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前回の記事内容についていくつかの誤解や批判が生じているようなので、以下に補足する。今の時点でコメントはないが、いろいろと取りざたされているようなので、取りあえず、今回の補足を(その1)としておこう。
1)放射能の単位(ベクレル: Bq)ではなく、吸収線量(グレイ:Gy)や線量当量(シーベルト:Sv)で議論すべきとの批判について。
まず、放射線関連の単位系について簡単に整理しておこう。
ベクレル(Bq):放射性元素を含む物体が、一秒間に放射壊変を起こす回数(=カウント/秒)。
グレイ(Gy):放射線を浴びる物体が、単位質量当たりに吸収するエネルギー(=J/kg)。
シーベルト(Sv):生体(人体)が放射線から受ける影響の強さ。これは放射線の種類により異なるために、個々の放射線の吸収線量(グレイ)に、放射線の種類毎の放射線荷重係数(R)を掛けて足し合わせたもの。Rは、ICRP(国際放射線防護委員会)の勧告に従って、β線・γ線の1に対し、α線は20と定められている。
つまり、ベクレルが物質の属性としての単位であるのに対して、グレイやシーベルトは空間の属性から派生したものであり、単位時間あたりのグレイ/時(Gy/h)とマイクロシーベルト/時(μSv/h)は、ともに「空間線量率」と称される。同一のベクレルからなる物体が存在したとしても、空間線量率は条件次第で大きく変化し、一義的に定めることはできない。したがって、ある物質の放射性に関わって、その物質そのものの危険性を議論する場合には、空間の属性ではなく、物質の属性としてのベクレルを用いるのが基本となる。
例えば、精製直後の純粋なウランはα線だけを放射するが、α線は大気中で数cm程度しか届かないので、そのウラン塊がどれほど大量に在ったとしても、10cm以上離れると空間線量率はバックグラウンドと等しくなる。だからと言って、その「純粋なウラン塊」が放射性の観点からは全く無害な物質であるという評価にならないのは自明のことであろう。そのため、原子力基本法関連の各種政令では、放射性物質の規制限度量を核種毎の質量またはベクレル単位で定めている。
2)劣化ウランからのα線、β線放射の実態
一方で、ベクレルだけではその危険性を評価できないのも確かである。そこで、放射線防護の観点からは、ベクレルを基礎として、その物体からどのような放射線がどれくらい放射されるのかを具体的に見積もる必要がある。2004年の「さざ波通信」への投稿では、その事に力を注いだ。
この計算で重要な概念として「自己遮蔽効果」がある。これは、放射性物質の内部で生まれた放射線は、その物質自体に吸収されてしまい、外部へ抜け出ることができない場合があるということ。粒子線であるα線やβ線が物質中を進むことのできる距離を飛程と呼ぶが、物質表面から飛程以上の深さで生まれた放射線は、その物質の外部へ抜け出ることができず、実質的に放射されることがない。
α線の飛程は、ウラン238(4.198MeV)、ウラン234(4.775MeV)、およびウラン235(4.679MeV)のいずれから放射されるものでも、密度19.2g/cm^3の金属ウラン中ではわずか2〜3μmほどしかない。
これに対してβ線の飛程は、トリウム234からのもの(0.199MeV)が40μm、プロトアクチニウム234からのもの(2.27MeV)が800μm、トリウム231からのもの(0.389MeV)が100μm程度となる。
結局、放射平衡に達している核種からの各種放射線の放射率は、その放射性物質内部における個々の放射線の飛程の比に等しくなり、そのため、劣化ウランからの放射線の大部分はβ線ということになる。したがって、「劣化ウランは主要にはα線を放射する」というのは誤りであり、そのことを根拠にした言説は無視してよい。なお、1気圧、20℃の大気中におけるプロトアクチニウム234からの2.27MeVのβ線の飛程は、9.1 mである。つまり、β線放射の重要性は体外被曝・環境被爆の問題へ直結するという点にある。
いずれにしても、密度の大きな金属ウラン中では、飛程がこのように小さいことから、α線やβ線の放射は、ウランの質量ではなくその表面積に依存することになる。計算の結果、表面積が24 cm^2(一辺が2cmのサイコロ)の劣化ウラン塊(重さ152gで25 mm機関砲に含まれる劣化ウラン量にほぼ匹敵)から放射されるβ線は、10万 cps(カウント/秒)程度となる。
下記ウェブサイトの”DU in Iraq”のページに、イラクに転がっていた不発弾のサーベイメータによる実測値として、β線が12,000 cps 、α線が12 cpsという値が公表されている。
http://www.llrc.org/du/duframes.htm
私の試算は、一辺が2cmのサイコロ状のものから全方位へ放射される総量を示しているが、サイコロの1つの面にGM(ガイガー・ミュラー)管の窓を当てて測定する状況では、カウント率はほぼ1/6になる(線源効率)。また、GM管の機器効率(エネルギーに依存し、10〜70 %と変化する)を考慮すると、上記レポートの数値は予想される値に一致する。
その放射能が761万ベクレル(147グラムの時736万ベクレル)と算出されるのに比べると、「自己遮蔽効果」のために相当小さくなっているということであるが、これを粉砕して表面積を増やせばいくらでも増大し、α線の放射も無視できなくなるということでもある。特に、その微粉末が体内に取り込まれ、体液に溶け出したら、その分のベクレル値に匹敵するカウント率で放射線を浴びることになる。
3)逆に、原発用濃縮ウランも大した放射能はないということか?
日本国内の通常の場所では、窓の直径5cm程度の一般的なβ線用GM管サーベイメータのカウント率は0.7〜1.2 cps程度となり、花崗岩に当てると2.0〜3.1 cps程度になる。γ線に感度のあるシンチレーションカウンタを用いると、この10倍程度のカウント率が得られることもある。いずれにしても、我々が外部環境から日常的に浴びている放射線の量はその程度のものである。
これに対して、イラクで見つかった不発劣化ウラン弾のGM管サーベイメータによる測定値は12,000 cpsとのことで、環境放射線の約1,000倍以上ということになる。前回書いたように、この数値をもって直ちにどれくらいの危険があるかを言うことはできない。要は、安全性を断定できないということだけは確かであるということだ。それが安全であると主張する者は、そのことを証明する義務がある。
原発燃料の取り扱い指針は、居住区にばら撒くことなどはなから想定してはいないのだが、それでも、厳重に密封管理 されているものでさえ1個が370万ベクレルを越えるものは厳しい規制の対象となる。1発が、その規制値の2倍もの放射能(Bq)を持つ劣化ウラン弾を、他国民の頭上に、何百トンもばら撒く(打ち込む)など、許す事のできない暴挙と考える。
次回はたぶん、ウラン235の誘起核分裂とウラン238の自発核分裂について、使用済み核燃料について、および核原料物質(ウラン鉱石)から直接得られる劣化ウランではなく、再処理工程で排出される劣化ウランの特徴とその危険性について書くことになるだろう。
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