さつきのブログ「科学と認識」

福島第一原発、アンダーコントロールで、わざと昨年の2倍の放射能を放出か

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要旨:第一論文の C = 0.15 は、伊達市民の被ばくを避ける努力の結果であり、これを一般化して被ばく線量の見積もりに用いてはならない。

 「宮崎・早野論文事件」、東京大学は論文不正事件として本格調査に入り、伊達市でも、第三者委員会の「伊達市被ばくデータ提供に関する調査委員会」が活動を開始したようだ。第二論文については、黒川さんがJRP誌へ送ったLETTER論文で指摘した科学的な疑問点について、早野さんは文科省記者クラブに張り出した「見解」で、それには全く触れずに逃げている訳だが、なぜそのような態度をとるのかについて納得の得られる調査をしてほしい。

 一方で、第一論文の方の非科学性が及ぼす実害の、例えば除染のサボタージュや初期被ばく線量を小さく見積もるのにも利用されたりする懸念があり、その内容を科学的に問い直す必要がある。折しも、Twitter ID: @clear_wtさんによる、「宮崎・早野第1論文 係数0.15のからくり」と題する記事を目にした。この記事では、具体的な検討の導入部で、「この0.15 という係数は,放射線の教科書をしっかりと読み込み自ら検討した者ほど「ありえない」と感じる数字である(ありえる,と思った人は実はほぼ間違いなく早合点している)」と書きながら、結局、C = 0.15 もアリなのだとのオチで終わっていて、そのことの問題性が理解されていないと感じる。問題は、この C の値が除染や避難の方針を議論するのに参照されようとしているが、そのように普遍的に適用可能な値であるのかという点にあり、そのことに言及しない論評は無意味だ。

 単純化して言えば、C は、個人の被ばく線量(実効線量)を、その個人が活動するエリアの屋外の空間線量で割った値である。第一論文で求められた C の値が普遍的なものであるなら、ガラスバッジで計測される線量をCで割るとガラスバッジの置かれた周辺エリアの屋外の空間線量が逆算できることになる。

 ガラスバッジのバックグラウンド0.54 mSv/yも実測値だから、この値を元にその測定がなされた周辺エリアの自然放射線の空間線量を逆算すると、
  0.54 (mSv/y) ÷ 0.15 = 3.6 (mSv/y) 
となる。ガラスバッジが宇宙線(注1)にも感度があるとしても、とんでもなく高い値である。しかもこのときの計測は、終始コンクリート2階建の建物の1階でなされたということなので、なおさらだ。

 このことは、第一論文のデータセットでは、なんらかの理由によってガラスバッジ周辺の空間線量が航空機モニタリングで得られたグリッド線量よりかなり小さな値になっていたことを示している。理由のひとつが居住空間の建物による遮蔽にあって、その影響がデータ全体に及ぼす係数として 0.6 が採用されていることは周知のことであろう(注2)。他に、身体による遮蔽効果の係数が 0.7(注3)で、二つの係数を掛け合わせると0.42 となり、C = 0.15 までにはさらに 0.35 くらいの小さな係数が必要だ。

 その最大の要因が、広い範囲の平均的な空間線量を与える航空機モニタリングによるグリッド線量と、除染された地域の生活空間での1m高空間線量の乖離にあることは、内藤論文についての牧野さんの検討でおおかた明らかにされている。より具体的には多数の実測値をもとにした奥村さんの検討があるが、地上/航空比の中央値として 0.60 と、伊達市のデータに期待されるより大きな値となっている。これは、福島県全域を対象としており、全体として除染されていない地域の割合が高いためと思われる。

 まず私は、奥村さんの解析が、まるで自然現象を扱うかのようなノリでなされていることに違和感をもった。そこで、問題を鮮明にするため、第一論文のFigure 3 b に示された2012年6月の第5回航空機モニタリングによる線量分布図に、同じ月のリアルタイム線量測定システムによる空間線量の1ヶ月の平均値を書き入れたものを作成した(図1)
 
イメージ 1


図1 第一論文のFigure 3 bの、特に高線量エリアを含む中・南部の地上1m高の実測値(単位:μSv/h)

