さつきのブログ「科学と認識」

福島第一原発、アンダーコントロールで、わざと昨年の2倍の放射能を放出か

科学と認識

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実験のまとめ

 まず、前回のエントリーに、8/25付で追記した実験の記録を読んでいただきたい。私は、この最終実験においてムペンバ効果の一端を捉えることができたと考えている。その要点は、以下のようにまとめられる。

1)「お湯」は、冷凍庫の中でさかんに蒸発して気化熱を奪われ、急速に冷える。蒸気はただちに凝結して霜となり、このことによって活発な蒸発が35℃程度に冷えるまで維持される。
2)「お湯」の蒸発が盛んな間は、蒸気が冷凍庫の内壁に凝結する際に放出される潜熱によって、傍におかれた「水」の冷却速度が極端に鈍る。
3)「お湯」は、「水」より密度が小さく、同じ容量でも最初から軽かった。「お湯」は蒸発によっても質量が失われ、35℃になった時点で、スタート時点の同じ温度の「水」より6.4%ほど軽くなった。
4)背負っている荷物を軽くした「お湯」は、低温になっても、その分「水」より冷却速度が速く、やがては、冷却にもたついていた「水」の温度にほとんど追いついてしまう。
5)凍結開始時、「お湯」では、容器の上部内壁に付着した水滴(露)から凍り始め、水面へ達した後、しばらくの間は水面内壁付近の氷が厚くなり、その後水面へ広がる。したがって、凍結開始の時間は定義次第で変わる。「水」では、容器の上部内壁に露が付いていないために、氷がいきなり水面に薄く広がる。
6)最終実験においては、常に「お湯」の方が早く完全凍結したが、できた氷の量は「水」より6.6%少なかった。

 私は、一連の実験によってムペンバ効果そのものの原理や本質が全てわかったと主張したいのではない。ムペンバ効果にかかわる関心は、それが、一見科学の常識に反するような現象の存在を主張している点に向けられている。そこで、事実としてそういうことがあるのか、あるとして、それは従来の科学の常識の範囲内で説明可能なのかといったことが議論になる。

 一連の実験でわかったのは、等量の水とお湯を同時に冷凍庫に入れた場合、水よりお湯の方が先に凍結する条件が存在しうるし、それは科学の常識の範囲内で説明可能ということ。人々を惹き付けている関心の的に照らせば、これで十分なのだ。だから私は(その1)で、「一つだけでもそうしたケースが見つかればそれで終わり」と書いた。

未科学から疑似科学へ

 そもそもメカニズムの分かっていない現象だとしたら「ムペンバ現象」と呼ぶべきで、その意味ではMpenba氏が行なったと同じ条件で顕われるのが「ムペンバ現象」である。ところが、Mpenba氏の論文(Mpemba & Osborne, 1969など)は科学論文としての体をなしていないので、その実験を忠実に再現することができない。境界条件の記載や言葉の定義が曖昧にすぎるのだ。したがってこれは、科学の域に達していない未科学の段階にあるものといえよう。もちろんその報告の中に虚偽があったなら、それはニセ科学である。しかし私には、その臭いは感じ取れなかった。そこで私は、これが、未科学が科学と疑似科学へ分岐する良い実例になると考えた。

 Mpenba氏の発見はOsborne教授の目にとまり、学術誌に論文として掲載された。しかしそれは、理科教育関連であったために、科学論文として不首尾な点は大目に視てもらえたのだろう。純物理学の学術誌へ投稿されたのであれば、あのままでは採択されなかったろうし、最初からあのような体裁の原稿にはならなかっただろう。その後、この論文は幾人かの科学者の目にとまり、ある種の追試も試みられたが、「Mpenba氏が行なったと同じ条件で顕われるのがムペンバ現象」というジレンマから抜け出せずに今日に至っている。

