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コメント欄に追記しました(3/7)
計算にミスが見つかったので、本文中の数値の一部を書き換えました。
趣旨に変更はありません(3/7)
今頃になってプルトニウム(Pu)が取りざたされている。
プルトニウムは、この度の東電原発事故によって放出された放射性元素の圧倒的多数がβ崩壊するのと違って、α線を放出し、しかも「ホットパーティクル」とよばれる微粒の固まりとして存在しているので、例え微量であっても特有の危険性があると考えられているからである。昨年6月以降、目新しい進展は何もないけれど、ちょっとまとめてみる。
東電原発事故によるプルトニウムの放出量
平成23年6月に、原子力災害対策本部は「原子力安全に関するIAEA 閣僚会議に対する日本国政府の報告書-東京電力福島原子力発電所の事故について」と題する報告書で、東電原発事故による放射性元素の放出量に、初めてプルトニウムを加えた試算値を公表した。
その際には、Pu-239についての32億ベクレルという値だけが驚きを持って伝言ゲームのように広まったが、実際には他の質量数のPuの放射能の方が高かった。また、ネプツニウム-239(Np-239)は半減期2.356日とかなり短期間でPu-239に変わるので、この分を合算して評価しなければならない。
次の表には、公表されたそれら核種の放射能量(Bq)と、その値から逆算した、個々の重量(g)などを示す。
右端に示したPu-239* は、Np-239の全てがβ崩壊して生まれるPu-239である。放出時にPuとNpが「別行動」をとっていた場合、ここで示した存在比は粒子毎に変わってくる。また、報告書にはないPu-242も放出されていた筈であるが、これは、半減期が396300年と長いので、単位質量あたりの放射能(比放射能)が小さく、無視して良い。 この中で、Pu-241が最大の放射能(1兆2千億 Bq)を示すが、これはβ崩壊するので、α線の危険性を評価する上では除外した方が良い。一方、Np-239の半減期は短いので、現在の時点では、そのほとんどがPu-239に変わっていると考えて良い。そうすると、放出されたα崩壊Puの総量は、1.813 g、254 億 Bqとなる。
これが、半径30 kmの範囲に均等に降り注いだと仮定すると、1 m2あたり6.412 E-10 g (0.641 ナノグラム)、9.00 Bq となる。
天然に存在するα核種(注1)は、この量より遙かに多いので、例えα線専用のサーベイメータを用いても、野外においてこの濃度のPuを検知するのは絶望的であることが分かる。また、試料を実験室に持ち帰って、ガンマ線スペクトロメータで分析するにしても、何日も(もしかしたら10日間くらい)測定を続けてやっと検出されるレベルである。
にも関わらず、この極微量のPuが危険視されているのは、次の事情による。
Pu-ホットパーティクルの危険性
小出裕章氏による「プルトニウムという放射能とその被曝の特徴」と題する2006年7月の資料には、Pu-ホットパーティクルの危険性が簡潔にまとめてある。その中で提示されている諸量についてフォローできたので紹介する次第である。ただし、粒径1μm、比重10のPuO2(二酸化プルトニウム)粒子の放射能が0.0106 Bqとされているが、計算の結果、この値はPu-239だけについてのものであることがわかった。β崩壊するPu-241を除いた全体の合計は、そこに示された核種の存在比をもとに計算すると0.074 Bq となる。
このような極微粒子の危険性についての要点を、小出氏の資料から引用しておく。
Ⅳ.不均等被曝の問題 上記文章中の単位 pCi はピコキュリーで、1pCi = 37 Bq である。
粒径1ミクロンのPuO2微粒子の放射能が0.074 Bq であること、また、東電原発事故で放出されたPuが半径30 kmに均等にばらまかれたと仮定すると1m2 あたり、9.00 Bqになることを示した。
ここで、このような極微粒子が1m2あたり122 個(9÷0.074)、つまり、10 cm四方に平均1.2個あると仮定することも可能であるが、だからと言って、このような状況がどれくらい危険であるかは、いくら理論的に考えてもあてにならない。そこで、過去の大気圏内核実験によるグローバルフォールアウトによる汚染状況と比較してみよう。
グローバルフォールアウトによるPu汚染との比較
必要な資料は、おなじみの「気象研究所地球化学研究部」のウェブサイトで参照できる。ここでは「5、環境における人工放射能50年:90Sr、137Cs及びプルトニウム降下物」のページが参考になる。
この資料によると、大気圏内核実験によるグローバルフォールアウトは1963年に極大を迎え、その年の1年間に
これが半径30 kmの範囲に均等にばらまかれたと仮定して同じ核種で比較すると、1963年の1年間だけのグローバルフォールアウトで、東電原発事故の
もちろん、健康被害は何もなかったと言い切ることもできない。その被害は、晩発障害として現れると考えられるので、ちょうど私のような世代の平均寿命がどうなるのか、将来、その疫学調査の結果が出るのを待たなければならない(注2)。
いずれにしても、福島のプルトニウムによる汚染状況は、1960年代のグローバルフォールアウトよりかなり低いレベルにあることは押さえておく必要がある。ただしそれは、原子力災害対策本部による見積もりが正しいとの前提に立つ。なぜ専門家はプルトニウムについてもっと調査・分析をしないのかとの不満の声も聞かれるが、調べても、グローバルフォールアウトのノイズにかき消されるほどの量しか見つからないのである。このレベルでは、そこに労力を集中する意味はあまりないように思う。
ところで、α崩壊核種による悲惨な内部被爆による健康被害事件として、トリウムを主成分とするX線造影剤トロトラストによるものがある。これは、「わが国では広島、長崎の原爆に次ぐ大規模な放射線による健康障害をもたらした」(トロトラストによる放射線の晩発障害 (09-03-01-11))と評されるほどのできごとであった。その影響は20年後、30年後と次第に大きく現れてきたが、けた違いに高い被曝線量によるものであった。
以上、私なりに調べたことをまとめると、現在の福島でのプルトニウム汚染の程度は、まったく心配いらないレベルではないかと思う。やはりセシウムによる汚染が圧倒的に深刻であり、プルトニウムに目を奪わるあまり本質を見失うことのないようにしなければならない。
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注1)天然にはウラン系列、アクチニウム系列、トリウム系列の様々なα崩壊核種が存在する。親核種であるU-238, U-235, Th-232だけでなく、それらの娘核種にも多種のα崩壊核種がある。壊変系列途中のラドンは希ガスであり、地中から大気中に放出されて、さらにポロニウムや鉛-210などのα崩壊核種に変わる。それらは、大気中でエアロゾル中に取り込まれ、雨とともに大地に降り注ぐ。平常時においても雨の日に目立って自然放射能が上昇するのはそのためである。ただしそれらは、ホットパーティクルという形態をとることはない。
注2)グローバルフォールアウトとともに成長してきた私たちの世代には、いろいろな「障害」が多いと噂話程度のことは聞いているが、ちゃんとした研究はないのではないかと思う。何しろ、水俣病や、森永ヒ素ミルク中毒事件や、カネミ油症事件、四日市ぜんそくなど、公害・薬害が日常的にあふれていた時代に成長してきたのである。私達の世代に何らかの障害が多かったとしても、その原因を突き止めるのは容易ではないだろう。
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