 第一論文に「伊達市では、市民は、事故直後から、空間線量測定と学校の除染という放射線防護活動を自主的に開始し、積極的に参加した。」(黒川訳)と書かれているとおり、伊達市民は、こども達の被ばくを最小化するために特に学校の除染に力を注いだことが、この図から読み取れる。集会所等に比べて小・中学校の線量が特に小さくなっていることは、データ一覧(表1)を作成して明瞭になった

 表1 伊達市の航空機モニタリングとリアルタイム線量測定システムによる空間線量
イメージ 2


 表1に示したデータは、図1の範囲の外にも広げてあるが、低線量エリアのデータは間引いてある。航空機モニタリングによる線量を横軸に、リアルタイム線量計による地上1mの空間線量を縦軸にとったグラフに、学校、集会所等、森林公園等を分けてプロットしたものを図2に示す。

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図2 航空機モニタリングとリアルタイム線量計による空間線量の関係


 この図から「地上/航空比」は、学校で 0.22、集会所等で 0.50、森林公園等で 0.78 と大きく異なっていることがわかる(梁川中学校のデータは異常値として除外している)。第一論文で C を算出するのに用いられた6つのデータセットのうち、このデータセットの期間を含む最初の2つのガラスバッジのデータは、大部分15才以下のこども達のものである。これらのことから、特にこども達が念入りに除染されたところだけで生活できるよう配慮された結果として、0.15 と小さな C の値が得られたことがわかる。

 つまり、C = 0.15 は除染の努力の結果であって、これを一般化して被ばく線量の見積もりに用いることはやってはならないということになる。

 大阪大学の菊池誠さんは、「福島で避難指示が出されていない地域は被曝量も少なく、安心して暮らせます」と繰り返しツイートしているが、被曝量が少ないのは自然にそうなっているからではなく、安心できないから被ばくを最小化したいと願う市民の大変な労苦と我慢による結果であることを知るべきだ。いや、彼は単なる「迂闊な人」ではないから既に気づいているのかもしれないが、少なくとも福島に寄り添ってなどないことは明らかなので、彼の言うことを真に受けてはダメだ。

―――――――――――――――
注1)文部科学省「学校において受ける線量の計算方法について」は、宇宙線:0.29 mSv/y、大地放射線:0.38 mSv/y を採用し、
電気事業連合会の自然放射線のページでは、宇宙線:0.3 mSv/y、大地放射線:0.33 mSv/y、としている。


② 追加被ばく線量年間1ミリシーベルトを、一時間当たりに換算すると、毎時 0.19 マイ クロシーベルトと考えられる。(1日のうち屋外に8時間、屋内(遮へい効果(0.4 倍) のある木造家屋)に 16 時間滞在するという生活パターンを仮定)
※毎時 0.19 マイクロシーベルト × (8時間 + 0.4 × 16 時間) × 365 日 = 年間1ミリシーベルト

  8時間 + 0.4 × 16 時間 = 24時間  × 0.6
となり、この 0.6 が1日の被ばく線量に及ぼす遮蔽効果の係数ということになる。


注4)データは次のサイトからダウンロードした。



 「宮崎・早野論文事件」が発覚してしばらく経った訳だが、やはりというべきか、早野さんを擁護する人がちらほら出てきて、この事件らしい様相を呈してきたようだ。以下に示すように、早野さんは放射能安全デマを繰り出す確信犯だから、早野さんを擁護する人は同じような確信犯であるか、それらの人に騙された愚かな人であるかのどちらかということなのだろう。
 
牧野さんがHARBOR BUSINESS Onlineに書いた記事にある「事故発生後の早野氏の削除されたTweet」や、押川さんのツイートでの指摘等にあるように、早野さんは、東電原発事故による放射能汚染と大気圏内核実験によるグローバルフォールアウトを比較した場合、福島だけでなく東京でも圧倒的に東電原発事故による汚染濃度が高いという事実を2011年の内には把握しておきながら、グローバルフォールアウトに比べて東電原発事故による放射能は大したことないとの嘘をくり返し広めている。以下に、早野龍五・糸井重里著『知ろうとすること』(新潮文庫オリジナル  2014年11月5日 第五刷)のp36〜41から引用しておく。