 ここで私が問題にしたいのはNHKの『ためしてガッテン』のスタッフや、その実験を監修した前野北大名誉教授のとった態度である。実際に番組が放送されると様々な批判が沸きおこった。ところが残念なことに、目立ったのは、頭ごなしに「ニセ科学」や「疑似科学」や「トンデモ」とのレッテルを用いて批判するものであった。本来、番組収録前の予備実験においてムペンバ効果が何度も再現されたと説明されているのだから、その同じ実験を任意の第三者に再現可能ならしめる詳細を公表せよとせまるのが、必要かつ十分な反応であるべきだったのだ。

 しかし、そうした批判や要求がないからといって、前野氏の事後の釈明がとんちんかんなものになったのは頷けない。それが「科学」であるとの自負があるのであれば釈明などする必要はなく、単に、自らが主導して行なった実験の詳細を公表するだけで十分だった筈だ。それをしないのは何故なのだろう。条件のいかんにかかわらず「お湯は熱いほど早く凍る」と受け取れる放送をしてしまったNHKの勇み足に、引っ込みが付かなくなったためなのか。
http://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2008q3/20080709.html

 その謎を解くヒントは、前野氏により、番組放送前に雪氷学会の会員向けMLに「無駄な誤解が生じないよう」として投稿された記事の中にある。
http://ch08371.kitaguni.tv/d2008-07_2.html

 その中で前野氏は、ムペンバ効果は、「多数の物理因子が関係しているため」「素人研究では絶対解明できない難問」であると述べている。予め、批判を封殺しようとの思惑も読みとれる妙に強い書き方である。だが、前野氏は番組放送後の反応を読み違えていた。人々の関心は、お湯と水とを平等な条件で冷却競争させた場合、お湯の方が先に凍結するというような不思議なことが本当にあるのか、という点に向けられた。そして、Mpenba氏が行った程度のラフな実験は、素人でも簡単にできることで、それによって、ムペンバ効果の実在そのものを疑う論者が増えてしまったのだ。

 メカニズムの解明へ向けた行為だけが科学であるとの立場に立てば素人の出る幕はないが、ある現象が実在するかどうかは、素人でもわかることがある。前野氏は、その点で「科学」とは何かを誤解していたのではないか。実際、メカニズム不明の現象の実在を報告しただけの科学論文はいくらでも存在する。そのような段階にある研究を武谷三男氏は「現象論」と称して、自然の認識へ至る最も重要な段階と位置付けた。要は、そのような段階にある研究において、問題となる現象の輪郭やそれが顕れる条件の詳細を、事実として正確に第三者へ伝える科学の作法に則っているかどうかにある。

 前野氏としては、水よりお湯の方が先に凍結するケースと、そうではないケースのそれぞれについて、実験条件の詳細をきちんと示すだけで十分「科学」たりえたのである。第三者はその報告をもとに再現実験を行うことが可能であり、その過程で条件の詳細についての不備に気付くことがあればそれを問いただすことで共通認識が深まり、無益な論争も生じなかったであろう。そこからメカニズムの解明へどう繋げるかは、また別の問題である。

 テレビ番組としては、「特殊な条件のもとでは水よりお湯の方が早く凍ることがある」ということではいかにもインパクトに欠ける。『ためしてガッテン』のスタッフが、番組の話題性を高めたいがために敢えて科学の作法を無視して「お湯は熱いほど早く凍る」と言い切ったとすれば、「疑似科学」へ一歩足を踏み入れていると言わざるを得ない。この点では、番組監修者としての前野氏の責任は免れない。

 私は、未科学としてのムペンバ効果が科学へと発展する契機を自分自身で納得するために、「実践的認識論」としての武谷三段階論をもってこれにチャレンジしたいと考えた。これで一発当ててやろうといった野心はないので、ここでの結果報告は概略程度に留めているが、データ取得そのものは詳細かつ精確を期したつもりである。その精度は、繰り返し実験のばらつきで判断できるし、その範囲内での言及に留めているつもりである。この実験は簡単ではないということも、やってはじめて分かった。実験開始時の温度をそろえるのも大変だし、凍結開始や完全凍結の認定そのものが難しい。その点、Mpenba氏の実験報告そのものへの不信感は大きく残った。

