さつきのブログ「科学と認識」

福島第一原発、アンダーコントロールで、わざと昨年の2倍の放射能を放出か

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 東電原発事故によって放出された放射性物質の危険性をめぐって、あいかわらず「自然界にこれだけあるから大丈夫」論がまかり通っている。この論法は、歴史的には原子力PAと反原発運動のせめぎ合いの中にあって、放射線防護の科学の進展によって後退を余儀なくされ、それとともにICRPの規制基準も引き下げられてきた。それがいまだに声高に主張されているのであるが、不思議なことにこの論法は、巧妙・精緻化しているのでは全くなく、ごく「素朴」な「自然界にこれだけあるから安全」論にとどまったままなのである。さらに不思議なことにこの論法は、私の見るところ「ニセ科学批判」に熱心な人々によって担われているようだ。

 私は、このような言説はまさにニセ科学ではないかと考えてこのブログにも記事を上げたことがあるが(注1)、ニセ科学を批判する者がそれをやる筈はないとの考えも成立するので、私の良く知らない言葉の定義からすると、これは「ニセ科学」ではないのであろう。そこで私は、これらの言説を「デタラメ科学」と呼ぶことにしたのであるが(注2)、ここではもう少し意味を広くとるために「ダメ科学」と呼ぶことにしよう。つまり私は、東電原発事故以来、「ニセ科学批判」界隈の中に「ダメ科学」が蔓延していると考えている。このことは、日本の科学史の中でも一つの時代を画する出来事と考え、それらの実例を収集してきた(注3)。ここでは、その中の「自然界にこれだけあるから安全」論法の一例として、最近話題になっているトリチウムをめぐる問題をとりあげる。

 この問題は、福島第一原発の地下水を浄化処理したいわゆる「トリチウム汚染水」の海洋放出をタイムテーブルに載せようとする東電や経産省の説明会が開催されるようになったことで、活発に議論されるようになった。その前提として、そもそもこの浄化処理水には、それまで安全基準値以下しか含まれていないと説明されていたトリチウム以外の放射性核種が基準値を大きく超える濃度で含まれていることが発覚したことは抑えておく必要がある(注4)。つまり、この浄化処理水を「トリチウム汚染水」と称することは間違っているのであるが、ここではとりあえずトリチウムの問題をとり上げよう。

 トリチウムについては、ことに有機結合型トリチウム(注5)の健康影響をめぐる研究が多数なされているが、そうした研究を参照することなく、トリチウムは安全だと主張する「科学者」や「科学ライター」や謎の<原子力PAボランティア>がいて、sivadさんによるtogether:「有機結合型トリチウムという基本概念を知らない人たち」に収集されている。

 トリチウム水(HTO)のトリチウムが光合成によって有機物に取り込まれるのは基本中の基本であるが、自然界に存在する全ての同位体は、その元素を含む全ての物質中に天然とほぼ同じ割合で含まれるというのもまた、同位体化学の基本原理である。「ほぼ」と書いたのは、質量数の小さな元素の同位体は、同位体間の質量比が大きいことが要因となって、天然での元素移行や生体における合成・代謝などの過程で特定の同位体が「濃縮」されることもあるからである(注6)。いずれにしてもトリチウムは、太古の昔から天然に存在しているのだから、もともと天然に存在する元素から構成される生命体の水素を含む全ての分子(タンパク質、脂質、糖類、DNA、細胞外高分子など)に含まれることは常識である。逆に特定の物質に含まれないとしたら特殊な同位体分別作用が働いているということで、それを排除したカウンター物質にトリチウムが「濃縮」されることになる。

 さて、誤りや無知に気づいても絶対に反省したくない者が、話の筋とは全く関係ないのに決まって持ち出してくるのが「自然界にこれだけあるから安全」と言ういつもの<捨て台詞>である。

 自然にあるから安全とは言えないことは、例えば天然のラドンが肺がんの原因の一つであるとWHOが警告していることからも明らかであろう。その事を知らなくても、日本を含め、世界の各地で自然にあるヒ素や重金属によって健康被害が起こっていることくらい知っているだろう。それも知らないなら、せめて、自然の紫外線が皮膚ガンの最大の原因であることくらいは常識として知っている筈だ。