早野 被ばくに関するもうひとつの経験は、ぼくが物理学科の学生だったころの話です。大学にある小さな加速器(原子核の実験に用いる装置)を使った施設で、実験をやっていたんです。加速器のある部屋には出入り口のところに放射線のモニターがあって、体が放射線で汚れていないことをチェックしてから部屋を出ることになっていました。
 ある日、女性の技術者がそれに乗ったところ、すごく高い反応があって警報が鳴り響いたんです。これは加速器のどこかで大変なことが起きたに違いないってことになって、汚染源を突き止めるために、みんなでサーベイメーター(携帯用放射線測定器)を持って加速器の中を調べました。でも、なかなか見つからない。そしたら、外に通じる廊下、そこに足跡のように、飛び飛びに汚染が続いているってことがわかったんですね。つまり、汚染は加速器の中ではなく、外から来ていた。
 それで、外へ出てみて計測してみたところ、あたり一面が汚染されているという状態でした。雨が降っていて、彼女は外から歩いて加速器のある部屋に入って来たんです。それから中で作業して、出るときにチェックで引っかかった。で、彼女を見たら、髪の毛が雨でちょっと濡れていて、その部分を測ってみたらすごい汚染なんです。すぐにシャワーで洗い流して、もう一度測定したら問題ない値になった。あらためて、あちこち測ってみると、外の葉っぱの上や、道路の上、飛び飛びに汚染があるという状態でした。
 研究室にはサーベイメーターだけではなくゲルマニウム検出器もあったので、汚染源が何なのか詳しく調べてみました。すると、核分裂以外では生じえないものが検出されたんです。
 つまり、「これはどこかの国が核実験をやったに違いない」と。
 その時点では、まだニュースも流れていなかったんですが、後日、中国が大気圏内実験をやった直後だったということがわかったんです。(中国は、1973年6月27日、西部地区上空で水爆の実験を行ったと発表。爆発威力は約2〜3メガトンで、航空機から投下されたと見られている)。核実験の後に東京に雨が降って、その放射線を偶然に計測してしまったわけです。
糸井 大事件ですね、それは。
早野 1973年、東京の都心での出来事です。もちろん、その日は誰もそんなことは知らされていません。けれども、少なくとも東京にいた人たちは、みんなその雨を浴びたんです。
 それはぼくにとってある意味、強烈な原体験でした。
 ぼくは核分裂片というのはどういうγ線を出すかということを実際に計測して初めて知りましたし、核分裂で降ってくるフォールアウト(放射性降下物)というのは、雨と共に一様に広く薄く散らばるんじゃなくて、わりと、ゴロンゴロンと粒で地上に残ることも知りました。また、汚染された靴を洗ったりシャワーを浴びたりして、その程度の汚染であれば、洗い流せるということも知ったんです。
糸井 当時、東京にいた人たちは、何も知らずにフォールアウトの雨の中にいたんですね。
早野 はい、ぼくは、当時、その事実に一番最初に気がついた数人の中の一人だったわけです。
糸井 そのフォールアウトを実測したときの数値は、今回の事故の数値と比較して、どのくらいの規模のものだったんですか。
早野 ぼくらは、いまのように1平方メートルあたり何ベクレルというかたちでは測ってなかったので、当時の東京といまの福島を直接比較するのは難しいんです。でも、気象研究所というところが1950年代後期からずっと核実験によるフォールアウトの研究をしていて、継続的に数値を残しているので、そのデータといまの福島を比べることは、事故後、割と早い時期からできていました。
 地域差があるので一概には言えませんが、少なくとも首都圏に関しては、1973年のフォールアウトと比較しても、それほど心配するレベルではないなと。また、この程度の数値であれば、放射線によって福島の方々が将来バタバタと体を壊していくようなことは決して起こらない。それを早い時点で確信していたので、たしか3月14には、そのようにツイートしていたと思います。

ryugo hayan@hayano (2011 3/14)
1973 年に中国が大気圏核実験を行い、東京に雨とともに放射性物質が降った。学生だった私はガイガーカウンターで人々の頭髪や衣服などを測定。その数値は、福島の病院で被ばくされた方々と同等以上、都民の多くが被ばくしたはずだが、それによる健康被害は現在に至るまで報告されていない。

