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先週、2月11日の『ワイドナショー』での三浦瑠麗氏のスリーパーセル発言について、一言書いておくべきだと思いつつ、一週間が過ぎてしまった。録画から件の部分を文字起こしする。
(「スリーパーセル 一般市民を装って潜伏している工作員やテロリスト」との字幕が入る)
私は、三浦氏のこの発言は、在日朝鮮人に対する憎悪を煽り、危険にさらす効果を発揮する極めて悪質なものだと思う。類似の批判に対して三浦氏を擁護する意見が見られたので、そのいくつかについて手短に感想を書いておく。
まず、韓国や日本に「北朝鮮」のスパイや工作員が多数潜んでいるというのは常識で、実際に日本人が拉致されたではないかというのがあった。しかし、三浦氏が言っているのは、そうしたスパイや工作員のことではなく、戦争がおこって母国の指導者が殺されたり国体が崩壊したりした際に大規模なテロを仕掛けるよう命令を受けた集団のことで、そのような者が一般市民に紛れて多数潜んでいるという話である。三浦氏は戦争がおこったらどうなるかという文脈で発言しているのだから、そうした擁護は筋違いだ。
また、三浦氏はスリーパーセルが在日朝鮮人として暮らしているとは言っていないのだからヘイトスピーチにはあたらないというのもあったが、実際にこれに触発された在日朝鮮人へのヘイトスピーチや暴力行為が増えている。
例えば
朝鮮総連中央本部に銃弾 右翼団体の男2人逮捕(2/23 追記) 東京大学への抗議については、表現の自由、学問の自由があるのだから無駄だとの意見も見られた。しかし、他の権利と衝突する場合を想起するとあらゆる権利が無制限のものでないことは自明のことであろう。大学であっても、表現の自由、学問の自由が権利として他の人権に勝る訳ではないというのが一般的な理解で、そのためにいろいろな倫理規定、コンプライアンス規則などが設けられている筈だ。
この件に関係することで言えば、どこの大学にも情報倫理規程のようなものがあって、大学所属を名乗ってSNSなどでヘイトスピーチを公言したりするとお咎めを受ける。恥ずかしながら一昨年、私の学部の学生がtwitterで他国・多民族の憎悪を煽る発言をくりかえし、通報をもとに明確な情報倫理規程違反との決定が下され、厳重注意とtwitterアカウントの強制削除処分が行われた。SNS上ではなくテレビのワイドショーでの発言だから情報倫理規程違反にはあたらないとの言い逃れは通用するだろうか。学生は処分されて当然だが大学教員は表現の自由や学問の自由で守られるべきだというのは通用するだろうか。
学生本人は表向き反省のそぶりを見せていたが、通知を受けた父親から「何が悪いのだ」と大学担当者へ抗議があったと聞いて唖然とした。学生はお客様だが、大学当局は親の抗議に怯まなかった。しかし、親が庇ってくれたことで真の反省は得られなかったのだろう。その後この学生はもっと酷い事件をおこしてしまったのだ。人権というものを理解しない限り、何度でも人権侵害を犯す訳である。三浦瑠麗氏が人権を正しく理解しているとは到底思えないので、今後も人権侵害を誘発するような発言が繰り返される可能性大である。
ところで、三浦氏の言うスリーパーセルなるものは、母国の国体が崩壊した後でもなお母国への忠誠を維持し、命を捨てる覚悟でテロ行為に及ぶというものらしいが、そんな人間の存在をどうして信じることができるのか、私には全くわからない。かつてそのような実例があったのだろうか。近・現代史の中でも一国の指導者が殺害され、国体が崩壊した例は多いが、そのことを合図に敵対していた国でスリーパーセルの一斉蜂起がおこったという例を私は知らない。
日本の敗戦後もフィリピンのルバング島で「戦い」続けた小野田寛郎元少尉をスリーパーセルの実例とする意見を見かけたが、彼の実像は三浦氏が想定しているものとは全く異なるものである。帰国直後の小野田氏と三ヶ月間寝食を共にしながら彼の手記『わがルバン島の30年戦争』(講談社, 1974年)をゴーストライターとして代筆した津田信氏は、やがて小野田氏本人による「小野田像の捏造」に堪えられず『幻想の英雄』(図書出版社,1977年)を著すことになる。その「あとがき」で津田氏は、間違った ”小野田伝説” が語りつがれることを恐れた “懺悔の書” であると書いている。
あらゆる情報は小野田氏が早い段階で敗戦を知っていた事を示していた。それなのに彼は、滑稽な言い訳とともに、敗戦については知らなかった、むしろ大日本帝国はいよいよ国力を増して東京オリンピックを開催したり皇太子が民間人と結婚するのに湧いたりするまでになったと信じていたと最後まで主張したのである。津田氏が疑惑を懐いたのはそうしたことに端を発している。
小野田氏が潜んでいたルバング島(面積255 km2)は、戦略上ほとんど無意味な、小さな島である。30年間に100人以上を殺傷した(殺害は30人以上)とされているが、そのほとんどは、何の罪もない島民だ。
有能な情報戦の将校が日本の敗戦を知らなかった筈はない。しかし、既に彼は何人かの島民を手に掛けていて、報復を恐れ、投降をためらっているうちに罪を重ねて行くことになる。生きて行くためとはいえ島民の殺害を続ける事を正当化するには理由が必要だ。戦争に負けたのに「戦闘」を続けることにはいかなる理由も見出せないから、どうあっても日本の敗戦を知らなかったことにしなければならない。
彼は、上官からの残置任務を遂行した訳ではなく、保身のために略奪と殺戮を繰り返しただけの、本来なら国際指名手配犯に該当する殺人鬼に過ぎない。そこから心身ともに安全に生還するためには上官による命令の解除という神話的な物語が必要だった。津田氏の著書によってその事の欺瞞性が暴かれ、ブラジルへ逃亡したのだろう。
津田氏が健在であったら、この度の三浦氏の発言を聞いて、スリーパーセルなどというのは戦争の実相を知らない平和ボケした学者の妄想にすぎないと喝破したのではないか。妄想を垂れ流して恥をかくのは自業自得だが、そのせいで生じる被害に思いが至らないのは人権意識の欠如によるものである。
[MV] 이랑 イ・ラン - 임진강 イムジン河
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2018年02月18日
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