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ちょっと前に放送になったNスペの「ジオ・ジャパン」を録画していたのを、やっと観ることができたので、感想を書いておきたい。
前編は日本海が開いて大陸の一部が分離し、弧状列島が形成されるプロセスについて、後編は日本列島が隆起して山脈が形成されるプロセスについてのもの。全編を通して、日本が世界でも有数の豊かな自然に恵まれているのは、日本列島そのものが世界でも稀な成立過程を持っているからであるという、いわば科学を動員して「日本スゴイ」感を醸し出すというコンセプトに貫かれている。やれやれである。これに協力した専門家の中にも、完成後に視聴してやれやれと思った方もいたに違いない。
日本に四季があることを誇る者がいるらしい。私の子供達がまだ小学生だった頃、「インドには季節が二つしかないんだよ。暑い季節と、とっても暑い季節だよ、シベリアにも季節が二つしかないんだよ。寒い季節と、とっても寒い季節だよ」みたいなことを言ったりしたことを思い出すが、もちろんこれはネタ的な冗談であって、それぞれの地域にもっと細やかな季節の移ろいがあることはきちんとフォローしてきたつもりだ。
そもそも季節は4つだけではない。日本の五節句も二十四節気も中国由来だが、インド古典音楽の音階構造であるラーガは、無数とも言えるほどの「節季」によって使い分けるしきたりとなっている。中緯度にある日本は太陽の南中高度が低い時期と高い時期に分けられるが、低緯度地域では太陽が北から照らす時期と南から照らす時期に分けられ、一年を通してメリハリのある雨季と乾季がそれぞれ気温の異なる時期に複数回訪れる。極圏だと太陽が上らない時期と沈まない時期や白夜の時期があり、半月は上弦でも下弦でもなく、鉛直に立つた弦が右向きになったり左向きになったりする。つまり、季節や自然の移ろいを分ける機微が地域毎に異なっているにすぎない。
そうしたことは義務教育の段階で教わっている筈だが、四季がある日本は素晴らしいなどといった勘違いがどうしておこるのかと言えば、このような番組を通しての洗脳が拡大再生産を繰り返してきた結果なのだろう。川端康成のノーベル文学賞受賞式での記念講演のタイトルが「美しい日本の私」であったのを思い出してしまった。
日本は自然が豊かで素晴らしいというのも甚だしい勘違いで、むしろ、凶暴な自然に四苦八苦しながら人々がなんとか暮らしてきた地域に属する、というのが自然災害研究者の一致した見解である。北陸〜東北地方の日本海側は大勢の人が暮らす地域としては世界一の豪雪地帯で、毎年雪かきなどで死人が出る。夏の蒸し暑さも、乾燥気候の地域の暑さとは全く異なる種類の脅威で、そのせいで毎年死者が出る。豪雨や台風の襲来による被害も多い。地震や火山の噴火による被害は輪をかけてひどく、どの世紀にも自然災害によって数万〜十万人を超える規模で人が亡くなってきたのが日本である。
参考:自然災害の多い国 日本(国土技術研究センター)
この点についての認識を正すことは、特に、高校の地学教育が壊滅してしまっている現状では悲観的にならざるを得ない。その意味で、この種の番組は貴重であるだけに残念である。
ついでに、「日本の自然がかくも多様であるのは世界にも稀な複雑な形成史によっている」という見方についてであるが、何をもって自然が多様と認識するかという問題以前に、そもそも、インドネシアの方がはるかに複雑な形成史を持つということは知っておいて損はないだろう。
上図は4つくらいの論文から編集したもので、赤線はプレートの沈み込み帯、黄色はマイクロプレート境界のトランスフォーム断層、緑色は拡大軸を示す。複雑過ぎて未だに良くわかっていないことが多く、論文によってかなり異なる図になっている。もちろん、地震や津波も多いし、火山も多く、スマトラ島のトバカルデラの 74,000 年前の噴火は「ジオジャパン」で紹介された紀伊半島の 1,400 万年前のカルデラ噴火と同じくらいの規模だった。
インドネシアは世界一複雑な成因を持つのでバリ島に世界一複雑なリズムのケチャが生まれたと言えば、笑い者になるだろう。
他にも、ツッコミどころ満載であるが、日本列島の地史に興味を持つ人が増えることだけは歓迎したい。
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2017年09月21日
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