糸井 ああ、そのツイートはよく覚えています。3月14日といったら、まだ余震が頻繁にあった時期ですよね・・・。
 そうそう、当時、早野さんのツイートを読んでたときの気持ちを思い出してきました。早野さんは「安心しなさい」みたいなことは一言もおっしゃってなくて、ただ事実をツイートしてたんですよ。みんなが大騒ぎしている時に、淡々と。
早野 うん、そうですね。事実を書いて伝えてた。それは意識していました。
  当時、ぼくには、自分の医療被ばくと、核実験のフォールアウトという、放射線に関するふたつの物差しがあった。だから、「今回の事故は、それと比べてどの程度だろう」という風に常に考えることができたんですね。個人的な体験に基づく物差しというのは、思い込みの原因にもなるので、場合によっては危険なんですけど、今回はその物差しが使える範囲の中に福島のほとんどの事象があったので、とても役に立ったんです。

 SYNODOSのまだ続く「知ろうとすること。」という片瀬久美子さんの記事(2018年5月12日)が今になって宣伝されているれど、片瀬さんは騙す人?、騙された人??

 私はかつて、故肥田舜太郎さんの著書にある誤りを出版元の筑摩書房の感想投稿フォームを使って質したところ(注)、丁寧なお詫びを添えて、新しい版では既に訂正済みである旨のメールをいただいたという経験がある。新潮社のサイトにはそのような場がないようだし、早野さんは確信犯だから、他の人が騙されないようにこの記事を書いた訳だが、それにしても、「将来バタバタと体を壊していくようなこと」はないから安心して良いと、早野さんは言っている訳だ。「バタバタと体を壊していく」ような状況と、安心して良い状況との間には大きな開きがあると思うのだが・・・

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甲状腺ファントムを用いたGM菅による被ばく量の推定

 1月21日付、東京新聞は、「東京電力福島第一原発事故の直後、福島県双葉町にいた十一歳の少女が、喉にある甲状腺に推計で一〇〇ミリシーベルト程度の被ばくをしたと報告されていたことが、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)の文書から分かった。」と報じた。

東京新聞 TOKYO Web

 甲状腺被ばくのスクリーニングでは本来 NaI シンチレーションカウンターを用いなければならないが、このケースでは緊急時における表面汚染スクリーニング用のGM管サーベイメータが使用され、体表面を除染したあと頸部に密着して測定した結果、 50,000〜70,000 cpm のカウント率が計測されたとのこと。測定がGM菅サーベイメータを用いてなされたことから、100 mSv の被ばく線量という推計はあてにならないというのは、その通りであろう。しかし、実際の被ばく量はもっと大きかった可能性もあるので、放置して良いということにはならない。

GM管サーベイメータの機種は?
 前提として重要なのは使用されたサーベイメータの機種であるが、おそらく日立アロカのTGS-146Bか、その先行機種または後継機種と推定される(注1)。大学のRIセンターや公的機関に納入されるものは、JIS規格の校正基準を満たす必要から、日本ではほぼアロカ社の独占状態にあることと、体表面を含む表面汚染の緊急スクリーニングでは入射窓面積 20 cm2のGM管サーベイメータを使用することになっているので(注2)、そう考えてよいだろう。これを用いた計数値はもっぱらβ線によるものとして、表面汚染密度への換算が行われる(注3)。

 しかし、このケースでの最大の問題は線源効率である。β線用のGM菅で甲状腺からのβ線をキャッチできるだろうか。I-131のβ線の最大エネルギーは 0.606 MeV であり、この最大エネルギーのものでも水中での飛程は 2 mm に過ぎない(注4)。平均エネルギーを 0.2 MeV とすると、平均飛程は0.44 mmだ。なんとか体表面まで届いたとして、エネルギーの大半を失ったβ線はGM菅の窓材を通過できるのか、甚だ疑問である。

甲状腺ファントムを用いた各種測定器の校正研究
 そもそも甲状腺は頸部表面からどれくらい離れた位置(深さ)に存在しているのかさえ知らない。そこで、甲状腺ファントムを用いた研究はないかと探したら、あった。


