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「9.11陰謀論」というのがある。 9.11アメリカ同時多発テロ事件は、実はアメリカの権力筋(ブッシュ一味)がアフガニスタン攻撃の口実を作るために故意に仕組んだ自作自演の事件であるという「論」のこと。ウィキペディアには「アメリカ同時多発テロ事件陰謀説」の項目名で記載されている。知らなかった人は、いまさら知らなくてもいい話題だ。その具体的な内容と個々の評価は下記ウェブサイトに詳しいので参照されたし。このサイトの記述でほぼ整理し尽くされているので、ここではその内容にはいちいち立ち入らない。
http://www.nbbk.sakura.ne.jp/911/index2.html
本題に入る前に「陰謀論」の一般的な定義を示しておこう。米国政府筋の公式発表に示された「アルカイダ主犯説」も、言葉を変えれば「アルカイダ陰謀論」ではないかとの物言いが当の陰謀論者から提出されているが、それは違う。もしこのような用法を許してしまうと、ある事件について語る特定の「説」は、なんでもかんでも「○○陰謀論」と称せられることになる。一般に、ある事件について、その主犯、実行犯、手口、動機等の全貌が、一つのまとまったストーリーとして提示されている場合には、「○○陰謀論」などと呼んだりせずに、「○○説」、あるいは「○○仮説」と呼ぶのが普通である。「9.11陰謀論」は、その全貌をトータルに語るストーリーが未だに提出されていない。個々の事象、例えばWTCビルの崩壊だけについてみても、制御解体説が主張されてはいるが、その中身はサーメイト説、プラスチック爆弾説、はては小型水爆説まであり、実行犯まで含めた全体のストーリーは曖昧模糊としている。公式発表を、様々な仮定をおいた上で否定するだけの否定論の寄せ集めに過ぎないものであり、全体としては「仮説」と呼べる段階にない。にも関わらず、その主犯についてだけは米国権力筋が仕組んだものに違いないと確信を持って推測し、真実の隠蔽を告発する。このように、1)事件の全貌の具体的な説明抜きに、2)情報操作の可能な真犯人の存在を主張し、3)当の真犯人によって真実が故意に隠されていると主張する、このような言説を「陰謀論」と呼ぶ。陰謀論は不可知論に立脚した否定論の寄せ集めであって、仮説の体をなしていないので、具体的に反論しても次々と主張の中身を変えるご都合主義を最大の特徴とする。
一般論から言えば権力の巨悪を暴く努力は健全な民主主義の発展にとって必要不可欠であり、それが陰謀論の形で出発することもありえる。動機はちょっとした不審感でも何でもよい。そこに何らかの裏事情の存在を嗅ぎつけたなら、とことん追いつめること。ただし、遊び半分ではなく本気で権力と対峙しようと思うなら、その手法は徹底した現場取材、すなわち一次情報を基礎とするものでなければならない。多くの場合、それは、ジャーナリストやドキュメンタリー作家や科学者などの仕事となる。ところが、少なくともこの日本で「9.11陰謀論」を熱心に説いている面々はちょっと違うようにみえる。いったいどういう人達なのだろうというのが今回の趣旨。
同種の隠れた熱狂は以前にもあった。ひとつ挙げれば「アポロは月に着陸しなかった論」である。これは全国放送のテレビ番組にもなったので知っている人も多い筈。この話題をふりまいた面々は、全て、二次、三次情報を組み合わせて物語るだけの取材の素人達ばかりであった。しかも、データ解析の素人達でもあった。例えば、写真判読の素人であり、科学の素人でもあった。そのため、写真判読のプロや科学者達から猛反撃に遭い、表向きはあえなく撃沈となった。
「9.11陰謀論」の担い手達はどうだろう。自称ジャーナリストは居るのかも知れないが、そこから一次情報など発信されたためしはない。高校物理程度の知識を自慢する面々も居るようだが、アメリカの大学を追放された畑違いの「科学者」のヨタ話を、その中身をロクに理解もせずに真に受け、宣伝するしかない程度のようだ。WTC崩壊における「小型水爆説」などメガトン級の爆笑モノだ。このようなマヌケな科学話(SF)に対して大多数の科学者が反論せずに無視するのは、実は、汚らわしいモノにかかわりたくないというのが本音であることを、彼らは理解しない。つまり、KYな人達だ。消防のプロも、建築のプロも、ビル解体のプロも、航空管制のプロもいないようだ。自らの手で一次情報を得たとたん、その情報にかかわるプロになれるということも知らない人達らしい。