 太陽から地表へ降り注ぐ紫外線は、UV-A (波長 315–380 nm)、UV-B (波長 280–315 nm)、UV-C (波長 100–280 nm)に三分されるが、これらの波長域は水素原子の発光スペクトルのバルマー系列より波長が短く、水素原子の軌道電子がエネルギー準位2の状態にあれば、それを弾き飛ばして電離させる能力がある。最低励起エネルギーは、この場合わずか3.4 eVで、電子が基底状態にあれば13.6 eV(波長91.2 nmの遠紫外線に相当)である。すなわち、紫外線の化学作用は電離放射線のそれであり、水素を主要な構成元素の一つとする生体にとって脅威となる。人は、紫外線の照射を受けるとメラニン色素を分泌するなどの防御の仕組みを備えているが、それでも皮膚ガンは一定の割合で発生してしまうので、屋外における紫外線の量が二倍にでもなったら大騒ぎである。どうして自然にある放射性物質の100万倍もの濃度の廃液を垂れ流すのに無頓着でいられるのか、そのことを心配する人に向けて嘲笑の言葉を投げることができるのか、訳がわからない。

 前掲のtogetterにも次のコメントがあった。
原発から出るトリチウムなんて、一日200兆Bqくらい自然に作られてる量に比べたら、微々たるもんだもんね。有機化云々以前の問題。っつか、問題ない、って言うべきか。

 この「一日200兆Bq」は変な値だと思ってリンクをたどると、経産省の中にある「多核種除去設備等処理水の取扱いに関する小委員会」の資料(注7)に、日本周辺における自然由来のトリチウム生成量は年間約110~680兆ベクレルと記載されているのが元になっているようだ。日本周辺(領土+領海)に限っているので、変な値になっている。同じ趣旨の発言はネット上に溢れているが、いつもの原子力PAの垂れ流しで、科学が本来持っていなければならない懐疑主義は微塵も感じられない。

 自然界で作られている放射性核種はトリチウムや14C(炭素14)だけではない。ウラン系列、アクチニウム系列やトリウム系列の種々の放射性核種は、日々、膨大な量が生み出されている。その中でも、いろいろな意味で最も危険な放射性核種の一つであるラジウム226(半減期1,600年)が日本列島の地表部(深さ5 cmまで)でどれくらい生み出されているか概算すると、1日あたり1.31 × 10^21 Bq(13.1垓Bq /日)となる(注8)。表層5 cmに限ってもトリチウムの日産量をはるかに凌ぐ量が日々生成され、存在しているのである。だからと言って、こんなに沢山自然界で作られているのだから、ラジウム1兆ベクレルくらい大したことはないと主張したら、莫迦にされるだろう。自然界に沢山あるからというのは、それが安全であることの理由にはならないのである。

 ついでに書いておくと、単位Bq(ベクレル)は1秒あたりの壊変数を言うのだから(Bq/時)や(Bq/日)、(Bq/年)という用法はおかしいとして、それを用いた人に向けて嘲笑の言葉を投げた大学教員が居たが、この方面の分野(放射化学など)では普通に用いられる単位である。その誤りを指摘されても反省も謝罪もなくダンマリを決め込んでいるのもまた、象徴的な出来事であった。

―――――――――――――――――――――――


注3)

注4)以下、デジタル毎日の記事「福島第1処理水 海洋放出、前提危うく 再処理コスト増も」2018/9/29)から引用。

東電と政府はこれまで汚染水処理について、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」でトリチウム以外の62種類の放射性物質を除去でき、基準値以下に浄化できると説明してきた。性質が水に近いトリチウムだけは取り除けないが、薄めることで基準値未満にできるとして、汚染水浄化後の処理水の有力な処分方法に海洋放出を挙げていた。

 しかし今回の東電の発表によると、処理水計約94万トン(20日現在)のうち約89万トンを分析した結果、トリチウム以外で排水基準値を下回るのは約14万トンで、約75万トンは超過すると推定される。基準値超えの中には半減期が約30年と長く、体内に入ると骨に蓄積しやすいストロンチウム90も含まれており、サンプル分析では最大で基準値の約2万倍の1リットル当たり約60万ベクレルが検出された。