 なんと、TGS-146の先行(先祖)機種であるTGS-133を用いた測定データもある。これらは同型のGM管(図1)を用いてあるので、この論文のデータを用いてそのまま今回の双葉町における被ばく線量の評価が可能だ。まず目を引いたのは、ファントムのジオメトリである。

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図1 日立アロカの表面汚染計測用のGM管

 本研究では, 日本人の甲状腺に関する解剖学的データに基づいて, 約 2 mm 厚 のアクリルで作成された 3 個の甲状腺ファントムを用いた。それぞれの内容積は,    16 m,   12 ml,  4 m1である。甲状腺ファントム中には, 既知量の131I 標準溶液を加えた水溶液が封入してある。
測定時の131I の放射能は約 24 kBqであった。 甲状腺ファントムは, 首を模擬した円柱形の中空容器 (以下ネックファントムと呼ぶ) の中に固定して使用する構造となっており, 甲状腺の頸部表面からの深さは 1 cm に固定した。甲状腺ファントムを固定した後, ネックファントムに純水を満たして密封し, 実験を行った。
 
 甲状腺の頸部表面からの深さは 1 cm で、その間は水で満たされているとのこと。これでは甲状腺からのβ線は全く表面まで届かないことになる。それでは何が計測されているのか。

γ線への感度
 本機種では主にβ線が計測されるが、γ線にも若干の感度がある。私はかつて、TGS-133の後継機であるTGS-136を用いて、トリウムを8%程度含むモナザイトをGM管の周囲を一周させ、その指向特性を調べたことがある(図2)。このときの計数率は、正面を  100%とした時30度斜め方向で70%、45度で50%、真横から裏側にかけては10%弱となった。真横から裏側では、β線はGM管の壁材や金属カバーによって完全にカットされるので、γ線だけのカウントとなる。γ線はGM管の壁材やカバーを容易に突き抜けて全方位から入射するので、バックグラウンドが高い時、全カウント数に対するγ線の寄与率はかなり高くなる。このことから概算すると、前方からのγ線の補足率は大雑把に 1〜2% 程度と見積もられる。

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図2 TGS-136の指向特性

甲状腺等価線量の推定
 いずれにしても、ファントムを用いた(おそらく同型機による)実測値が掲載されているので、そういった面倒なことは考えなくて良い。結果を表1に示そう。

表1 石川・内山(1997)の Table 1から、70,000 cpm の計測に対応する甲状腺中のI-131の放射能(Bq)を計算
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 例えば、24 kBqのI-131を含む12 mlサイズの甲状腺ファントムをGM管サーベイメータで計測した結果、1000 Bqあたり0.26 cps(= 15.6 cpm) の計数率が得られている。この結果から 70,000 cpm の計数率となるI-131 の放射能を逆算すると、

  70,000 cpm ÷ 15.6 cpm/kBq   =  4.49E+03 kBq  =  4.49E+06 Bq(449万 Bq)

となる。

 これをもとに実効線量と甲状腺等価線量を算出して見よう。体内に取り込まれたヨウ素の70%〜80%は甲状腺に分布しているとのことなので、甲状腺に449万 Bqが存在しているとき、全身には560万 Bq (= 5.6 E+06 Bq)程度が存在していることになる。環境省は、経口摂取によるI-131の実効線量への換算係数は、10歳児の場合 0.052 μSv/Bq (= 5.2 E-05 mSv/Bq)としている。体内に560万 Bqの I-131 が存在するためには、経口摂取した量はもっと多くなければならないと考えるべきなのかもしれないが、とりあえずこの値を用いると、実効線量は、

  5.2 E-05 mSv/Bq × 5.6 E+06 Bq = 291 mSv となる。

甲状腺の組織荷重係数 0.04 で割ると、甲状腺等価線量は 7, 275 mSvとなる。

とんでもない数値だが、何か間違っていないだろうか?
とにかく、専門家は、うやむやにせずに真剣に再検討すべきだと思う。

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注1)1990年代に使用されていたのはTGS-133で、その後、TGS 136、TGS-146, TGS-146Bとモデルチェンジを重ね、現行の後継機種はTGS-1146である。いずれも窓径 5 cm の同型GM菅を使用しており、機器効率のエネルギー依存曲線が微妙に異なるものの、ほぼ同等の計数率となる。GM管を用いた放射線サーベイメータにはγ線と反応する特殊な壁材のGM管を使用してγ線にも十分な感度を有するよう設計され、空間線量率測定にも使えるものがあるが、窓径が小さい。また、全方位からのγ線を拾うので、指向特性が弱く、表面汚染検査には適さない。