 武谷三段階論については別の機会にあらためて論じたい。目下、文献を精査中である。

 前回の(その3)での考察から、蒸発の効果が最大限発揮されるよう口の広い厚手のプラスチック容器を用いた実験を行った。

●実験4
実験に用いた容器は、100円ショップで買った食品用のタッパーで、角の丸い8cm角、深さ3cm程度のもの。100 ml、26℃の水を入れた容器単独でスタートした予備実験では38分で凍り始めた。
100 mlの水(25.7℃)とお湯(70.5℃)を入れたタッパー二つを発砲スチロール板の上に3cmほど離して置き、スタート
47分後に水が凍結開始
64分後にお湯が凍結開始
この17分の差では完全凍結までの時間を逆転できる可能性はないとみて、実験ストップ
実験後に氷が融けて15℃まで回復した時点でメスシリンダーで容量を測ると、水では約0.5 mlの減少、お湯では約5.5 mlの減少が確認された。

考察:
 熱伝導率の小さな厚手のプラスチック容器を用いたことと、容器の下に発砲スチロール板を敷いたことで、口の広い容器を用いたにもかかわらず凍結までの時間は実験2とほぼ同じになったが、その差はやや縮まった。この間にお湯の蒸発によって失われた質量は約3グラムで、お湯が常温まで冷えるのに、おおよそ30%が蒸発による潜熱の解放に依っていることになる。

 水を単独で行った予備実験より水とお湯を一緒に行った実験の方が凍結開始まで長時間を要したのは、熱容量の負荷の差だけでなく、隣接するお湯から放射熱などの熱輸送があったためとも考えられる。そこで、この効果を最大限発揮させるために、側面が平らな容器を、互いに密着させて新たな実験を行うことにした。こうすることで、水の方はお湯から「熱」をもらって、冷却を遅らせることができるだろう。

●実験5
実験に用いたのは、底面が69 mm×86 mm、深さ16 mm、厚さ0.8 mmの透明なスチロール容器で、60 ml、26℃の水を入れた単独での予備実験では27分で凍り始めた。
この容器二つを、長辺の壁を密着させて発泡スチロール板の上に並べ、26℃の水と70℃のお湯60 mlずつを入れてスタート
36分後に水を入れた容器の水面のお湯容器から離れた角の部分から凍結開始
39分後にお湯容器の水面の四隅の部分から凍結開始
220分後、お湯容器内が完全凍結したように見える
230分後、水容器内が完全凍結したように見える
(完全凍結の判断はレーザー光の屈折から判断する方法に習熟していなければ、大変難しい)
実験後に氷が融けてすぐにメスシリンダーで容量を測ると、実験4と同じく、水では約0.5 mlの減少、お湯では約5.5 mlの減少が確認された。

考察
 この実験で始めて「ムペンバ効果」の片鱗らしきものが見えた。容器サイズの制限で60 mlからスタートしたために全体の時間が短縮されたことを考慮すると、水の冷却スピードが極端に遅くなったことがわかる。これは、水容器とお湯容器を密着させたことで、お湯から水への熱輸送が起こったためと考えられる。
この実験は、本番としては1回しか行っていないので、今後、再試をくり返し、温度データなどを取得する予定である。

 ところで、水とお湯が相互に干渉しあうような実験はインチキではないかとクレームがつくかもしれない。そこで、追加実験の結果を、このエントリーへの追記として報告した後、そもそも「ムペンバ効果」とは何だったのかを中心に、新たなエントリーでまとめを行いたい。実は、このことが私を熱中させているのである。
(つづく)