注5) ATOMICAの「有機結合型トリチウム」の解説に、次の記述がある。

有機結合型トリチウムには、組織内に存在する自由水(組織自由水)と容易に交換可能な交換型トリチウムと有機物の炭素と強く結合している非交換型トリチウムの2種類がある。国際放射線防護委員会(ICRP)が提示しているトリチウムの化学形別の線量係数(Sv/Bq)、すなわち単位摂取放射能当たりの実効線量では、吸入および経口摂取のいずれの場合もトリチウム水(HTO)の線量係数は、トリチウムガス(HT)の10000倍となっている。植物等の組織と結合した有機結合型トリチウム(OBT)の線量係数はトリチウム水(HTO)のさらに約2.3倍である。

注6)炭素同位体(12C, 13C)は植物の光合成によって同位体分別が起こるが、炭素同位体の質量比は13:12と1に近いので、標準物質に対する有機物の13C/12Cは-20‰(パーミル:千分率)程度にすぎない(C3植物、C4植物、CAM植物で若干異なる)。これに対して、水素(H)とトリチウム(T)の質量は3倍も異なっているので、同位体分別はかなり大きくなり得るが、多段階の分別プロセスを仮定したとしても10倍以上の濃縮は考えにくい。

注7)トリチウムの性質等について(案) (参考資料),多核種除去設備等処理水の取扱いに 関する小委員会 事務局,資料5-2(pdf: 1 MB)

注8)富樫ほか(2001)日本列島の”クラーク数” 若い島弧の上部地殻の元素存在度.地質ニュース558,25-33.(pdf: 1.3 MB)によると、日本列島の上部地殻には、平均2.32 ppmのウランが含まれている。
 日本の面積は377,972 km^2で、表層部の岩石・土壌の平均の密度を2.0g/cm^3(=
2000 kg/m^3)とすると、日本列島の表層5 cm厚の岩石・土壌の質量は3.78 × 10^13 kg となる。
その中の濃度 2.32 ppm のウランの質量は8.77 × 10^7 kg である。
その99.27%がウラン238であり、その放射能を計算すると1.52 × 10^16 Bq(1.52 京Bq)となる。
天然のウラン系列の14回の放射壊変は全て永続平衡に達しているので、その系列途上にある中間娘核種トリウム230のα崩壊によってラジウム226が生成される量も、同じく1.52 京Bqとなる。
これは一秒間の生成量であるから、1日あたり1.31 × 10^21 Bq(13.1垓Bq)となる。
Bqの計算法はここなど参照のこと。

 昨年12月13日、広島高裁は、伊方原発から半径 160 km の範囲にある阿蘇火山がカルデラ噴火を起こすと設計対応不可能な火砕流が到達する可能性を否定できず、立地不適であるとして、伊方原発3号機の運転停止を命ずる仮処分決定を下していた。これに対して四国電力が、同年12月21日に広島高裁へ運転差し止めの執行停止を申し立てていた異議審で、本日(9月25日)、「破局的噴火によって生じるリスクは、その発生の可能性が相応の根拠をもって示されない限り、原子力発電所の安全確保の上で自然災害として想定しなくても安全性に欠けるところはないとするのが、少なくとも現時点における我が国の社会通念であると認める他ない」と述べ、「阿蘇において破局的噴火が本件発電所の運用期間中に発生する可能性が相応の根拠をもって示されているとは認められず」、従って伊方原発の立地が不適であるとは言えないとして運転差し止めを棄却する決定を下した。

 本稿は、高裁決定を受けての広島訴訟原告・弁護団の記者会見等に、広島高裁の昨年の野々上裁判長は正義の味方で、交代した三木裁判長は悪者とするような論調を見て強い違和感を覚え、急ぎまとめたものである。ここでは、そもそもの元凶は原子力規制委員会の、その存立理由をも揺るがす変質にあり、そこを本丸として糾さない限り本件の前進はないことを示そう。

 異議審決定の根拠として持ち出されたのが、本年3月7日に原子力規制庁より公表された「原子力発電所の火山影響評価ガイドにおける「設計対応不可能な火山事象を伴う火山活動の評価」に関する基本的な考え方について」と題する資料(以下、「3.7資料」(pdf: 321KB))である。昨年12月の仮処分決定は、規制庁の「火山影響評価ガイド」が立地適合の判断基準として「設計対応不可能な火山事象が、原子力発電所運用期間中に影響を及ぼす可能性が十分小さいか?」と記載していることを文言通りに適用したものであった。ところが、「3.7資料」は、これは「火山の現在の活動状況は巨大噴火が差し迫った状態にあるかどうか、及び運用期間中に巨大噴火が発生するという科学的に合理性のある具体的な根拠があるかどうかを確認する」という意味であるとした。