注2)長崎大学原爆後障害医療研究所のサイトにある資料「原子力・放射線防災と緊急モニタリング」の「OIL4:体表面の除染を要する基準」の項参照

注3)β線核種の表面汚染密度(Bq/cm2) =  

          (測定値−バックグラウンド)/60
    ――――――――――――――――――――――――――
    (機器効率 × 線源効率 × GM管の入射窓面積 × 開口率)

 毎秒あたりのBqの単位に合わせるため cpm 単位の計数値を60で割る。

 TGS-146の仕様書によると、I-131からの最大エネルギー 0.6 MeV のβ線の機器効率は 0.45 程度、入射窓面積は 19.6 cm2 、窓を保護するための金属製メッシュカバーにより開口率は 0.85となっている。バックグラウンドは、平常時であれば自然放射線による 50 cpm 程度の係数率となるが、この場合、最大 10,000 cpm 程あっても不思議ではない。しかし、公表されている係数率はバックグラウンドを引いた値であると思われる。

注4)β線の飛程の計算ツールのページ参照

 牧野さんの1月3日のtweetにあるように、伊達市が前市長時代に発行していた「だて復興・再生ニュース」の第8号に、「宮崎・早野論文の原型みたいなものがある。」そこには、地上1m高の空間線量から予測される実効線量(予測値)とガラスバッジで実測された実効線量の地区毎の平均値、および両者の比が示されている。全体では実測値は予測値の36%となっているが、予測値は各地区の数値の単純平均とほぼ一致するものの実測値は合わない。実測値の地区毎の単純平均は1.091 mSvとなり、予測値の44%である。牧野さんも指摘するように、「おそらく、実測値は、各人のデータの単純平均をとったのであろう。その時に、意味がある比較をするなら予測値のほうも人口で重みつけて平均しなければいけない」。そうしないと、地区毎の人口次第で、この比が変わってしまうことになる。

 もう一点指摘すべきは、追加被ばく線量の予測値の算出で、地上1m高の空間線量の実測値から自然由来の放射線として 0.04 μSv/h 分を引いてあるのに、ガラスバッジの実測値からは0.54 mSv/y (= 0.062 μSv/h)相当を引いてある。両者の(見かけの)比を求めようとするときには、最初のステップとしては同じバックグラウンド値を引かなければおかしなことになるので、これは明らかな誤りである(注1)。仮にガラスバッジのバックグラウンドを 0.04 μSv/hとすると、実測値の地区毎の平均は予測値の平均の56.8%となる。

 さらにもう一点、空間線量を0.4 μSv/h以下、0.4〜0.7μSv/h、0.7 μSv/h以上の3つの領域に分けて上記予測値に対する実測値の割合を算出すると、それぞれの平均値は、58.6%、45.9%、39.3%と、高線量地域ほど明瞭に低くなる。だて復興・再生ニュース第8号のまとめは、平成24年7月〜平成25年7月(ガラスバッジは、平成24年7月〜平成25年6月)に測定されたデータが用いられている。この間、高線量のAエリアは平成25年7月に除染が完了し(だて復興・再生ニュース4号)、一方、低線量のCエリアは平成25年6月に除染が業者に発注されたばかりである(だて復興・再生ニュース3号)。

 おそらく、高線量区の住民ほど、除染された線量の低いところを注意深く選んで行動していることの現れであろう。日々の生活にそのような労苦を強いられている訳で、実効線量と空間線量の比(c)が小さいと喜んでばかりいるのは、そのような強いられた労苦に想像が及んでいない証拠ではないのか。いずれにしても、予測値に対する実測値の割合としては、現時点では、低線量地区の58.6%の方を参照すべきであろう。だて復興・再生ニュース(第8号)で示された36%という値は、幾重にも誤りを重ねた結果と言えよう(注2)。

