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甲状腺ファントムを用いたGM菅による被ばく量の推定
1月21日付、東京新聞は、「東京電力福島第一原発事故の直後、福島県双葉町にいた十一歳の少女が、喉にある甲状腺に推計で一〇〇ミリシーベルト程度の被ばくをしたと報告されていたことが、国の研究機関・放射線医学総合研究所(放医研)の文書から分かった。」と報じた。
東京新聞 TOKYO Web
甲状腺被ばくのスクリーニングでは本来 NaI シンチレーションカウンターを用いなければならないが、このケースでは緊急時における表面汚染スクリーニング用のGM管サーベイメータが使用され、体表面を除染したあと頸部に密着して測定した結果、 50,000〜70,000 cpm のカウント率が計測されたとのこと。測定がGM菅サーベイメータを用いてなされたことから、100 mSv の被ばく線量という推計はあてにならないというのは、その通りであろう。しかし、実際の被ばく量はもっと大きかった可能性もあるので、放置して良いということにはならない。
GM管サーベイメータの機種は?
前提として重要なのは使用されたサーベイメータの機種であるが、おそらく日立アロカのTGS-146Bか、その先行機種または後継機種と推定される(注1)。大学のRIセンターや公的機関に納入されるものは、JIS規格の校正基準を満たす必要から、日本ではほぼアロカ社の独占状態にあることと、体表面を含む表面汚染の緊急スクリーニングでは入射窓面積 20 cm2のGM管サーベイメータを使用することになっているので(注2)、そう考えてよいだろう。これを用いた計数値はもっぱらβ線によるものとして、表面汚染密度への換算が行われる(注3)。
しかし、このケースでの最大の問題は線源効率である。β線用のGM菅で甲状腺からのβ線をキャッチできるだろうか。I-131のβ線の最大エネルギーは 0.606 MeV であり、この最大エネルギーのものでも水中での飛程は 2 mm に過ぎない(注4)。平均エネルギーを 0.2 MeV とすると、平均飛程は0.44 mmだ。なんとか体表面まで届いたとして、エネルギーの大半を失ったβ線はGM菅の窓材を通過できるのか、甚だ疑問である。
甲状腺ファントムを用いた各種測定器の校正研究 そもそも甲状腺は頸部表面からどれくらい離れた位置(深さ)に存在しているのかさえ知らない。そこで、甲状腺ファントムを用いた研究はないかと探したら、あった。
なんと、TGS-146の先行(先祖)機種であるTGS-133を用いた測定データもある。これらは同型のGM管(図1)を用いてあるので、この論文のデータを用いてそのまま今回の双葉町における被ばく線量の評価が可能だ。まず目を引いたのは、ファントムのジオメトリである。
甲状腺の頸部表面からの深さは 1 cm で、その間は水で満たされているとのこと。これでは甲状腺からのβ線は全く表面まで届かないことになる。それでは何が計測されているのか。
γ線への感度
本機種では主にβ線が計測されるが、γ線にも若干の感度がある。私はかつて、TGS-133の後継機であるTGS-136を用いて、トリウムを8%程度含むモナザイトをGM管の周囲を一周させ、その指向特性を調べたことがある(図2)。このときの計数率は、正面を 100%とした時30度斜め方向で70%、45度で50%、真横から裏側にかけては10%弱となった。真横から裏側では、β線はGM管の壁材や金属カバーによって完全にカットされるので、γ線だけのカウントとなる。γ線はGM管の壁材やカバーを容易に突き抜けて全方位から入射するので、バックグラウンドが高い時、全カウント数に対するγ線の寄与率はかなり高くなる。このことから概算すると、前方からのγ線の補足率は大雑把に 1〜2% 程度と見積もられる。
甲状腺等価線量の推定
いずれにしても、ファントムを用いた(おそらく同型機による)実測値が掲載されているので、そういった面倒なことは考えなくて良い。結果を表1に示そう。
例えば、24 kBqのI-131を含む12 mlサイズの甲状腺ファントムをGM管サーベイメータで計測した結果、1000 Bqあたり0.26 cps(= 15.6 cpm) の計数率が得られている。この結果から 70,000 cpm の計数率となるI-131 の放射能を逆算すると、
70,000 cpm ÷ 15.6 cpm/kBq = 4.49E+03 kBq = 4.49E+06 Bq(449万 Bq)
となる。
これをもとに実効線量と甲状腺等価線量を算出して見よう。体内に取り込まれたヨウ素の70%〜80%は甲状腺に分布しているとのことなので、甲状腺に449万 Bqが存在しているとき、全身には560万 Bq (= 5.6 E+06 Bq)程度が存在していることになる。環境省は、経口摂取によるI-131の実効線量への換算係数は、10歳児の場合 0.052 μSv/Bq (= 5.2 E-05 mSv/Bq)としている。体内に560万 Bqの I-131 が存在するためには、経口摂取した量はもっと多くなければならないと考えるべきなのかもしれないが、とりあえずこの値を用いると、実効線量は、
5.2 E-05 mSv/Bq × 5.6 E+06 Bq = 291 mSv となる。
甲状腺の組織荷重係数 0.04 で割ると、甲状腺等価線量は 7, 275 mSvとなる。
とんでもない数値だが、何か間違っていないだろうか?
とにかく、専門家は、うやむやにせずに真剣に再検討すべきだと思う。
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注1)1990年代に使用されていたのはTGS-133で、その後、TGS 136、TGS-146, TGS-146Bとモデルチェンジを重ね、現行の後継機種はTGS-1146である。いずれも窓径 5 cm の同型GM菅を使用しており、機器効率のエネルギー依存曲線が微妙に異なるものの、ほぼ同等の計数率となる。GM管を用いた放射線サーベイメータにはγ線と反応する特殊な壁材のGM管を使用してγ線にも十分な感度を有するよう設計され、空間線量率測定にも使えるものがあるが、窓径が小さい。また、全方位からのγ線を拾うので、指向特性が弱く、表面汚染検査には適さない。
注3)β線核種の表面汚染密度(Bq/cm2) =
(測定値−バックグラウンド)/60
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(機器効率 × 線源効率 × GM管の入射窓面積 × 開口率)
毎秒あたりのBqの単位に合わせるため cpm 単位の計数値を60で割る。
TGS-146の仕様書によると、I-131からの最大エネルギー 0.6 MeV のβ線の機器効率は 0.45 程度、入射窓面積は 19.6 cm2 、窓を保護するための金属製メッシュカバーにより開口率は 0.85となっている。バックグラウンドは、平常時であれば自然放射線による 50 cpm 程度の係数率となるが、この場合、最大 10,000 cpm 程あっても不思議ではない。しかし、公表されている係数率はバックグラウンドを引いた値であると思われる。
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2019年01月25日
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