなど、内容的には不十分であるが、この時点では福一が放出した CsMP はまだなかったのだから仕方ないことではある。

 放射性核種毎の内部被曝の預託実効線量換算係数は、パラメーターの一つである生物学的半減期について易溶性のものを前提とした値を採用して算出されている。難容性粒子の吸入であれば生物学的半減期が長くなると予想され、従来の換算係数は再考を迫られる。ただし、生物学的半減期の影響だけであれば、何桁もの変動は考え難い。

 一方、例えばヨウ素を濃縮する甲状腺の被曝において、甲状腺等価線量に 0.04 をかけて全身への被曝影響の尺度としての実効線量へ換算するということが行われる。これは、ある一定量の放射性ヨウ素による内部被曝においては、甲状腺に濃縮しようが体全体に均等に分布しようが、個体全体の吸収線量は同じなので、結果的に確率的影響は組織荷重係数に関わるところ以外は何も変わらない、との判断に基づいているだろう。問題は、高度に局所化された被曝においてもこの仮定を適用して良いかどうかにある。その点はまだ十分には解明されていないが、先のレビュー論文を読むと、少なくとも目の角膜や水晶体に及ぼす深刻な影響は十分に考慮されるべきであることが分かる。「鼻血」をバカにするのも、既に2007年の時点においてさえ、科学的な態度から逸脱していると言える。

(以下、8/30 追記)
 この問題にかかわっては次の二つの論考が大変参考になるのでお読みいただきたい。



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記事の7分目付近と末尾に追記しました。

2017/8/30(水) 午前 9:52 [ さつき ] 返信する

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いろいろ勉強させていただいております。

3月に開催された日本保険物理学会でセシウムボールの内部被曝について発表があっておりました。
ttp://www.jhps.or.jp/pdf/20170324-symp.document.pdf 削除

2017/9/21(木) 午前 10:38 [ rz733375 ] 返信する

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情報ありがとうございます。
JGL(日本地球惑星科学連合ニュースレター)最新号(vol. 13, No. 3)に、ここで紹介した論文の共著者である宇都宮さん(九州大)による日本語での詳しい解説記事が掲載されました。
私の記事よりためになると思いますので、もし機会がありましたらお読み下さい。

2017/9/21(木) 午後 6:43 [ さつき ] 返信する

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> さつきさん

ありがとうございます。公開されましたら是非読んでみたいと思います。

ttp://www.jpgu.org/jgl.html
ここを見張っておきます。 削除

2017/9/22(金) 午前 8:49 [ rz733375 ] 返信する

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