 バックグラウンドについては、宮崎・早野第一論文でも同じ誤りがある。第一論文では次のように書かれている。

バックグラウンドがガラスバッジの計測値から差し引かれているため、私たちは、0.04 μSvh-1 を航空機による線量調査から得られた H*(10) から差し引く補償を行っている。この 0.04 という数値は日本政府が周辺線量を実効線量に関連づけるときに用いた式中の値である[15]。(黒川さん訳)

 (その2)で書いたように、ガラスバッジの計測値から差し引かれているバックグラウンドが 0.54 mSv/y (= 0.062 μSv/h)であることは、同じ論文の別のページに記載されているので、著者がその可笑しさに気づかなかった筈はないと思うのだが・・・、査読者も気づかなかったということか。

 懸命な査読者なら次のようにコメントした筈だ。
天然の放射線も人工の放射線も測定器は区別できないのだから、ある個人が測定期間中に被曝した実効線量の実測値と、居住域の空間線量との比 ( c ) を求めたければ、不確かなバックグラウンド(自然放射線量)を引くことをせずに、そのままの比をとる方が正確だ・・と。

 それにしても、伊達市には地上1m高の空間線量の実測値データが多量にあるのに、宮崎・早野論文では、なぜわざわざ航空機モニターによる間接的なデータと比較したのか、極めて不可解である。そこには何らかの意図があった筈であるが、そのことはきちんと説明されていない。結果的に、実効線量と空間線量の比(c)の  0.15(高線量エリアでは 0.1)という値が一人歩きし、伊達市の除染のサボタージュへと繋がっていくことになる。

 だて復興・再生ニュースには、市政アドバイザーの多田 順一郎氏によるコラムが連載されていて、放射能安全論のデマ発信源となっている。第1号には、田中俊一氏が規制委員長就任前に伊達市の市政アドバイザーを務めていたことが記されている。多田氏はNPO法人放射線安全フォーラムの理事であるが、田中俊一氏はその顧問である。NPO法人放射線安全フォーラムの役員・顧問をみると、そうそうたるメンバーで、事務局のメンバーは全員、ガラスバッジ製造元の株式会社千代田テクノルの社員である。なんだかな〜な光景だ。

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注1)(その2)に書いたように、仮にこの比が 0.6 で空間線量のバックグラウンド 0.04 μSv/h が正しければ、ガラスバッジで計測されるバックグラウンドは 0.04 × 0.6 = 0.024 μSv/hでなければならない。実際には、提出されているどちらのバックグラウンド値が正しいかわからないが、バックグラウンドの比も c と同じでなければならないので、c の値が知りたければ、バックグラウンドを引く前の値の比を求めれば良いということになる。

注2)宮崎・早野論文では実効線量の実測値と空間線量の比を求めているが、伊達市の解析は、空間線量に0.6を乗した実効線量の予測値との比を求めている点で違いがあるので注意が必要。

 昨日の記事を投稿した後で、Journal of Radiological Protectionの宮崎・早野論文のページにArticle informationとして注意喚起のコメントが掲載されているのを知った。昨日の夕方の時点では気づかなかったので、その後の事と思われる。

 第一論文については、使用されているデータの中に適切な同意を得ていないものが含まれている可能性があり、現在調査中であること、第二論文については、これに加え、主要な結論に影響を与える可能性のある計算間違いがある事が指摘されている。

 この二つの論文が注目されたのは、第一論文の、個人線量率とグリッド空間線量率の比の平均 <c> が 0.15 ± 0.03 と、従来考えられていた 0.6 の 1/4 になるという結論と、第二論文の、生涯(70年後まで)の累積線量の中央値は線量の高いA区域でも18 mSv 程度であり、全体として除染の効果も見えないという結論にある。

 早野さんの1月7日の釈明では、第二論文で累積線量を計算する際に、3ヶ月の累積線量を積算すべきだったのに、1ヶ月当たりの線量率を積算してしまい、結果的に結論が   1/3過小な見積もりになってしまったと説明されている。近似曲線を積分して累積線量を得たなら線量率のままでも問題はないように思うのだが、その値が間違っていたという事らしい。谷本さん達の検証によると、この説明だけでは整合しないものになっているというのは前回書いた事だが、早野さんとしては、第二論文の結論の一つである、A区域の生涯累積線量の中央値 18 mSv を 54 mSv に改めるということであろう。