 立地適合の要件として書かれた「火山ガイド」の文言を、立地不適と断ずるために必要な高いハードルを要件とする文言に読替えよという訳である。このことは、規制庁が原発事業者ではなく原発に異を唱えようとする側を規制する機関であるという、その真の姿を恥ずかしげもなく晒すもので、ちゃぶ台返しの荒技とでも言うべきものである。阿蘇火山から160 km以内には伊方原発だけでなく、川内原発、玄海原発、そして計画中の上関原発も含まれるので、原発を重要なベースロード電源と位置付ける政府・経産省にとって、広島高裁の運転差し止めの原決定は、よほど耐えがたいものだったのだろう。

 「3.7資料」では、このような論理の破綻した読替えを求める理由として、巨大噴火は極めて低頻度の事象であり、その発生可能性が全くないとは言い切れないものの、「これを想定した法規制や防災対策が原子力安全規制以外の分野においては行われていない。したがって、巨大噴火によるリスクは、社会通念上容認される水準であると判断できる」としている。この考えは、川内原発運転差し止めの仮処分申し立てにおける即時抗告審の福岡高裁宮崎支部の決定文に遡ることができる。そこでは、1万年に1回程度の極めて低頻度のリスクについては、社会通念上無視し得るものとして建築基準法等も対応を求めていないものであり、「少なくとも原子力利用に関する現行法制度のもとにおいては、これを自然災害として想定すべきとの立法政策がとられていると解する根拠は見出し難い」と述べられている。そして、伊方3号機運転差し止めの申し立てを却下した広島地裁の決定もこれを踏襲した。

 これに対して昨年12月の広島高裁による運転差し止め決定では、このような社会通念を根拠とした原決定を批判し、このことには「多方面にわたる極めて高度な最新の科学的、専門的知見に基づく総合的判断が必要とされ」、政策判断として原子力規制委員会に委ねられていることであり、「原決定判示のような限定解釈をして判断基準の枠組みを勝手に変更すること」は、「設置許可基準規則6条1項の趣旨に反し、許されない」とした。ところが、こともあろうに当の原子力規制委員会が、先に述べたちゃぶ台返しをやったものだから、異議審における広島高裁はこれに従わざるを得ず、冒頭に述べた決定となった訳である。

 ここで「従わざるを得ず」と書いたのは、異議審決定文が、「3.7資料」を引いた上で「現時点における我が国の社会通念であると認める他ない」としているからであるが、あるいは積極的に従ったのかもしれない。そうだとしたら、積極的に従うのに都合の良い口実を「3.7資料」の読み替えが与えたことになる。仮にこの「3.7資料」が昨年12月の広島高裁の原決定よりずっと前に公表されていたなら、野々上裁判長も、同じ理路に従って運転差し止めの申し立てを棄却していた筈である。規制庁にとっては、かつて福岡高裁宮崎支部の決定が持ち出した「社会通念」は、まことにもってありがたいアイデアであった訳で、そこにお墨付きを与えることで、この度の運転差し止めの棄却決定を「勝ち取った」のだと言えよう。

 しかしこの「社会通念」なるものは、一度起これば一国の存立さえ危うくする原発の過酷事故と建築基準法が規制対象とする建物や橋などの損壊を同列に扱うもので、東電原発事故を経験した今、到底受け入れられるものではない。少なくとも、原発の立地に低頻度の巨大噴火によるリスクは容認されるという社会通念が存在することは立証されてもいない。この発想はまた、国際原子力機関(IAEA)による規制目標の精神にも反するものである。

 IAEAは、既設炉の「早期大規模放出事故」を10万 炉年あたり1件以下に抑えることを目標としている。これは、世界中にある400余りの原子炉が一斉に稼働を続けても、グローバルな被害をもたらす過酷事故を250年に1回程度に抑える(400 炉 × 250 年 = 10万 炉年)ことで、現存する全ての原子炉が運用期間を終える数十年後までに過酷事故がほぼ起こらないようにして、次世代の安全な原子炉が開発されるのを待つ、との考えにもとづいている。この目標は、個々の原子炉が破局的事象に遭遇する確率を10万年に1回以下の頻度に抑えなければ達成できないもので、先に述べた「社会通念」を否定する発想である。