========================== <8/25 追記> ===========================

 実験5の結果を受けて、最終的に、底面が175 mm×86 mm、深さ34 mm、肉厚1.2 mmのスチロールケースの周囲の3面に布製ガムテープを二重に貼ったもの(長辺の一つには貼っていない)を容器として用い、これに35℃の水と80℃のお湯をそれぞれ200 mlずつ入れた実験を行うことにした。

 「水」と「お湯」それぞれの単独実験、二つの容器をガムテープを貼っていない側面を接して並べた実験、両方を3 cm離した実験など合計8回を行い、容器内の底の部分の温度変化をモニターし、実験終了後にはメスシリンダーで内容量を計量した。その結果、以下のことがわかった。

1)「水」容器の底の温度が1℃に達すると、表面にごく薄い氷が張り始める。
2)「お湯」容器の水面の上に出ている部分の内壁には多量の水滴が付着していて、容器の底の温度が4℃くらいになると、この水滴が凍り始める。底の温度が3℃以下になると、容器内側の水面付近の四隅にしっかりとした氷ができる。底の温度が1℃になると薄い氷が水面へ広がる。
3)35℃の「水」単独では、52±2分で水面にごく薄い氷が張り始める。
4)80℃の「お湯」単独では、64±2分で容器の四隅に氷ができ、69±2分で表面へ薄い氷が広がる。
5)「水」と「お湯」の容器の長辺を接してスタートした場合、65±2分で「水」の表面に薄い氷が張り始める。同時に「お湯」容器の内側の四隅に氷ができる。71±2分で「お湯」の表面へ薄い氷が広がる。
6)5)の条件で80℃のお湯が35℃まで冷えるのに16〜17分を要する。35℃から3℃まで冷えるのにさらに49分を要する。35℃の水が3℃まで冷えるのに59分を要するので、同じ温度の変化で10分の違いが生じている。
7)5)の条件で「お湯」が完全凍結するのは実験開始からおよそ390分後であるが、この時点で「水」には直径2cm(厚さ不明)の未凍結部が残っている。
8)「水」と「お湯」の容器を3cm離してスタートした場合、62分後に「水」の表面に薄い氷が張り始める。「お湯」は5)および6)とほぼ同じ経過をたどる。
9)両方の凍結開始を確認した時点で冷凍庫から取り出して、温度が10℃に回復した時点で内容量をメスシリンダーで計量した結果、いずれの場合も「水」は196ml、「お湯」は183mlになっていた。

考察:
以上をまとめると次のようになる。
1)「水」は、隣に「お湯」があると冷却速度が極端に遅くなるが、「お湯」の冷却速度は「水」のあるなしにさほど影響を受けない。この点は、「お湯」と「水」の容器をくっつけた場合と離した場合でさほどの違いがみられなかったことから、お湯から水への直接的な熱移送以外の効果も考えなければならない。お湯が35℃まで冷える過程では主に気化熱を奪われることによる冷却が効いているが、この間、蒸気が冷凍庫内壁に凝結して放出される潜熱によって「水」の冷却が阻害されるのかもしれない。

2)お湯と水とでは凍結開始の様子が異なるので、どちらが先に凍結を開始したかは厳密には決められない。上記の実験では、ほぼ同時か、水が若干早く凍結を始めたと言ってよいだろう。

3)お湯と水の密度差によって、スタート時点で既に2.3%の質量の差があったが、お湯の蒸発のために凍結温度に達した時点での質量差は6.6%に達する。この質量差は、完全凍結までの時間に直接反映されるので、結果として、お湯からスタートした方が早く完全凍結する。

4)結局、お湯の方が早く凍ったけれど、できた氷は少なめであったということ。

以上、詳しい考察は別のエントリーで行う予定。

 ここで、「ムペンバ効果」を促進させると思われる要因について、思い付く限り書き出しておきたい。まず、これまでの実験で以下の現象が確認された。

A:お湯が常温(20〜30℃)まで冷えるのには比較的短時間ですむ
B:常温から凍結開始までの時間はお湯からスタートした方が若干短い
C:氷り始めてから完全凍結するまでの時間はお湯からスタートした方が若干短い