この面々は反米思想の持ち主のようにもみえる。アメリカの権力ならそんなこともやりかねないと信じているらしい。アメリカの権力は、こんな酷い手を使ってまで、アフガニスタンへの攻撃を正当化したかったのだと罵ることが心地よいらしい。過去に米国権力が仕組んだ謀略の実例としてベトナム戦争開戦の口実とされたトンキン湾事件のことも度々持ち出されるので、「左翼」思想の持ち主が多いのかもしれない。ただし、「おニューな左翼」なのかもしれない。なぜなら、トンキン湾事件と「9.11陰謀論」で主張されている内容とは、本質的に異質であることを理解できないらしいからである。トンキン湾事件の真相が暴かれたように、やがて9.11テロ事件の真相も暴かれる日がやってくると確信を持って語る。あまりにナイーブではないか。
「9.11陰謀論」を説くために、故意に偽造(つまり捏造)された映像や、恣意的な編集により証言者の意図が正反対になってしまった映像などを寄せ集めてつくられたDVDがある。冒頭に引用したウェブサイトの中でも詳しく解説されており、今では一部のコアな陰謀論者には「低レベル」と評される作品だ。にもかかわらずこの日本では、「9.11陰謀論」を広める先頭に立つグループが、平和と共生を求める運動の中で一定度の影響力を行使し、この捏造ビデオの日本語版を作成して売りさばき、ひと儲けしている。このような人達はいったい何を考えているのか理解に苦しむ。将来国政の表舞台で出番が来たときに、今はやりの言葉で言えば「身体検査」が実施されたとして、こうした運動全体に致命的なダメージを及ぼすのは必至である。意図的に運動をつぶすためにやっているのだと勘ぐられても仕方ないくらいのチョンボである。森村誠一氏が関東軍第731部隊の戦争犯罪を告発するために書いた「悪魔の飽食」という本に、(不注意から)一部の写真に誤用があっただけで、この本に捏造本との烙印が押され、出版社による回収と謝罪会見へと発展し、それが元で南京事件等も含む歴史認識を巡る運動に多大なダメージを及ぼした事件を思い出す。
http://www.morimuraseiichi.com/list/html/096.html
陰謀論にはまる人達は、単に注意力散漫で他人の迷惑を顧みない、まことにもっておめでたい人達にすぎないということなのか? 多くの陰謀論者は、主犯についての揺るぎない信念(信仰)だけに突き動かされているので、ディテールや全貌の解明など、実はどうでもよくて、自らにとって主張の根幹だけが正しいと思えればそれだけで満足のようだ。だから一次情報を発掘するなど面倒なことは他人まかせにする。ところが中には、熱心に一次情報を発掘し発信し続ける面々がいる。この陰謀論の震源となったアメリカ人達である。
そうしたアメリカ人達の中に捏造ビデオを作成した者らがいる。彼らは、真実などどうでもよい人達なのだ。ということは、何か他に目的があるということになる。当のアメリカ人達が反米思想に凝り固まっているとは思えない。単に、共和党政権が憎いだけなのか? 確かなことは、彼らの多くにとって、9.11事件の公式発表による説明、つまりアルカイダ主犯説は耐え難く受け入れ難いものであったということだ。イスラム教徒がそんな残酷なことをする筈がないと思ったのではなく、イスラム原理主義者のような下等な連中にこのアメリカ様がまんまとしてやられる訳がないと、そう考えたかったのだろう。訓練不足のイスラムの素人がジェット旅客機を操縦してWTCビルに見事に命中するなんてことは不可能で、実はアメリカ様のハイテク自動操縦か遠隔操縦で衝突したのだと主張したり、ビン・ラディンの犯行声明映像にイチャモンをつけたりするのも、そう考えると腑に落ちる。
9.11事件によって、いろんな意味でアメリカ人のプライドはずたずたにされた。彼らの一部に、自らのプライドを取り戻すために、こともあろうに同胞の中に極悪な裏切り者の存在を仮定しなければならないほどの屈折を余儀なくされた者らが居た。そうして生み出された粗悪なSFに一部の日本人が飛びついた。皮肉にもこのSFは、浮ついた反米思想の持ち主の心をくすぐり、酔わせ、結果、陰謀=事実と思いこませてしまうことになったようだ。だが彼らは、この説を支持することによって、逆に、長い間アメリカに痛めつけられてきたイスラム教徒の視点を丸ごと放棄する、そうした立場に自らが立っていることに気づかない。確信犯を除いて!
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真偽の程はともかく、都合よく作り上げた陰謀論者(この言葉自体どうかしてる。一部の人間は喜んで飛びつくだろうが)への悪口の羅列。
こんなものどうする気だ。
2012/6/30(土) 午前 5:41 [ tctcy ]