 IAEAのこの考え方は「火山ガイド」を定める過程で議論の上に採用され、結果的に立地の適合基準として巨大噴火によるリスクが十分小さいことを事業者側で立証する義務が「火山ガイド」に書き込まれたという経緯がある。さらに規制庁は、早期大規模放出事故の確率をIAEAの目標より10倍厳しい100万炉年あたり1件以下にすることを目標として掲げ、世界一厳しい規制基準であると誇らしげに宣伝している。しかし、「3.7資料」で、1万年に1回程度の巨大噴火のリスクはそれが差し迫っている明確な根拠がない限り無視して良いとしたのである以上、実は、世界一甘い規制基準であったと言う訳である。今後は絶対に、世界一厳しい規制基準などと言わしめてはならない。

 それにしても「3.7資料」のちゃぶ台返しは、原子力規制庁の存立理由を無に帰するほどのものであったのだから、広島高裁は、法律の親規定に遡って、このような変質を批判すべきであったとは思う。しかし、裁判所の審理においては、争点化されていないところへの言及を避けるのが決まりのようになっているので、それもまた無理な注文なのであろう。



塵も積もれば山となる

 前回の記事の末尾に書いた「追記」で、苫東厚真火力発電所の2号機と4号機が地震直後にダウンした後、その17分後に1号機(35万kW)が停止したのは、深夜の大地震で飛び起きた多数の人々が部屋の明かりやテレビを一斉につけて電力需要が急増したのが原因ではないかと書いた。しかし、北電のプレスリリースを調べた結果、既に6日の時点で1号機の蒸気漏れが報告され、その後ボイラー管 2 本の損傷が確認されているのを知った。10日の報道で「何らかの原因で」とされていたが、地震動による損傷が原因で停止した可能性が高いようだ。あるいは、本震の16分後におこったM4.8, 最大震度4の余震が直接のトリガーとなった可能性もある。

 それはそうと、深夜の大きな地震で飛び起きた人々は、単に部屋の明かりやテレビをつけるだけではないことに思い至った。商店主は売り場や倉庫の、食堂・レストランでは厨房の、酪農家・牧場主は畜舎の様子を見るため明かりをつけるだろうし、工場では工作機械などの試運転をやることも考えられる。それでどれくらいの電力需要が増加するのか簡単には計算できないが、今回の北海道のケースを想定して一般家庭の消費電力の増加分を概算してみた。

 最近の液晶テレビは30型クラスでも100 W以下らしいので、複数の部屋の照明を加えて、地震直後に急増する電力を1世帯あたり200 Wとしよう。総務省の平成30年住民基本台帳人口・世帯数、平成29年人口動態(市区町村別)  によると、北海道の全世帯数は277万くらい。地震で起きて明かりとテレビをつける行動に出るのは震度4以上だとすると、都市部の大部分が含まれるので230万世帯くらいが該当する。ちなみに私は、震度2以上でとりあえずテレビとパソコンをつけるが、震度5強だと居間や台所や物置など、部屋中の明かりをつけてあちこち点検すると思う。ただし、地震直後に2号機と4号機がダウンして強制的に停電措置がとられたところがあるので、実際には100万世帯だったとしよう。

200 W/世帯 × 100万 世帯= 20万kW

となる。

 数分間の間に20万kWくらい急上昇したとしてもギリギリ持ち堪えられるのかもしれない。しかし、しばらくして先に述べた商店や畜舎やいろいろな事業所などの点検が始まると、もっと増えて、とうとうダウンしてしまうという可能性もあるのではないか。塵も積もれば山となるので、考慮すべきことだと思う。

 全く関係のない話ではあるが、かつて映画『チャイナシンドローム』が公開された折、友人の一人が、「この映画は、文化大革命の頃の中国で、8億の人民がセーノで一斉に2mの高さから飛び降りると地球の反対側にあるアメリカに大地震を起こすことができると冗談で語られていた事への、これまた冗談での意趣返しなのだ」と語ってくれたことがある。それ自体冗談であろうが、ついでに計算してみよう。

地球表層での位置エネルギー(E)は E = mgh なので,

60 kg/人 × 8億人 × 9.8 m/s^2 × 2m = 9.4 × 10^11 J

となる。マグニチュード(M)と地震のエネルギー(E)との間には、

log10E = 4.8 + 1.5M

なる関係があるので、

M = (log10(9.4×10^11) - 4.8)/1.5 ≒ 4.8 

となり、こちらは問題になるほど大きなものにはならない。大きくなり得るとしてもそのエネルギーは、「チャイナシンドローム」同様、発生源付近にこそダメージを及ぼすだろう。