そこで、上記の3点に分けて、それぞれの現象に関係すると思われる効果を列挙し、評価を付記する。

A:お湯の常温までの冷却を速める要因

1)活発な熱対流
 コップ内の温度分布の不均質性はお湯からスタートした方が大きいため、最後まで対流が活発で、水面からの放熱が効果的になされる。この効果は、常温まで冷えた段階で水とほぼ同じになるので、水の冷却温度を追いこす要因にはなり得ないと考えられる。「常温まで冷えると水の対流と同じになる」というのは厳密には正しくない。対流は平均温度ではなく、温度の不均質性によるので、スタートの条件が異なっている限り最後まで違うコースを辿る筈だからである。しかし、その違いは小さいだろう。

2)コップ周囲の冷気の対流
 冷凍庫内ではコップの周囲の冷気に対流(上昇流)が生じ、お湯コップの周囲でより強くなる。お湯コップの周囲を冷気の風が包む状態になり、冷却を促進させるだろう。しかしこれも、常温まで冷えた段階で水とほぼ同じになるので水の冷却温度を追いこす要因にはなり得ない。

3)蒸発による潜熱の解放
 お湯の方はさかんに蒸発して気化熱を奪われるので、冷却が効果的になされる。しかし、これまた常温まで冷えた段階で水と同じになるので、水の冷却温度を追いこす要因にはなり得ない。

B:常温から凍結開始までを、お湯からスタートした方で速める要因

1)質量の違い(お湯の方が軽い)
 水とお湯を「等量」計り取ると言えば、普通は容量をそろえるが、水とお湯とでは比重が異なっているので、同じ容量でもその質量には差がある。水の比重は30℃で0.99565、80℃で0.97180であり、2.4%の質量差となる(お湯だと容器の膨脹も伴われるので、実際には両者の差はもっと小さくなる)。しかし、お湯の蒸発による減少分を加味すると、凍り始めの時点での質量差は無視できない。実際、「実験1」の終了後に室温で解凍した結果、お湯の液面低下は目視ではっきりとわかる2 mm弱程にも達していた。

2)過冷却の程度の違い
 なんらかの理由で、お湯より水からスタートした方が過冷却になり易いとすれば、凍結まで時間がかかる。しかし、「実験3」では、むしろ凍結直前の温度はお湯からスタートした方が低かった。これは、温度不均質の効果を最後までひきずった結果と解釈される。

C:凍り始めから完全凍結までをお湯からスタートした方で速める要因。

1)質量の違い(お湯の方が軽い)
 B−1)に同じ

2)揮発性成分の含有量の違い
 水道水に多量に含まれている揮発性(ガス)成分は、沸騰させると追い出されてしまう。水道水をそのまま凍らせると白く濁った氷になるのは、凍結で分離したガスの小さな泡が多数閉じ込められていて、これで光が乱反射するからである。良く知られているように湯冷ましから作った氷は透明で均質になる。水道水をそのまま凍らせてガスの泡を多量に含んだ氷は熱伝導率が相対的に小さく、放熱を阻害し、凍結を遅らせるだろう。しかし、今回行った実験では、氷の質感の違いは僅かなものでしかなかった。そもそも水道水中の揮発性成分が少なかったのかもしれない。

3)凍り始めの場所の違い
 「実験2」の参考にした滝川洋二氏の解説ではこの効果が強調されている。すなわち、水コップでは水面に一様に氷が張り始めるのに、お湯コップでは水面の周囲から凍り始めるという。水面が氷で覆われると、対流による水面からの放熱が阻害されるので、水コップの方が氷の成長が遅くなる。水の比重が一番大きいのは4℃付近なので、凍り始めの時点での内部の温度の不均質性が0〜4℃の範囲におさまった時点で対流はストップし、水面から凍り始めるというのが一般則である。これを破るためには8℃以上の温度差を要する。しかし、これまで行った全ての実験において、この現象は確認されなかった。