 ここで注意すべきは、第二論文に次のように書かれていることである。

 前論文で c=0.15±0.03 と計算されおり、全てのガラスバッジによるサーベイの参加者の平均値である。現在の研究においては、私たちは c を継続的にガラスバッジを使用した人々に対し各地域ごとに再計算した。その結果は:cA=0.10、cB =0.12、cC =0.15 である。(黒川さん訳)

 この係数は極めて重要であるにも関わらず、あっさりと変更されているし、c の値が従来の定説とあまりにかけ離れている理由や、線量の高いところほど c が小さくなっている理由などが全く説明されていない。第二論文の、A区域の生涯累積線量の中央値が 18 mSv から 54 mSv に改められるとしても、c の値が従来の1/6 になっていることに変更はなく、この点で注意が必要である。仮に従来の c = 0.6 になるようなモデルを採用すると、6倍の 324 mSvとなるが、逆にそれは実測値とかけ離れることになる。つまり、実測値が従来のモデルで予測される値の1/4〜1/6 と小さな値になっているのは何故かということが問題となる。

 c の値が小さくなっている理由としては、ガラスバッジの測定では、装着者自身によって背後からの放射線が遮蔽される事や、身に着けずに放置されたりした不正常なデータが含まれている事などが指摘されているが、これらの問題については第一論文で検討され、大きな問題はないとされている。

 一方で私が気になったのは、ガラスバッジによる測定のバックグラウンド値である。このことについて、第一論文には次のように書かれている。

 ガラスバッジは自然放射線(地面からのガンマ線と宇宙線)に対しても反応する。事故によって放出された放射性セシウムによる追加線量を評価するためには、バックグラウンドの寄与を差し引く必要がある。福島県民に対してガラスバッジの読み値を報告するときには、ガラスバッジの供給者である千代田テクノルは、福島第一原発事故による汚染が小さい茨城県大洗町(福島第一原発から130km 南)で計測された 0.54 mSvy-1 相当分を差し引いている。伊達市はこのようにして得られた結果を各参加者に郵送する。(黒川さん訳)

 大洗町での計測値をもとに読み取り値から一律に 0.54 mSv/y を差し引いているということであるが、c の値が小さいとしたら、バックグラウンドの計測値も小さくなる筈なので、はなはだ疑問である。地質学会が公開している「日本の自然放射線量」のサイトで地上1 m高の放射線量(吸収線量)を確認すると、大洗町は全域 0.036〜0.0543 uGy/h の領域にある。Gy を Sv とほぼ等価とみなすと、年間にして 0.315〜0.476 mSv/y となる。 c = 0.15 を与えるガラスバッジで計測した場合 0.047〜0.071 mSv/y と一桁小さな値になる筈であるが、実際には 0.54 mSv/y と大変大きな値になっている。

 一方、伊達市の方は、南東部にある過疎地の一部に 0.0543〜0.0725 uGy/h(0.476〜0.635 mSv/y)のやや高いところがあるものの大部分は大洗町と同じ線量域となっており、西部の人口密集地の一部には0.0178〜0.036 uGy/h(0.156〜0.315 mSv/y)と線量の小さなところを含んでいる。すなわち、c = 0.15 となるようなガラスバッジのバックグラウンド値としては、0.54 mSv/y は一桁高すぎる可能性が高い。その結果、空間線量が 2 uGy/h を超えるような高線量地域でさえ、ゼロに近い異常な値が計測されることになった可能性がある(第一論文の Figure 4)。
 
 原発事故の前に野外における自然放射線を計測した私の経験からしても、 c が 0.15 と小さければ大洗町で 0.54 mSv/y と計測される筈はなはなく、0.54 mSv/y が正しければ、c は1に近い値でなければならないと断言できる。しかし、バックグラウンドの見積もり誤差の影響は、低線量域ほど大きくなるので、第二論文で示された c の値が高線量地区ほど小さくなっていることは、過剰なバックグラウンドが仮定されていることだけでは説明できない。結局、多数のファクターが重なって c が実際より小さく見積もられたのではないかと思われる。そこに恣意的な選択はなかったのか、検証されるべきであろう。

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