 9月4日の朝、吹流しが真横にたなびく滑走路をイチかバチかで離陸した飛行機に乗り、迫り来る台風21号を振り切って新千歳経由で札幌入り。やれやれと思うも束の間、翌未明にその台風が再びやってきて、進路右側に位置していた全道は風速30mの暴風に見舞われた。台風のストーキングに遇うとは何て運が悪いんだ。それでも、関西での痛ましい被害の報道に接し、これくらい大したことはないと気を取り直した。

 それもまた束の間、翌6日未明(03時7分)には地震の不意打ちをくらい、激しい揺れに熟睡からたたき起こされた。札幌中心街にあるホテルの6階で、体感的には震度5強くらいか。この揺れなら付近で大きな被害が発生することはないだろうと思いつつも、初期微動の継続時間からやや離れた震源地のことが気になった。しかしテレビがつかない。室内の明かりが停電時の非常灯に切り替わっていたことを了解した。窓から見える周囲のビルも全て非常灯だけが点いているようだ。PCを起動してネットで確認しようとしたが、ホテルの無線LANが停電でダウンしている。私はスマホを持たないので、たちまち情報弱者になってしまった。

 深夜に申し訳ないと思いつつ、携帯で妻に電話して、今こちらで大きな地震があったのでテレビをつけて震源の位置と地震のマグニチュードを教えてくれと頼んだ。聞きなれない「胆振地方」が太平洋に面した側であることはわかったが、正確な位置がわからず、M6.7、震源の深さ40 kmと聞いて困惑した。まずこれは海溝型地震に特徴的な深さで、地殻内地震だとしたら異常な深さだ。しかし、海溝型地震でM6.7というのは決して大きな規模ではなく、その程度で日本海側の札幌中心街がこれほど揺れるとは思えない。そのうちマグニチュードや震源の深さが修正されるだろうと考えて、ひとまず落ち着いた。

 落ち着いてみると、天井にある非常灯の明るい豆電球のスイチの紐の取っ手が部屋の壁に影を落とし、それがゆらゆらと揺れ続けているのに気がついた。これは一種の光テコだ。体では感じないごく僅かな揺れを増幅して可視化してくれている。それが何分も揺れ続いているのは、断層の「割れ」が少しずつ拡がっているからなのか、それとも初動があちこちに反射して行き交っているからなのか、大変興味深い。やがて遠くから救急車や消防車のサイレンが間欠的に聞こえるようになったが、近くで火災が発生している様子はなかったので、とりあえず寝ることにした。寝る前にトイレを使ったが、手を洗おうとして断水に気づいた。後で、トイレのタンクの水を不用意に流し去ってしまったのを後悔することになる。

 夜が明けて目が覚めるとバッテリー切れらしく、非常灯が消えている。えーっと、テレビはつかない、ネットは見れない、トイレも使えない。これは大変だ。外をみると、近くのコンビニの店頭に人だかりができている。そうだ、今のうちに飲み物と食料を手に入れなければ。窓のない非常階段は真っ暗だ。備え付けの懐中電灯を使って下まで降りて外へ出ると、店内は立ち入り禁止で、表で飲み物だけを売っている。お茶やミネラルウォーターはたちまち売り切れ。出遅れたようだ。とりあえず、乳酸飲料のようなものを買ってホテルへ帰った。2階のフロント横にあるトイレには水の入ったバケツが用意してあり、これで流せという。以降、トイレの度に真っ暗な非常階段を使って6階と2階を往復することになる。

 しばらく後、北海道大学へ行って知人達に会い、ようやく何がどうなっているのかわかった。先ず、送電網の連鎖解列がおこって全道ブラックアウト、完全復旧には一週間程度を要するらしいとの情報を得た。大学構内もどのホテルも断水で、トイレは使用禁止になっている。トイレが使えないことを理由にホテルを追い出され、旅行者向けの避難所へ身を寄せている人もいると聞いた。私の地元では大学もホテルもマンションも屋上に給水塔があるので、停電即断水とはならないが、これは北国特有の問題らしい。そんな訳で、レストランも全て臨時休業だ。それでも近くの弁当屋さんはガスレンジでご飯を炊き、昼頃にはなんとか営業を再開した。その前の歩道には長い行列ができている。コンビニもレジは動かないが電卓で勘定をして開店しているところがチラホラ。薄暗い店内には、しかし、パンや弁当は既に売り切れているので、カロリーの高そうなお菓子の類をひとしきり買って、ホテルへ帰る。