 以上のような現象が複合的に作用して始めて「ムペンバ効果」が顕れるのかもしれないが、今のところ決定的な要因は思い付かない。NHKの「ためしてガッテン」の実験を監修した北大低温科学研究所の前野紀一名誉教授は蒸発の効果を重視しているようだ。

http://blogs.yahoo.co.jp/aibaiipo1970/13694607.html

 蒸発は、気化熱を奪うことと質量減少を伴うので、二重に効果的である。しかし、常温まで冷えた後は水と同じになるので、お湯から常温まで冷える間の蒸発によって失われる質量の効果の方が大きい。この様子を簡単に計算してみた。計算には、お湯と水の比重の違いも考慮した。

水の比熱容量:4.2 J/g、 気化熱:2,250 J/g
80℃のお湯の比重:0.9718 g/cm^3、 30℃の水の比重:0.99565 g/cm^3

100gのお湯が80℃から30℃まで冷却するのに、その半分の熱量が気化熱によって奪われるとすると、そのために蒸発しなければならないお湯の質量は、4.54 gと計算される。
80℃のお湯と30℃の水では、比重の違いのためにもともと2.38 gの質量差があった。
つまり、30℃まで冷えたお湯は、スタート時点の水より合計6.92 g軽くなっている。
これは、水100 mlの質量の6.95 %に相当する。
この後の冷却スピードは質量に反比例すると仮定し、水が凍結温度まで冷えるのに50分かかるとすると、お湯はそれより3.5分短い46.5分かかることになる。このオーダーの短縮があったことは「実験3」で検証された。
このことは、80℃のお湯の方が30℃の水より早く凍り始めるためには、3.5分以内で30℃まで冷えなければならないことを意味する。これまでの実験では遠く及ばなかった。
蒸発によって失われる質量分率をさらに大きく見積もると、対流などの他の効果の方を無視しなければならなくなるので、現実的ではないだろう。
また、水が凍結開始から完全凍結までに200分かかるとすると、お湯はこれより13.8分短い186.2分かかることになる。C-2)の効果を考慮すると、お湯が挽回する可能性を示唆する。

 そこで次回の実験は、蒸発が効果的になされるようプラスチックシャーレなどの口が広く浅い容器でおこなう予定である。
(つづく)

 前回のエントリでは、ガラスビーカーを用いた実験において「ムペンバ効果」が再現されなかったことを報告した。そこで、前回の末尾に紹介したウェブサイトにある滝川洋二氏の方式に従った検証実験を行ったので、その結果について報告する。

●実験2
 プラスチックコップを二重にしたものを2組用意し、それぞれに、20℃の水と60℃のお湯を100mlずつ入れ、冷凍庫に割り箸2本を平行に並べ、その上にコップを置いた。それぞれを「水コップ」、「お湯コップ」と略称する。これも3回の予備実験を行い、扉を開けて確認する時間を予め決めておいた。

40分後:どちらにも氷はできていない。
50分後:水コップの方は水面に薄い氷が張りつめているが、お湯コップの方には氷は認められない。
65分後:お湯コップにはまだ氷はできていない。
70分後:お湯コップの水面の周囲にわずかに氷ができている。すなわち、凍結開始時間には20分以上の差があて、この差はガラスビーカーを用いた時より拡大した。
230分後、水コップの内部が完全に氷となった。
250分後、お湯コップの内部が完全に氷となった。

 以上のように、「実験2」においても「ムペンバ効果」は再現されなかった。それだけでなく、こちらでは水コップとお湯コップの凍結開始時間の差は、「実験1」よりさらに拡大した。

●実験3
 実験1と同じ条件で、80℃と30℃のそれぞれを単独でスタートした時の、ビーカー内部の底付近の水温をデジタル温度計でモニターして記録した。
 温度計は、本体と60cmのリード線で繋いだ直系2mm長さ15 cm程度のステンレス棒の先端内部にセンサーを組み入れたもので、この先端がビーカー内側底部の端の部分に触れるように立て掛けて、リード線を挟んで冷凍庫の扉を閉め、外から水温をモニターできるようにした。

