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 昨日の記事を投稿した後で、Journal of Radiological Protectionの宮崎・早野論文のページにArticle informationとして注意喚起のコメントが掲載されているのを知った。昨日の夕方の時点では気づかなかったので、その後の事と思われる。

 第一論文については、使用されているデータの中に適切な同意を得ていないものが含まれている可能性があり、現在調査中であること、第二論文については、これに加え、主要な結論に影響を与える可能性のある計算間違いがある事が指摘されている。

 この二つの論文が注目されたのは、第一論文の、個人線量率とグリッド空間線量率の比の平均 <c> が 0.15 ± 0.03 と、従来考えられていた 0.6 の 1/4 になるという結論と、第二論文の、生涯(70年後まで)の累積線量の中央値は線量の高いA区域でも18 mSv 程度であり、全体として除染の効果も見えないという結論にある。

 早野さんの1月7日の釈明では、第二論文で累積線量を計算する際に、3ヶ月の累積線量を積算すべきだったのに、1ヶ月当たりの線量率を積算してしまい、結果的に結論が   1/3過小な見積もりになってしまったと説明されている。近似曲線を積分して累積線量を得たなら線量率のままでも問題はないように思うのだが、その値が間違っていたという事らしい。谷本さん達の検証によると、この説明だけでは整合しないものになっているというのは前回書いた事だが、早野さんとしては、第二論文の結論の一つである、A区域の生涯累積線量の中央値 18 mSv を 54 mSv に改めるということであろう。

 ここで注意すべきは、第二論文に次のように書かれていることである。

 前論文で c=0.15±0.03 と計算されおり、全てのガラスバッジによるサーベイの参加者の平均値である。現在の研究においては、私たちは c を継続的にガラスバッジを使用した人々に対し各地域ごとに再計算した。その結果は:cA=0.10、cB =0.12、cC =0.15 である。(黒川さん訳)

 この係数は極めて重要であるにも関わらず、あっさりと変更されているし、c の値が従来の定説とあまりにかけ離れている理由や、線量の高いところほど c が小さくなっている理由などが全く説明されていない。第二論文の、A区域の生涯累積線量の中央値が 18 mSv から 54 mSv に改められるとしても、c の値が従来の1/6 になっていることに変更はなく、この点で注意が必要である。仮に従来の c = 0.6 になるようなモデルを採用すると、6倍の 324 mSvとなるが、逆にそれは実測値とかけ離れることになる。つまり、実測値が従来のモデルで予測される値の1/4〜1/6 と小さな値になっているのは何故かということが問題となる。

 c の値が小さくなっている理由としては、ガラスバッジの測定では、装着者自身によって背後からの放射線が遮蔽される事や、身に着けずに放置されたりした不正常なデータが含まれている事などが指摘されているが、これらの問題については第一論文で検討され、大きな問題はないとされている。

 一方で私が気になったのは、ガラスバッジによる測定のバックグラウンド値である。このことについて、第一論文には次のように書かれている。

 ガラスバッジは自然放射線(地面からのガンマ線と宇宙線)に対しても反応する。事故によって放出された放射性セシウムによる追加線量を評価するためには、バックグラウンドの寄与を差し引く必要がある。福島県民に対してガラスバッジの読み値を報告するときには、ガラスバッジの供給者である千代田テクノルは、福島第一原発事故による汚染が小さい茨城県大洗町(福島第一原発から130km 南)で計測された 0.54 mSvy-1 相当分を差し引いている。伊達市はこのようにして得られた結果を各参加者に郵送する。(黒川さん訳)

 大洗町での計測値をもとに読み取り値から一律に 0.54 mSv/y を差し引いているということであるが、c の値が小さいとしたら、バックグラウンドの計測値も小さくなる筈なので、はなはだ疑問である。地質学会が公開している「日本の自然放射線量」のサイトで地上1 m高の放射線量(吸収線量)を確認すると、大洗町は全域 0.036〜0.0543 uGy/h の領域にある。Gy を Sv とほぼ等価とみなすと、年間にして 0.315〜0.476 mSv/y となる。 c = 0.15 を与えるガラスバッジで計測した場合 0.047〜0.071 mSv/y と一桁小さな値になる筈であるが、実際には 0.54 mSv/y と大変大きな値になっている。

 一方、伊達市の方は、南東部にある過疎地の一部に 0.0543〜0.0725 uGy/h(0.476〜0.635 mSv/y)のやや高いところがあるものの大部分は大洗町と同じ線量域となっており、西部の人口密集地の一部には0.0178〜0.036 uGy/h(0.156〜0.315 mSv/y)と線量の小さなところを含んでいる。すなわち、c = 0.15 となるようなガラスバッジのバックグラウンド値としては、0.54 mSv/y は一桁高すぎる可能性が高い。その結果、空間線量が 2 uGy/h を超えるような高線量地域でさえ、ゼロに近い異常な値が計測されることになった可能性がある(第一論文の Figure 4)。
 
 原発事故の前に野外における自然放射線を計測した私の経験からしても、 c が 0.15 と小さければ大洗町で 0.54 mSv/y と計測される筈はなはなく、0.54 mSv/y が正しければ、c は1に近い値でなければならないと断言できる。しかし、バックグラウンドの見積もり誤差の影響は、低線量域ほど大きくなるので、第二論文で示された c の値が高線量地区ほど小さくなっていることは、過剰なバックグラウンドが仮定されていることだけでは説明できない。結局、多数のファクターが重なって c が実際より小さく見積もられたのではないかと思われる。そこに恣意的な選択はなかったのか、検証されるべきであろう。

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