 さて、どうしよう。札幌のホテルの予約は翌7日の朝までで、その後小樽へ移動してレンタカーを借りてあちこち行くことにしている。小樽のホテルは受け入れ可能ということだが、移動する手段はあるのか。予約を入れていた小樽のレンタカー屋さんはIP電話で連絡が取れない。とりあえず情報収集のために札幌駅へ行くと、非常用発電機があるのか明かりが点いていてトイレも使えるらしい。札幌市内で断水していないのは病院などごく一部の施設だけのようだ。JRは全て運行を停止し、再開見込みは未定とのこと。駅員と話をすると、旅行者向けの避難所を案内する地図をくれた。既に2箇所は満杯のバツ印が付いており、残りは札幌市民ホール(わくわくホリデーホール)1箇所のみ。携帯電話も基地局のバックアップ電源が時間切れで次々にダウンし、ソフトバンクの私の携帯は通じにくくなり、次第に心細くなってくる。

 バス乗り場へ行くと、こちらも高速バスを含め全便運行停止中で、いつ再開できるかわからないとの張り紙。電光掲示板には「悪天候のため運行停止」とある。「地震のため〜」という定型文がなかったのだろう。後で知ったことだが、全てのバスが運行を停止したのは停電で交通信号が作動していないのが理由だったらしい。札幌市内の交通信号は、ソーラーパネルを装着したごく一部のもの以外ほとんど消えていたが、渋滞は起きていないし交通事故が増えたという話も聞かない。歩行者は車の切れ目を縫って道を渡るのに苦労している様子もない。信号待ちがないので、却ってスムースに移動できたのは意外だった。なんだ、信号なんていらないじゃないかと思ったくらいだ。

 いろいろと策を練っているうちに、生来のズボラな性格が出て、なるようになるさと、考えるのが面倒になった。誰もいない札幌駅の高速バス亭の乗り場にあった自動販売機に、奇跡的にミネラルウォーターが残っていたのを2本買って、ほら、運がいいじゃないかと思いながら、ホテルへ帰った。しかし、午後7時になると部屋の中はもう真っ暗だ。ビルの谷間からはカシオペア座がきれいに見える。携帯もPCも懐中電灯も充電する術がないので、無闇に使えない。仕方ないので寝ることにした。寝入ってしばらく経った午後10時頃、知人からの電話で目がさめると目の前のマンションに明かりが復活している。窓の外を見ると、通りを挟んだ向かい側の一角は通電したらしい。こちらも夜が明けるまでには復活しているだろうとたかをくくって、また寝た。

 7日朝、起きてもまだ停電・断水が続いていてがっくり。今日はチェックアウトの日だ。9時すぎにホテルを出て、なんとかタクシーを拾い、とりあえず、避難所に指定されている「わくわくホリデーホール」へ向かった。しかし、着いて見るとなぜか扉が閉まっている。もう閉鎖されたのか。札幌駅へも行ったが、JRはまだ動いていない。高速バスの乗り場へ行っても、相変わらず「悪天候のため運行停止」中だ。最寄りのトヨタレンタへ行ったが、予約で全て埋まっているという。隣のホンダレンタは営業停止中。とりあえず、高速バス乗り場の柱の袂にコンセントがあったのを思い出し、そこで携帯を充電した。

 万事休す。小樽へ行くのは諦める他ない。復活した携帯で、あちこち電話をかけまくった。結果、知人が滞在中のホテルが既に通電し、断水も解除されたと聞いて、東区にあるそのホテルへ移動することにした。キャンセルが相次いで新規の受け入れが可能になったという。地下鉄が止まっているのでタクシーを拾おうとしたが、なかなか捕まらない。どうやら札幌駅周辺では駅のタクシー乗り場に集約されているらしい。そこへ行くと、タクシー待ちの行列が70 mほどに達していて、そこへやってくるタクシーもまばらだ。行列をなしている6〜7割くらいの人が新千歳空港を目指しているという。声を掛け合って相乗りするグループも多かった。待つこと1時間半、ようやくタクシーにありついて、次のホテルへ向かう。運転手の話では、ガソリンの調達が難しいせいで札幌市内のタクシーの半分くらいしか動いていないうえに新千歳への往復に時間がかかることもあって、タクシーが捕まりにくくなっているらしい。