 この実験を、それぞれ2回ずつ、合計4回くり返した結果をまとめると、以下のようになった。

1)お湯コップが80℃から30℃まで冷えるのに約15分かかった。

2)お湯コップの凍結開始まで49分、水コップの凍結開始まで39分かかった。つまり、水とお湯を一度に並べてスタートしたより、それぞれを単独でスタートした方がかなり短い時間で凍り始めるということ。

3)お湯コップの水温が30℃を通過する時点から凍結まで34分かかったが、これは、水コップが同じ30℃から凍結までにかかる時間より5分ほど短い。

4)どちらも、スタートから8℃を下回る頃にかけて次第に温度低下のスピードが鈍る傾向にあるが、6℃〜3℃の間は再びスピードアップし、2℃を下回ると次第に温度が安定してくる。

5)どちらも、1℃前後の水温で安定し、この状態が3〜4分持続した後、一旦0.5〜0.8℃の温度上昇に転じる。

6)その後1分ほどで急速に温度が下がり始める。マイナス表示となったところで冷凍庫の扉を開けて確認すると、水面付近のビーカーの縁にわずかの氷が認められるのが常である。

●とりあえずの考察
 これまで、合計10回以上は行ったお湯と水の凍結実験では「ムペンバ効果」は検証されなかった。すなわち、いずれも明らかな差で水の方が早く凍り始め、水の方が早く完全凍結した。
 実験3による水温のモニター結果によると、冷蔵庫の冷凍能力に対する負荷の影響が出ていることがわかる。「ムペンバ効果」を実現するためには、もっと大きな冷凍室が必要なのかもしれない。
 上記3)の結果は、「ムペンバ効果」の可能性を示唆するものかもしれない。
 上記4)〜6)の複雑な水温変化は、水の比重が4℃付近でもっとも大きく、0℃と8℃がほぼ同じ密度であることと関係して複雑な対流と水温の成層構造の変化が起こっていることを示しているだろう。
 目立った過冷却は起こっていなかったようである。

 本格的な考察はもう少し実験を重ねた後に行うとして、とりあえずこれだけは書いておかなければならない。それは、NHKの「ためしてガッテン」のウェブサイトに、急いで氷をつくりたければ、お湯を凍らせた方が良いと勧めるような記述になっていることである。下記の中程にある「驚きの氷早作り技」のところを良く読んでほしい。

http://www3.nhk.or.jp/gatten/archive/2008q3/20080709.html

 これで、日本中の大勢の人が冷凍庫にお湯を入れ出したら、それこそ、大槻義彦氏が批判するようにエネルギーの無駄遣いになってしまう。氷が早くできたとしても、冷凍庫にお湯を入れることで、冷却のために余計なエネルギーを消費することは疑いようもないことである。お湯を沸かすのにも余分なエネルギーを消費する。省エネが叫ばれている時になんたる錯誤であることか。氷を早くつくりたければ、少ない水でつくれと言いたい。
(つづく)

 「ムペンバ効果」というのがNHKテレビの『ためしてガッテン』で取り上げられたことで話題になっている。お湯と室温の水を別々のコップに入れて冷凍庫で同時に冷やし始めると、お湯の方が先に凍るとされる現象のこと。ウィキペディアの解説によると、1960年代当時高校生だったタンザニアのErasto B. Mpemba氏により発見された。NHKの放送を見ていないのだが、番組の中では「何度も実験した結果、実際に再現された」と主張されたのに、再現実験そのものは放送されなかったということのようだ。

 そのことで、賛否両論、いろいろな議論が湧きおこっている。例えば、科学的にあり得ないことで、またまたトンデモな捏造をやらかしたといった批判や、「ムペンバ効果」が事実として、そのメカニズムをあれこれ推論しあう議論などである。ウィキペディアの解説を読むと、そのメカニズムについての明快な定説はないような印象を受ける。メカニズムがはっきりとはわかっていないとしたら、ネーミング的には「ムペンバ効果」というより「ムペンバ現象」と呼ぶべきではないか。

