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8月16日に「水銀に関する水俣条約」が発効したことを受けての熊本日日新聞の同日付社説「水俣条約発効 まず日本政府が被害直視を」 に、この条約の発効を手放しには喜べない現実が書かれている。以下に一部を引用する。
これはもっともな主張だと思う。国連環境計画のウェブサイトに条約の英文 があり、外務省のサイトにはその邦訳 がある。その「第一条 目的」には「The objective of this Convention is to protect the human health and the environment from anthropogenic emissions and releases of mercury and mercury compounds.:この条約は、水銀及び水銀化合物の人為的な排出及び放出から人の健康及び環境を保護することを目的とする。」と記されている。水俣病のように、既に起こってしまった被害の救済は目的外なのだ。実際、条文を読んでいくと、主体は国際的に水銀を管理する方策についてのものであり、起こってしまった被害の救済に関わる項目はない。やや関係するかに思われる「第十六条 健康に関する側面」、「第十八条 公衆のための情報、啓発及び教育」も、主に予防的・啓蒙的な措置にかかわる内容である。
Wikipediaの「水銀に関する水俣条約」 には、この条約の発効に日本国政府が主導的役割を果たしたこと、正式名称を「水銀に関する水俣条約」とすることを日本政府の代表が提案したことが書かれている。名称に「水俣」を入れながら、当の水俣で現に続いており、世界の各地にも発生している被害の救済に繋がるような条文が一つもないのはなぜか。
熊日の社説が述べるように、当の水俣病の患者達は今も健康被害と差別に苦しんでおり、水俣とその周辺地域には何らの救済措置も受けないまま長い間苦しんできた多数の未認定患者がおり、地裁レベルでの訴訟も続いている(注1) 。患者とその支援者らが求めている不知火海沿岸住民の健康調査は、日本国憲法第二十五条が保障する、「健康で文化的な最低限度の生活を営む権利」に基づくささやかな希望である。国はそれを一顧だにして来なかった。日本国政府は、水俣病の発生当初から一貫して企業の利益を代弁してきた。幾らかの譲歩は、裁判の結果を受けて止む無くなされたものか、あるいは、原因企業チッソの主張に何らの正当性もないことが白日の元に晒され、頑なであり続ければ企業の利益そのものが損なわれるとの功利的判断に基づくものであったろう。
水俣病の被害が世界史的なレベルで拡大してしまった原因について、日本国政府として全く総括を試みなかった訳ではない。例えば、環境省の水俣条約の特設サイト の中に「水俣病の教訓と日本の水銀対策」と題する冊子が置かれていて、その「第1部 水俣病の経験と教訓」には水俣病史の概略と簡単な「反省の弁」が述べられている。しかし、これを読めばわかるように、課題は書かれても具体的な「教訓」に相当することは全く書かれていない(注2)。
熊日の社説の末尾にあるように、まっとうな総括があれば、そこで得られる教訓こそ、世界の水銀被害防止にも役立つはずだ。この条約の成立と発効に主導的役割を果たしてきた日本国政府は、まるで患者らが一人残らず死んでしまうのを待っているかのようである。このままでは、水俣条約が発効したことで一区切りとされ、水俣病そのものが終わったものと誤解されかねない。
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注1)水俣病に関わる裁判の歴史と現状については「ノーモア・ミナマタ第2次訴訟弁護団」 のウェブサイトの「裁判の歴史」のページによくまとめられている。
注2)環境省作成の「水俣病の教訓と日本の水銀対策」の「第1部 水俣病の経験と教訓」に「水俣病被害の拡大が問いかけるもの」と題して次の記述がある。
要するに、総括をなし得ていないのであり、具体的な教訓は何も引き出されていないことがわかる。
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2017年08月19日
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