 東区は震度6弱だったとのことで、実際、路面がうねったり陥没したりして通行止になっているところが多かった。既に復旧工事も始まっている。ビルの外壁やガラス窓が落ちて粉々に砕けているところもあった。まだ時間は早かったが、チェックインを受け付けてもらい、再開したばかりの傍の食堂でまともな食事にありついて、ようやく一息ついた。久しぶりにテレビをつけ、PCを起動してインターネットで情報を収集。地震本部の速報(注1)で、今回の地震が、従来から異常に深いところで地殻内地震のおこっている付近で発生したものであることがわかった。深さ37 kmでM6.7だと地表地震断層は現れていない可能性が高い。テレビでは札幌市南部の清田区で発生した液状化による住宅の倒壊現場の様子を伝えていた。10日に帰るまで時間はたっぷりあるので、翌日はそこへ行くことにした。

 明けて8日、動き出した地下鉄に乗って、東豊線終着の福住駅で降り、タクシーで現場へ向かう。既に復旧工事が始まっており、現場の多くが立ち入り禁止になっていた。

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 報道のカメラクルーや、被害調査の自治体職員・大学の専門家等が多数動き回っている。最近の雨で含水量が多かったのだろう。宅地開発の際に元の谷地形を埋めたところが地震動で液状化して多量の土砂が吹き出し、下流へ流れ去って陥没がおこったようだ。

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 本日9日までの情報では、埋め立てるのに火山灰を使ったのも被害を大きくした原因らしい。水道管が破裂して液状化を増幅したとの情報もある。それだけでなく、宅地の一つ上の段丘面上では側方流動がおこったらしく、その先端の土手で斜面崩壊がおこっている。

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 土手の上の駐車場の管理人に聞くと、かつてここには二段の段丘があって、その下段を削り取って宅地とした部分は何事も起きていないが、谷を埋めた下流側に被害が集中しているらしい。道路のマンホールが盛り上がっているとの報道があったが、これは盛り上がったのではなく、周囲が陥没して相対的にマンホールの部分が盛り上がったように見えているだけである。つまり、マンホールと同じ基礎工事をしていれば住宅が傾くこともなかったということだろう。

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 私はかつてここに「日本は自然が豊かで素晴らしいというのも甚だしい勘違いで、むしろ、凶暴な自然に四苦八苦しながら人々がなんとか暮らしてきた地域に属する、というのが自然災害研究者の一致した見解である」と書いた。ところが、多くの日本人や彼らが選んだ与党政治家だけでなく、官僚達にさえその認識が欠落している。だから、「泊原発が動いていればこのようなブラックアウトは起こらなかった」などといった莫迦なことを言い出す人が後を絶たない。

 滞在中の小さなホテルは、予約客の全員がキャンセルし、昨夜から、そして今日も私一人だけである。いろいろと親切にしてもらい、感謝に絶えない。不幸中のさいわいは、連日たいした雨も降らず、ほど良い気温で冷房も暖房も不要だったこと。ただし、この先は気温が下がって朝晩は冷え込むとのこと。被災地へのきめ細かな支援が必要だ。

追記(9月10日)
 全道ブラックアウトに至る経過についての報道があった(注2)。先ず地震のために苫東厚真火力発電所の2号機(60万kW)と4号機(70万kW)が緊急停止した。これで大きく需給バランスが崩れたので、(過負荷による他の発電機の損傷を避けるために)強制的に一部地域の停電措置がとられた。私が滞在していたホテルとその周辺は地震直後から停電になったので、その「一部地域」に含まれていたようだ。その後しばらくは持ち堪えたが、17分後に「何らかの原因で」同発電所の1号機(35万kW)が停止したのをきっかけに全道ブラックアウトになった、ということらしい。

 では何故、17分間は持ちこたえたのにそれがダメになったのか。一つには、私がそうであったように、地震で飛び起きたほとんどの人が、とりあえず明かりとテレビを付けようとして、需要が急増したというのも原因になったのではないかと思う。

*この追記については、翌日の記事で補足した。

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