 まず思ったのは、簡単に実験できることなのだから、自分で試した上で議論したら良いのにということ。しかし、考えてみると、あり得ないとの結論に信念を持っている者は、そもそも実験してみようなどと発想しないのも当然なのであった。私が自分で試そうと思ったのは、条件次第で、可能性ゼロとは断言できないと考えたからである。

 当然のことながら、全ての実験は条件次第で結果が変わる。「ムペンバ効果」についての議論に接して居心地悪く感じるのは、この現象が顕われる条件の詳細や言葉の定義が曖昧なままになっているからである。例えば、「凍る」が、凍り始めるという意味なのか、全て氷になるという意味なのかさへ曖昧である。こうしたことに目をつぶったまま議論を進めるのは科学的な態度ではないと思った。そこで、私が試したいのは、水よりもお湯の方が先に凍り始めるか、あるいは先に完全に氷になってしまうような条件があるかということ。一つだけでもそうしたケースが見つかればそれで終わり。

 とにかくやってみよう、という感じで、最初の実験について報告しよう。

●実験1
 同じ水道蛇口から得た30 ℃の水と、これを一旦沸騰させた80℃のお湯を100 ml のガラスビーカー2個に100 ml ずつ入れ、家庭用小型冷蔵庫の冷凍庫に10cmの隙間をおいて並べた。冷凍庫の温度は、何も入れていない状態ではマイナス25 ℃程度。以後、二つのビーカーを「お湯ビーカー」、「水ビーカー」と略称する。氷と水の区別は、レーザーポインターのレーザー光の屈折と反射で確認した。4回の予備実験を行い、冷凍庫の扉を開けて観察するタイミングを予め決めておいた。頻繁に扉を開けるのは実験に悪影響を及ぼすと考えたからである。

50分後:水ビーカには水面にごく薄い氷が張っているが、お湯ビーカーの方には氷は全く認められない。(つまり、水の方が先に凍り始めたということ)
65分後:お湯ビーカーの水面の一部にごく薄い氷が張っている。この氷の量は、50分後に水ビーカーで観察されたよりやや少ない程度なので、凍り始めの時間差は15分を少し越える程度と見積もられる。
150分後:両方とも、周囲全体、特に底の周囲付近で氷が厚くなっていて、中央に残っている水塊は丸みを帯びた形になっている。凍結の進行は水ビーカーの方が勝っている。
245分後:水ビーカー内は完全凍結したように見える。厳密には、中央部が白濁していて、その中心部を伺い知ることはできない。お湯ビーカーにはまだ径1 cm弱の水球が残っている。
255分後:お湯ビーカー内が完全凍結。こちらも、中央部が白濁していて厳密な確認は困難である。

 両方を冷凍庫から取り出し、室温で自然解凍した結果、お湯ビーカーに2 mm弱の水位低下が認められた。これは、80℃からの温度低下による収縮と、蒸発によるものと思われる。

●実験1’
 冷凍庫内に冷却能力の不均質性がないかを確認するため、コップの位置を左右入れ替えて再試したが、結果はほとんど同じであった。

 以上のように、「実験1」および「実験1’」では「ムペンバ効果」は検証できなかった。そこで、ウェブ検索をかけたら検証実験を紹介している下記サイトの存在を知った。

「安全でおいしい水プロジェクト」:「水のおもしろ実験」コーナー
http://www.waterworks.metro.tokyo.jp/tokyo-sui/kids/kids_jikken17.html

 これは、ガリレオ工房の滝川洋二氏によるもので、次回は、この方式を参考に実験を行って報告する予定である。ただし、これらの実験は思ったより大変なので、いつになるかは分からない。
(たぶん、つづく)


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